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オンコリス Research Memo(4):コロナ禍で治験の進捗が遅れているものの、国内外で複数の臨床試験進める(1)
配信日時:2021/09/09 15:14
配信元:FISCO
■開発パイプラインの動向
1. テロメライシン
(1) 概要
テロメライシンは、遺伝子改変された5型のアデノウイルスのことで、腫瘍溶解ウイルス製剤の一種である。テロメライシンの特徴は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することで、がん細胞を破壊していくことにある。アデノウイルス自体は自然界の空気中に存在し、風邪の症状を引き起こすウイルスのため、ヒトに投与すると発熱等の症状が出るケースもあるが、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いため副作用も少なく、人体への安全性には問題がないことが確認されている。なお、テロメライシンの国際的な一般名称が、「suratadenoturev(スラタデノツレブ)」に決定している。
(2) 開発状況
テロメライシンは現在、国内と米国にて複数のプロジェクトが進んでおり、このうち、国内については中外製薬とのライセンス契約に基づき、開発主体が中外製薬に移っており、海外についてはオンコリスバイオファーマ<4588>が医師主導治験を進めている。ただ、直近の進捗状況はコロナ禍の影響により、全体的に遅れが生じている。コロナ禍が続くなかでコロナワクチンの供給量を拡大する必要があり、テロメライシンの治験薬製造に必要な物資(培地、容器類等)が不足して必要な量を製造できていないこと、また、医療機関での受診患者数も減少していることなどが背景にある。
a) 食道がん(放射線との併用療法)
中外製薬が主導する第2相臨床試験は、外科手術による切除や根治的化学放射線療法(放射線と抗がん剤を用いた治療法)が困難な患者を対象に行われ、ヒストリカルデータ(日本食道学会による放射線単独療法)との比較により有効性と安全性を確認する。予定症例数は37例で2020年3月に1例目の被験者投与が開始された。当初計画では2022年内の販売承認申請を目指していたが、コロナ禍が長期化するなかで進捗が遅れており、現時点での承認申請時期は2024年に修正されている。先駆け審査指定制度※の対象品目として指定されており、審査期間の短縮が見込まれることから、申請後は1年以内に承認される可能性がある。
※先駆け審査指定制度とは、対象疾患の重篤性など一定要件を満たす画期的な新薬などについて、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)が薬事承認に関する相談・審査を優先的に取り扱い、承認審査期間を短縮することで早期実用化を目指すもの。通常は、承認申請から12ヶ月程度を目標に審査を行うが、同制度を活用することで審査期間を6ヶ月程度に短縮することが可能となる。テロメライシンは2019年4月に指定された。
b) 食道がん(化学放射線療法との併用療法)
同社は2020年6月に米国での主要ながん研究グループであるNRGオンコロジーとの間で、食道がん患者を対象とした医師主導の第1相臨床試験を米国で実施する契約を締結した。今回の臨床試験は化学放射線療法を行いながら、テロメライシンを隔週に3回投与し、安全性の確認と3ヶ月後の腫瘍の縮小効果を確認するというもの。完全奏効率が標準治療法を上回れば、次の開発ステージに進む可能性が高くなる(化学放射線療法単独で約50%程度)。また、3年後のがん再発率が既存療法より低ければ、食道がんにおいて外科手術以外の治療法の候補となる可能性がある。コロナ禍の影響で開始時期が遅れていたが、ようやく患者の募集を開始した段階にある。予定症例数は15例で、2022年第3四半期の終了を見込んでいる。食道がんを対象とするテロメライシンは、米国FDA(食品医薬品局)よりオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けており、補助金支給や臨床研究費用の税額控除といった優遇措置が今後受けられるほか、販売承認された場合は7年間の先発権保護が与えられ、同期間中は市場を独占することが可能となる。
一方、国内でも中外製薬で局所進行性食道がんを対象とした第1相臨床試験の患者募集を開始している。安全性と忍容性を評価し、副次的に有効性を評価する試験で、予定症例数は20例で2023年第4四半期の終了を見込んでいる。日米での臨床試験の結果が良好であれば、中外製薬が海外でも化学放射線療法との併用による開発を進めていく可能性があると弊社では見ている。
c) 進行性または転移性固形がん(免疫チェックポイント阻害剤との併用療法)
食道がんを中心とした進行性または転移性固形がんでステージ4の患者を対象に、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ(開発:米メルク、商品名:キイトルーダ)との併用療法による医師主導の第1相臨床試験が、2017年12月より国立がん研究センター東病院等で進められ、このほど予定していた22例の組み入れが完了した。前半の9例では投与量を3群に分け(低容量、中容量、高容量)、治療期間6週間でテロメライシンを3回反復投与、ペムブロリズマブを複数回投与し、安全性や抗腫瘍効果、免疫応答等を評価し(最大2年間の経過観察期間を設けて生存率についても評価)、後半の13例では、前半に行った試験のうち高容量群での3回反復投与を1クールとし、複数クール行う試験となる。
