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橋本氏対談(2)スマートコントラクトとDeFi:逃れられない「規制」と「バグ」(3)【実業之日本フォーラム】
配信日時:2021/11/11 11:24
配信元:FISCO
■失われつつある匿名性
白井:世界的な暗号資産交換業者であるバイナンスが各国から非難を浴びており、サービスを縮小しています。一方、コインベースは上場し、空前の利益を出している。非常に対照的です。コインベースはアメリカの規制下、管理下にある一方、バイナンスは不透明な取引にも使われていたとも耳にします。
橋本:先ほど、ビットコインはトレースが容易と言いましたが、一方で、頑張れば隠すこともできる送金形態でもあります。ミキシングと言われる手法を使えば、お金の流れを隠そうとしているということはわかっても、一体どこに行ったのか、どう流れて行ったのかは捕捉できない。ビットコインでも、そういったことができるのです。しかし、例えば、米国の一番メジャーな暗号資産交換業者であるコインベースは、そういったお金の流れを隠そうとしてミキシングされたビットコインを受け取らないと決めました。誰もビットコイン自体を止めることはできませんが、使いにくくするという形で外圧がかけられてきています。ビットコインの使う幅が増える一方、本来の意味での使い方が難しくなってきているというのが実情です。
バイナンスが世界的な非難を浴びて、これまでのバイナンスでなくなってしまうのは、お金の流れを隠そうとしている人からすると、かなり厳しい流れです。ビットコインは、ミキシングをすればある程度の匿名性はあっても、ミキシングしていること自体は発覚してしまいます。怪しいお金の動きをしていると強く疑われると、コインベースの場合は口座を凍結されてしまいます。本当にミキシングをしたい人は、そういったことを避けるため、ミキシングしたビットコインをコインベースに送るのではなく、まずバイナンスに送り、そこからコインベースに送る。バイナンスの口座は一人でいくつでもつくることができます。1日当たり2BTC(※1)までは、本人確認なしで送金することができました 。一人で複数の口座を作れるのであれば、ある程度のお金持ちでも、さほど面倒なく、自分が持っているミキシング済みのビットコインを完全に匿名を維持したままバイナンスに入れたり出したりすることができます。
バイナンスは本当に巨大な暗号資産交換業者で、ほとんどのユーザーが使っていると言っても過言ではありません。バイナンスから送られてくるビットコインは、普通のビットコインなのです。普通の人と同じビットコインを使うことができるのです。お金の流れが追えないだけでなく、追えなくしていることすらも隠すのが本当の匿名性なのですが、バイナンスは匿名性を完全に実現してくれるサービスだったのです。
バイナンスのような本人確認の緩さを売りにしている交換業者は、大手を含めて何社かあります。まだそこには矛先が向かっていないようですが、早晩、バイナンスと同じように業務を縮小せざるを得ないのではないでしょうか。
白井:アンチマネーロンダリングの視点は大事ですね。日本の暗号資産交換業者も、そのような取引に目を光らせています。ダークなお金が、現実社会や法定通貨の世界に入ってくることを、水際で止めているということですね。しかし、規制が強化されてグレーな部分が絞られていけば、業界に何が引き起こされるのでしょうか。
橋本:脱税ではないとしても、自分の細かいお金の流れはやっぱり捕捉されたくないでしょう。どこで車を買ったとか、どんな絵を買ったとか、そんなことまで知られたくありません。これまでは、ビットコインでかなりのことが実現できました。最低限の知識があれば、傍から見たら普通のものと何ら区別のつかないビットコインに替えることができましたが、これが今後、どんどんやりにくくなっていきます。ちょっとでも交換業者を経由しようとすると、捕捉されてしまう世界になってしまいます。
われわれのあいだで車を売買するときに、ビットコインのままずっと持っている、交換業者は使わないということであれば、ビットコインは非常に使いやすいのです。しかし、ほとんどの場合は、日本円に替えたい、ドルに替えたい、生活費に使いたいとなるので、捕捉されないお金のやりとりは非常に難しくなります。これは、避けたくても避けられない流れだと思います。
