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アンジェス Research Memo(3):Emendoで臨床開発とライセンス契約締結を目指す
配信日時:2022/09/16 15:43
配信元:FISCO
■アンジェス<4563>のEmendoBioの開発状況
1. ゲノム編集とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、思い通りに遺伝子を改変する技術を指す。以前からゲノム編集技術はあったが、2012年にこれまでの技術よりも短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いた開発が活発化した。ただ、これらの技術は狙った遺伝子とは異なる箇所(標的DNA配列と似た配列)を切断してしまう「オフターゲット効果」があり、安全性という面で課題となっていた。
これに対して、Emendoが独自開発したOMNIプラットフォーム技術では、高精度に標的のDNA配列を切り取る独自のヌクレアーゼ(OMNIヌクレアーゼ)を数多く作出し、これらの中から適切なヌクレアーゼを選択して、それをさらに標的配列に対して最適化することで、「オフターゲット効果」のない安全性の高いゲノム編集を可能としている。ゲノム編集による医薬品の開発を進める場合に、安全性と効率性という点においてOMNIプラットフォームは優位性があると評価される。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能である点が挙げられる。アレル特異的遺伝子編集とは、対をなすアレル(対立遺伝子)の一方を傷つけることなく、異常のある遺伝子のみをターゲットにして編集することを言う。ヒトは父型と母型の2つのアレル(対立遺伝子)を一対として持っており、片方のアレルが異常配列となることで発症する遺伝病を優性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)、両方のアレルに必要な遺伝子が欠損することで発症する遺伝病を劣性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)、または伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる遺伝病)と呼ぶ。遺伝性疾患のうち、アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは優性遺伝と劣性遺伝のうちの一部で、遺伝性疾患の過半を占めることになる。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療薬の開発領域が幅広いことを意味している。Emendoの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円の規模があり、このうち1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になりうると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。
2. 今後の事業戦略
Emendoでの今後の事業戦略としては、自社開発による収益化とOMNIプラットフォーム技術のライセンス供与による収益獲得の2軸で展開していく方針となっている。
自社開発については、ELANE変異によるSCNを対象とした臨床開発を進めるべく、IND申請に向けてFDAとの協議を行っている。SCNとは骨髄における顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症のことで、遺伝子変異により出生後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復し、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患で、SCNの約7割はELANE変異によるものとなっている。
現在の治療法は、ST合剤(抗生剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による感染予防が一般的で、感染症がコントロールできない場合にはG-CSF※を使用して好中球の誘導を促すことになる。ただ、G-CSFを高用量で使用した場合、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行し、造血幹細胞移植が必要となるケースもある。Emendoでは患者から造血幹細胞を取り出し、OMNIプラットフォームを用いて正常な機能を有するELANEを発現させたうえで患者の体内に戻し、好中球の機能を回復させる根治療法の開発を目指している。動物実験では正常な遺伝子を傷つけずに、異常な遺伝子のみを正確に区別して破壊し、その結果、造血幹細胞が好中球に分化できるようになったことが確認されている。
※G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子):サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。
現在、FDAと臨床試験のプロトコルについて協議を進めている段階にある。OMNIプラットフォームを用いた臨床開発が初めてということもあって慎重に協議を重ねているようで、臨床試験の開始時期については2023年以降になるものと予想される。EmendoではまずELANE変異によるSCNでPOCを取得することを最優先課題として取り組み、その後に他のパイプラインの臨床開発も進めていくことにしている。現在、前臨床試験段階では血液系や眼科系の遺伝性疾患の開発を進めている。
一方、OMNIプラットフォームのライセンス供与については、バイオベンチャーからメガファーマまで合計10社程度の引き合いがきており、複数社と交渉を進めている段階にある。特に、CAR-T療法の開発企業からの関心度は高い。CAR-T療法は免疫細胞療法の1つで、がん患者のT細胞に標的抗原に対するCAR(Chimeric antigen receptor:キメラ免疫受容体)をコードする遺伝子を導入することで、がん細胞に対する攻撃力を高める治療法だが、先進のゲノム編集技術を用いることで、治療効果の高い新薬を効率的に開発できる可能性があるためだ。CRISPR/Cas9技術を使った開発も進められているが、既述のとおり「オフターゲット効果」がないOMNIプラットフォーム技術のほうが安全性が高いというメリットがあるため、ライセンス契約が締結される可能性は高いと弊社では見ている。同社では疾患別に非独占的ライセンス契約を締結していく方針であり、ペプチドリーム<4587>のようなビジネスモデルを志向している。
Emendoの人員は2020年の子会社化時点で50名強程度であったが、その後開発体制を強化し現在は100名程度の規模となっている。研究開発費は2021年12月期で23億円程度だったが、2023年以降、臨床試験が開始されれば開発費も増加するものと予想される。当面は開発資金が先行することから、開発資金の調達を目的に米国でIPOすることも選択肢の1つとして考えられる。米国ではゲノム編集技術で開発を進めるバイオベンチャーのなかで、臨床開発前の段階でも株式上場している企業があるため、要件的には可能と見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<SI>