前半の9例に関する中間報告は、2019年3月にAACR(米国癌学会)で発表されており、内容としては投与を制限するような重篤な副作用は発生せず、副次評価項目である有効性評価として、9例中3例で全身での部分奏効が確認された。ペムブロリズマブの単独療法では部分奏効率が13.1%という臨床試験結果が出ており、テロメライシンとの併用療法による腫瘍縮小効果が期待できる内容であった。
現在は後半の11例の試験結果を担当医師等がまとめている段階で、2022年1月に開催されるASCO-GI(米国臨床腫瘍学会)でその内容を発表する予定となっている。今後の開発方針については、中外製薬が臨床試験のデータを見て判断することになるようだ。中外製薬でも免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)の開発を進めており、今回の医師主導臨床試験のデータ結果次第では、アテゾリズマブとの併用療法による臨床試験を進めていく可能性はある。ただ、第2相臨床試験に進んだとしても、有効性評価として2年後の生存率や再発率などを見る必要があるため、試験期間は数年程度と長期間になることが予想される。
d) 胃がん・胃食道接合部がん(免疫チェックポイント阻害剤との併用療法)
ステージ4の胃がん・胃食道接合部がん患者を対象とした免疫チェックポイント阻害剤との併用療法による医師主導の第2相臨床試験が、2019年5月より米コーネル大学などで進められている。ペムブロリズマブ投与中の患者に対して、テロメライシンを隔週で4回投与し、半年程度の観察期間で安全性と有効性を評価する試験となる。予定症例数は18例で、2020年12月に評価可能な8例で中間検討会を実施した。投与した8例のうち、1例は部分奏功が確認され、また他の1例については腫瘍の大きさに変化がない安定した状態を保っている。コーネル大学の担当医師からは、「部分奏効率で標準治療を上回る結果であれば、企業治験に切り替えていく価値がある(ペムブロリズマブ単剤では約15%)」と言われている。2022年中に18例まで実施したのちに中間評価を行い臨床試験継続の可否を判断することになる。仮に企業治験を進める場合は、中外製薬がオプション権を行使して米国のグループ会社であるジェネンテックが主導して開発を進めていくものと予想される。なお、今回の臨床試験ではペムブロリズマブを使用しているが、中外製薬では同じ免疫チェックポイント阻害剤のアテゾリズマブがあるため、企業治験で開発を進める場合はアテゾリズマブを使用するものと思われる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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1. テロメライシン
(1) 概要
テロメライシンは、遺伝子改変された5型のアデノウイルスのことで、腫瘍溶解ウイルス製剤の一種である。テロメライシンの特徴は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することで、がん細胞を破壊していくことにある。アデノウイルス自体は自然界の空気中に存在し、風邪の症状を引き起こすウイルスのため、ヒトに投与すると発熱等の症状が出るケースもあるが、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いため副作用も少なく、人体への安全性には問題がないことが確認されている。なお、テロメライシンの国際的な一般名称が、「suratadenoturev(スラタデノツレブ)」に決定している。
(2) 開発状況
テロメライシンは現在、国内と米国にて複数のプロジェクトが進んでおり、このうち、国内については中外製薬とのライセンス契約に基づき、開発主体が中外製薬に移っており、海外についてはオンコリスバイオファーマ<4588>が医師主導治験を進めている。ただ、直近の進捗状況はコロナ禍の影響により、全体的に遅れが生じている。コロナ禍が続くなかでコロナワクチンの供給量を拡大する必要があり、テロメライシンの治験薬製造に必要な物資(培地、容器類等)が不足して必要な量を製造できていないこと、また、医療機関での受診患者数も減少していることなどが背景にある。
a) 食道がん(放射線との併用療法)
中外製薬が主導する第2相臨床試験は、外科手術による切除や根治的化学放射線療法(放射線と抗がん剤を用いた治療法)が困難な患者を対象に行われ、ヒストリカルデータ(日本食道学会による放射線単独療法)との比較により有効性と安全性を確認する。予定症例数は37例で2020年3月に1例目の被験者投与が開始された。当初計画では2022年内の販売承認申請を目指していたが、コロナ禍が長期化するなかで進捗が遅れており、現時点での承認申請時期は2024年に修正されている。先駆け審査指定制度※の対象品目として指定されており、審査期間の短縮が見込まれることから、申請後は1年以内に承認される可能性がある。
※先駆け審査指定制度とは、対象疾患の重篤性など一定要件を満たす画期的な新薬などについて、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)が薬事承認に関する相談・審査を優先的に取り扱い、承認審査期間を短縮することで早期実用化を目指すもの。通常は、承認申請から12ヶ月程度を目標に審査を行うが、同制度を活用することで審査期間を6ヶ月程度に短縮することが可能となる。テロメライシンは2019年4月に指定された。
