後場の投資戦略ニュース一覧

後場の投資戦略 3万円台回復に向けた買い手は誰? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29536.17;+29.12TOPIX;2033.58;-1.64[後場の投資戦略] 本日の日経平均は米株高を好感して朝方に一時200円超上昇したが、その後伸び悩む展開となっている。日足チャートを見ると、上ひげを付けつつ連日で陰線を形成しており、やはり節目の3万円接近での上値の重さが拭えない。ソフトバンクGが1銘柄で約132円押し上げる一方、ファーストリテなどが押し下げ役となっている。業種別では商品市況の上昇で鉱業などの関連セクターが堅調だが、前日上昇した海運株や空運株は利益確定売り優勢。東証1部全体としては値下がり銘柄の方が多く、東証株価指数(TOPIX)は-0.08%で前場を折り返した。ここまでの東証1部売買代金は1兆3000億円あまりで、決算発表シーズン中にも関わらずここ数日やや減少傾向なのは気掛かり。株価指数先物の売買に至ってはかなり低調な印象を受ける。 新興市場ではマザーズ指数が-0.27%と続落。前日は2%超下落し、日経平均などと比べても軟調ぶりが目立った。米テスラでイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の保有株売却懸念が広がるなどして、国内の個人投資家もセンチメントがやや悪化した感がある。本日のマザーズ市場でもこのところ賑わっていた銘柄が相次ぎ急落しており、投資損益の悪化が個人投資家の資金余力に影響してくるか注視したい。なお、今週はマザーズ市場でも決算発表のピークを迎え、10日にJTOWER<4485>、12日にセーフィー<4375>、フリー<4478>、ウェルスナビ<7342>などが予定されている。 さて、前日の米市場では商品市況の上昇とともに、期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)が2.62%(+0.08pt)に上昇。10年物国債利回りも1.49%(+0.04pt)と反発したが、「FRBは利上げを急がない」との見方を背景に、依然として株高は崩れていない。ただ、「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)が17.22(+0.74)とじりじり上昇してきているのは少々気になる。明日10日には10月消費者物価指数(CPI)の発表が予定されており、「インフレは一時的」とのFRBの見解に再び疑念が広がらないか注視する必要もあるだろう。 日本株はというと、かねて当欄で予想していたとおり、米株比でのアンダーパフォームが鮮明となりつつある。国内の市場関係者からは、衆院選通過による安心感と本格検討に入った経済対策への期待で3万円台回復を見込む声も聞かれる。しかし、「3万円台回復に向けた買い手は誰か」という視点に欠ける印象を受ける。これまでたびたび指摘しているが、海外勢の株価指数先物の買いは足元一服しており、現物株投資家の信用取引状況も買い残が高水準となる一方、売り残は低水準となっている。 朝方から円相場がやや強含んでおり、アジア市場では香港ハンセン指数や上海総合指数が日経平均と同様に朝高後伸び悩み。後場の日経平均も上値を試す動きは乏しいとみておいた方が良いだろう。なお、本日は大和ハウス<1925>、バンナムHD<7832>、NTTデータ<9613>など200社前後の決算発表が予定されており、米国では10月の卸売物価指数(PPI)が発表される。(小林大純) <AK> 2021/11/09 12:21 後場の投資戦略 3万円突破には材料不足か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29590.57;-21.00TOPIX;2041.48;+0.06[後場の投資戦略] 本日の日経平均は寄り付きから急失速すると軟調な値動きが続いた。半導体不足や供給網の混乱の影響が大きい輸送用機器セクターの比率が高いこともあり、これまでの日本企業の7-9月期決算は米国企業と比べて見劣りしている。資源価格の高騰や円安による輸入物価高もあり、日本企業を取り巻く環境は相対的に厳しい。 衆院選は、自民党が想定以上に健闘した結果となり、政権運営化に期待する声もあるようだが、そもそも岸田政権が掲げる政策への海外投資家からの事前評判は高くなかった。経済対策の内容も今のところ景気浮揚につながりそうなものは現金給付策くらいしか見えてきていない。また、中長期の目線でみても、株式市場が好感するような政策はそもそもほとんど見られない。世界的に日本株のバリュエーションが割安とはいえ、企業を取り巻く環境が相対的に厳しく、政策評価も大きく変わっていなければ、日本株を積極的に選好する理由は乏しいだろう。日経平均の3万円突破には材料不足の状況といえそうだ。 また、本日は指数寄与度の大きいソフトバンクG<9984>の決算が控えている。当局による規制強化をきっかとした中国株の下落などを背景に、7-9月期のビジョンファンド事業は赤字となった可能性も指摘されているだけに、結果と株価反応を見極めたいとの思惑も強いだろう。すでに年初来安値圏にある同社株だが、一段安となると、信用買い残も積み上がっているだけに個人投資家心理が悪化しそうだ。 米株市場も総じて堅調とはいえ、主要株価3指数が揃って過去最高値圏にあるなか、前週末にはNYダウ、S&P500指数、ナスダック、いずれも長めの上ヒゲを形成している。米連邦準備制度理事会(FOMC)というイベントリスクがなくなり、季節性要因の調整圧力も後退、インフラ法案も署名される見通しとあって、米国株を巡る環境はすこぶる良好だが、騰勢一服も意識されるタイミングだ。ソフトバンクGの決算に加え、今晩の週明けの米株市場の動向を見極めたいとの思惑もあり、後場の日経平均もさえない展開が続きそうだ。 <AK> 2021/11/08 12:16 後場の投資戦略 やはり「需給的に上値は重い」 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29593.61;-200.76TOPIX;2038.29;-17.27[後場の投資戦略] 本日の日経平均は200円の下落で前場を折り返した。今週に入ってから前日までの4日間で900円超上昇しており、米雇用統計の発表を控えた週末を前に利益確定売りが出やすいだろう。日足チャートを見ると、本日を含めたここ2日ほど節目の3万円接近で連日の陰線となり、上値の重さを感じさせる。一方、29600円近辺では下げ渋っており、押し目買い意欲も根強いことが窺える。個別・業種別の騰落状況では、米株と同じく景気敏感セクターが軟調ながら、ハイテク株は堅調。海運株は前日後場からの売りが継続している。レノバに見直し買いが入り急伸するなど、決算を手掛かりとした物色も活発だ。ただ、ここまでの東証1部売買代金は1兆5000億円あまりと前日に比べやや少ない。 新興市場ではマザーズ指数が-0.10%と小幅ながら4日ぶり反落。朝方こそハイテク株高を追い風に堅調だったが、こちらも週末を前に利益確定売り優勢だ。決算発表のBASE<4477>は見直しムードに乏しくさえない。また、本日マザーズ市場に新規上場したフォトシンス<4379>は公開価格を下回って推移。スマートロック開発の有力スタートアップとして期待される一方、公募・売出規模が100億円超と大きかった。IPO(新規株式公開)銘柄への投資スタンスが積極的な局面なら公開価格割れを免れたかもしれない。ただ、「ARR(年間経常収益)3割成長でPSR(株価売上高倍率)20倍の株価評価を引き出し、2~3割下回る公開価格設定で需要家を募る」という有力テック企業のIPOにおける「必勝パターン」が簡単には通用しなくなった可能性もある。今後のIPOに注目したい。 さて、前日の米市場では期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)が2.56%(+0.03pt)に上昇する一方、10年物国債利回りは1.52%(-0.08pt)に低下。米労働生産性の低下に加え、英イングランド銀行(中央銀行)が事前の利上げ観測に反し政策金利を据え置いたことも金利低下につながった。結果的に名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利は低下方向に動き、株式、特にハイテク株にとって追い風となった。 もっとも、2~3日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を無難に通過したとはいえ(だけに、とも言える)、今晩発表される米雇用統計を受けての波乱を警戒する向きは根強くあるようだ。米株式市場にはまだまだ緩和マネーがあふれ、そう簡単に株高が崩れる印象に乏しいが、かなり楽観ムードが強まっているだけに反動を警戒しておく必要はあるだろう。 一方、日本株はというと、「需給的に米株と比べ上値が重くならざるを得ない」という前日の当欄で指摘したとおりの展開となりつつある。前日は日経平均が273円高となったものの、先物手口を見ると外資系証券が大きく買い越しに傾いた印象に乏しかった。また、前日の後場以来軟調な海運株はまさに信用買い残が大きく膨らんでいた銘柄で、決算内容にかかわらず目先の利益確定売りが出やすかったと考えられる。本日ハイテク株が買われているように根強い循環物色が下値を支えるだろうが、やはり日経平均3万円を前に上値は重いとみておいた方がいいだろう。 足元では円相場の上昇が一服しつつあるが、アジア市場では香港ハンセン指数などが軟調。また、本日はホンダ<7267>、オリンパス<7733>、伊藤忠<8001>、三菱商事<8058>など300社超が決算発表を予定している。これらの業績や米雇用統計の内容を見極めたいとのムードもあり、後場の日経平均は軟調もみ合いが続くとみておきたい。(小林大純) <AK> 2021/11/05 12:17 後場の投資戦略 「米楽観ムードへの懸念」と「日本株の需給の重さ」 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29792.47;+271.57TOPIX;2049.31;+17.64[後場の投資戦略] 注目されたFOMCの結果を受けて米株の高値更新が続いたことが安心感につながり、祝日明けの日経平均は300円超の上昇からスタートした。もっとも寄り付き直後にこの日の高値を付けると、やや上値の重い展開となっている。売買代金上位は全般堅調だが、特にハイテク株と海運株の上昇が目立つ。インターネット証券を中心に賑わっていることが想定されるほか、半導体関連については米クアルコムが決算を受けて時間外取引で上昇していることも追い風だろう。決算ではZHDや富士フイルムが好反応だが、業績上方修正の日本製鉄<5401>は朝高後に伸び悩み。ヤマハやコニカミノルタの業績下方修正には、半導体不足等の供給制約が少なくない企業で逆風となっていることを再確認させられる。ここまでの東証1部売買代金は1兆7000億円あまりで、祝日前だった2日より膨らんでいる。 新興市場ではマザーズ指数が+1.20%と3日続伸。2日の後場は急失速する銘柄が目立ったが、FOMC通過で改めて買いが入っているようだ。ただ、2日に上場来高値を更新したアスタリスク<6522>は、本日大きく値を崩してこそいないが反落となっている。大商いで長めの上ひげを付ける格好となり、株式需給の悪化が意識されているのかもしれない。2日の当欄で示唆したとおり、人気銘柄への投資資金集中による需給かく乱や株価指標面での過熱感は気になるところ。また、今週のマザーズ主力企業の決算発表はさほど多くないが、本日はBASE<4477>、明日5日はマザーズ時価総額2位まで躍進したJMDC<4483>が発表予定となっており、これらの業績動向に注目しておきたい。 さて、米株はFOMCを挟み主要3指数が連日で最高値を更新。この間、市場ではレンタカーのエイビス・バジェット・グループが決算発表後に一時3倍超まで株価急騰したことが話題となった。売り方が買い戻しを迫られたことも大きいが、3日終値ベースで時価総額2兆円超の銘柄がこれだけの急騰劇を演じるのには舌を巻かざるを得ない。米株が堅調な企業業績を背景に世界の投資資金を集めていることが窺える。 ただ、「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)は3日、15.10(-0.93)まで低下し、楽観的あるいは弛緩的とも言えるムードだ。また、米債券市場では10年物国債利回りが1.60%(+0.05pt)に上昇したが、FRBのインフレコントロールへの不安などが背景にあるようだ。期待インフレ率の指標である米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.53%(+0.02pt)となり、ここ2日で上昇に転じつつある。米金融大手からは株高の持続性への不安や下方リスクを指摘する声が出始めており、米10月雇用統計の発表などを控え、なお楽観修正の動きに注意する必要があるだろう。 一方の日本株だが、10月29日申し込み時点の信用買い残高(東京・名古屋2市場、制度・一般信用合計)は3兆5961億円と前の週に比べ415億円増えた。2週連続の増加で、7月9日申し込み時点(3兆6041億円)以来の高水準となる。一方、信用売り残は6682億円と1040億円減り、ヒストリカルで見て低位にとどまっている。上値で利益確定の売りが出やすい一方、米エイビスの急騰劇を演出した売り方の買い戻しは期待しづらいだろう。