1. ゲノム編集とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、思い通りに遺伝子を改変する技術を指す。以前からゲノム編集技術はあったが、2012年にこれまでの技術よりも短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いた開発が活発化した。ただ、これらの技術は狙った遺伝子とは異なる箇所(標的DNA配列と似た配列)を切断してしまう「オフターゲット効果」があり、安全性という面で課題となっていた。
これに対して、Emendoが独自開発したOMNIプラットフォーム技術では、高精度に標的のDNA配列を切り取る独自のヌクレアーゼ(OMNIヌクレアーゼ)を数多く作出し、これらの中から適切なヌクレアーゼを選択して、それをさらに標的配列に対して最適化することで、「オフターゲット効果」のない安全性の高いゲノム編集を可能としている。ゲノム編集による医薬品の開発を進める場合に、安全性と効率性という点においてOMNIプラットフォームは優位性があると評価される。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能である点が挙げられる。アレル特異的遺伝子編集とは、対をなすアレル(対立遺伝子)の一方を傷つけることなく、異常のある遺伝子のみをターゲットにして編集することを言う。ヒトは父型と母型の2つのアレル(対立遺伝子)を一対として持っており、片方のアレルが異常配列となることで発症する遺伝病を優性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)、両方のアレルに必要な遺伝子が欠損することで発症する遺伝病を劣性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)、または伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる遺伝病)と呼ぶ。遺伝性疾患のうち、アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは優性遺伝と劣性遺伝のうちの一部で、遺伝性疾患の過半を占めることになる。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療薬の開発領域が幅広いことを意味している。Emendoの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円の規模があり、このうち1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になりうると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。
2. 今後の事業戦略
Emendoでの今後の事業戦略としては、自社開発による収益化とOMNIプラットフォーム技術のライセンス供与による収益獲得の2軸で展開していく方針となっている。
自社開発については、ELANE変異によるSCNを対象とした臨床開発を進めるべく、IND申請に向けてFDAとの協議を行っている。SCNとは骨髄における顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症のことで、遺伝子変異により出生後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復し、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患で、SCNの約7割はELANE変異によるものとなっている。
現在の治療法は、ST合剤(抗生剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による感染予防が一般的で、感染症がコントロールできない場合にはG-CSF※を使用して好中球の誘導を促すことになる。ただ、G-CSFを高用量で使用した場合、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行し、造血幹細胞移植が必要となるケースもある。Emendoでは患者から造血幹細胞を取り出し、OMNIプラットフォームを用いて正常な機能を有するELANEを発現させたうえで患者の体内に戻し、好中球の機能を回復させる根治療法の開発を目指している。動物実験では正常な遺伝子を傷つけずに、異常な遺伝子のみを正確に区別して破壊し、その結果、造血幹細胞が好中球に分化できるようになったことが確認されている。
※G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子):サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。
現在、FDAと臨床試験のプロトコルについて協議を進めている段階にある。OMNIプラットフォームを用いた臨床開発が初めてということもあって慎重に協議を重ねているようで、臨床試験の開始時期については2023年以降になるものと予想される。EmendoではまずELANE変異によるSCNでPOCを取得することを最優先課題として取り組み、その後に他のパイプラインの臨床開発も進めていくことにしている。現在、前臨床試験段階では血液系や眼科系の遺伝性疾患の開発を進めている。
一方、OMNIプラットフォームのライセンス供与については、バイオベンチャーからメガファーマまで合計10社程度の引き合いがきており、複数社と交渉を進めている段階にある。特に、CAR-T療法の開発企業からの関心度は高い。CAR-T療法は免疫細胞療法の1つで、がん患者のT細胞に標的抗原に対するCAR(Chimeric antigen receptor:キメラ免疫受容体)をコードする遺伝子を導入することで、がん細胞に対する攻撃力を高める治療法だが、先進のゲノム編集技術を用いることで、治療効果の高い新薬を効率的に開発できる可能性があるためだ。CRISPR/Cas9技術を使った開発も進められているが、既述のとおり「オフターゲット効果」がないOMNIプラットフォーム技術のほうが安全性が高いというメリットがあるため、ライセンス契約が締結される可能性は高いと弊社では見ている。同社では疾患別に非独占的ライセンス契約を締結していく方針であり、ペプチドリーム<4587>のようなビジネスモデルを志向している。
Emendoの人員は2020年の子会社化時点で50名強程度であったが、その後開発体制を強化し現在は100名程度の規模となっている。研究開発費は2021年12月期で23億円程度だったが、2023年以降、臨床試験が開始されれば開発費も増加するものと予想される。当面は開発資金が先行することから、開発資金の調達を目的に米国でIPOすることも選択肢の1つとして考えられる。米国ではゲノム編集技術で開発を進めるバイオベンチャーのなかで、臨床開発前の段階でも株式上場している企業があるため、要件的には可能と見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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