後場の投資戦略ニュース一覧
後場の投資戦略
「想定超の底堅さを過大評価しない」第2弾
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28638.24;-19.33TOPIX;2038.45;-1.28[後場の投資戦略] 本日の日経平均は一時28778.37円と3月9日に付けた28734.79円を超え、ザラ場ベースで年初来高値を更新した。けん引役は半導体株だ。前日の台湾積体電路製造(TSMC)が発表した1-3月期決算では売上高が会社計画のレンジ下限にも届かず、低調な内容だった。しかし、事前の報道などから設備投資計画を下方修正するとの見方が広がっていただけに、計画が維持されたことがポジティブに捉えられたもよう。また、米ラム・リサーチの1-3月期決算は実績が会社想定内に収まった一方、4-6月期の見通しは市場予想に届かなかったが、一部アナリストからは底入れの確度が高まっているとの指摘があった。加えて、会社側が中国に対する半導体規制の影響が想定よりも小さくなるとの見方を示したことも好感されたようだ。 さらに、東京市場では前日に決算を発表したディスコ<6146>が急伸し、上場来高値を更新。注目された2024年3月期第1四半期の出荷ガイダンスが想定程には落ち込まなかったとの指摘があり、安心感が台頭しているもよう。また、消耗品需要の底打ち見通しを示したこともポジティブ視されたようだ。 一方、日経平均はザラ場高値を更新した後は失速し、前日比マイナス圏に沈むなど不安定な動きを見せている。上述したように半導体株は軒並み高で全体を支えているが、他の主力処の景気敏感株は総じて売られている。米経済指標の悪化を受けた景気後退懸念や為替の円高への揺り戻しが要因と思われる。 前日に発表された米4月フィラデルフィア連銀製造業景況指数はマイナス31.3と前月のマイナス23.2から低下し、約3年ぶりの低水準を記録。市場予想(マイナス19.2)も大きく下回った。また、週間新規失業保険申請件数は前週から5000件増加の24万5000件、市場予想(24万件)を上回った。失業保険の継続受給者数も186万5000人に増加し、市場予想(182万5000人)を上回り、2021年11月以来の高水準を記録。総じて労働市場が徐々に減速していることが示唆された。 一方、国内で発表された3月の全国消費者物価指数(CPI)は生鮮食品を除くコアCPIが前年同月比+3.1%と、市場予想(+3.0%)にほぼ一致し、2月から伸びは横ばいにとどまった。ただ、岸田政権の政策によって価格が抑制されているエネルギーも除いた指標(生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPI)では同+3.8%と、2月(+3.5%)から伸びが加速、市場予想(+3.6%)も上回った。 経済指標の下振れに伴う米国経済の景気後退懸念に加え、国内でのインフレ圧力による日本銀行の金融緩和修正に対する思惑の高まりが、為替の円高リスクを意識させていると考えられ、ドル円は東京時間に入ってから1ドル=134円を割り込んできている。来週の日米主力企業の決算発表の本格化および日銀金融政策決定会合を前にやや警戒感が台頭しているようだ。 先週に連騰劇を見せた日経平均は短期調整が予想されていた今週も想定以上の底堅さを見せ、株価指数だけをみると相場のムードは強気に傾いているようにも見られる。前日に日本取引所グループ(JPX)が発表した投資部門別売買状況によると、4月第2週(10-14日)に、海外投資家は現物株で1兆円以上も買い越した。これは正直やや意外な印象を抱いたが、足元の買いたい意向をもつ投資家にとってはサポート材料として捉えられそうだ。 しかし、先週から連日にわたり、東証プライム市場の売買代金は2兆円台前半の状況が続いており、商いは盛り上がりに欠けている。上述の海外投資家の買いについては、東京証券取引所によるPBR1倍割れ企業への改善要請の動きや、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の追加投資報道などをきっかけに日本株の見通し機運が高まっている故との指摘もあるが、1-3月の間に日本株を大きく売り越してきた海外勢が買い戻したに過ぎないとも言える。年始からの累計でみると、海外勢は最新の4月第14日時点において現物株を1700億円程の買い越しに転じてきた。これは米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻に端を発した金融システム不安が後退する中、主力企業の1-3月期決算シーズンの本格化を前にポジションを一度中立に戻したかったからかもしれない。 本腰の入った買いが入っているようには見られない中、足元の想定以上とも言える程に底堅い株式市場を過度に評価しない方がよいと考えている。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/21 12:20
後場の投資戦略
想定超の底堅さを過大評価しない
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28631.53;+24.77TOPIX;2039.25;-1.13[後場の投資戦略] 本日の東京市場は朝安後に切り返す底堅い展開。前日の米国市場が軟調だった中、日本株の強さが際立っている。英国3月消費者物価指数(CPI)が前年比+10.1%と市場予想(+9.8%)を上回り、インフレ高止まりが意識される中、欧米の金利が上昇しており、為替の円安進行なども株高の背景にあるようだ。一方、英CPIの上振れはグローバルな金利高止まりを想起させ、欧米中央銀行の利下げ観測を後退させることになり、株式にとっては弱材料でもあるはずで、手放しでは喜びにくい。 前日の米国市場では材料が多数あった。まずは企業決算。金融大手のモルガン・スタンレーの決算は全体的に強弱材料が混在する内容だった一方、預金流出が警戒されていた地銀のウエスタン・アライアンスの決算は利益が予想を上回ったほか、預金額も安定していることが判明し安心感を誘う内容となった。一方、モルガン・スタンレーの決算では、商業不動産やマクロ経済の悪化を見込んで貸倒引当金が前年同期比4倍にまで積み上げられるなど先行き警戒感を残す内容だった。 注目された電気自動車メーカー、テスラの決算はネガティブだった。売上高と1株利益がともに市場予想に届かず、今年に入ってからの相次ぐ値下げの影響で利益率は大きく低下した。年間の生産目標は維持したが、納車台数が生産台数を下回る状況が続いており、在庫の積み上がりも継続、フリーキャッシュフローも市場予想に大きく未達の水準にまで落ち込んだ。また、同社は主力4モデルの一斉値下げを1月に続いて4月に入ってから再び発表していたが、一昨日18日には一部モデルの再値下げを発表、米国では今年6回目の値下げとなる。これまでの相次ぐ値下げでも需要を喚起し切れていない証拠とみられ、こちらも警戒感が残る内容だ。 半導体決算はまちまち。ラム・リサーチの決算は売上高と1株利益ともにガイダンスで示したレンジ内に収まり、ネガティブサプライズを引き起こすことはなかった。また半導体前工程製造装置(WFE)の市場見通しについても前回の見通しを維持したことは安心感を誘った。一方、半導体露光装置で市場を独占する蘭ASMLホールディングは売上高と1株利益ともに市場予想を上回り、第2四半期(4-6月)の見通しも市場予想を上回った。しかし、1-3月の受注高は予想を下回る大幅減となり、株価は大きく下落した。年後半の市況底入れを先取りする形で1-3月に大きく株価上昇してきた関連株にとっては悪い結果だったといえる。 前日は米地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表された。労働市場の逼迫が緩和し、インフレが鈍化傾向にあることが確認されたことはポジティブだった一方、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受け、それ以前から厳しくなっていた銀行の融資基準が一段と厳格化された地区がいくつかあったことが指摘された。全体的にシリコンバレーショックの前よりも経済環境の悪化が進んでいることが示唆され、景気後退懸念を強める内容だったといえる。一方、上述した英3月CPIが市場予想を上回ったこともあり、欧米の中央銀行の利下げ観測はむしろ後退しており、全体的にはネガティブな印象が勝った印象。 