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田中化学研究所:住友化学グループのリチウムイオン電池正極材専業メーカー

配信日時:2025/09/16 14:26 配信元:FISCO
*14:26JST 田中化学研究所:住友化学グループのリチウムイオン電池正極材専業メーカー 【住友化学グループのリチウムイオン電池正極材専業メーカー】
田中化学研究所<4080>は、1957年に大阪市生野区で設立され、当初はフェライト用炭酸マンガンの製造から事業を開始した企業である。その後、芦屋工場の設立や福井工場への移転を経て、1991年には本社を福井市に移した。現在は住友化学傘下の正極材料専業メーカーとして、リチウムイオン電池やニッケル水素電池の分野で重要な役割を果たしている。
同社は「粒子形状制御」「複数元素共沈」「粒子径制御」「結晶制御」の四つのコア技術を中心に、表面コーティングや化学酸化などの先端技術を組み合わせ、顧客のニーズに応じた材料を提供している。これらの技術は電池性能の向上に直結し、スマートフォンやパソコンなどのモバイル機器のみならず、電気自動車やハイブリッド車といった次世代モビリティに広く利用されている。こうした事業展開は、エネルギー問題や環境問題といった社会課題の解決に資するものであり、持続可能な社会の実現に貢献している。
資本面では、2016年に住友化学の連結子会社となり、住友化学グループにおける戦略的存在として中長期的な成長を目指している。

【第1四半期決算は大幅赤字転落、通期は赤字幅縮小を目指す】
同社の2026年3月期第1四半期決算は、売上高8,968百万円(前期比5.1%減)、営業利益は59百万円の赤字(前期は1,081百万円の黒字)、経常利益は209百万円の赤字(同1,202百万円の黒字)、四半期純利益210百万円の赤字(同1,194百万円の黒字)となった。こうした大幅な減益の背景には、業界環境の急激な変化がある。米国政権による政策変更、すなわち気候変動対策関連歳出の削減やIRA法の見直しにより脱炭素への取り組みが後退した結果、中国メーカーの競争優位が一層高まるとの懸念が世界的に広がった。加えて、中国の部材メーカーによる積極的な設備増強と車載用リチウムイオン電池市場の需要鈍化が重なり、部材の供給過剰な状況が継続している。
このような市場環境の下で、同社の業績は主要顧客の増産時期の遅延や需要停滞といった影響を受け、想定を下回る販売数量にとどまった。リチウムイオン電池向け製品は前年同期比で3.3%の減少となった。内訳では、車載用途が顧客ごとの販売数量の増減により2.1%の増加となった。一方、民生用途は最終製品需要の低迷を背景に84.2%の減少であるものの、販売数量への影響は限定的であった。また、ニッケル水素電池向け製品は前年同期比で2.1%の減少となり、主要顧客からの受注は安定的に推移したものの最終的には減少に転じた。これらの結果、同社は二次電池材料市場における構造的な需要成長の鈍化の影響を正面から受けるかたちとなった。
なお、通期業績予想は据え置いており、売上高46,000百万円(前期比26.0%)、営業利益は600百万円の赤字(前期は338百万円の赤字)、経常利益は700百万円の赤字(同373百万円の赤字)、当期純利益は700百万円の赤字(同257百万円の赤字)を予定している。

【ノースボルト社破綻のBS上の影響は今期以降はなし】
同社は前期決算において、取引先であるNorthvolt社がスウェーデンで破産手続きを開始したことを受け、前期末に約14億円の在庫評価損を計上した。Northvolt社とのライセンス契約は総額55億円の技術支援料を得る内容であり、うち35億円についてはすでに回収済みであった。しかし、残り20億円については2025年度以降の4年間にわたり、毎年5億円ずつ回収する予定であったものの、今回の破産により回収不能となる可能性が高くなった。ただし、この未回収分は売上として計上していたものではないため、今期以降の同社のバランスシートに直接的な影響は及ばない。結果として、今回の事象は前期の一時的な損失計上にとどまり、将来の収益見通しに構造的な悪影響を与えるものではないと判断される。

【今後の動向と注目点】
短期的には需要停滞や供給過剰といった逆風に直面しているものの、電気自動車市場は中長期的に拡大することが確実視されており、正極材需要も堅調に伸びることが予想される。各国での環境規制強化やEV普及政策の進展に伴い、高性能かつ安定供給が可能な材料を求める需要は一段と高まる見通しである。同社は住友化学グループとの連携の下で、粒子制御技術や複数元素共沈技術など独自の強みを活かし、新世代電池への応用も視野に入れた研究開発を進めている。足元の業績は厳しいが、中長期的には技術競争力と安定した顧客基盤を背景に再び成長軌道に乗る余地は大きく、投資家にとっては業界環境が改善に転じる局面を見極めることが重要な注目点となろう。


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