また、衆院選直後の1日こそ海外投資家の株価指数先物の買い戻しが観測されたが、2日はFOMC前だったとはいえBofA証券が東証株価指数(TOPIX)先物を売り越すなど、一段と買い持ちに傾こうとする動きはこれまで見られない。 こうした需給状況に加え、企業の決算発表が進行中であることも考慮すると、米株に比べ上値が重いのもやむを得ないだろう。ひとまずこの後発表されるトヨタ自決算が供給制約への懸念を打ち消すものとなるか注視したい。(小林大純) <AK> 2021/11/04 12:28 後場の投資戦略 FOMC前に気掛かりはある [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29580.49;-66.59TOPIX;2035.68;-9.04[後場の投資戦略] 日経平均は衆院選結果を受けて前日急伸していただけに、本日はやや利益確定売り優勢となっている。それでも寄り付き直後を除けばおおむね29500円台をキープしており、底堅い推移と言える。個別では決算を受けて値幅が大きく出ている銘柄が多いものの、ここまでの東証1部売買代金は1兆3000億円あまりと前日までより少なく、全体としては明日の祝日やFOMCの結果公表を前に様子見ムードが強いと考えられる。業種別では空運業が上昇率トップで、新型コロナウイルスの水際対策緩和を好感した動きだろう。 新興市場ではマザーズ指数が+1.09%と続伸。売買代金トップのアスタリスク<6522>が上値追いの勢いを強めているほか、新サービス開始を発表したエネチェンジ<4169>なども大幅高となっている。強い成長期待が新興株を押し上げているが、本日は主力大型株の様子見ムードから物色の矛先が向いている面もあるだろう。人気銘柄に投資資金が集中し、株価指標面ではやや過熱感のある銘柄が多いのも気になるところ。一方、物色圏外で割安放置ぎみの有力テック株が散見され、中長期的にはこうした銘柄にも投資妙味がありそうだ。実際、株価調整が続いていた弁護士コム<6027>は決算発表後に強いリバウンドを見せている。 さて、米株は主要3指数が連日で最高値更新と強い値動きが続いているが、前週も述べたとおり、楽観ムードのなか「いいとこ取り」をしている印象が拭えない。10月のISM製造業景況感指数についても、株式市場では市場予想上振れが好感される一方、債券・為替市場では前月比での鈍化やスタグフレーション(不況と物価高の同時進行)の兆候を警戒視する声が聞かれた。 なお、期待インフレ率の指標である米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.50%(-0.01pt)、米10年物国債利回りは1.55%(0.00pt)とおおむね横ばい。ただ、既に指摘したようにBEIが先週後半大きく低下したことで、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利が上昇しているのは気掛かり。「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)は16.41(+0.15)とやや上昇したが、まだ楽観修正の余地の方が大きい水準だろう。こうした難しい局面でFOMCを迎えることから、市場トレンドに大きな変化が出てくるか注視したい。 また、日経平均は前日こそ一時29666.83円まで上昇したが、これはリフレトレード後退後の戻り高値とさほど変わらない水準だ。このことから、衆院選結果が全員参加の買いにつながるかも慎重に見極める必要があるだろう。自民党の議席減は大方の懸念より少なかったが、自民党総裁選で日本の変化に期待していた海外投資家や、コロナ禍中の政権運営に不安を持つ個人投資家の買いを誘うものではないかもしれない。 アジア市場では上海総合指数が続落する一方、香港ハンセン指数は6日ぶりに大幅反発しており、日本株にとっても下支え要因となりそうだ。とはいえ、FOMC前に積極的に買い持ちに傾くとも考えづらく、後場の日経平均は引き続きマイナス圏でもみ合う展開になるとみておきたい。なお、本日は花王<4452>、日本製鉄<5401>、三井物産<8031>などが決算発表を予定(前場には丸紅<8002>が決算発表)。また、3日の米国ではFOMC結果に加え、10月のADP雇用統計やISM非製造業景況感指数が発表される。(小林大純) <AK> 2021/11/02 12:22 後場の投資戦略 政権運営安定化への期待で買い先行も、中長期勢はまだか [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29538.15;+645.46TOPIX;2032.45;+31.27[後場の投資戦略] 本日の日経平均は久々の急伸劇で、9月30日以来となる29500円を回復。朝方の買い一巡後はもみ合いとなったものの、概ね高値圏での堅調推移が続いた。今回の衆院選については、事前に、自民党が単独過半数を獲得できるかの攻防と伝わっていた。そのため、議席数を減らしたとはいえ、自民党が単独過半数獲得に成功しただけでなく、国会の安定運営に必要とされる絶対安定多数をも単独で確保したことにはポジティブサプライズ感が伴い、これを素直に好感した動きが先行しているようだ。 ただ、日経平均と東証株価指数(TOPIX)との上昇率に開きがあり、東証1部売買代金上位をみても指数寄与度の大きい値がさ株中心に上昇しているところを見ると、短期筋による日経平均先物の買い戻しが中心とみられる。日経平均は、朝方の買いが一巡した後はほぼ横ばいで、前場中頃には再び一時29500円を割り込んだ場面も見られており、この水準での戻り待ちの売り圧力も根強い様子。 衆院選を終え、今後の政局安定化が期待されるところだが、政権の真価が問われるのはこれからだ。自民党は、絶対安定多数を獲得できたのであるから、日本の経済成長につながる具体的な政策を今後どんどん推進してもらいたい。海外勢も、いま買ってきているのは短期筋が中心で、中長期目線の投資家による買いにはまだ本腰が入っていないだろう。こうした投資家らは、政権の具体的な政策を注視しており、物足りないとの評価に至れば、日本株を敬遠する動きは解消されないだろう。 一方、立憲民主党が議席を減らしたことで、今回の衆院選では野党共闘の効果が見られず、野党は戦略の見直しが求められる結果となった。しかし、他方で、日本維新の会は議席数を4倍近くに増やしている。国民の中でも政治に対する変革を望むものは多いということだろう。自民党には、来夏の参院選をも意識した緊張感を持ってもらいながら、是非とも国家のための政策を推進していってほしい。 さて、後場の日経平均は引き続き29500円を挟んだもみ合い展開となりそうだ。東京市場は、3日が文化の日の祝日で休場となる。米国では2日から米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、3日にはパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見がある。量的緩和策の縮小(テーパリング)開始の正式決定などは市場にほとんど織り込み済みであるため、特段の波乱はないと思われるが、祝日やイベントを前にやや様子見ムードが強まりやすいだろう。 <AK> 2021/11/01 12:24 後場の投資戦略 ソニーGなど好決算でも懸念払しょくには至らず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28792.53;-27.56TOPIX;1955.46;-4.20[後場の投資戦略] 本日の日経平均は一時300円超下落したが、結局小安い水準で前場を折り返した。日足チャートを見ると、28500円台に位置する75日移動平均線を一時下回ったものの、長めの下ひげを付ける格好。企業の決算発表や31日の衆院選投開票が注目されて話題に上がっていなかったが、月末の株安アノマリーを改めて意識する市場関係者もいるようだ。売買代金上位は個別の決算対応が中心。業種別騰落率では、NY原油先物相場が底堅かったことから、関連セクターが値上がり上位に顔を出している。ここまでの東証1部売買代金は1兆5000億円強と前日並みの水準。決算発表の本格化でまずまず取引活発となってきた。 新興市場ではマザーズ指数が-0.76%と反落。制限値幅拡大のINC<7078>が大幅高となるなど、引き続き短期の値幅取りを狙った物色は散見される。ただ、本日決算発表を控えたメルカリ<4385>は軟調。10月中旬まで強い値動きだっただけに、決算発表を前に利益確定売りが出やすいだろう。 さて、米株は堅調な企業業績を背景に強い値動きが続き、歳出・歳入法案を巡っても法人・富裕層増税に対する懸念が和らいだようだ。しかし、今晩の取引ではアップルやアマゾンを中心に反落が見込まれ、東京市場でも米株高を素直に好感しづらいところではある。また、増税懸念が和らいだといえど、歳出案の規模は半減しており、株式市場は楽観ムードのなか「いいとこ取り」をしている印象はある。 なお、「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)は16.53(-0.45)に低下。各国中央銀行のインフレ対応が意識されるなどして、期待インフレ率の指標である米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.57%(-0.08pt)に低下したが、米10年物国債利回りはむしろ1.58%(+0.04pt)に上昇した。名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利の低下がこれまで米株高を後押ししてきた面もあるため、名目金利上昇・BEI低下という前日の動きはやや気になるところだ。 日本企業を巡ってはキヤノン<7751>、ファナックなど電機大手を中心に想定外の業績下方修正が相次いでいただけに、ソニーGなどの好決算には安心感がある。ただ、アップルで主力のスマートフォン「iPhone」の売上高が市場予想を下回ったところを見ると、まだまだ供給制約による影響への懸念は拭いづらいだろう。とりわけ日本では、足元の商品高や円安による交易条件の悪化を懸念する声が増えてきた。 アジア市場では香港ハンセン指数が4日続落し、上海総合指数は小動きで推移。日本では本日、400社近い企業が決算発表を予定しており、人気銘柄として注目されるレーザーテックのほか、JT<2914>、第一三共<4568>、村田製<6981>、KDDI<9433>などがある(前場にはデンソー<6902>が決算発表)。前述のとおり31日には衆院選の投開票日を迎え、後場の取引では企業業績や国内政治の動向を見極めたいとの思惑が強まりそうだ。(小林大純) <AK> 2021/10/29 12:26 後場の投資戦略 景気敏感株売りと想定外の下方修正 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28825.62;-272.62TOPIX;1999.86;-13.95[後場の投資戦略] 本日の日経平均は続落し、200円超の下落で前場を折り返した。日足チャートを見ると、売り一巡後は28800円台に位置する25日移動平均線を挟んでの攻防といった様相。ファナックとエムスリーの2銘柄で日経平均を約114円押し下げているほか、米株と同様に市況関連を中心とした景気敏感株の軟調ぶりが目立つ。NY原油先物や非鉄金属市況が下落した影響だろう。一方、東エレクやアドバンテス<6857>、信越化が日経平均の下支え役。ここまでの東証1部売買代金は1兆6000億円弱で、決算発表の本格化とともに膨らんできた。 新興市場ではマザーズ指数が+0.51%と反発。こちらは米市場での長期金利低下やハイテク株高が追い風として働いているのだろう。もっとも、明日29日に決算発表予定のメルカリ<4385>は足元やや調整ぎみ。また、週末には衆院選投開票が控えており、買い持ち高を減らしておきたいという個人投資家も少なくないようだ。 さて、米株については先週末の当欄で「やや楽観に傾き過ぎている」と指摘したが、やはり少々修正を迫られる動きとなっているようだ。「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)は21日に15.01まで低下していたが、前日には16.98とじりじり上昇。これに伴い、連日で過去最高値を更新していたNYダウやS&P500指数はスピード調整の様相となっている。ただ、景気敏感株に売りが出る一方、ハイテク株に買いが入っており、現時点では過度に警戒する必要はないかもしれない。なお、NY原油先物は在庫増加を受けて下落し、期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.65%(-0.04pt)に低下。また、各国債券市場に大きな動きが見られ、米10年物国債利回りも1.54%(-0.07pt)に低下している。 日本株はこうした景気敏感株売りの影響を受けるとともに、キヤノン<7751>やファナックなど想定外の業績下方修正が相次いでいる。やはり供給制約の影響は重いと見ておいた方がいいだろう。かねて指摘しているとおり、今年度に入ってからのPBR推移を見ると、日経平均29000円前後は各種懸念を織り込んだ水準とは言いづらい。キヤノンやファナックの株価反応はそれを端的に表しているだろう。 アジア市場では香港ハンセン指数、上海総合指数とも下落。本日は国内でOLC<4661>、武田薬<4502>、ソニーG<6758>、キーエンス<6861>、HOYA<7741>など160社あまりの決算発表が予定され、海外では欧州中央銀行(ECB)定例理事会や米7-9月期国内総生産(GDP)速報値の発表などが予定されている。