こうした中でも本日の東京市場が想定以上の底堅さを見せている背景には需給要因が影響している可能性がある。日本取引所グループ(JPX)が公表している投資部門別売買状況によると、シリコンバレーショックが起きてから3月最終週までの間に、海外投資家は現物・先物合算で3兆円以上、日本株を売り越した。一方、4月第1週の時点では5000億円程しか買い戻していない。このため依然として買い戻し余地が残されていると考えられる。 また、日経平均の変動率に対して2倍の値動きの実現を目指す、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(ETF)の14日時点での信用残状況をみると、7日から売り残が大幅に増加する一方で、買い残が大きく減少しており、信用倍率は7日の1.60倍から0.77倍へと売り長に転じた。対照的に、日経平均の変動率に対してマイナス2倍の値動きの実現を目指す、日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信の信用残は買い残が売り残を大幅に上回る規模で増加し、信用倍率は7日の15.06倍から20.24倍へと急拡大した。 こうした中、思った以上には下げない日経平均の底堅い動きを受け、決算シーズンの本格化を前に売り方が買い戻しを入れている可能性がある。しかし、売り方の買い戻しだけで日経平均が上値を追っていくことは考えづらい。海外投資家の買い戻し余地についても、商業不動産ローンなど米経済の先行きを警戒する向きが増える中、海外投資家が売り越した日本株をすべて買い戻すことは想定しづらい。日経平均は短期的にオーバーシュート気味に29000円を捉える場面があるかもしれないが、決算で業績を確認した後は反落する余地が生まれてくると考えられる。本日の底堅さを過大評価しない方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/20 12:32
後場の投資戦略
決算シーズン本格化間近、業績修正は十分だろうか
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28590.40;-68.43TOPIX;2036.17;-4.72[後場の投資戦略] 本日の東京市場は騰勢一服の様相、前日まで8日続伸と連騰劇を見せてきた日経平均もさすがに本日は売り優勢。日経平均は前日に米金融システム不安が台頭する前の3月9日高値水準まで上昇していたことで買い戻し一服感も意識されやすく、短期的な過熱感を冷ます展開となっている。 ただ、主要企業の決算発表の本格化を前に積極的な売買は限られており、全体的に膠着感の強い状況。今後の主要企業決算の内容次第で相場は上下どちらにも動き得るだけに手掛かり材料を待つしかない段階だ。 一方、現在の米S&P500種株価指数の予想PER(株価収益率)は19倍台と割安感に乏しい。また、アナリストの業績予想のこれまでの推移をみると、一株当たり利益(EPS)の下方修正は進んできているが、上述した予想PERの水準から下方修正の幅が十分とは言いにくい。他方、インフレ下で名目ベースの水準が切り上げられるのは当然かもしれないが、一株当たり売上高(SPS)についてはむしろ上方修正が進んでいる。なお、3月の米中堅銀行の経営破綻が起こった後もこうしたSPSの上方修正は続いている。 しかし、銀行の貸し出し態度の厳格化を通じて今後の米国経済の景気悪化を予想する向きは多く、中堅銀行の貸し渋りの影響が懸念される商業不動産ローンの行方を警戒する声も多い。こうした中、これまでのアナリストの業績予想の下方修正幅が十分とは言いにくい。今後は業績予想の下方修正の進展と株価バリュエーションの割高感への警戒感が一段と意識されやすくなる場面もありそうだ。 前日の米国市場の取引終了後にはハイテク企業で先陣を切った動画配信サービスのネットフリックスが第1四半期(1-3月)決算を発表した。売上高とEPSの実績はほぼ市場予想に一致したが、新規契約者数は175万人と市場予想(約205万人)を下回った。また、第2四半期(4-6月)のガイダンスは売上高とEPSともに市場予想を下回った。時間外取引の株価はこれを受けて一時11%急落したが、その後切り返して下げを埋めた。株価反応だけをみれば勝敗は五分五分だったとも言えるが、決算内容としてはネガティブと言わざるを得ない。今後の決算発表の本格化を前に警戒感はやや高まったといえる。 今晩の米国市場では金融のモルガン・スタンレー、ITソリューションのIBM、半導体のラム・リサーチ、ASMLホールディング、電気自動車のテスラが決算を発表する。4月に入ってから半導体関連株の強い基調は失われている。ただ、1-3月でみれば、半導体株は年後半の市況底入れを先取りする形で大きく上昇してきた。依然として反動安の余地はあると考えられ、今晩の半導体決算には注意したい。また、テスラについては4月に入ってから再び一斉値下げを発表した経緯がある。需要鈍化に対応した動きと考えられ、こちらも決算にはやや注意が必要だろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/19 12:19
後場の投資戦略
半導体の牽引なくとも物色広がりでカバー
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28675.32;+160.54TOPIX;2042.26;+15.29[後場の投資戦略] 本日の東京市場は全般買い優勢の展開。金融システム不安の影響が警戒されていた米中堅銀行の決算が概ね予想通りだったほか、米ニューヨーク連銀製造業景気指数が予想外にプラスに改善したことで、景気後退懸念が緩和。投資家心理が改善している中、為替の円安・ドル高の進展も日本株の追加の支援材料になっている。 米金融サービスのチャールズ・シュワブの1-3月期の調整後1株利益は予想を上回った。銀行預金の流出規模が市場予想にほぼ一致した一方で、投資商品には引き続き顧客資金が流入していることが明らかになり、安心感を誘った。米地銀のM&Tバンクも1-3月期決算で1株利益が予想を上回ったほか、企業買収後の純利益が倍増したことなどが好感された。 こうした中、日経平均は3月9日高値28734.79円に迫る水準まで上昇してきた。今日も上昇で終えれば8日続伸となる。日足一目均衡表では三役好転を示現している。遅行線は応当日株価の下落で強気シグナルを増す方向にある一方、転換線は上向きを継続、横ばいが続いていた基準線も上向きに転じ、テクニカルな視点からは強気な形状が整ってきている。 東京市場での物色動向からも地合いの改善が窺える。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の追加投資報道を契機に勢いづいている商社株は前日の軽めの利益確定売りを挟んで本日は買いが再燃し、三井物産<8031>は上場来高値を更新。商社以外でもGX(グリーン・トランスフォーメーション)などの分野で評価の高い日立製作所<6501>が年初来高値を更新している。 為替の円安・ドル高や米長期金利の反発基調などを背景にここのところ元気のなかった自動車株や銀行株にも強い動きが見られており、ほか、通信や小売り、食料品など内需系の銘柄も堅調だ。 新規株式公開(IPO)ラッシュに伴う換金売り圧力などで上値の重かった新興市場でも物色の裾野が広がっている様子。宇宙ベンチャーのispace<9348>が上場以降負けなしの大躍進を続けているほか、VTuberビジネスを展開するカバー<5253>もしばらく軟調な展開だったが、週明けからは騰勢を強めている。 また、好決算を材料にFPパートナー<7388>、グッピーズ<5127>など2022年のIPO組でも上場来高値を更新する銘柄が散見されている。他にも、会社リリースなどを材料に強い動きを見せている銘柄が多く見られており、直近IPO以外の銘柄にも物色が広がっているあたり、個人投資家のセンチメントも良好のようだ。 一方、台湾積体電路製造(TSMC)の設備投資計画の下方修正が報じられていることもあり、4月に入ってから主役の座を他に明け渡している半導体株は軟調が続いている。本日も半導体株だけの下落が目立っているような状況で、東エレク<8035>などは75日移動平均線を割り込んできている。 しかし、指数インパクトの大きい半導体関連株の軟調が続いている中でも、日経平均が連騰劇を保ち、直近高値の更新を窺うまでの動きを見せていることはポジティブに捉えられる。