b) 食道がん(化学放射線療法との併用療法)
同社は2020年6月に米国での主要ながん研究グループであるNRGオンコロジーとの間で、食道がん患者を対象とした医師主導の第1相臨床試験を米国で実施する契約を締結した。今回の臨床試験は化学放射線療法を行いながら、テロメライシンを隔週に3回投与し、安全性の確認と3ヶ月後の腫瘍の縮小効果を確認するというもの。完全奏効率が標準治療法を上回れば、次の開発ステージに進む可能性が高くなる(化学放射線療法単独で約50%程度)。また、3年後のがん再発率が既存療法より低ければ、食道がんにおいて外科手術以外の治療法の候補となる可能性がある。コロナ禍の影響で開始時期が遅れていたが、ようやく患者の募集を開始した段階にある。予定症例数は15例で、2022年第3四半期の終了を見込んでいる。食道がんを対象とするテロメライシンは、米国FDA(食品医薬品局)よりオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けており、補助金支給や臨床研究費用の税額控除といった優遇措置が今後受けられるほか、販売承認された場合は7年間の先発権保護が与えられ、同期間中は市場を独占することが可能となる。
一方、国内でも中外製薬で局所進行性食道がんを対象とした第1相臨床試験の患者募集を開始している。安全性と忍容性を評価し、副次的に有効性を評価する試験で、予定症例数は20例で2023年第4四半期の終了を見込んでいる。日米での臨床試験の結果が良好であれば、中外製薬が海外でも化学放射線療法との併用による開発を進めていく可能性があると弊社では見ている。
c) 進行性または転移性固形がん(免疫チェックポイント阻害剤との併用療法)
食道がんを中心とした進行性または転移性固形がんでステージ4の患者を対象に、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ(開発:米メルク、商品名:キイトルーダ)との併用療法による医師主導の第1相臨床試験が、2017年12月より国立がん研究センター東病院等で進められ、このほど予定していた22例の組み入れが完了した。前半の9例では投与量を3群に分け(低容量、中容量、高容量)、治療期間6週間でテロメライシンを3回反復投与、ペムブロリズマブを複数回投与し、安全性や抗腫瘍効果、免疫応答等を評価し(最大2年間の経過観察期間を設けて生存率についても評価)、後半の13例では、前半に行った試験のうち高容量群での3回反復投与を1クールとし、複数クール行う試験となる。
前半の9例に関する中間報告は、2019年3月にAACR(米国癌学会)で発表されており、内容としては投与を制限するような重篤な副作用は発生せず、副次評価項目である有効性評価として、9例中3例で全身での部分奏効が確認された。ペムブロリズマブの単独療法では部分奏効率が13.1%という臨床試験結果が出ており、テロメライシンとの併用療法による腫瘍縮小効果が期待できる内容であった。
現在は後半の11例の試験結果を担当医師等がまとめている段階で、2022年1月に開催されるASCO-GI(米国臨床腫瘍学会)でその内容を発表する予定となっている。今後の開発方針については、中外製薬が臨床試験のデータを見て判断することになるようだ。中外製薬でも免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)の開発を進めており、今回の医師主導臨床試験のデータ結果次第では、アテゾリズマブとの併用療法による臨床試験を進めていく可能性はある。ただ、第2相臨床試験に進んだとしても、有効性評価として2年後の生存率や再発率などを見る必要があるため、試験期間は数年程度と長期間になることが予想される。
d) 胃がん・胃食道接合部がん(免疫チェックポイント阻害剤との併用療法)
ステージ4の胃がん・胃食道接合部がん患者を対象とした免疫チェックポイント阻害剤との併用療法による医師主導の第2相臨床試験が、2019年5月より米コーネル大学などで進められている。ペムブロリズマブ投与中の患者に対して、テロメライシンを隔週で4回投与し、半年程度の観察期間で安全性と有効性を評価する試験となる。予定症例数は18例で、2020年12月に評価可能な8例で中間検討会を実施した。投与した8例のうち、1例は部分奏功が確認され、また他の1例については腫瘍の大きさに変化がない安定した状態を保っている。コーネル大学の担当医師からは、「部分奏効率で標準治療を上回る結果であれば、企業治験に切り替えていく価値がある(ペムブロリズマブ単剤では約15%)」と言われている。2022年中に18例まで実施したのちに中間評価を行い臨床試験継続の可否を判断することになる。仮に企業治験を進める場合は、中外製薬がオプション権を行使して米国のグループ会社であるジェネンテックが主導して開発を進めていくものと予想される。なお、今回の臨床試験ではペムブロリズマブを使用しているが、中外製薬では同じ免疫チェックポイント阻害剤のアテゾリズマブがあるため、企業治験で開発を進める場合はアテゾリズマブを使用するものと思われる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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