引き続き国内企業の業績動向や海外経済、金融政策の行方が注目され、後場の取引では軟調もみ合いが続くとみておきたい。(小林大純) <AK> 2021/10/28 12:28 後場の投資戦略 指数弱含みも決算反応は良好なもの多い [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28946.61;-159.40TOPIX;2009.84;-8.56[後場の投資戦略] 日経平均は一時200円超下げ、29000円を割り込んだ。しかし、前日に500円超上昇していたこともあり、反動安は想定内といったところ。決算シーズンが本格化しはじめ、個別株物色が中心となっているため、今後も日経平均は29000円を挟んだ水準での一進一退が続きそうだ。 日本でも決算発表が前日からかなり増えてきたが、これまでの日米の企業決算の内容は総じて良好といえそうだ。米国では金融大手から医薬、消費財メーカーの好決算からはじまったが、その後も電気自動車(EV)のテスラ、動画配信サービスのネットフリックスなどのハイテク株の好決算が相次ぎ、株価も上場来高値を更新する動きが見られている。また、前日の取引終了後には検索グーグルを運営するアルファベットとソフトウェアのマイクロソフトの大型テック企業が決算を発表したが、内容は概ね予想を上回り、マイクロソフトは時間外取引で大きく上昇している。市場への影響力が絶大なGAFAMやテスラなどの決算と株価反応が良好であることは投資家心理の下支えに大きく寄与してくれる。 また、東京市場でも、新光電工、日東電工、日立建機などの電子部品株や景気敏感株で良好な決算が確認されたことは好材料。残念ながら、注目度の高い日本電産については、市場予想をやや下振れたことで株価は下落しているが、こちらも、先行き不透明感がくすぶる中でも通期計画を上方修正してきたこと自体はポジティブに捉えられる。本日は、指数は弱含んでいるものの、決算銘柄だけに限ってみれば、上昇している銘柄が多くみられ、相場全体の雰囲気も見た目程には悪くない様子。日本では決算発表がまだ始まったばかりではあるが、今後の主力株の反応でもポジティブな反応ものが優勢となれば、決算一巡後には日本株を再評価する動きが出てくるかもしれない。 さて、後場の日経平均は引き続き29000円を挟んだ水準での弱含みの推移が続きそうだ。決算前に、本日大きく下落している値がさ株やハイテク株に積極的な押し目買いが入るとは考えにくく、香港ハンセン指数が大きめに下げていることもあって、冴えない動きを強いられよう。なお、本日は信越化<4063>、エムスリー<2413>、ファナック<6954>、富士通<6702>などの決算が予定されている。 <AK> 2021/10/27 12:10 後場の投資戦略 需給影響一服だが決算見極めへ [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29100.57;+500.16TOPIX;2019.30;+23.88[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大幅反発し、29000円台を回復して前場を折り返した。日足チャートでは、寄り付きから28900円近辺に位置する5日移動平均線や25日移動平均線を上回り、そのまま上げ幅を拡大する格好。ファーストリテが1銘柄で日経平均を約104円押し上げているが、東証1部全体としても8割強の銘柄が上昇する展開だ。パナソニックやNTTは先行きに期待が持てる好材料と言えるだろう。もっとも、ここまでの東証1部売買代金は1兆3000億円弱で、値幅の割に膨らんでいない。キヤノン子会社で製品の供給制約による影響が見られたのも、決算発表シーズンに入り気掛かりな点ではある。 新興市場ではマザーズ指数が+1.69%と5日ぶり反発。FRONTEO<2158>や日本電解<5759>が賑わっている。ただ、日本電解が早々に伸び悩んでいるほか、先週まで人気だったグローバルW<3936>が連日のストップ安。やはり短期志向の投資家中心の売買で、値動きが荒い印象だ。本日マザーズ市場に新規上場したCINC<4378>は公開価格比+28.2%というしっかりした初値形成だったが、市場予想と比べるとやや伸び悩んだ。IPO(新規株式公開)の初値パフォーマンスは好調と言えない状況が続いており、これが個人投資家のセンチメントを最も表しているのかもしれない。昨今、公開価格決定プロセスの見直しが政府を交え進んでいることも影響している可能性がある。 さて、前日は日経平均への寄与が多いソフトバンクGとファーストリテの軟調ぶりが目立ち(日経平均は204.44円安で、この2銘柄が約145円の押し下げ要因)、先物手口を見ると野村証券が日経平均先物の売り越しトップだった。東証株価指数はクレディ・スイス証券などが買い越し、BofA証券などが売り越しとまちまち。現物株はというと、東証1部売買代金が2兆2792億円と8月27日以来の低水準だった。 先週後半からこうした日系証券の日経平均先物売りが見られたが、日本郵政の大型売出しに絡んだものとの見方が有力だった。日本株が海外株に比べ軟調だった大きな理由として挙げられるだろう。決算発表の本格化を前に現物株の売買がやや低調だったため、先物売りの影響が大きく出やすかったと考えられる。先週の当欄で「(相場が)需給的に大きく振れやすい」と述べたとおりだ。本日は一転してソフトバンクGやファーストリテが堅調なところを見ると、日本郵政の売出価格決定とともに日経平均先物にも買い戻しが入っているのだろう。日本株は需給イベントの影響が一服し、出遅れ分を取り戻そうとする動きにつながった。 しかし、先週の当欄でも指摘したが、日経平均が29000円を上回る局面ではPBR(株価純資産倍率)が1.3倍台に上昇し、3月決算企業の通期決算発表が一巡した5月半ば以降で最も高い水準となる(日経平均算出ルール変更や銘柄入れ替えの影響は考慮していないが)。米企業の好決算を横目に市場の期待はまずまず高まっているとみられ、ひとまずこの水準で実際の決算を見極めたいとのムードが出てくるだろう。 また、31日の衆院選投開票を前に持ち高を減らしたいという声も個人投資家などから聞かれる。一部メディアが選挙戦中盤の情勢を報じており、自民党が当初予測から議席減少幅を縮小しそうだが、24日投開票の参院補欠選挙が「1勝1敗」という結果だったことから、与党苦戦への懸念は拭いづらいだろう。従前TOPIX先物を買い戻していたBofA証券が再び売り越してきたところを見ると、海外投資家にも政治の先行き不透明感が意識されている可能性はある。 現在、香港ハンセン指数は小幅反落で推移。本日は国内で日本電産<6594>やキヤノンの決算発表があり、米国でも9月の新築住宅販売件数や10月の消費者信頼感指数、それにアルファベットやマイクロソフトなどの決算が発表される。後場の取引では徐々に様子見ムードが強まるとみておきたい。(小林大純) <AK> 2021/10/26 12:18 後場の投資戦略 インフレリスクや国政不透明感で売り先行 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28520.35;-284.50TOPIX;1997.13;-5.10[後場の投資戦略] 前週末のNYダウが史上最高値を更新した一方、週明けの日経平均は300円程の下げ幅での推移となっている。米長期金利の上昇が一服した反面、原油先物価格の上昇傾向は続いており、期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)も歴史的な高値圏で高止まりとなっている。パウエルFRB議長がインフレリスクに言及したことも金利先高観を強め、ハイテク株を中心に日経平均を押し下げている。 また、月末31日の衆院選を前に、前哨戦ともなる参院静岡、山口両選挙区の補欠選挙が前日に投開票された。山口では自民党候補が勝利した一方、静岡は、立憲民主、国民民主両党が推薦した候補が初当選となった。また、自民党が勝利した山口については、そもそも野党共闘が成立しておらず、実質的な無風選挙だったとの指摘も聞かれた。岸田内閣発足後初の国政選挙であったが、先行き不透明感を強める結果となり、報道のヘッドラインなどに反応したアルゴリズム売買なども下げを加速したとみられる。 他方、今週から7-9月期の決算発表が本格化する。前週一足先に決算を発表したディスコ<6146>は想定以上の好決算で、翌日の株価も素直に反応した。世界的な供給網混乱や電力不足、資源価格の上昇などを背景に、製造業決算に対する警戒感は根強いものの、こうした懸念は事前にある程度織り込まれていると想定される。一方、半導体などは今後も相対的に安心感のある決算が期待される。また、日経平均の28500円水準では心理的な節目が意識されるほか、この水準ではバリュエーション面での割高感も乏しい。こうした背景から、決算イベントを前にここから一段と売り込まれることは考えにくいだろう。 全体としては、上値は重くも、下値不安も大きくないと考えられ、指数は引き続きレンジ推移を続けそうだ。こうした中、決算を受けた選別物色の様相が次第に強まっていくこととなろう。早くも、東京製鐵の決算をきっかけに、しばらく冴えない動きが続いていた鉄鋼株を見直すような動きも見られている。再び日本株と米国株とのパフォーマンス格差が広がるなか、決算をきっかけに日本株を再評価するような動きがもっと出てくることを期待したいばかりだ。 さて、後場の日経平均は引き続き28500円を意識した一進一退となりそうだ。上海株や香港株がもみ合いとなっているなか、時間外の米株価指数先物の動きに反応した短期筋に左右されやすいだろう。しかし、上述した通り、過度な下値不安を抱く必要はないと考えられる。先物主導で下げるなか、本日は値がさハイテク株の下げがきついが、短期的な逆張り戦略が功を奏すると考える。 <AK> 2021/10/25 12:18 後場の投資戦略 「需給的にも大きく振れやすい」理由 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28892.11;+183.53TOPIX;2007.14;+6.33[後場の投資戦略] 本日の日経平均は反発し、3ケタの上昇で前場を折り返した。日経平均への寄与が大きい値がさの半導体関連株の反発、中国恒大の目先のデフォルト(債務不履行)回避などが理由に挙げられるが、前日500円を超える大幅下落を強いられた反動も大きいだろう。日足チャートでは、28500円台に位置する75日移動平均線が下値を支え、29000円近辺に位置する5日移動平均線や25日移動平均線に迫るまで値を戻す場面もあった。売買代金上位で半導体関連株の上昇が目立つ一方、業種別騰落率では商品市況の下落により関連セクターが軟調。もっとも、ここまでの東証1部売買代金は1兆1000億円強とさほど膨らんでおらず、サインポストが売買代金上位にランクインしていることからも、主力大型株の売買は引き続きやや低調な印象を受ける。 新興市場ではマザーズ指数が+0.32%と3日ぶり反発。ただ、前日は日経平均以上に大幅な下落を強いられており、戻りの鈍い印象は拭えない。アスタリスク<6522>が再びストップ高を付けるなど賑わいを見せているが、物色は広がりを欠く。 さて、前日は本稿執筆後、後場になって日経平均が大きく値を崩した。先物手口ではみずほ証券や野村證券が日経平均先物を大きく売り越しており、日本郵政の大型売出しに絡んだものとの見方が多かった。今回の売出しの規模はおよそ9500億円に上るとみられており、株式需給の悪化が懸念されている。 ただ、それ以前に日本株は「需給的に大きく振れやすい」状況にあったのではないかとも考えられる。これまで当欄で指摘してきたが、先々週末ごろから続いていたBofA証券の東証株価指数(TOPIX)先物買い越しが今週半ばには一巡。9月の自民党総裁選と前後してTOPIX先物を大きく売り越していた海外実需筋の買い戻しが株価の戻りを演出したが、一段の押し上げは期待しづらくなった。 また、現物株でも様子見姿勢の投資家が多く、短期志向の投資家中心の売買となっている印象が強い。このところ東証1部売買代金は2兆円台半ばあたりの日が多く、9月の政局相場時と比べるとだいぶ減少した。また、売買代金上位にはインターネット証券で人気の半導体関連株や海運株が並び、ここ数日はサインポストやアスタリスクといった中小型株まで顔を出すようになってきた。中小型株はともかく、大型の半導体関連株や海運株も日々の値幅はかなり大きく出ており、投資資金の足は速いだろう。 日本株を揺さぶる懸念も依然として残る。米国では原油先物相場が反落したとはいえ、売り一巡後は買い直されて下げ幅を縮めた。期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.64%(+0.07pt)、長期金利は1.70%(+0.05pt)に上昇。「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)が15.01(-0.48)まで低下し、S&P500指数は最高値を更新したが、やや楽観に傾き過ぎているとの懸念も拭えない。実際、時間外取引でスナップなどのSNS関連銘柄が急落しており、株価変動率(ボラティリティ)が急速に高まる可能性はあるだろう。 中国恒大も目先のデフォルトを回避したに過ぎない。資産売却は難航しているもようで、今後も資金繰りに苦慮する場面が続くだろう。本日も香港・上海株は上値の重い展開を強いられている。さらに、国内では衆院選で自民党が単独過半数を維持できるかが争点に浮上してきた。