半導体株が復活しない限り、指数の上昇には限界があるとも考えられていたが、主役が入れ替わることで資金が上手く循環しているようだ。 一方、米金融決算に話は戻るが、金融資産の管理などを手掛けるステート・ストリートは対照的に1-3月期決算で1株利益が予想を下回り、株価は大幅に下落した。市場予想に反して投資商品への資金フローは純流出となり、4-6月期も純流出が続く可能性が指摘された。 また、日経平均は記録的な連騰を見せているが、この間、東証プライム市場の売買代金は盛り上がりに欠けており、相場のムードが強いとは自信を持って言い切れない。日米ともに今後本格化する企業決算を見極めたいとの思惑が強く、様子見ムードの中、足元は悲観の後退でひとまず買いが優勢になっているに過ぎないともいえる。弱気になり過ぎるのも強気に傾き過ぎるのも今は得策ではないと思われ、日々の材料を一つ一つ慎重に分析していくしかなさそうだ。 なお、今晩は米国でゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、ネットフリックスなどの企業決算などが発表予定だ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/18 12:28
後場の投資戦略
決算発表を終えた個別株物色中心
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28475.31;-18.16TOPIX;2022.61;+3.89[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米国市場の下落の影響は受けつつも、輸出関連の他、米大手銀行の決算評価からメガバンクなどへの資金流入が見られるなど前週からの強い流れを維持する展開となった。ただ、朝方の買い一巡後は買い進む動きは乏しく、こう着感の強い展開となっている。 新興市場でももみ合い展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタート。朝方にプラス圏に浮上するも、買いは続かず前週末終値付近でこう着感が強まっている。景気後退懸念が強まっていることが国内の個人投資家心理の重しとなっているか。また、ウォラー理事のタカ派発言に加えて米長期金利が3.5%台まで上昇しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい可能性がある。前引け時点での東証マザーズ指数は0.05%安、東証グロース市場Core指数は0.08%高となった。 さて、米国株は2023年初めから堅調に推移し、3月初めまで下落基調が続いたものの3月中旬から持ち直して4月にかけてさらに上げ幅を広げてきた。米国の銀行の金融不安が後退し、世界金融危機が起こる兆候が見られないと判断されていることに加えて、物価上昇率が下がり続けていることが株価の押し上げ要因となっているだろう。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏も米国の銀行の経営破綻を受けて、銀行業界や米国の銀行預金の安全性についてパニックに陥る必要はないとの考えを示している。 一方、再度拡大していたFRBのバランスシート推移を確認すると、直近では縮小を開始している。また、国際通貨基金(IMF)は、金利上昇による利払い増加や成長の鈍化などで、世界の債務は徐々に増大しており、財政余力で危機に備えるよう求めている。ただ、銀行の資産の一部である投資有価証券は、急激な金利上昇を受けて含み損が拡大しており、2022年末時点での米銀の含み損は約6200億ドルとなっているという。 また、投資ファンドや年金基金などのノンバンクに起因する可能性についても注意する必要があるとの声も聞かれている。ノンバンクの金融資産の約2割を占めるオープンエンド型投資ファンドの流動性リスクが高いという。ファンドに資金を提供する投資家がいつでも解約できる一方、ファンドが保有する資産の流動性が低く、流動性のミスマッチが生じている場合、ファンド保有の金融資産価格が下落した際、投資家が解約に動き、ある種の取り付け騒ぎが起こることで金融市場に大きな打撃を与えやすいと想定されている。このような新たなリスクが浮上している点は認識しておいて損はないだろう。 過去の当欄では、米銀行破綻に続いて不動産市場への警戒も強まっていることも示唆した。住宅ローン金利の高騰により不動産需要が激減、中でも欧州の不動産市場が心配されている。金利上昇で不動産市場が不調となり、不動産が元になっている取引が多いクレジット市場が混乱し、負の連鎖が世界の金融市場全体に波及する想定である欧州中央銀行(ECB)の金融政策が不動産市場にストレスがかかるのは確実であるとみられていた。負の連鎖が欧州市場から始まる可能性があることも再度頭の片隅に置いておきたい。 さて、毎週月曜日の当欄を担当する筆者は、いまだに長期的には欧州不動産市場の動向や金融不安などの再燃、更なるネガティブ材料の浮上によって株価が下落するシナリオを想定して相場を見守っている。直近では株価を押し上げる材料がポジティブに捉えられているが、上述のネガティブな側面も存在していることは忘れてはいけない。後場の日経平均は、もみ合い展開が続くか。引き続き、決算発表を終えた個別材料株への物色が継続するか注目しておきたい。(山本泰三)
<AK>
2023/04/17 12:25
後場の投資戦略
今後はインフレ沈静化よりも景気後退に警戒
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28433.11;+276.14TOPIX;2015.56;+7.63[後場の投資戦略] 本日の東京市場は全般買い優勢。日経平均は一時28500円を超える場面があった。前日の米国市場でインフレ沈静化の期待が高まり、ハイテク株を中心に株価が大きく上昇したことが背景だ。ただ、東京市場では決算を受けて急伸しているファーストリテ<9983>が実態以上に強く見せている面も否めない。 米3月卸売物価指数(PPI)は前年比+2.7%と2月(+4.9%)から大幅に鈍化し、市場予想(+3.0%)も下回った。前月比では-0.5%と2月(+0.0%)から大きく減速し、市場予想(+0.0%)を下振れた。米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する食品・エネルギーを除いたコア指数も前年比+3.4%と市場予想に一致も、2月(+4.4%)からは大幅に鈍化、前月比では-0.1%と2月(+0.2%)を下回り、市場予想(+0.2%)に反して減速した。 前月比では財が-1.0%と2月(-0.3%)からさらに減速し、中でもエネルギーが-6.4%と2月(-0.3%)から大幅減速となり財の減速をけん引した。一方、サービスも-0.3%と2月(+0.1%)から減速に転じ、インフレ沈静化を示唆する内容となった。 ただ、今月2日に、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が想定外の減産を決定し、原油相場が上昇しているため、今後はインフレ減速のペースが後退する可能性には留意しておく必要がある。 また、PPIの構成項目の中で、FRBが重視する個人消費支出(PCE)デフレーターの算出に用いられるヘルスケアなど幾つかのカテゴリーは上昇しているため、2月分が上方修正されたことと合わせて、FRBのインフレとの戦いは続くとの指摘も聞かれる。さらに興味深いのは、前日の米10年債利回りがむしろ上昇したことだ。ここ半年程の動きを振り返ると、米10年債利回りは3.25-3.30%あたりで下方硬直性が見られている。米PPIが大幅に市場予想を下振れてディスインフレを印象付ける結果だったにもかかわらず、この水準を前に米長期金利が反発したあたり、金利のここからの一段の低下は期待しづらいと考えられる。 先週から、景気後退を示唆する材料は「Bad news is Bad news.」の形で素直に株式の売りにつながる傾向が見られていたが、それでも株価が下支えられていたのは、米長期金利の低下がバリュエーション面でサポートしていたからでもあろう。このように考えると、今回の金利反発は注意を払うべき動きと考える。今後は景気後退を匂わす材料が出ても、金利はさほど低下せず、これまで以上に素直に株式の売り材料として解釈される可能性があろう。 こうした中、今晩は米国で3月の小売売上高、鉱工業生産、4月のミシガン大学消費者信頼感指数、そしてJPモルガン・チェースやシティ・グループといった米銀の決算が予定されている。市場予想では小売売上高は前月比-0.4%と2月(-0.4%)と同水準が見込まれているが、バンク・オブ・アメリカ(BofA)では-0.8%とより大幅な減速を予想している。仮にBofAの予想通りに大きく下振れるようだと、景気後退懸念が強まる形でリスク回避の動きが強まりやすい点には注意しておきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/14 12:12