白井:大きな金額を瞬時に動かすには、ビットコインは最適ですし、二者間の送金であれば、一見、当局に捕捉されないように見えますが、そのビットコインはどこかで現実社会や法定通貨と繋がっています(払い手のビットコインの購入時や、受け手のビットコインの法定通貨やモノへの交換時)ので、そこで足がつくということですね。当局に捕捉されていないビットコインを持つ人が、ビットコインのまま保持する人に支払うのであれば成立する話ですが、閉じたデジタル空間だけの利用は現実的ではありませんね。
新しいサービスの多くは、当初はアングラ利用によって普及し、徐々に整備されつつ市民権を得ていきます。現在のビットコインは、導入期を過ぎて、市場が整備されつつあり、立派な資産として成長している過程に入っていると考えています。多くの既存金融機関が暗号資産への投資を表明していることが、その証左だと思います。
橋本:このような動きは、暗号資産の価格形成の点ではポジティブだと思っています。ビットコインが捕捉されるとしても、ポートフォリオを分散させる中でビットコインを持っておくのは問題ないという感覚は、それなりにお金を持っている人でも、ある程度、共通認識ではないでしょうか。
ビットコインがツイッターなどで使われる、ETFで投資できるようになるといったニュースを、世の中の人々は何となくポジティブと捉えています。それで買う人が増えれば、短中期的には価格上昇に寄与するでしょう。
一方であまり楽しくないような気もします。僕はオタク寄りの人間ですので、アナーキズム的なところ、ビットコインの魅力のようなものが損なわれていくのは面白くありません。面白くないと持っていたいという気持ちも薄れてしまいそうですが、資産価値としては悪くないという感覚です。
※1:大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)は、アカウントの引き出し限度額についての見直しを行い、本人確認のレベルが「ベーシック」であるアカウントの一日あたりの引き出し限度額を引き下げることを7月28日に発表。この変更により、これまでは本人確認のレベルがベーシックであっても一日あたり2BTCを引き出すことができたが、今後は一日あたりの引き出し限度額が0.06BTCとなる。この変更は、発表後、新規ユーザーに対しては即時に適用され、既存のユーザーに対しては2021年8月4日〜23日にかけて段階的に適用された。
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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白井:世界的な暗号資産交換業者であるバイナンスが各国から非難を浴びており、サービスを縮小しています。一方、コインベースは上場し、空前の利益を出している。非常に対照的です。コインベースはアメリカの規制下、管理下にある一方、バイナンスは不透明な取引にも使われていたとも耳にします。
橋本:先ほど、ビットコインはトレースが容易と言いましたが、一方で、頑張れば隠すこともできる送金形態でもあります。ミキシングと言われる手法を使えば、お金の流れを隠そうとしているということはわかっても、一体どこに行ったのか、どう流れて行ったのかは捕捉できない。ビットコインでも、そういったことができるのです。しかし、例えば、米国の一番メジャーな暗号資産交換業者であるコインベースは、そういったお金の流れを隠そうとしてミキシングされたビットコインを受け取らないと決めました。誰もビットコイン自体を止めることはできませんが、使いにくくするという形で外圧がかけられてきています。ビットコインの使う幅が増える一方、本来の意味での使い方が難しくなってきているというのが実情です。
バイナンスが世界的な非難を浴びて、これまでのバイナンスでなくなってしまうのは、お金の流れを隠そうとしている人からすると、かなり厳しい流れです。ビットコインは、ミキシングをすればある程度の匿名性はあっても、ミキシングしていること自体は発覚してしまいます。怪しいお金の動きをしていると強く疑われると、コインベースの場合は口座を凍結されてしまいます。本当にミキシングをしたい人は、そういったことを避けるため、ミキシングしたビットコインをコインベースに送るのではなく、まずバイナンスに送り、そこからコインベースに送る。バイナンスの口座は一人でいくつでもつくることができます。1日当たり2BTC(※1)までは、本人確認なしで送金することができました 。一人で複数の口座を作れるのであれば、ある程度のお金持ちでも、さほど面倒なく、自分が持っているミキシング済みのビットコインを完全に匿名を維持したままバイナンスに入れたり出したりすることができます。