来週から主要企業の決算発表が本格化するタイミングではあるが、今後も荒い値動きとなる場面が出てくることを視野に入れて取り組みたい。(小林大純) <AK> 2021/10/22 12:23 後場の投資戦略 期待織り込み決算シーズンへ? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29161.71;-93.84TOPIX;2023.28;-4.39[後場の投資戦略] 米長期金利の上昇やASML下落の影響で半導体関連と中心とした値がさ株に売りが出て、本日の日経平均はやや軟調な展開となっている。日足チャートでは29100円台に下降する25日移動平均線が位置しており、この近辺でのもみ合いといったところ。東エレクなどが日経平均の下押し役となる一方、業種別騰落率では原油などの商品高により市況関連セクターが上昇率上位に並んでいる。ここまでの東証1部売買代金は1兆1000億円程度にとどまっており、1日を通じても2兆円台前半まで減少する可能性がある。一昨日の当欄で指摘したとおり、取引参加者は広がりを欠くのだろう。 新興市場でもマザーズ指数が-1.02%と続落。前日まで活況だったアスタリスク<6522>にかわり、新サービスを発表したグローバルW<3936>に物色の矛先が向いているようだ。もっとも、やはり米長期金利の上昇が重く、BASE<4477>などの主力IT株は軟調。また、エネチェンジ<4169>が急反落しているが、このところ成長期待の高い一部銘柄に短期志向の投資資金が集中していた印象は強く、荒い値動きを強いられる銘柄が増えるかもしれない。成長期待が高いといえど、株価が過熱していないかよく見極めたうえで取り組む必要があるだろう。 さて、米国では良好な決算が続き、NYダウは取引時間中の最高値を更新するところまできた。しかし、ASMLや動画配信のネットフリックスなど決算発表後に売られる銘柄も散見されるようになった。有力ハイテク企業を中心に事前の期待がかなり高まっているとみた方が良いかもしれない。 日本株ではどうか。日本経済新聞社が公表している日経平均のPER(株価収益率)は20日時点で14.24倍、PBR(株価純資産倍率)は1.31倍となっている。PBRは3月決算企業の通期決算発表が一巡した5月半ば以降で最も高い水準だ。なお、EPS(1株当たり利益)やBPS(1株当たり純資産)が足元やや減少しているため、PER・PBRとも9月高値時をやや上回っている。上期決算発表と前後して通期業績予想の上方修正が期待されるが、バリュエーション的には既にある程度織り込んでいるとの見方もできる。 取引状況を見ても、現物株の売買代金が減少してきたほか、株価指数先物についてもここ数日は外資系証券の目立った買い越しが見られなくなってきた。当欄では日経平均の上値めどを足元29000円強としていたが、やはり29500円手前で伸びが鈍った格好だ。国内でも本日はディスコ<6146>、明日は中外薬<4519>の決算発表が予定され、来週からはいよいよ主要企業の発表が相次ぐ。日経平均はある程度期待を織り込みつつ、29000円水準で決算発表シーズンを迎えることになりそうだ。 なお、海外でも注視すべきことは山積みだ。米国では商品高とともにインフレ懸念が根強く残ることが気掛かり。また、本日もインテルやAT&Tなどの決算発表が予定されている。経営危機に陥っている中国恒大集団は本日、9月23日に予定されていた米ドル債の利払いについて猶予期限を迎える。19日期日だった人民元債の利払いは実施したもようで、すぐに事業整理や法的整理に至るわけでないとみられているが、他の不動産会社を含め資金繰り不安が長期化しそうなのはむしろネガティブかもしれない。(小林大純) <AK> 2021/10/21 12:27 後場の投資戦略 上昇後尻すぼみ、米株高を素直に好感できず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29261.51;+45.99TOPIX;2029.68;+3.11[後場の投資戦略] 日経平均は上値抵抗線と見られていた25日移動平均線を突破し、チャート形状は一段と改善した。企業決算への警戒感が高まっていたなか、米国企業のこれまでの決算が総じて市場予想を上回る好内容だったことで、投資家心理が改善してきている様子。NYダウやS&P500種株価株価指数のチャート形状もかなり改善し、再び史上最高値を窺う位置にまで回復してきた。 ただ、国内の企業決算が本格化するのは来週後半からで、ちょうど時期が重なる月末の衆院選投開票結果に対する不透明感もあり、一段と上値を追う動きには至っていない。フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)の大幅上昇を背景に朝方大きく上昇していた東エレク<8035>など半導体関連株も寄り付き後は失速し、上げ幅を縮める動きとなっている。個別株で大きく上昇しているものは多くなく、短期筋による散発的な先物買いで指数だけが先行して上昇していた印象だ。 また、これまでの米国企業の好決算も、日本株にとって過度にポジティブには捉えにくい。これまでの企業決算は大手投資銀行や保険大手、医薬品関連など米国内経済との結びつきが強いものが大半。原油高や供給網混乱などの影響が懸念される製造業を中心とした日本企業の業績に直接示唆を与えるようなものではない。 他方、前日に発表された米消費財メーカーのプロクター&ギャンブル(PG)の決算では、商品価格や輸送費の上昇による通期計画への下押し圧力に言及があり、株価は下落した。日本株にとってはこちらの方が示唆深いだろう。また、日本企業については、資源価格や輸送費の上昇に加え、急速に進展する円安も相まってコスト増に対する懸念が特に強い。東証1部全体の売買高が停滞気味であるところを見ても、7-9月期決算と下期に対する見通しを確かめるまでは、明確に強気に転じることはできそうにない。 また、約5カ月ぶりの高値を記録した米長期金利の上昇も気懸かり。米10年債利回りは19日、1.64%と、1.59%から大きく上昇。一方、米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は2.54%と横ばいで高止まり。インフレ懸念や来年からの米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げなどを織り込む形で、米国債が売られる状況が続いていると思われるが、BEIが高止まりの一方で米長期金利が上昇を続けると、実質金利の上昇を通して株式相場の重しとなりかねない。3月に付けた1.78%水準にはまだ距離があるが、米長期金利の上昇ペースには改めて警戒しておきたい。 むろん、供給網の混乱や商品市況高など供給サイドに基づく金利上昇でなく、企業業績や景気回復を反映した良い金利上昇であれば、長期的には株式市場への影響もポジティブなものとなる。それでも、金利上昇ペースの速さや実質金利上昇の短期的な悪影響には警戒が必要だろう。また、商品市況が高止まりしている中、今の金利上昇が素直に景気回復を映したものと捉えてよいかどうかを判断するには時間がかかろう。 日経平均は、決算シーズンを一巡するまでは当面3万円の大台を回復することは難しいとみられ、29500円手前での一進一退が続きそうだ。しばらくは、上昇したところは売り、下がったら押し目買いの逆張り戦略が奏功しやすい環境が続くとみる。 <AK> 2021/10/20 12:20 後場の投資戦略 市場のエネルギーがまだまだ乏しい [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29213.04;+187.58TOPIX;2024.05;+4.82[後場の投資戦略] 前日の米市場でハイテク株が買われた流れを引き継ぎ、本日の東京市場でも値がさ株主導で日経平均が一時200円を超える上昇となっている。中国の7-9月期GDPが鈍化したことを受け、景気刺激策への期待から香港ハンセン指数が続伸していることも追い風となっているだろう。日経平均の日足チャートを見ると、29200円台に位置する25日移動平均線水準まで上昇。もっとも、ここまでの東証1部売買代金は1兆2000億円あまりとなっており、引き続き減少傾向にある印象を受ける。インターネット証券で人気のあるハイテク株や海運株が賑わっているように見えるが、取引参加者は広がりを欠くのかもしれない。 新興市場でもマザーズ指数が+1.92%と反発。こちらは1120pt台に収束していた25日移動平均線や75日移動平均線を上回ってきた。ハイテク株高を追い風にメルカリ<4385>などが堅調なほか、直近好決算だったアスタリスク<6522>などが賑わっている。東証1部の売買代金上位にベイカレントやレノバがランクインしているのを見ると、物色の矛先が成長期待の高い新興株にもシフトしつつあると考えられる。 さて、前日の米市場では期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)が2.54%(-0.02pt)とやや低下した。注目される原油先物相場が伸び悩んだほか、連邦準備理事会(FRB)スタッフが来年にもインフレ率は2%未満に低下すると予測していることを一部メディアが報じるなど、市場のインフレ・金利上昇観測は行き過ぎとの指摘が政策担当者・市場関係者から聞かれる。また、企業決算や15日発表の9月小売売上高が良好な結果で、景気減速を伴う「悪いインフレ」への懸念が和らいでいる面もあるだろう。 ただ、BEI・原油価格ともまだ高止まりと言っていい状況だ。「ラニーニャ現象」発生による厳冬予測も相まって、エネルギー価格の先高観は根強く残るだろう。また、経営危機に陥っている中国恒大集団は本日、新たに人民元建て社債の利払い期限を迎える。会社側は利払い実施を発表しているが、既に期日を超えたドル建て社債の利払いは未実施とみられ、近日デフォルト(債務不履行)が認定される可能性もある。 日経平均は6日安値27293.62円(取引時間中)から2000円近く値を戻してきたが、8月末から9月にかけての政局相場のような現物株・株価指数先物の売買の膨らみは見られず、高揚感に乏しいと言わざるを得ない。自民党総裁選と前後して先物を大きく売り越していた海外勢の買い戻し、それに取引参加意欲の強い現物株投資家の買いがここまでの戻りを演出したが、多くの投資家は様子見姿勢と考えた方が良いだろう。それは企業決算を見極めたいとの思惑だけでなく、海外の懸念材料を多分に意識してと考えられる。また、やはり日経平均が29000円を超える場面では現物株・先物とも一定の売りが出ていることが各種データから窺える。一段の上昇を狙うには市場のエネルギーがまだまだ乏しいとみておきたい。 最後に、衆院選が本日公示された。選挙戦序盤の情勢が各種メディアから報じられており、目標の「与党で過半数」を達成しつつも、自民党は20~30議席ほど減らすとの予測が多いようだ。今後の推移に注目したい。また、今晩の米国では9月の住宅着工件数やネットフリックスなどの決算が発表される予定となっている。(小林大純) <AK> 2021/10/19 12:30 後場の投資戦略 米金利上昇が重し、インフレ懸念は強まる一方 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28987.66;-80.97TOPIX;2016.53;-7.40[後場の投資戦略] 米国企業の企業決算が一足先に本格化するなか、日本企業の7-9月期決算が始まるのは来週からとなる。今週は決算シーズンの端境期となり、手掛かり材料難のなか、全体的にも方向感に欠ける動きとなっている。 前週は米国での各種物価指標の発表後、過度なインフレ懸念が後退したとの見方から、米長期金利が低下し、値がさハイテク株などを中心に全体的に大きく上昇した。岸田首相の金融所得課税引き上げについての発言を受けて、政権への過度なネガティブ視が後退するなか、衆議院解散から投開票日までの株高アノマリーを再び意識する向きもいたようで、海外勢の買い戻しも進んだ。 しかし、前週からの繰り返しにはなるが、長期金利の低下は一過性のものと思われる。前週、米長期金利が低下していた中でも、商品市況の上昇は継続しており、期待インフレ率の指標となる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)もむしろ上昇していた。長期金利の低下は、インフレ懸念の後退を映したものではなく、国債入札が好調だったことや物価指標の発表というイベント通過に伴う、債券の売り方の買い戻しが主体だったと考えられる。 実際、前週末には、米長期金利は1.51%から1.57%へと上昇に転じ、再び1.6%台を窺う水準にまできている。そして、目を引くのが米BEIの一段の上昇だ。5月10日付けた2.54%を手前に、一段の期待インフレ率の上昇は考えにくいとの見方も一部であったようだが、実際には、15日に米BEIは2.56%と、5月高値を上回り、8年9カ月ぶりの高値を記録した。NY原油先物価格も期近物で7年ぶりとなる高値を連日のように記録。相場のモメンタムに追随する商品投資顧問(CTA)に倣ったトレンドフォロー型の戦略を採用するファンドでは、一段の金利上昇とドル高に賭けて、米債ショート・ドルロングのポジションを積み増しているとも伝わっている。 世界的な電力不足も未だ解決の目処が立っているとはいえない。電力高騰を背景にロンドン金属取引所(LME)での亜鉛やアルミニウムの先物価格は記録的な上昇基調が続いている。液化天然ガス(LNG)の在庫不足を背景とした代替需要から、原油先物価格の上昇も継続中。