後場の投資戦略
日本株の底堅さ際立つも一段高には材料不足
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28108.67;+25.97TOPIX;2006.05;-0.87[後場の投資戦略] 本日の日経平均は朝安後に下げ幅を縮め、プラス圏に浮上してきている。前日の米株式市場でナスダック総合指数やフィラデルフィア半導体株指数(SOX)がやや大きめに下落したことを踏まえると底堅い印象を受ける。 前日発表された米3月消費者物価指数(CPI)は前年比+5.0%と2月(+6.0%)から大きく鈍化し、市場予想(+5.1%)も小幅ながら下回った。前月比でも+0.1%と2月(+0.4%)から鈍化し、予想(+0.2%)を下振れた。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)が重要視する食品・エネルギーを除いたコアは前年比+5.6%と市場予想に一致し、2月(+5.5%)からは小幅に加速。前月比では+0.4%と予想に一致し、2月(+0.5%)からは小幅に鈍化した。 エネルギー価格の下落を背景に総合が下振れた一方、コアは予想に完全一致となり、全体的に市場予想との乖離がほぼない結果に終わった。ただ、今月2日に、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が予想外の減産を発表し、原油市況が急伸しているため、総合の下振れはそこまで好感される材料ではないだろう。実際、前日の米国市場では株価指数が寄り付き直後こそは上昇したものの、すぐに失速するなどCPIを好感する動きは強くなかった。 それよりも、3月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨の内容を受けた市場反応の方が注目されよう。3月FOMCにおいては、参加メンバーの間で金融システム不安がもたらす信用収縮が景気を減速させる可能性について懸念する声が多かったもよう。これは最新の政策金利見通し(ドットチャート)が示し、市場のコンセンサスにもなっている通り、5月会合での残り1回の利上げ打ち止め、ひいては年内の利下げ転換をも匂わせるような内容と捉えられ、株式市場が好感してもよかった内容と考えられる。 しかし、前日の米国市場では金利低下・株安の反応が強まった。先週の米雇用関連指標の発表からそうだが、景気後退を示唆するニュースはそのまま悪い材料として捉えられる傾向が鮮明になっている。金利低下が支援要因になるはずのナスダック指数やSOX指数の方が景気敏感株中心のダウ平均よりも下落率が大きいなど、ややちぐはぐな印象もあるが、本格的な景気後退を織り込む中ではテクノロジー企業も需要鈍化の影響を免れないということか。 こうした中でも日本株が底堅いのは、日本株を巡る固有の要因が背景にありそうだ。日本株はもともと米国株との対比で割安感が底堅さの要因として指摘されているが、東京証券取引所による株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業への改善策の具体策提示要請や、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏による日本株追加投資、ヘッジファンド・米シタデルの日本再進出など、最近は日本株への期待値を高めさせるような材料・ニュースが増えてきている。 また、日本銀行の植田和男総裁の記者会見を受けて、足元で円高懸念が和らいでいることも追い風になっていそうだ。 ただ、植田日銀総裁の記者会見後の円安・ドル高の動きが限定的なところをみると、円高懸念も完全には払拭されていない様子。実際、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正や撤廃については、事前に市場に予告することは実質的に不可能であるため、植田日銀総裁の緩和継続などの意向を額面通りに受け取ることはできない。 このように今後も緩和政策修正への思惑はくすぶり続けそうなことに加えて、米景気後退の深刻化リスクが増しつつある中では、FRBが方針に反して利下げ転換を強いられる可能性も否定できない。今後も円高リスクは残りそうで、為替による日本株支援には過度に期待しない方がよいだろう。 なお、今晩は米3月卸売物価指数(PPI)が発表される。サプライチェーンでみれば川上に位置する企業間における物価、PPIの方がCPIよりも先行性が高いため、今晩のPPIに対する注目度は高い。PPIが上振れるようだとCPIの今後の上振れ、高止まりリスクが意識されてくる。また、決算シーズンに入るのを前に企業のマージン悪化への警戒感も高まる可能性があるため、内容を見極める必要があろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/13 12:24
後場の投資戦略
今晩の米CPIとFOMC議事要旨を前に整理
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28096.74;+173.37TOPIX;2006.76;+14.91[後場の投資戦略] 本日の東京市場では主要株価指数はまちまち。一方、日経平均は4日続伸で再び28000円に乗せるなど堅調な展開。ただ、今晩に発表を控える米3月消費者物価指数(CPI)、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(3/21-22日開催分)を皮切りに、13日の米3月卸売物価指数(PPI)、14日の米3月小売売上高、米4月ミシガン大学消費者信頼感指数、米銀大手決算など、重要イベントを前に大勢は様子見ムードが広がっている。 米3月CPIは総合では前年比+5.1%へと2月(+6.0%)から大きく鈍化し、前月比でも+0.2%と2月(+0.4%)からはモメンタムが弱まる見通し。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)が重要視している食品・エネルギーを除くコア指数では前年比+5.6%と2月(+5.5%)からやや加速する見通し。前月比では+0.4%と2月(+0.5%)に続き強いモメンタムが維持される見込みだ。 FEDウォッチによると、堅調な米雇用統計などを受けて、次回5月3日のFOMCでの0.25ポイントの利上げ確率は7割近くにまで上昇している。一方、金利先物市場は7月、9月会合からの利下げ転換を織り込んでおり、この点は依然としてまだFRBの姿勢との比較では前のめり過ぎる印象があり、コアCPIの上振れ度合いではやや波乱の余地がありそうだ。 また、今月2日には、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が予想外の減産を発表したことで、原油市況が急伸した。中国経済の再開や米国でのドライブシーズン突入前を背景とした需要増への思惑がくすぶる中、その後も原油先物価格は高止まりしている。このため、今晩の総合CPIが前年比で鈍化しても、この点はすでに過去のものとして捉えられ、好感される可能性は低い。総合の鈍化は織り込み済み、コアの上振れはサプライズ余地あり、というのがCPI発表前の考え方の整理としては妥当だろうか。 他方、米商品先物取引委員会(CFTC)によると、E-mini S&P500株価指数先物を対象とした4月4日時点での投機筋の持ち高状況をみると、32万1459枚の売り越しとなっており、これはコロナショック後の水準も超える売り越し幅で、過去10年でみても最大の売り越し幅だ。このため、投機筋は株価指数を使ってヘッジポジションをすでに構築済みのため、CPIがネガティブな結果となった場合でも、株価の下落はマイルドなもので済む可能性もあろう。 もう一つ、今晩の米国市場で公表されるFOMC議事要旨についてだが、前回FOMCはハト派ともタカ派ともどちらにも捉えられる内容だったため、今回の議事要旨で追加のヒントを得ようと考える向きは多いだろう。FRBは銀行経営不安には規制政策で対応、インフレには金融政策で対応という形で、割り切り姿勢がわりと明確な印象もあるため、利下げ転換ハードルがやはり高いとの見方が強まれば、株価にはマイナスに作用すると考えられる。今晩の米国市場の動きは非常に読みにくく、週末の米銀決算など後に控える重要イベントも踏まえれば、今は様子見に徹しておいた方がよさそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/12 12:18