バイナンスは本当に巨大な暗号資産交換業者で、ほとんどのユーザーが使っていると言っても過言ではありません。バイナンスから送られてくるビットコインは、普通のビットコインなのです。普通の人と同じビットコインを使うことができるのです。お金の流れが追えないだけでなく、追えなくしていることすらも隠すのが本当の匿名性なのですが、バイナンスは匿名性を完全に実現してくれるサービスだったのです。
バイナンスのような本人確認の緩さを売りにしている交換業者は、大手を含めて何社かあります。まだそこには矛先が向かっていないようですが、早晩、バイナンスと同じように業務を縮小せざるを得ないのではないでしょうか。
白井:アンチマネーロンダリングの視点は大事ですね。日本の暗号資産交換業者も、そのような取引に目を光らせています。ダークなお金が、現実社会や法定通貨の世界に入ってくることを、水際で止めているということですね。しかし、規制が強化されてグレーな部分が絞られていけば、業界に何が引き起こされるのでしょうか。
橋本:脱税ではないとしても、自分の細かいお金の流れはやっぱり捕捉されたくないでしょう。どこで車を買ったとか、どんな絵を買ったとか、そんなことまで知られたくありません。これまでは、ビットコインでかなりのことが実現できました。最低限の知識があれば、傍から見たら普通のものと何ら区別のつかないビットコインに替えることができましたが、これが今後、どんどんやりにくくなっていきます。ちょっとでも交換業者を経由しようとすると、捕捉されてしまう世界になってしまいます。
われわれのあいだで車を売買するときに、ビットコインのままずっと持っている、交換業者は使わないということであれば、ビットコインは非常に使いやすいのです。しかし、ほとんどの場合は、日本円に替えたい、ドルに替えたい、生活費に使いたいとなるので、捕捉されないお金のやりとりは非常に難しくなります。これは、避けたくても避けられない流れだと思います。
白井:大きな金額を瞬時に動かすには、ビットコインは最適ですし、二者間の送金であれば、一見、当局に捕捉されないように見えますが、そのビットコインはどこかで現実社会や法定通貨と繋がっています(払い手のビットコインの購入時や、受け手のビットコインの法定通貨やモノへの交換時)ので、そこで足がつくということですね。当局に捕捉されていないビットコインを持つ人が、ビットコインのまま保持する人に支払うのであれば成立する話ですが、閉じたデジタル空間だけの利用は現実的ではありませんね。
新しいサービスの多くは、当初はアングラ利用によって普及し、徐々に整備されつつ市民権を得ていきます。現在のビットコインは、導入期を過ぎて、市場が整備されつつあり、立派な資産として成長している過程に入っていると考えています。多くの既存金融機関が暗号資産への投資を表明していることが、その証左だと思います。
橋本:このような動きは、暗号資産の価格形成の点ではポジティブだと思っています。ビットコインが捕捉されるとしても、ポートフォリオを分散させる中でビットコインを持っておくのは問題ないという感覚は、それなりにお金を持っている人でも、ある程度、共通認識ではないでしょうか。
ビットコインがツイッターなどで使われる、ETFで投資できるようになるといったニュースを、世の中の人々は何となくポジティブと捉えています。それで買う人が増えれば、短中期的には価格上昇に寄与するでしょう。
一方であまり楽しくないような気もします。僕はオタク寄りの人間ですので、アナーキズム的なところ、ビットコインの魅力のようなものが損なわれていくのは面白くありません。面白くないと持っていたいという気持ちも薄れてしまいそうですが、資産価値としては悪くないという感覚です。
※1:大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)は、アカウントの引き出し限度額についての見直しを行い、本人確認のレベルが「ベーシック」であるアカウントの一日あたりの引き出し限度額を引き下げることを7月28日に発表。この変更により、これまでは本人確認のレベルがベーシックであっても一日あたり2BTCを引き出すことができたが、今後は一日あたりの引き出し限度額が0.06BTCとなる。この変更は、発表後、新規ユーザーに対しては即時に適用され、既存のユーザーに対しては2021年8月4日〜23日にかけて段階的に適用された。
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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