ラニーニャ現象により厳冬が想定される冬季シーズンに向け、商品市況の上昇やインフレ懸念再燃による長期金利の上昇には依然として警戒が必要そうだ。今日の東京市場で上昇が目立っているものも、ほとんどが商品市況の上昇の恩恵を受ける非鉄金属など資源関連のセクターだ。市場のインフレを巡る思惑は当面続くと想定される。 さて、後場の日経平均は、中国株や香港株も軟調ななか、時間外の米株価指数先物などの動きに振らされそうで、引き続き29000円台を挟んだ動きとなりそうだ。ただ、午前中に発表された中国の経済指標では、7-9月期国内総生産(GDP)が市場予想並みとなったほか、9月の鉱工業生産が市場予想を下回った一方、小売売上高が市場予想を上回るなど、まちまちながらも波乱のない内容となったことは目先の安心材料となりそうだ。直近下げが大きかった中国売上比率の高い銘柄などには見直し機運が高まる可能性もあろう。 <AK> 2021/10/18 12:13 後場の投資戦略 それでも強弱感は入り交じる [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28920.14;+369.21TOPIX;2012.41;+25.44[後場の投資戦略] 前日の米市場で主要株価指数が揃って大きく上昇し、本日の東京市場でも幅広い銘柄が買い優勢の展開となっている。日経平均の日足チャートを見ると、28500円近辺に位置する75日移動平均線を大きく上抜け、早くも次の節目と目される29000円に迫る動き。個別では、さすがに前日大きく上昇していた東エレクやアドバンテス<6857>こそやや落ち着いているが、その他の値がさハイテク株の堅調ぶりが目立つ。収益改善が見られるクリレスHDなどの外食関連株も引き続き急伸している。ただ、ファーストリテや良品計画の期待以下の今期予想には、国内外経済の先行きに対する一抹の不安もあるようだ。ここまでの東証1部売買代金は1兆3000億円あまりと前日並みで、引き続き取引活発とは言いづらい。 新興市場でもハイテク株高の流れを追い風に、マザーズ指数が+2.03%と大幅続伸。こちらは1120pt台に位置する75日移動平均線に迫る動きとなっている。個別では決算発表のオキサイド<6521>などが大幅高。ただ、前日のマザーズ市場では直近IPO(新規株式公開)銘柄がかなり荒い値動きとなり、足の速い投資資金中心の取引となっている可能性がある。 さて、米長期金利は先週末にかけて一時1.6%台まで上昇したのち低下傾向にある。9月PPIが前月比+0.5%(8月+0.7%、市場予想+0.6%)と鈍化した点はインフレ懸念の緩和につながりそうなものだが、期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は14日、2.52%(0.00pt)と高止まりだ。NY原油先物相場が1バレル=80ドル台という高水準を維持しており、こうした商品高を背景にインフレ懸念は拭いづらいだろう。 前日の当欄でも述べたが、このところスタグフレーション(不況と物価高の同時進行)を見越して株式・債券のショート(売り持ち)ポジションを構築していた海外ファンド勢が多かったとみられ、ここ数日の株高・債券高は物価指数発表や国債入札といったイベント通過による売り方の買い戻しが主因だった可能性がある。特に、BEIの高止まりで名目金利とともに実質金利が低下し、ハイテク関連を中心としたグロース(成長)株は買い戻しが誘発されやすい。 もっとも、前述したようにインフレ懸念などの世界経済の先行きを巡る不透明要因は依然として残るため、国内外投資家が積極的な買い持ちへと転じるかよく見極める必要があるだろう。引き続き各国経済指標の発表は多く、今晩の米国では9月小売売上高、10月NY連銀製造業景気指数、10月ミシガン大学消費者マインド指数などがある。また、週明け18日には中国で9月国内総生産(GDP)などの重要指標の発表が予定されており、これらの結果を受けて再び相場の方向感に変化が出てくる可能性はあるだろう。 前日の先物手口を見ると、BofA証券が東証株価指数(TOPIX)先物の買い越しを続ける一方、シティグループ証券が売りに傾いた。また、11~12月物オプションでは、権利行使価格27500~28000円のプット(売る権利)の建玉がかなり膨らんでおり、株価急落に備えたヘッジニーズが強いことを窺わせる。市場には強弱感が入り交じっており、日経平均も目先3万円の大台を回復しに行くような動きとはなりづらいだろう。(小林大純) <AK> 2021/10/15 12:28 後場の投資戦略 選挙戦を前に国内政治論点にあえて一石 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28425.90;+285.62TOPIX;1979.98;+6.15[後場の投資戦略] 本日の日経平均は300円近い上昇で前場を折り返した。米国での長期金利低下やハイテク株高を支えに、値がさ株が健闘して日経平均を押し上げている。もっとも、売買代金上位では値上がり銘柄数と値下がり銘柄数が拮抗している印象で、東証1部全体としては値下がり銘柄の方が多い。個人投資家に人気の海運株やレーザーテックも軟調なのはやや気掛かりだ。前引けの日経平均は+1.01%だが、東証株価指数(TOPIX)は+0.31%にとどまる。日経平均の日足チャートを見ると、28200円台に位置する5日移動平均線が下値を支える一方、29500円台に位置する75日移動平均線が上値を抑える格好。ここまでの東証1部売買代金は1兆3000億円あまりで、1日を通じてはここ2日と同様に2兆円台半ばあたりとなりそうだ。取引活発とは言いづらい。 新興市場でもマザーズ指数が+1.14%と3日ぶり反発。本日は9月上場のレナサイエンス<4889>などが賑わっているが、日替わり物色の様相で、マザーズ指数はこのところ1100pt前後でもみ合う展開が続いている。 さて、注目された米9月CPIは引き続き高い伸びを示したが、おおむね市場予想並みだったことで「過度なインフレ懸念が後退した」との見方がある。しかし、期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)はむしろ2.52%(+0.03pt)に上昇しており、やはり「引き続きインフレ圧力は強い」と受け止める向きが多いのだろう。10年物国債利回りの低下(債券価格の上昇)は30年物国債入札が好調だったことなどによる売り方の買い戻しと考えられる。 9月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では「テーパリング(量的緩和の縮小)を11月半ばか12月半ばに開始する」方向であることが再確認されたものの、特段のサプライズではないと受け止められている。ただ、インフレ観測が広がるなかで米連邦準備理事会(FRB)の対応が遅いとして、「政策エラー」を懸念する声が再び聞かれ始めたのは気掛かりだ。 一方、国内では本日、衆議院が解散されて19日公示・31日投開票の日程で選挙戦に突入する。選挙期間の政策期待による株高傾向が意識されてか、自民党総裁選と前後してTOPIX先物を大きく売り越したBofA証券が、先週末あたりからは逆に一貫して買い越している。ただ、国内政治を巡る投資論点で、あえて大勢と異なる見方も示しておきたい。年末にかけての日本株の上昇余地を探るうえで重要となるだろう。 (1)岸田政権の掲げる衆院選の勝敗ライン「与党で過半数」を達成することで政権基盤の強化につながるとみられているが、はたしてそうか。前回2017年の衆院選で大勝した反動に加え、菅前政権以来の逆風下では致し方ない面もあるが、自民党の現有議席276(公明党29とあわせ与党で305、定数465)に対し、勝敗ラインはやや保守的な印象を受ける。仮に勝敗ライン上での攻防なら数十議席減という結果だ。衆院選後に当初5割前後だった政権支持率も低下するようなら、来夏の参院選に向けて再び不安がくすぶることになるかもしれず、実際にこうした懸念の声は一定数聞かれる。 (2)岸田文雄首相の再分配重視の姿勢は非自民層から一定の支持を得ており、保守層も総裁選で「サナエノミクス」を掲げていた高市早苗政調会長による政策とりまとめに期待しているようだ。ただ、従前財務相だった麻生太郎副総裁が自民党内で影響力を強めているとみられ(総裁選で一貫して岸田氏支持を表明していた甘利明幹事長が麻生派)、はたして思い切った経済対策が打てるか。矢野康治財務次官が月刊誌への寄稿で与野党の政策を「バラマキ合戦」と批判したことが話題となったが、この寄稿は事前に麻生氏の了解を得て行われたという。岸田氏や公明党が意欲を見せる現金給付についても、麻生氏は一貫して否定的だ。岸田氏の施政方針演説に「具体性を欠く」との批判が聞かれたが、今後の党内調整の難しさがにじみ出ているのかもしれない。 最後に、本日は日経平均への影響が大きいファーストリテ、海外でも台湾積体電路製造(TSMC)や米金融大手等の決算発表が控えており、後場の取引ではこれらの内容を見極めたいとのムードも出てきそうだ。(小林大純) <AK> 2021/10/14 12:16 後場の投資戦略 米CPI前に様子見、相場復調へのハードルは高い [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28168.99;-61.62TOPIX;1978.16;-4.52[後場の投資戦略] 日経平均は方向感に欠ける展開ながらも、心理的な節目の28000円を意識した底堅い動きとなっている。インフレや長期金利の動向が気懸かりななか、今晩には9月米消費者物価指数(CPI)や9月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表される。様子見ムードのなか仕掛け的な売りなども警戒されるところではあるが、28000円を割ったところではすかさず押し目買いが入るなど、想定以上にしっかりとした動きとなっている。ただ、明日の米株市場の動き次第では、風向きが変わりやすいため、依然として相場は流動的だ。 また、IMFの最新の世界経済見通しは残念な内容となった。世界的な供給網混乱やインフレ懸念による消費鈍化などを背景に、2021年度は全般の経済成長率が下方修正された。世界経済全体については5.9%と前回7月時点から0.1ptの引き下げにとどまったものの、世界経済の中心にある米国経済については6.0%と、前回から1.0ptも引き下げられた。また、日本も2.4%と0.4ptも引き下げられ、前回に続く下方修正となった。日本については、新型コロナウイルスワクチンの接種率上昇を背景に見通しが引き上げられる可能性も指摘されていただけに、この引き下げ幅はネガティブだ。また、米国も日本も共に2022年度については上方修正されているが、先行き不透明感が強いなか、こちらは積極的にポジティブに捉えることが難しい。 国内外の経済見通しが大きく引き下げられたことで、世界の景気敏感株とも呼ばれる日本株にとっては改めて厳しい状況となった。これでは、各国の経済動向を踏まえて投資戦略を決めるグローバルマクロ系のヘッジファンドなどによる投資などはますます見込みにくくなったといえる。 今年2月半ばまでの上昇相場の際には、「インフレ加速・長期金利上昇」を見込んだリフレトレードの動きが活発化し、世界の景気敏感株である日本株にとっては追い風の環境だった。今再び、インフレや長期金利上昇が話題に上っているが、状況は異なる。前回は、コロナ禍からの回復局面前半で景気回復のモメンタムが加速していた時だった。世界の企業業績も1-3月から4-6月にむけて増益率が大幅に拡大する局面だった。しかし、今は違う。米サプライマネジメント協会(ISM)が発表する景況指数などは依然高い数字を記録しているものの、中国を中心に世界全体ではモメンタムは完全に鈍化している。企業業績も4-6月期をピークに、増益率は7-9月期からは大幅に鈍化する見込みだ。景気減速が想定されるなかでのインフレ・長期金利上昇は日本株にとっても望ましくないことは明白だ。 7-9月期決算の先駆けとなる、前週に発表された安川電機<6506>の6-8月期決算は決して悪くはなかった。第1四半期に続き通期計画も上方修正された。しかし、市場予想の範囲内に収まったこともあり、その後の株価推移は軟調だ。インフレ懸念、金利先高観、景気・業績モメンタム鈍化、など、先行き不透明感を払しょくするような企業業績が今後相次ぐことが望まれるが、そのハードルはかなり高そうだ。 <AK> 2021/10/13 12:12 後場の投資戦略 米雇用統計・商品高でインフレ懸念一段と [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28232.32;-265.88TOPIX;1983.09;-13.49[後場の投資戦略] 本日の日経平均は海外株安を受けて200円超の下落で前場を折り返した。日足チャートを見ると、28500円強に位置する75日移動平均線に押し返された格好。テクニカル的にはこの水準が戻りの節目の1つとの見方が多い。もっとも、28000円近辺に位置する5日移動平均線水準まで下落を強いられることもなく推移。業種別騰落率では市況関連セクターが値上がり上位に並び、インフレ観測の根強さを窺わせる。ここまでの東証1部売買代金は1兆4000億円弱で、1日を通じては前日(2兆7085億円)をやや上回る水準か。なお、現物株のみならず先物の売買高も足元やや落ち着きつつあり、まとまった売りや買いが出れば相場全体が上下に振らされやすいかもしれない。 新興市場でもメルカリ<4385>などの主力IT株が軟調で、マザーズ指数は-1.43%と4日ぶり反落。