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中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2021/10/14 11:01 配信元:FISCO
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、「中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

◆「飯圏」の規制に出た中国政府
そこで、中国政府のネット管理に関する部局である「中央網絡安全和信息化委員会弁公室秘書局(中央ネット安全と情報化委員会秘書局)」は今年8月25日、<“飯圏”の乱れた現象の管理をさらに強化する通知に関して>(※2)という通達を出した。

通達は10項目に分かれおり、それを全て一つずつ解説するのは大変なので、主だった項目を略記すると以下のようになる。

・人気者のタレントのランキングを廃止する。
・ファンを誘導してヒットさせるような機能を廃止し、スターを追い求める熱狂を抑制させ、専門性や質を高めるようにしなければならないように誘導する。
・一人がいくつものアカウントを持つことを規制する(匿名の攻撃増加を防ぐため)。
・攻撃し合うような各種の有害情報を迅速に発見し、違法・不正なアカウントを厳格に処理して、世論の過熱・拡散を防止すること。適切な処理をしないウェブサイトに対しては重い罰を与える。
・「投げ銭」の仕組みを廃止すること。
・「有料投票」機能を設定することを禁止する。ネットユーザーがタレントに投票するためにショッピングや会員登録などの物質的な手段を取るように誘導・奨励することを厳しく禁止する。
・未成年者の「飯圏」参加を厳しく制限する。未成年者の通常の学習や休息を妨げるようなオンライン活動を行うこと、未成年者のためのさまざまなオンライン集会を開催することも厳しく禁止する。
・「集金活動」に関するあらゆる違法な情報を迅速に見つけ出し、一掃すること。投票や集金を提供する海外のウェブサイトをも引き続き調査し、処分する。

◆中国政府の規制を「文革の再来」、「思想統制」、「来年の党大会への警戒感」と分析する日本メディアの罪
この規制に関して日本の大手メディアが、これは

・習近平による思想統制の強化(独裁性が強まった)
・文革への逆戻りだ
・「飯圏」は組織化されているので、反共産党に傾くのを中国政府が恐れている。
・習近平は、来年の党大会が順調に行くように警戒している(国家主席2期10年の任期撤廃をしたので、党大会で中共中央総書記に選出されなければならないから、その邪魔をされることを警戒している、という意味)

などが背景にあるといった趣旨の説明を展開しているのを、偶然、夜9時のテレビニュースで見て非常に驚いた。パソコンに向かって原稿を書いていたのだが、テレビから「飯圏(ファン・チュエン」という音が聞こえてハッとしたのだ。

日本のメディアの中国報道には間違が多いが、それにしても、これはいくら何でもあんまりではないかと唖然としてしまったのである。

どんなことでも「文革の再来」と言えばすむような風潮が日本にあるが、文革とは何かを本当に知っているのだろうか?

文革の目的は「政府の転覆」にある。

国家主席の座を退かざるを得ないところに追いこまれた毛沢東が、国家主席になった劉少奇を倒そうと、1966年に「敵は中南海にあり!」と上海から叫び始まったものだ。

国家主席であり、中共中央総書記および中央軍事委員会主席でもある絶対的権限を持った習近平が、自分の政権を倒してどうする?

あり得ない発想だ。

もし、「文革」にたとえるなら、むしろ「飯圏」の狂信的なファン(メンバー)こそが文革において何もかも破壊しつくした紅衛兵に相当する。「飯圏」のなりふり構わない群集心理と、ターゲットを定めたが最後、死に追いやるまで攻撃をやめない行為こそが文革に類似していると言っていいだろう。

そこには思想性など微塵もない。

ネットというプラットフォームが、文革時代より群集心理を激しく燃え上がらせる役割を果たし、闇ビジネスが若者の将来を食い物にし破壊させている。

日本でも、ここまで激しくはないが、2012年に自民党の礒崎陽輔参院議員が、ツイッターで「 アイドルユニットAKB48の総選挙では、投票券付きのCDを1人で大量に買うファンがいて、イベントのあり方が論議になったこと」(※3)について、疑問を呈したことがある。

「飯圏」規制は、まさに磯崎議員のこの疑問と同じで、結果日本では2019年に中止になったようだ(※4)。

このプロセスが、中国では大規模に起きただけだ。

なぜ日本で起きると「歪んだ社会を是正した」ものと位置付けられるのに、中国が日本のあとを追いながら規制したことは「思想弾圧」であり「文革への回帰」であり「来年の党大会への習近平の警戒感」に変質していくのか。

日本の大手メディアが解説した理由とは程遠い現実が中国にあり、その真相こそが中国の弱点でもあるのに、これらを次々と決まり文句で位置付けて視聴者の耳目におもねる日本のジャーナリズムこそは、ビジネス化してしまって正常な役割を果たしていない。

視聴者が喜ぶ方向に事実を捻じ曲げ、虚偽の事実を日本の視聴者に拡散させていくのは、日本を誤導し国益を損ねるのではないかと懸念し、本稿をまとめた。


写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.cac.gov.cn/2021-08/26/c_1631563902354584.htm
(※3)https://www.j-cast.com/2012/06/11135248.html?p=all
(※4)https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20190321-00119018


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