後場の投資戦略
株価の大幅高に対しては批判的な眼差しが必要か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28013.86;+380.20TOPIX;1995.20;+18.67[後場の投資戦略] 本日の東京市場は大幅高で、日経平均は28000円を回復している。要因は大きく分けて二つあると考える。一つは、日本銀行の植田和男総裁が10日、記者会見で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)について「継続するのが適当」と発言、2%の物価目標の達成も「簡単ではない」と述べ、現在の大規模緩和の修正観測が後退したことだ。これにより、円安・ドル高が進み、日本株の買い戻しに寄与しているようだ。 二つ目は指数寄与度の大きい半導体を中心としたハイテク株の上昇だろう。韓国のサムスン電子が先週末7日に発表した1-3月(第1四半期)決算は大幅減益で、利益は2009年の世界金融危機以来の低水準だった。しかし、メモリー半導体の減産を表明したことで需給の改善が加速するとの期待が高まったようで、決算直後のサムスン株は大幅に上昇。前日の米株式市場でもフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が+1.8%と5日ぶりに大幅反発した。 ほか、4月に入ってから半導体関連株の軟調ぶりが目立っていたが、関連株の1-3月期の株価パフォーマンスが良かっただけに、新年度相場入りに伴う国内金融機関の「益出し」が一時的な重しになっていた可能性も考えられる。こうした需給要因が改善したところに上述した複数の好材料が重なり、本日の半導体株の大幅上昇につながった可能性がありそうだ。 しかし、半導体などハイテクを巡る市況が本当に底入れしたかどうかは疑わしい。半導体の好不況の市況サイクルは3-4年と言われている。また、株価が市況に対して半年程先回りする傾向も踏まえると、たしかに最近多く見られる半導体市況の底入れを指摘する記事の解説にも一理ありそうだ。しかし、先述した韓国サムスン電子の四半期ベースの収益水準の動向をみると、なかなか自信をもって底入れとは判断しにくい。また、今回は新型コロナショック後のサプライチェーン(供給網)混乱の影響で、コロナ禍に半導体が過剰生産された経緯がある。この点がこれまでのサイクルとやや実情を異なるものにしている可能性には留意しておくべきだろう。つまり、水準としては底入れしたとしても、その後にV字回復とはならずにL字型で底這いが続く可能性も考えられるということだ。 また、ハイテクでは先週末に発表された安川電機<6506>の決算もやや気掛かりだ。こちらも四半期ベースの受注高をみると減少トレンドが鮮明で底入れしたとはまだ判断しにくい。半導体分野の影響が大きいACサーボモーターの受注は依然として低水準で調整継続しているほか、電気自動車(EV)投資の恩恵が大きいとされているロボット受注も前年同期比および前四半期比で減速している。今期見通しも市場コンセンサスを上回ったが、楽観的な印象が拭えないのか、前日の株価は下落、本日も反発は鈍い。 さらに、IT市場専門の調査会社IDCレポートは米スマートフォン大手、アップルの第1四半期におけるパソコン(PC)出荷台数が40%減少したとの分析を発表し、需要鈍化が警戒されている。IDCの一部専門家は「在庫は依然として健全な4-6週間分の範囲をはるかに超えている」、「大幅な値引きをしても、PCメーカーなどは在庫の高水準が7-9月に入っても続く可能性がある」などと指摘している。 投資家には、本日の株価上昇に対して強気になり過ぎることなく、批判的な眼差しで捉え、大幅高に対しては買い持ち高を削減するなど逆張り的な戦略で対応することを個人的には推奨する。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/11 12:22
後場の投資戦略
今週は重要指標の発表多数
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27633.98;+115.67TOPIX;1976.55;+11.11[後場の投資戦略] 本日の日経平均はシカゴ先物にサヤ寄せする格好から、買いが先行する展開に。雇用統計への警戒感がこれまでくすぶっていたこともあり、ひとまずイベント通過で安心感が台頭している。ただ、週明けの欧州市場がイースターマンデーで休場となるなか、商いは膨らみづらいとみられている。 新興市場でも買い優勢の展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇してスタート。その後は上げ幅を縮小して上値の重い展開となっている。米長期金利は3.4%台まで上昇、12日に消費者物価指数(CPI)、13日に卸売物価指数(PPI)が発表されるため、同指標に対する警戒感がくすぶっている。そのほか、4月末にかけての新規株式公開(IPO)投資に備えた換金売りや資金確保の動きは引き続き需給面で新興株の重しになったか。前引け時点での東証マザーズ指数は1.13%高、東証グロース市場Core指数は0.54%高となった。 さて、週末に発表された米3月雇用統計の非農業部門雇用者数の伸びは市場予想並みだったが23.6万人、失業率は2月の3.6%から3.5%に低下しており、引き続き労働市場の堅調さが確認された。平均時給の伸びは前年比で+4.2%と前月から鈍化し、市場予想(+4.3%)も下回った。ただ、前月比では+0.3%と市場予想に一致、賃金インフレの鈍化ペースは緩慢であることが示唆された。雇用統計の結果を受けて、市場では連邦準備理事会(FRB)の追加利上げ観測が高まった。 今週は米国で12日に消費者物価指数(CPI)、13日に卸売物価指数(PPI)が発表される。エネルギーと食品を除いたコアCPIは前年同月比では5.6%上昇と、2月(5.5%上昇)からの加速が見込まれており、前月比0.4%上昇の予想。総合CPIは前年同月比5.1%上昇の予想となっている。雇用統計を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ転換のハードルは高そうな印象が持たれつつあるなか、CPIとPPIに対する注目は高いだろう。 同じく12日に公表されるFOMC議事要旨のほか、今週は米金融当局者の発言も相次ぎ、ニューヨーク連銀のウィリアムズ、フィラデルフィア連銀のハーカー、シカゴ連銀のグールズビー、ミネアポリス連銀のカシュカリ、リッチモンド連銀のバーキン各総裁らが発言する。FRB高官はインフレ抑制を最優先に利上げを行う方針を維持していたため、これらの発言にも注目しておきたいところだ。 さて、毎週当欄を担当する筆者は、目先は底堅い動きを想定し、長期的には欧州不動産市場の動向や金融不安などの再燃、更なるネガティブ材料の浮上によって株価が下落するシナリオを想定して相場を見守ってきた。直近では米長期金利が再度上昇傾向にあり、今週は多くの重要指標が発表されるため、一旦全てのイベントを通過するまでは静観して見守っておきたいところだ。後場の日経平均は、プラス圏での推移が続くか。引き続き、個別材料株への物色が継続するか注目しておきたい。(山本泰三)
<AK>
2023/04/10 12:23
後場の投資戦略
安川電機と米雇用統計など注目材料多数控える