エネチェンジ<4169>やアスタリスク<6522>あたりが賑わい、新興株に逆風となるインフレ懸念がくすぶるなかではまずまず健闘している印象を受けるが、さすがにマザーズ全体としては一段の上昇を試す場面とはなりづらいだろう。 さて、米国では8日、期待インフレ率の指標である10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)が2.50%(+0.04pt)と5月以来の水準まで上昇。10年物国債利回りも同日、1.61%(+0.04pt)に上昇した。9月雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を大幅に下回る一方、平均時給は予想を上回り、労働需給のひっ迫が意識されるだろう。11日の債券市場は休場だったが、原油を中心とした商品市況の上昇が続き、インフレ懸念はなおくすぶりそうだ。 また、雇用統計では労働参加率が前回の61.7%から61.6%に低下したことも注目される。「9月にかけて失業給付の上乗せが順次終了し、労働市場に復帰する人々が増える」とみる市場関係者が多かったが、こうした見方に逆行する動きだ。コロナ禍による短期的な影響のみならず、従前述べたように(1)失業長期化や産業シフトによる技能ギャップ、(2)格差拡大による若年層を中心とした労働意識の変化(いわゆる「ロビンフッダー」の増加に象徴される)といった要因から、労働市場への復帰は大方の期待より緩慢となり、需給ひっ迫によるインフレ圧力は長期化する可能性もあるだろう。 商品市況についても、ファンド勢がスタグフレーション(不況と物価高の同時進行)を意識して株・債券ショート(売り持ち)と商品ロング(買い持ち)の持ち高構築を進めている可能性がある。こうした状況を踏まえると、インフレ懸念が早期に払しょくされるとの期待は持ちにくい。明日13日は米9月消費者物価指数(CPI)の発表や9月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録の公表が予定されており、これらの内容を見極めたいとの思惑も強まりそうだ。 経営危機に陥っている中国恒大集団を巡っては、新たにドル建て社債の利払い期日が11日に到来したものの、各種報道によればこれまで支払いはなされていないようだ。引き続き米中の懸念材料を抱え、日本株は外部環境睨みの相場展開を強いられそうだ。なお、本日は国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しが発表される予定。これも各国株式相場の方向感に大きな影響を与えるため、内容を注視しておきたい。(小林大純) <AK> 2021/10/12 12:17 後場の投資戦略 国内外での上値抑制要因緩和で買い戻し進展 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28488.95;+440.01TOPIX;1989.51;+27.66[後場の投資戦略] 週明けの日経平均は値幅を伴った上昇で28500円台まで上昇してきた。前週6日に27293.62円まで急落したが、外部環境の不透明感後退なども追い風に、値ごろ感からの買い戻しが進んだ。しかし、前週末の米雇用統計のさえない結果や、米株安の動きも踏まえると、週明けからこれだけの上昇幅が出たのには別の事情もありそうだ。 やはり、多方面でも話題になっているように、岸田首相の金融所得課税への言及が大きいとみられる。「成長」よりも「分配」に重きを置いた政策、「変化」よりも「安定」が重視されたような印象の強い岸田新政権への株式市場での評価は厳しく、これまでネガティブに捉えられていた。特にその代表格として金融所得課税の引き上げが注目されており、企業の四半期開示の原則見直しなどとも相まって、投資家からの批判が高まっていた様子。 それが、週末の民放番組での出演で、金融所得課税引き上げについては「当面考えていない」、「成長なくして分配はない。金融所得課税を考える前にやることはいっぱいある」などと発言。これにより、当面の増税懸念が後退したほか、過度な「分配」先行イメージが払拭され、ネガティブな印象を緩和することに寄与したようだ。 そのほか、中国政府が電力不足の緩和に向け、制限していた国内での石炭の増産に動き出したほか、輸入先の多様化や拡大に努めはじめたことも、サプライチェーン(供給網)の混乱が緩和されるとの見方から、投資家心理の改善につながっているようだ。 これらの動きは、今後の展開次第では、はく落してしまった国政期待の復活や、外部環境の不透明感の緩和につながり、再び株高基調に転換するきっかけにもなり得ると期待したい。 一方で、岸田新政権の政策には依然として具体性が乏しく、経済成長につながるストーリーが明確化されていない印象が残る。今回の金融所得課税引き上げの先送りだけで、大きくはく落してしまった海外投資家からの期待を完全に取り戻せるとは言いにくいだろう。 また、外部環境の不透明感についても、まだ警戒が必要だ。米長期金利が4カ月ぶりに1.6%台へと上昇したほか、期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率は約5カ月ぶりに2.5まで上昇してきている。インフレ加速や長期金利の更なる上昇など警戒感は残る。今週は、米国で13日に消費者物価指数(CPI)、14日生産者物価指数(PPI)が発表される。インフレを巡る思惑や長期金利の動向には引き続き注意したい。 後場の日経平均は引き続き堅調に推移しそうだ。ただ、28500円を回復した達成感もあり、今週の米物価指標の発表を前に、29000円に向けては一旦上値が重くなる展開も想定しておきたい。 <AK> 2021/10/11 12:18 後場の投資戦略 需給状況も8月以前に逆戻り? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28275.52;+597.31TOPIX;1974.51;+34.89[後場の投資戦略] 本日の日経平均は外部環境を巡る懸念が一段と和らぎ、前場には一時600円を超える上昇となった。米国債の当面のデフォルト回避によるリスクオンの流れから米10年物国債利回りは1.57%(+0.05pt)まで上昇したが、ナスダック総合指数や米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は堅調。東京市場でも値がさグロース(成長)株を中心に買いが入り、日経平均を押し上げている。ネット証券で人気のレーザーテックは、半導体の微細化に寄与する極端紫外線(EUV)を用いた検査装置がDRAMメーカーにも広がっているとの社長インタビューが米メディアに掲載されており、一段と期待を高めているだろう。一方、こうしたハイテク株への投資資金シフトで海運株は軟調。ここまでの東証1部売買代金は1兆8000億円弱と前日より膨らんでおり、取引は活発だ。 新興市場でもメルカリ<4385>などが堅調で、マザーズ指数は+1.75%と続伸。ただ、こちらは10時前に付けた1112.82ptがこの日の高値で、その後はやや上値を切り下げるような恰好となっている。 さて、日本取引所グループが7日発表した投資部門別売買動向によると、外国人投資家は9月第5週(9月27日~10月1日)に現物株を4725億円、東証株価指数(TOPIX)先物を7874億円、日経平均先物を1713億円それぞれ売り越していた。日々の先物手口では、9月29日の自民党総裁選と前後してBofA証券がTOPIX先物の売り越しに転じていたため、おおむね想定どおりの内容だ。8月23日週から9月21日週までの5週累計で外国人投資家のTOPIX先物買い越し額は8100億円あまりに膨らんでいたが、9月第5週の1週間でほぼ同程度売り越していたことになる。 一方、日経平均先物については9月21日週には早々に売り越しに転じており、9月第5週を含めた2週累計の売り越し額は5000億円弱。取引主体は短期筋とみられるだけに、政局相場初期の買い出動もその後の売り転換も早かった。しかし、8月23日週から9月13日週までの4週累計の買い越し額は8900億円近くに上っていたことから、むしろTOPIX先物と異なって一段の売り余地があるだろう。実際、前日の先物手口でもJPモルガン証券が日経平均先物を売り越していた。 自民党総裁選以降の海外勢の売りを「投機筋による材料出尽くし的な、あるいは思惑的なもの」と説明する市場関係者が多いように見受けられるが、実需筋中心とみられるTOPIX先物の売りが先行したという事実が見過ごされているような気がしてならない。 もう1つの市場データにも注目しておきたい。1日申し込み時点の信用買い残高(東京・名古屋2市場、制度・一般信用合計)は3兆5365億円と前の週に比べ2366億円増えた。政局相場で徐々に信用買い残の解消が進んでいたが、その後の株価急落で結局直近ピーク並みの水準に逆戻り。前日の後場に見られたように、信用買い残の増加は戻り売り圧力につながる。 海外投資家が先物を売り、現物株投資家が押し目で信用買いを膨らませる需給状況は政局相場前の2~8月と同じだ。5日の当欄では構造改革期待のはく落により「世界の景気敏感株に逆戻り」と指摘したが、実は需給状況も逆戻りしているとみておいた方がいいだろう。これを踏まえ、当面の日経平均の予想レンジは8月までと同様に27000円弱~29000円強としておきたい。 香港・上海株は朝高後やや伸び悩んでおり、今晩の米国では9月雇用統計の発表が予定されている。前述のとおり戻り待ちの売りが出やすい点を考慮しても、後場の日経平均は上値の重い展開となる可能性がある。(小林大純) <AK> 2021/10/08 12:24 後場の投資戦略 エネ価格の反落などひとまず安心も… [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27990.32;+461.45TOPIX;1956.79;+14.88[後場の投資戦略] 本日の日経平均は9日ぶりに大幅反発し、28000円台を回復する場面があった。日経平均の8日続落は2009年7月以来12年ぶりで、この間の下げ幅は2700円あまりに達していた。水準としても8月末から始まった政局相場の上昇分を帳消しにしており、さすがに自律反発が意識された面はあるだろう。また、個別・セクター別の騰落状況を見ると、プーチン氏の発言を受けたエネルギー価格の上昇一服が株式相場全体にかなり好影響を与えているように見える。軟調相場で投資資金を集めていたINPEXなどは急反落を強いられているが、インフレ懸念が和らぐとともに米10年物国債利回りの上昇は一服し、値がさグロース(成長)株が反発。海運株の値上がりを見ると、中国の電力不足への懸念も和らいでいるように思われる。ここまでの東証1部売買代金は1兆5000億円あまり。 新興市場でもマザーズ指数が+2.98%と4日ぶり大幅反発。BASE<4477>が8%の上昇、メルカリ<4385>が3%の上昇などとなっており、やはり米長期金利の上昇一服とともに主力IT株が堅調だ。もっとも、本日マザーズ市場に新規上場したワンキャリア<4377>は公開価格を2割ほど上回る初値を付けたものの、9月後半のIPO(新規株式公開)銘柄と比べると元気のない印象が拭えない。マザーズ銘柄のみならず、ネット証券で人気が続く海運株などが直近急落し、個人投資家のセンチメントや資金余力が悪化した可能性はあるだろう。実際、QUICK社の算出する信用評価損益率は1日申し込み時点で-9.44%と前の週(-7.68%)から悪化している。ワンキャリアは採用DX(デジタルトランスフォーメーション)・プラットフォーム企業として業績を大きく伸ばしており、今後の値動きに期待したい。 さて、不安材料を抱え動向が注目される米株や香港株。米株はNYダウなどの主要株価指数の底割れを懸念する向きが多かっただけに、前日の460ドル近い下落からのプラス転換は安心感につながっただろう。しかし、強気・弱気が入り交じるなかでボラティリティ(株価の変動率)が高まっているとの指摘があり、これはNYダウなどの日足チャートを見ても一目瞭然だ。「恐怖指数」とされる米株の変動性指数(VIX)は6日時点で21.00(前日比-0.30)と、節目の20を上回る状態が継続。「相場は脆弱」との指摘が多く、まだまだ不安定な動きが続くとみておいた方がいいだろう。 連邦政府の債務上限問題を巡っては、マコネル氏の提案に当初こそ民主党から反発の声が出ていたが、結局受け入れの方向で進んでいるようだ。目先の債務不履行(デフォルト)リスクは後退するが、年末にかけての与野党の攻防が一段と激しさを増すとの見方もある。また、いったん下落した原油価格についても、先行き1バレル=100ドル超に達する可能性があるとの市場関係者の声が聞かれる。今週末8日には9月雇用統計の発表が控えており、米株相場を揺るがす懸案・イベントがなお山積みだ。 日本株については、衆院選通過後に経済対策への期待などから再上昇するシナリオを描く市場関係者が多いようだ。しかし、こうした向きが直近の株価下落は「政局相場の反動」などと捉えているのに筆者は違和感がある。海外の主要株価指数とのパフォーマンスを比較すると、海外投資家に「日本株固有の買い要因を失った」と受け止められている可能性は高いだろう。海外情勢に振らされる展開が当面続くとみておきたい。(小林大純) <AK> 2021/10/07 12:26 後場の投資戦略 独歩高から独歩安、インフレ懸念もあるが国政がもはや重しか [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27544.06;-278.06TOPIX;1942.30;-5.45[後場の投資戦略] 本日の日経平均は前引け時点でなんと8日続落。前日まで7日続落で、この間の下げ幅は2426.69円にも及ぶ。これだけ下げればさすがに自律反発するのも不思議ではないと思ったが、朝方の反発もむなしく、急失速の展開となり、28000円台の回復は束の間の出来事に終わった。東証1部全体でみれば値上がり数が値下がり数を上回っているが、上昇している銘柄の多くも、朝方から急失速し、上げ幅を半分以上に縮めているものばかりだ。 それもそのはず。前日と今日とで特に何も変わっていない。株価急落を生み出した要因は何も解消されていない。中国での恒大集団をはじめとした不動産業資金繰り問題や深刻な電力不足、米連邦政府の債務上限問題などは依然くすぶる。米国の政治問題については与野党の間のチキンレースに過ぎず、長期的な波乱要因にはならないと考えるが、短期的にはテクニカル的な調整色を強めている米国株の一層の下押し圧力にはなり得る。 そして、中国の問題については長期的な話だ。不動産業の停滞から消費減などを通じて他産業へ影響が及べば、実体経済の後退につながる恐れがある。電力不足問題も、同国の環境規制強化のほか、石炭価格の高騰、世界的な脱炭素への急速シフトに伴う構造的変化など複数の要因が絡み合っており、すぐに解決できる問題とはいえない。 さらに、世界的なインフレ懸念も根強い。石炭価格のほか、天然ガスや原油など世界的にエネルギー価格が高騰している。初期は、コロナ禍からの需要回復や供給体制構築の遅れなど、一時的な需給バランスの乱れによるものと捉えられていた。しかし、世界が同時的に脱炭素へ急速にシフトした結果、再生可能エネルギーなどの新エネルギー分野と、化石燃料などの旧エネルギー分野との間での投資シフトの時間軸での整合性が取れず、需給バランスが構造的な形で崩れているようだ。こうなってくると、自らも懐疑的になってきていると思われる「インフレは一時的」とする米連邦準備制度理事会(FRB)の主張にも一層疑念がもたれる。 9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降、米10年国債利回りが急速に上昇してきたが、初期は、その上昇要因のうちほとんどが実質金利の上昇で説明できた。期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は緩やかに上昇していたはいたが、直近のレンジ内に収まっており、インフレ懸念が過度に強まっていた印象はなかった。 しかし、その米10年物BEIは5日に2.45と、7月29日の2.43を上抜き、直近3カ月程のレンジを上抜けてきた。上昇確度が高くなり、加速度的な上昇となっており、ここにきてインフレ懸念が強まってきた様子。WTI原油先物価格は5日、期近で2014年11月以来およそ7年ぶりの水準まで上昇した。このままエネルギー価格の高騰が続くと、今年前半に見られた「インフレ懸念・長期金利急騰」の再来もありうる。相場が神経質になってきている分、リスク要因として留意したい。 そして、国内に目を向けても懸念要素はある。前日、各メディアが岸田新内閣誕生後の世論調査の結果を発表した。内閣支持率はどこも60%を割っており、高いところでも日本経済新聞社とテレビ東京が共同で行ったもので59%。これでも、同調査によれば、政権発足時としては過去3番目に低かったという。ちなみに、読売新聞社が行った調査では56%、低いところでは朝日新聞社の45%、毎日新聞社の49%などがあった。 菅元首相の退陣で支持率が上がり、衆院選での与党圧勝への期待が高まったことで、9月半ばまでは政局相場による株高基調が生まれていた。しかし、蓋を開けてみれば、支持率に劇的な改善は見られなかった。こうなってくると、株高要因として期待されていた衆院選は今後はリスク要因とみなされかねない。すでに政局相場は終了し、前日までの間に日経平均は8月末以降の上昇分をすべて吐き出しているが、更なる下押しも想定しておいた方がよさそうだ。今日の朝高後に失速した日経平均の動きを見ていても、今後の日本株については前途多難と言わざるを得ない。 <AK> 2021/10/06 12:12 後場の投資戦略 「世界の景気敏感株」に逆戻り [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27658.31;-786.58TOPIX;1939.29;-34.63[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大幅に7日続落し、800円近い下落で前場を折り返した。下落が始まる前の9月24日終値(30248.81円)比でここまでの下げ幅は2600円近くに達し、取引時間中としては政局相場が始まる前の8月23日以来の安値を付ける場面もあった。国内「ユニクロ」の苦戦が続くファーストリテが1銘柄で日経平均を約192円押し下げているが、中国の電力不足等でコンテナ船市況が急落していると伝わった海運株も引き続き軟調。グロース(成長)株は米ハイテク株の大幅下落が響き、逃避資金の向かう先はINPEXなどの原油関連株に限られている。ここまでの東証1部売買代金は1兆8000億円あまりで、前日までと大きな変化はない。 新興市場でもマザーズ指数が-2.53%と大幅続落。前場中ごろにかけて4%超下落する場面があった。下値での押し目買い意欲は根強そうだが、米国でインフレ懸念と長期金利の上昇圧力が強まっているとなれば、先高期待も持ちづらいところだろう。先週後半に米長期金利の上昇が一服した場面では主力IT株の底堅さを感じたものの、一転して足元軟調となっている。 動向が注目される香港市場では、不動産株の売買停止が相次いでいるほか、インターネット関連株が軒並み軟調になっているという。もっとも、本稿執筆時点で香港ハンセン指数は0.4%程度の下落。前日のNYダウは-0.94%であり、日経平均の軟調ぶりは海外の主要株価指数と比べ際立っている。当欄では自民党新総裁が決定した翌9月30日、海外投資家による株価指数先物の売り転換を捉えて日本株の投資スタンスを「強気」から「当面様子見」に修正した。日本の「変化」に期待して買いを入れていた海外投資家だが、もはやこうした期待が後退しているのは明らかだろう。日経平均は菅義偉前首相が退陣表明して以降の上昇分を全て吐き出し、「世界の景気敏感系バリュー(割安)株」に逆戻りした感がある。 中国では不動産会社の資金繰り問題や電力不足、米国では連邦政府の債務上限問題やスタグフレーション(不況と物価高の同時進行)懸念がくすぶるなか、「世界の景気敏感株」である日本株のアウトパフォームは期待しづらいだろう。米国では5日にサプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況指数、6日にADP雇用統計、8日に雇用統計と9月分の経済指標の発表が相次ぎ、これらの内容を見極めたいとの思惑も買いの手を鈍らせそうだ。 4日発足した岸田新政権はさっそく、19日公示・31日投開票の衆院選に向けて経済対策の編成に動き出した。債務上限問題に揺れる米国との比較で、積極的な財政支出が期待されることは日本株の下支えになるかもしれない。しかし、経済対策で国内総生産(GDP)を一時的に数%押し上げるのと、(人口動態や産業構造等をあえて度外視するが)構造改革を経て欧米株並みにバリュエーションが向上するのとでは期待値が全く違うとも言える。やはり日本経済の浮上に向けた「変化」が見られると海外投資家に受け止められることが日本株の再上昇に不可欠だろう。(小林大純) <AK> 2021/10/05 12:25 後場の投資戦略 もはや不透明感だけでは説明できない日本株安 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28497.57;-273.50TOPIX;1974.19;-12.12[後場の投資戦略] 週明けの日経平均は前週末のNYダウの大幅反発もむなしく、朝高後に急失速の展開となっている。中国での不動産業資金繰り問題や深刻な電力不足、世界的なインフレ懸念、米債務上限問題など、外部環境の不透明感が根強い。今月下旬からは主力企業の7-9月期決算が控えており、今週末にはその前哨戦に当たる安川電機<6506>の決算も控えているだけに、積極的に買える状況にはないことが、売り優勢の状況を生み出しているようだ。 ただ、前週からの日本株の急落の背景は、どうも外部環境の不透明感だけでは説明できない気がする。日経平均が、菅元首相の退陣表明を受けてからの上昇幅のほとんどを吐き出してしまってきていることを踏まえれば、8月末以降の日本株独歩高を生んできた「日本政治への期待」がはく落してしまったことが一つの要因と考えられる。 不人気だった菅元首相が退陣することで、落ち込んでいた自民党支持率が回復し、衆院選での与党大敗という最悪のシナリオが後退すること、加えて、日本政治への“変化”の期待が、海外投資家の日本株の見方を変え、これまでの上昇相場を創出してきた。 しかし、前週の自民党総裁選で、改革色が強く海外投資家から人気の高かった河野氏の劣勢が伝わった段階から、先物主導での売りが膨らんでいた。また、今年前半(2月半ば~8月下旬)の日本株の長い調整局面において、TOPIX先物を長らく売り越していたBofA証券(バンク・オブ・アメリカ)は、9月半ばまでの上昇相場においては大量にTOPIX先物を買い戻していたが、前週の日経平均急落局面では、一転して週を通して大量に売り越していた。 もちろん、同証券の背後には当然複数の顧客がおり、一連の手口が全て同じ筋によるものとはいえない。また、同証券の手口が日本株のすべてを左右するともいえない。しかし、少なくとも、日経平均やTOPIXなど、日本の代表的な株価指数の今年の動きと、同証券の手口の連動性はかなり高い。そのため、河野氏の敗北とBofA証券の手口から察するに、これまでの日本株上昇を生み出してきた大きな要因である、「日本政治への変化の期待」が大きく削がれてしまったと言わざるを得ないのではないだろうか。 各種メディアが、岸田新政権の布陣構成をみて派閥に配慮した論功行賞の人事だと批判を強めているが、こうしたニュースのヘッドラインを見ている海外投資家からすれば、変化への期待がはく落してしまったとしても不思議ではないだろう。今日の日本株の朝高後の急失速も、米国の債務上限問題など海外要因よりは、こうした日本政治に対する海外勢の見方の変化によるものと捉えた方が適切な気がしてならない。 今後、もし組閣後の自民党支持率が、菅元首相の退陣前と大きく変わっていないことなどが判明すると、株高期待の背景となっていた衆院選も、今後は再び上値抑制リスクとならざるを得ない。ここからの日本株の戻りは当面鈍いと想定しておいた方がよさそうだ。 さて、本日の香港ハンセン指数は寄り付き直後から大幅に下げている。時間外の米株価指数先物も軒並み軟調なため、後場の日経平均も戻りは鈍く、軟調な動きが続きそうだ。 <AK> 2021/10/04 12:12 後場の投資戦略 日本株再浮上への「試練」 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28861.83;-590.83TOPIX;1989.01;-41.15[後場の投資戦略] 本日の日経平均は朝方下げ渋ったのち大きく値を崩し、取引時間中としては9月3日以来およそ1カ月ぶりに29000円を割り込んだ。東証1部銘柄の9割近くが下落する全面安の展開で、物色の矛先が向いているのは個別材料株の一角に限られる。米10年物国債利回りが1.5%割れまで下落し、朝方には新興株が買われる場面もあったが、結局マザーズ指数は伸び悩んでほぼ横ばい。ここまでの東証1部売買代金は1兆8000億円ほどで、値幅が大きく出たとあって前日よりやや膨らんでいる。 さて、前日の当欄で日本株の投資スタンスを「強気」から「当面様子見」に修正した筆者だが、早々にこれほど値を崩すとまではさすがに想定していなかった。四半期末、それに日経平均の銘柄入れ替えという需給イベントを通過し、岸田文雄新総裁のもとでの自民党執行部の陣容も伝わっていたことから、むしろ本日は日経平均の29200~29300円あたりでの底堅さ発揮に期待する向きが多かったように見える。こうした期待はあっけなく裏切られてしまった。 米国ではひとまず暫定予算案が可決されたものの、なお債務上限問題が残っている。また、エネルギー価格高騰に伴いインフレへの警戒感がくすぶっており、サマーズ元財務長官などスタグフレーション(不況と物価高の同時進行)に陥ることを懸念する声も上がる。不動産会社の資金繰り不安や電力不足に揺れる中国も景気減速懸念が拭えず、景気敏感色の強い日本株にとっては逆風となるのはやむを得ない。 但し、日本株にとっての「試練」はそれだけでないだろう。前日の当欄では、投資判断引き下げの理由として9月28日以降観測されているBofA証券の東証株価指数(TOPIX)先物売りを挙げた。30日の先物手口を見ると、BofA証券のみならずUBS証券、ゴールドマン・サックス証券といった多くの外資系証券でTOPIX先物売りが観測された。 政局が流動的になってから自民党総裁選までの間、海外情勢に多少の不安があっても、出遅れていた日本株のアウトパフォーム期待から海外勢の先物買いは根強く入っていた。それを踏まえると、足元でも経済正常化・政策期待で根強く買いを入れている現物株投資家と異なり、グローバルマクロ系を中心とした海外ファンド勢はやはり日本株のエクスポージャー(投資残高)を高める機運が後退してしまったように感じられる。これらは前日述べた日本の政治に「安定」より「変化」を求めた海外投資家だろう。 もちろん、日本株が再浮上の糸口をつかめるかどうかは岸田新政権の手腕次第となる。