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27512.81;+40.18TOPIX;1967.69;+6.41[後場の投資戦略] 前日の米株高、特にナスダック総合指数の4日ぶり反発を受けて安心感が台頭し、本日の東京市場はやや買い優勢の展開。ただ、前日までの2日間で800円超も下落した日経平均の反発力はかなり鈍く、前引け時点の東証プライム市場の売買高も3億株台と低調。また、米10年債利回りの低下基調が続き、ナスダック総合指数も反発したにもかかわらず、新興市場も引き続き冴えない。マザーズ指数は朝高後に失速し、結局、200日移動平均線を再び下回っている。指数寄与度のない直近の新規株式公開(IPO)銘柄に物色が集中しやすいとはいえ、売買代金上位の銘柄は売り優勢で、個人投資家は神経質な様子。今晩の米雇用統計を控えた警戒感から、全体的に買い戻しの動きは限られているようだ。 警戒感が高まるのも致し方ないか。今週は米2月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数を皮切りに、米供給管理協会(ISM)の3月非製造業(サービス業)景況指数や米3月ADP雇用統計など一連の指標がそろって労働市場の逼迫緩和と賃金インフレの鈍化を示したにもかかわらず、株式は総じて売りで反応している。景気後退懸念が強まっている中、今晩の米3月雇用統計で「雇用者数の減少&平均時給の伸び鈍化&失業率の上昇」といったインフレ鈍化の組み合わせ結果が出ても、雇用者数の下振れが大きいと一段の景気悪化として捉えられかねない。 一方、米クリーブランド連銀のメスター総裁や米セントルイス連銀のブラード総裁らは、金融システム不安が後退していることなどを理由に追加の利上げと、その後の高水準の金利据え置きを前日にかけて相次いで主張している。他方、金利先物市場は依然として2023年末までに0.25ポイントの利下げを2回以上予想している。こうした中、米雇用統計が反対に大きく上振れてしまうと、市場の織り込みが米連邦準備制度理事会(FRB)の予想に引っ張れる可能性がある。その場合、金融システム不安がくすぶる中での金融引き締め長期化による経済のハードランディング・リスクが高まり、FRBの政策ミスへの思惑が高まりやすくなりそうだ。 このため、米雇用統計は絶妙な塩梅の結果を示す必要があるといえる。市場では雇用者数の伸びで10-20万人程度であればスイートスポットとして市場の両サイドのリスクを回避することが可能とみているようだ。今晩の米国市場はグッドフライデー(聖金曜日)の祝日で休場のため、海外市場の雇用統計に対する本格的な反応は週明けまで待つ必要があるが、まずは結果について固唾をのんで見守りたい。 ほか、本日の大引け後には製造業決算の先行指標として注目される安川電機<6506>の本決算が予定されている。前回の決算ではACサーボモータの受注が大幅に減少するなど好決算とは言えなかったが、省力化や自動化の需要を背景にロボットの受注が堅調だった。また、ACサーボモータについてもゼロコロナ政策を解除した中国経済の回復や半導体市況の年央からの底入れに対する期待から過度にマイナスに捉えられることなく、株価はその後大きく上昇した。 しかし、その後の中国購買担当者景気指数(PMI)をみると、製造業については景況感の拡大・縮小の境界点である50を超えた状態が続いているものの、サービス業に比べて力強さを欠いており、中国経済の回復期待は年初に比べると後退してきている。外部環境の不透明感がくすぶる中、安川電機が市場予想対比でどの程度の業績見通しを示してくるかは非常に注目される。株価の水準からして、余程強い見通しを示してこない限り、ポジティブな反応には繋がりにくそうだ。一方、見通しが想定以上に弱いと、3月期決算企業の本決算が発表されるのを前にガイダンスリスクが強く意識される形となり、相場の下落が予想される。 来週も米3月消費者物価指数(CPI)や米銀行の決算など注目材料が多い。相場の高いボラティリティーは当面続くと思われるため、安易な押し目買いやあく抜け期待を持つことは避けた方がよさそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/07 12:21
後場の投資戦略
インフレ鈍化好感されず景気後退を本格織り込み
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27513.68;-299.58TOPIX;1965.91;-17.93[後場の投資戦略] 本日の東京市場は全般売り優勢の展開。前日同様、米経済指標の悪化を背景とした景気後退懸念や為替の円高基調がリスク回避の動きを強めている。これまで相場をけん引してきた半導体株が日米ともに崩れている点も気掛かりだ。東エレク<8035>やアドバンテスト<6857>、ディスコ<6146>などの株価は25日移動平均線を割り込み、明らかに基調の転換を示唆している。一方、日経平均は心理的な節目の27500円や200日移動平均線を前に踏ん張りも見せている。また、ドル円も米国時間に一時1ドル130円70銭台までドル安・円高が進んだが、節目の130円をサポートにその後は反発しており、この点もやや安心感を誘っている。 一方、前日に米供給管理協会(ISM)が発表した3月非製造業(サービス業)景況指数は51.2と前月(55.1)から大きく低下し、市場予想(54.4)も大幅に下回った。項目別では仕入価格が59.5と前月(65.6)から大きく低下したほか、雇用が51.3と前月(54.0)から大幅に低下し、サービス分野の賃金インフレが鈍化している兆しが見られた。また、米3月ADP雇用統計の民間雇用者数も14万5000人増と市場予想(21万人増)を大幅に下回ったほか、賃金に関するデータは1年ぶりの低い伸びとなり、インフレ鈍化が示唆された。 ただ、ISMサービス業景況指数の項目別に話を戻すと、新規受注は52.2と前月(62.6)から10ポイント以上も低下、新規輸出にいたっては43.7と前月(61.7)から急速に低下し、拡大・縮小の境界点である50も大幅に割り込んだ。米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻前であれば、素直にインフレ鈍化を歓迎したと思われるが、欧米での金融システム不安が台頭して以降、景気の先行きに対する警戒感が高まっているため、一連の指標結果はインフレ鈍化よりも景気後退を示唆するものとしてマイナスに捉えられた。足元の相場は「Bad news is Bad news.」といった形で、悪材料はストレートに悪材料として解釈されてしまっており、相場は景気後退を本格的に織り込みにいっているようだ。 一昨日、4日に発表された米2月雇用動態調査(JOLTS)の際も同様だったが、これまで市場が待ちわびていたインフレ鈍化を示唆する結果が確認され、米金利が連日で低下しているにもかかわらず、本来、金利低下が追い風になるはずのハイテク・グロース株を含め、株式はディフェンシブセクターを除けば全体的に売られている。やはり、3月最終週以降の株式市場のリバウンドは一服し、基調が転換したものと慎重に捉えた方がよいかもしれない。米国市場は週末、グッドフライデー(聖金曜日)の祝日で休場となるため、今晩が今週最後の取引になる。リスク回避の売りがもう一段出る可能性があり、注意しておきたい。 新興市場の動向も気掛かりだ。先週まで新規株式公開(IPO)銘柄を中心に旺盛な物色が見られていた新興市場だが、直近IPO銘柄を含めて新興株が全般崩れてきている。マザーズ指数は前引け時点で200日線を割り込んでいる。先週末にかけて日経レバレッジ・インデックス連動型上場投信<1570>の売り残が増加する一方、日経ダブルインバース・インデックス連動型上場投信<1357>の買い残が増加しているため、今週に入ってからの日経平均の下落で個人投資家は一部利益も得ていると思われるが、マザーズ指数など新興株の動向には注意を払いたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/06 12:21
後場の投資戦略
利益確定売りの口実か基調の転換点か見極めへ