再配分重視を強調する点に眉をひそめる市場関係者もあるが、米国でバイデン民主党政権が誕生したように世界的な趨勢であり、米株の推移を見ても再配分施策そのものが決定的に株安要因となることはないだろう。ちなみに、これは競争政策重視の傾向が見られた菅政権と大きくスタンスが異なる点であり、前日に子育て・介護などの関連銘柄が大きく値を上げたのもうなずける。積極的な買い姿勢を維持している現物株投資家にとっては有望な投資機会となり得るだろう。 しかし、日本株全体として再び高値を目指していくためには、やはり日本経済の浮上に向けた「変化」が見られると海外投資家に受け止められる必要があるだろう。そうした背景から「当面様子見」の投資スタンスとしたい。 なお、本日から中国が国慶節休みに入り、中国本土市場や香港市場が休場となっている。今晩の米国では9月のサプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数が発表される予定。米株の動向を注視したいとの思惑から、後場の日経平均も戻りの鈍い展開となる可能性がある。(小林大純) <AK> 2021/10/01 12:24 後場の投資戦略 海外勢が期待したのは「安定」か「変化」か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29439.37;-104.92TOPIX;2030.04;-8.25[後場の投資戦略] 本日の日経平均は4日続落し、3ケタの下落で前場を折り返した。日足チャートを見ると、前日同様に29300円台で下げ渋る動きを見せているものの、前引け時点で29400円台後半に位置する25日移動平均線をやや下回っている。個別では引き続き海運株や半導体関連株の調整がきつい。ネット証券売買代金ランキングを見ると、これらは個人投資家の物色人気が高かったため、資金余力に影響が出てくるかもしれない。比較的強い値動きだったトヨタ自が長めの陰線を付けて下落しているのも気になるところだ。ここまでの東証1部売買代金は1兆6000億円あまり。 新興市場ではマザーズ指数が+0.14%と4日ぶり小幅反発。積極的に戻りを試す動きとはなりづらいようだが、前日も1100pt近辺で下げ渋り、600円超下落した日経平均と比べると底堅い印象を受けた。監視カメラシステムの有力スタートアップ企業として知られ、29日上場したセーフィー<4375>はここまで良好な値動き。やはりテック企業への期待は根強い。本日新規上場したアスタリスク<6522>は公開価格を74.5%上回る初値を付けた。 さて、岸田文雄氏が自民党新総裁に選出された。メディアでは国内外の市場関係者の声として「安定的な政権運営」に期待する声が多く出ている印象だ。ただ、筆者は菅義偉首相の退陣表明から「強気」としていた日本株への投資スタンスを「当面様子見」に修正したい。 注目したのは、28~29日と続けてBofA証券から東証株価指数(TOPIX)先物のまとまった売りが出ている点だ。ちょうど総裁選最終盤の情勢が伝わったタイミングだろう。もちろん米中を中心に海外情勢の不透明感が強まってきたことが影響している可能性もあるが、むしろ9月第3週(13~17日)まではBofA証券の積極的な買い越しが観測されていたため、海外実需筋の日本株に対する投資スタンスの変化を感じざるを得ない。 以前当欄で述べたとおり、外国人投資家は日経平均が2月高値を付けた2月15日週から8月23日週までの日経平均先物(短期筋が取引主体とみられる)の売り越し分を早々に買い戻していたが、TOPIX先物(実需筋が取引主体とみられる)についてはなお買い戻し余地が大きくあった。日経平均の株価純資産倍率(PBR)は足元1.2倍台半ばであり、2~4月には1.3倍を超える局面があったことから、水準訂正の一巡が意識されるタイミングでもないだろう。 菅首相の退陣表明からこれまでを振り返ると、後継レース序盤に河野太郎行政改革担当相が世論調査で先行すると、夜間取引中の先物にまとまった買いが入って相場上昇に弾みが付く場面があった。小泉政権誕生時の反応を見ても、海外投資家はとかく「改革派イメージの強いトップ」に期待する傾向がある。歯に衣着せぬ物言いで改革推進を訴え、世論支持率の高い河野氏に期待した海外投資家の買いは少なからず入っていただろう。短期的に失望売りが出ることは十分想定される。 もちろん、党内でのあつれきが多かったとみられる河野氏より、ベテラン議員を中心に支持を集めた岸田氏の方が安定的な政権運営が期待できるとの見方は妥当だし、足元の新型コロナ感染減による経済活動の正常化や衆院解散・総選挙に向けた経済対策にも期待できる。ただ、改めて強調するが日本株のトレンドはグローバルマクロ系を中心とした海外ファンド勢の先物売買に影響を受けやすい。これら海外投資家が「安定」と「変化」のどちらを期待したのか見極める必要があるだろう。差し当たり政権運営を支える当初支持率、それにリベラル色の強い宏池会(岸田派)出身の岸田氏がどのような政策を打ち出してくるか注目されそうだ。 なお、本日は引けにかけて日経平均の銘柄入れ替えに伴う売り需要(市場推計で5000億円程度)が発生するとみられている点にも注意しておきたい。(小林大純) <AK> 2021/09/30 12:22 後場の投資戦略 米株急落で連れ安も過度な悲観は不要 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;29442.14;-741.82TOPIX;2031.74;-50.03[後場の投資戦略] 本日の日経平均は配当権利落ちに米株大幅安が加わり、急落している。午後からは自民党総裁選の投開票が控えていることもあり、様子見ムードが強く、積極的な押し目買いもみられない。 前日は、上院銀行委員会証言において、イエレン財務長官が、連邦債務が10月18日に上限に達する公算大だと指摘し、債務上限が引き上げられなければ金融危機やリセッションに直面する可能性を警告。加えて、米10年国債利回りが1.56%と6月中旬以来となる水準にまで上昇したこともあり、悪材料が重なった結果、ここ最近みられていた投資家心理の悪化に拍車がかかり、売りが膨らんだようだ。 そこに、配当権利落ちや明日に控える日経平均銘柄入れ替えに伴う売り需要という需給イベントへの警戒のほか、自民党総裁選の投開票という日本特有のイベントも重なり、本日の下落っぷりが演出されていると思われる。 ただ、過度な悲観は不要と考える。米連邦政府の債務上限引き上げ問題については、過去にも何度も表面化し、その度にマーケットに短期的な波乱をもたらしているが、政府機関のデフォルトなど国民を犠牲にするような最悪の事態を招くとは合理的には考えにくく、最終的には何らかの形で落ち着くことが想定される。長引くと更なる相場下押し圧力になりかねないが、中期的にはこの問題を要因にもたらされる下落は一過性のものにすぎないと思われる。 また、米長期金利の上昇については、上昇ペースが速いために警戒されるのは致し方ないが、水準としては3月に付けた1.78%にはまだ距離がある。 金利上昇の背景には、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利見通し引き上げなど、公表結果を受けた後の投資家の持ち高修正が続いているとの見方のほか、インフレ懸念の再燃が挙げられている。インフレ懸念については最近のイベントや要人発言によるところが大きい。米連邦準備制度理事会(FRB)は今までインフレは「一時的」としていたが、9月FOMCでは当局者のインフレ見通しが引き上げられたほか、28日の米上院議会証言では、パウエルFRB議長が「インフレは予想以上に大きく、長く続いている」と発言。さらに、様々な要因による需給ひっ迫からもたされた最近の欧州でのガス・電力価格の高騰や原油先物価格の高騰などが加わり、インフレ懸念が台頭しているという構図だ。 しかし、期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率は、米長期金利が急ピッチで上昇している間ほぼ横ばいで、市場のインフレ懸念がここ数日で一段と強まったとは言えなさそうだ。また、米長期金利の上昇についても、中長期的には更なる上昇は避けられないだろうが、短期的にはそろそろ一巡感が出てくる可能性がある。 3月につけたピーク以降の金利低下の背景としては、日本国内の機関投資家による債券買いが寄与したところが大きかったようだが、今回も国内機関投資家による買いが金利上昇を抑制する可能性がある。東京証券取引所が発表する投資主体別売買動向によれば、年金基金などの機関投資家の動向を表すとされる信託銀行は、9月第2週(9月6~9月10日)に2100億円程、第3週(9月13~9月17日)に3700億円程それぞれ株式を現物で売り越している。政局流動化をきっかけに日経平均が急騰していたなか、リバランス売りを行っていたようだ。ここで、換金した余力分が、再び投資妙味を増してきた米国債に向かう可能性があり、そうなれば、金利上昇に一旦の歯止めがかかることが考えられる。 むろん、中国では不動産業の資金繰り問題や電力不足など問題が山積みだ。米国政治も短期的には更なる波乱もありうる。しかし、それでも、上述したように、米国の債務上限引き上げ問題や長期金利上昇を背景とした株価の急落が長く続くことは想定しにくい。 さて、午後の日経平均は自民党総裁選の投開票を控えて、引き続き本日の安値圏でのもみ合いとなりそうだ。決選投票になる可能性は高く、その場合は取引時間中に結果は確定しない。様子見ムードが強まるなか、仕掛け的な売りなども警戒されるが、慌てず対処していきたい。 <AK> 2021/09/29 12:21 後場の投資戦略 国内外・市場内外でイベントや懸案多い [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;30139.65;-100.41TOPIX;2077.77;-9.97[後場の投資戦略] 本日の日経平均は朝方に下げ幅を200円超に広げる場面もあったが、そこから底堅さを発揮して3万円台を維持している。米長期金利の上昇による値がさグロース(成長)株の下落はある程度想定されただろうが、高配当利回りの海運株が権利落ちを前に大きく売られたのには意外感があるかもしれない。ただ、以前当欄でも述べたが、信用買い残の増加やネット証券での売買動向などを見ると、短期志向の個人投資家の買いもかなり入っている印象を受けた。荒い値動きとなる場面が出てくるのもやむを得ないだろう。一方、指数寄与の大きいファーストリテやソフトバンクG、それに時価総額上位銘柄の堅調ぶりには日本株の先高観の根強さが感じられる。トヨタ自は連日で取引時間中の上場来高値更新だ。ここまでの東証1部売買代金は1兆7000億円強で、前日までと変わらぬペース。 新興市場ではマザーズ指数が-2.54%と大幅続落。やはり新興株でも米長期金利の上昇が重しとなっているが、直近安値を割り込む展開とはなっていない。本日は9月後半のIPO(新規株式公開)でもピークとなる4社が新規上場。ロボペイ<4374>はなお買い気配が続いているが、その他3社は公開価格を3割強上回る初値を付けた。いずれも小型のマザーズIPOだったものの、複数同時上場による投資資金の分散が初値を抑制したようだ。このところ「初値トレード」はまずまず活発だが、初値後軟調な銘柄も多かった。しかし、キャッシュレス決済システムのジィ・シィ企画<4073>は前引け時点でストップ高。明日は監視カメラシステムの有力スタートアップ企業として知られるセーフィー<4375>など2社が新規上場し、IPO銘柄の動向が一段と注目されそうだ。 ちなみにセーフィーは公募・売出し規模が252億円とマザーズIPOとしてはかなり大きかったが、同社指定の海外ファンドへの販売分を含め、公開株の68.4%が海外販売分となった。ブックビルディングでは海外投資家の需要が旺盛だったもよう。短期的に金利上昇などの上値抑え要因があるとはいえ、日本のテック企業に対する海外からの評価の高さは捨てたものではない。 さて、金融市場全体としては中国恒大集団に続く中国不動産会社の資金繰り問題の表面化、米国では長期金利の急ピッチの上昇に連邦政府の債務上限問題と、海外情勢に不透明感が残る。また、国内では明日29日に自民党総裁選の投開票が予定され、株式市場でも9月末の配当再投資需要の発生(市場推計で8000億円程度)、日経平均の銘柄入れ替えに伴う売り需要の発生(同5000億円程度)と需給イベントが相次ぐ。日本株は根強い先高観に支えられつつも、短期的に上下に振らされる場面が多く出てくるだろう。 このうち、米長期金利の動向を巡っては、今晩の米国でパウエル連邦準備理事会(FRB)議長やイエレン財務長官の議会証言、それに7年物国債の入札などが予定されているため、トレンドに変化が出てくるか注視したい。21~22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容がタカ派的と受け止められて金利水準の訂正が急速に進んでいるが、米国内外で懸念がくすぶるなか景気拡大期待が高まっているとも言えず、前日に一時上回った1.5%が目先の上限と予想する向きは多い。 中国不動産会社の債務問題を巡っては、中国人民銀行が「不動産市場の健全な発展を守る」と表明したことが安心感につながったようで、本日の香港ハンセン指数は大幅続伸している。後場の東京市場は香港株高を支えとしつつも、国内外の重要イベントを前に様子見ムードが強まる可能性がある。(小林大純) <AK> 2021/09/28 12:28

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