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27917.89;-369.53TOPIX;1991.67;-31.09[後場の投資戦略] 本日の東京市場は全般売り優勢の展開。前日の米株式市場も久々に終始売りが優勢な一日となった。米雇用動態調査(JOLTS)によると、2月の求人件数は993万件と市場予想(1050万件)を下回った。2021年5月以来の低水準にまで減少し、失業者1人に対する求人件数も1.67件と、前月の1.9件から減少した。求人件数についてはこれまで高止まりが続いていて、サービス分野での賃金インフレの主因として懸念されてきていた。このため、依然として高水準ながらも、2月の求人件数が予想を下回り、労働市場の逼迫緩和と賃金インフレの沈静化が示唆されたことは好材料と考えられる。 しかし、前日の米株式市場では金利低下が追い風になるはずのハイテク株も含めて下落した。JPモルガンのダイモン最高経営責任者(CEO)が米当局による規制の不備がもたらしたとする金融システム不安が完全には終わっておらず、影響は今後何年も残るだろうなどと発言したことが相場全体のセンチメントを悪化させたことが影響したとみられる。また、米2月製造業新規受注が前月比0.7%減少と、2カ月連続でマイナスとなったこともあり、求人件数の減少も景気後退につながる一つの材料としてマイナスに解釈されたようだ。 むろん、日米ともに足元の株式市場は意外とも言える程に上昇が続いてきていたこともあり、今回の材料は目先の利益確定売りの口実にされたに過ぎないかもしれない。米国ではナスダック総合指数が一昨日、2月2日高値と並ぶ水準にまで上昇していたほか、日経平均も前日には3月9日高値を視野に入れるまでに回復していた。株価の水準としては利益確定売りがいつ出てもおかしくない頃合いだったとみられ、現時点ではトレンドが明確に崩れたとまでは言い切れない。 しかし、3月最終週以降、金融システム不安の後退や配当落ち日に向けた株価指数連動型ファンドの配当再投資といった需給イベントも背景に、売り方の買い戻しはかなり進んできていたとみられる。このタイミングで、米インフレ指標の鈍化や米長期金利の低下が好感されずに株式がハイテクを含めて全般的に売られたことは基調の転換を示唆しているとも考えられる。本日の日経平均が前場の間にあっさり28000円を割り込んできたこともきな臭さを感じさせる。 今晩は米供給管理協会(ISM)の3月非製造業(サービス業)景況指数および米3月ADP雇用統計が発表される。ISMサービス業景況指数の結果次第では一段と景気後退懸念が強まる可能性もあると考えられ、今後の展開を慎重に見極めたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/05 12:16
後場の投資戦略
日本株底堅くも上値追いには材料不足
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28243.97;+55.82TOPIX;2020.38;+2.70[後場の投資戦略] 日経平均は前引け時点で3日続伸。先週末に28000円を終値で突破してから、この心理的な節目を上回った水準での推移は3日目となる。前日の米ナスダック指数が引けにかけて下げ幅を縮小したとはいえ、反落し、一時は下落率が1%を超えていたことも考慮すると、日本株は底堅い印象を受ける。 一方、3月最終週に金融システム不安の後退で投資家心理が改善する中、配当落ち日に向けた株価指数連動型ファンドの配当再投資という需給要因も追い風に海外投資家の先物の買い戻しはかなり進んだとみられ、日経平均が28500円を超えていくには材料不足とみられる。 物色動向も日替わりで投資家が強気一辺倒になりきれない様子が伝わってくる。前日の東京市場では、グロース(成長)株を中心に出遅れ感の強い銘柄ほど大きく上昇する動きが目立っていたが、本日は一転して前日買われた銘柄が利益確定売りに強く押されている。 前日は米供給管理協会(ISM)の3月製造業景況指数が発表された。結果は46.3と景況感の拡大・縮小の分岐点である50を5カ月連続で割れ、市場予想(47.5)も大きく下回った。項目別では新規受注が44.3と前月(47.7)から大幅に落ち込んだことが目立った。雇用の項目が46.9と前月(49.1)から低下したことは逼迫した労働市場および賃金インフレの緩和を示唆するものとしてポジティブにも捉えられるが、より重要なのはサービス業の賃金インフレであるため、5日に発表される非製造業版のISM景況指数を確認するまでは予断を許さないだろう。 一方、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が、5月から日量110万バレルを超える減産を年末まで実施すると発表したことによる今後の影響の方が懸念される。これまでの関係者の言動からして協調減産は意表を突くもので、原油先物価格は急伸している。もともと年後半は需要が供給を上回り、原油市況の強含みが予想されていたが、今回のサプライズ減産で今後のエネルギー市況の動向が気掛かりだ。すでに沈静化したとされてきたモノのインフレが再燃する可能性を考慮すると、金融システム不安を契機に急速に高まっていた米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ転換期待も修正を余儀なくされる可能性がある。 他方、新興市場に目を向けると、これまでの新規株式公開(IPO)銘柄は総じて初値形成が良好だ。初値形成後の株価推移についてはまちまちだが、全体的には強い動きの方がやや優勢の印象で、個人投資家の物色意欲は旺盛のようだ。2月期決算、3月期決算の発表本格化を前に主力株についてはしばらく方向感が出にくいとみられる。当面はIPO銘柄などボラティリティーの高い銘柄を中心とした短期割り切り物色に限られそうで、指数の上値追いには慎重になりたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/04/04 12:21
後場の投資戦略
OPECプラスの協調減産発表で原油市況の上昇
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28149.89;+108.41TOPIX;2014.08;+10.58[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米株高の流れを受けて買いが先行。米国での早期利上げ停止を期待して投資家心理が改善している。米ハイテク株同様に、日本市場でも精密機器株などに買いが入っている。ただ、買い一巡後は上値の重い展開が続いており、上海総合指数や香港ハンセン株価指数も上値は重い。ナスダック100先物は軟調に推移している。 一方、新興市場は堅調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇してスタートした後、上げ幅を広げる展開が続いている。個人投資家心理が改善するなか米長期金利は低下しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けやすい地合いが継続している。また、前週の新興株は全体相場に比して出遅れ感が強かったため、遅れを取り戻す形で買いが集まっている。新年度相場入りで新たな資金が流入することへの期待も高まり、前引け時点での東証マザーズ指数は1.85%高、東証グロース市場Core指数は3.28%高となった。 さて、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は2日に想定外の協調減産を発表した。5月から日量100万バレルを上回る減産を実施するようで、サウジアラビアでは5月から生産を日量50万バレル減らすなど、各国でも減産に動くもよう。市場では今年後半には供給が逼迫すると見込まれていたが、先行きの更なる需給逼迫が想定される状況になっている。 本日の東京市場では、原油高メリット銘柄に買いが向かっているが、原油高により世界中でインフレ圧力が再度強まると、中央銀行が高い政策金利を長期にわたって維持することを強いられることになる。ただ、前週末の米2月個人消費支出(PCE)の結果でサービス価格にピークアウトの兆しが見えており、協調減産に伴う原油高がそのままインフレ加速につながる可能性は低いかもしれないと想定している市場関係者もいるようだ。 パウエルFRB議長は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で銀行の経営不安に対して問題がこれ以上大きくならないのであれば、インフレ抑制を最優先に利上げを行う方針を維持していた。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、銀行不安が信用状況にどの程度影響するのかまだ明確になっていないと述べており、将来の政策を決定する上ではデータの導きに依存するだろうと話していた。FRBのクック理事も、さらなる利上げは今後のデータの強さ次第との認識を示していた。 同発言を受けて、市場の関心も再び米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を左右する経済指標へと移ってきている。銀行の信用不安が後退しつつある中、週末に雇用統計が発表されるほか、供給管理協会(ISM)の景況指数が製造業・非製造業それぞれ発表される。これらが強い数字となれば、再び市場の織り込む政策金利水準が引き上がり、金融引き締め懸念が強まる可能性はあるだろう。来週の米消費者物価指数の発表も注目が集まっている。さらに、今回のOPECプラスの協調減産によって長期的に物価高が再度意識される展開となると、直近で底堅く推移してきた株式市場にはややネガティブな影響が広がりそうだ。 そのほか、日本銀行が本日発表した3月の企業短期経済観測調査では、景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業の製造業でプラス1と前回調査のプラス7から悪化。製造業の悪化は5期連続となる一方、同非製造業はプラス20と前回のプラス19から改善したようだ。さて、前週同様筆者は、目先は底堅い動きを想定し、長期的には欧州不動産市場の動向や金融不安などの再燃、更なるネガティブ材料の浮上によって株価が下落するシナリオを想定して相場を見守っている。暗号資産ビットコインは年初来高値を更新して以降高値圏でもみ合っており、ビットコインの動向にも注目している。後場の日経平均は、プラス圏でのもみ合い推移が続くか。個別材料株への物色が継続するか注目しておきたい。(山本泰三)
<AK>
2023/04/03 12:22
後場の投資戦略
28000円超えも上値追いには慎重に
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28046.75;+263.82TOPIX;2003.90;+20.58[後場の投資戦略] 日経平均は心理的な節目の28000円を超えてきた。前日までに株価指数連動型ファンドの配当再投資目的の先物買い需要による押し上げ効果は反映済みのため、本日からはこうしたプラスの需給要因が剥落する。また、本日は日経平均採用銘柄の入れ替えで2000億円超の売りが発生するため、前日までの強い基調が反転する可能性が懸念されていた。ただ、今のところは杞憂に終わっている。 東京証券取引所が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に対し、株価水準を引き上げるための具体策の開示を求め、早ければ31日にも企業に通達すると報じられた。加えて、三井物産<8031>や日本製鉄<5401>に個別でポジティブな報道があったこともあり、東京市場ではバリュー(割安)株の多い景気敏感株を中心に大幅高となっている銘柄が多い。 一方、米長期金利の上昇一服を背景に米ナスダック指数が堅調なのに対し、東京市場ではグロース(成長)株の軟調さが目立つ。年央からの市況回復への期待から半導体や電子部品などのハイテクは強いが、マネーフォワード<3994>、Sansan<4443>、ラクスル<4384>などの内需系グロース株は総じて下落。今晩に米2月個人消費支出(PCE)コアデフレーターの発表を控えているとはいえ、やや意外感のある物色動向だ。 米国でもナスダックに上場している銘柄全ての時価総額加重平均で算出されるナスダック総合指数よりも、金融セクターを除いた時価総額上位100社の時価総額加重平均で算出されるナスダック100指数の方がパフォーマンスは良好だ。財務基盤が健全でキャッシュフローが潤沢な傾向にある大型企業の方が安心感から買いを集めていると考えられる。 いずれにせよ、足元の投資家心理は良好のようだ。今週に入って欧米の銀行経営不安に関する報道が減少したことで金融システム不安が後退していることが買い戻しを強めているようだ。 しかし、日経平均の上値余地は高く見積もっても28500円程度と考えている。金融システム不安を受けて米銀行の貸し出し態度は一段と厳格化され、今後は貸し渋りなど信用収縮を通じて景気後退の様相が強まっていく公算が大きい。それにもかかわらず、影響の大きさを見定めるのが困難なためか、足元ではまだアナリストによる企業業績の下方修正はほとんど進んでいない。この点は今後の株価修正余地として警戒すべきポイントだ。4月中旬以降には、3月期決算企業の本決算が発表されるが、弱い見通しが示されるガイダンスリスクなども意識される。このため、決算を確認する前の今のタイミングから積極的に買い上がることは考えにくい。 来週からは名実ともに新年度相場入りとなるが、期初特有の機関投資家による益出し売りなども頭の片隅に置いておくべきだろう。一方、直近の東証による改革要請の動きは積極的といえ、分かりやすい買い材料でもある。キャッシュフローが潤沢で株主還元余地のあるバリュー株などには今後も根強い買い需要が発生しそうで注目していきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/31 12:13
後場の投資戦略
需給イベント消化で手掛かり材料難
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27681.32;-202.46TOPIX;1978.17;-17.31[後場の投資戦略] 本日の東京市場は配当落ちに伴う影響もあり、全般売り優勢の展開。QUICKの試算によると日経平均では257円程度の下押し影響があるもよう。本日の日経平均の下落分はこれよりは小さいため、実質的には上昇していることになるが、前日の米主要株価指数が大きく上昇したのに比べると物足りなさは否めない。前日の東京時間のナスダック100先物の上昇である程度織り込まれていたとしても、米半導体メモリ製造装置大手のマイクロン・テクノロジーが決算を受けて7%高となった(前日時間外取引では約1%高)ことを踏まえるとやはり物足りない。配当落ち分を即座に埋め切れないあたり、現在の投資環境がそこまで強くない証左と捉えられてしまいそうだ。分かりやすい需給イベントを狙ってポジションを構築していた向きも多いとみられ、今後は手掛かり材料難が意識される。 本日の配当落ちを境にバリュー(割安)・高配当利回り銘柄から再びハイテク・グロース(成長)株へ物色動向が変化すると想定していたが、今日の東京市場を見る限り、先週まで強かった半導体関連株を中心に関連株の強さはまだ再燃していない。前日の米国市場では、マイクロンの決算に加えて、半導体大手インテルが投資家向けオンラインイベントで新商品を来年上半期と市場が想定していた時期よりも早く出荷する計画を発表して急伸した。こうした背景から米SOX指数が3.27%高と上昇したにもかかわらず、一部配当落ちの影響もあるとはいえ、東エレク<8035>などの半導体関連株は冴えない動きが続いている。 明晩、米連邦準備制度理事会(FRB)が重要視する米2月個人消費支出(PCE)コアデフレーターの発表が控えていることがハイテク・グロース株の物色再燃を抑えている可能性がある。今週に入って欧米の銀行経営不安が後退したことで一連の問題は目先のピークを超えたと考えられている。中長期では今後の実体経済への影響が懸念されるが、影響発現までのタイムラグを考慮すると、市場の目線は短期的には再びインフレや景気の動向に移っていきそうだ。こうした中、米PCEコアデフレーターの結果が改めて注目度を増していると考えられる。仮に結果が強く上振れると、金融システム不安がくすぶる中で利上げ継続を迫られるFRBのジレンマ的状況の想起につながる恐れがある。PCEコアデフレーターの無難消化を確認するまではハイテク・グロース株の物色機運はお預けといったところか。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/30 12:16
後場の投資戦略
リターン・リバーサル終了でハイテク・グロース機運復活か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27625.99;+107.74TOPIX;1976.39;+9.72[後場の投資戦略] 本日は配当・優待権利付き最終売買日ということもあり、週明けから強まっているバリュー(割安)・高配当利回り銘柄を物色し直す動きがまだ続いている様子。一方、過度な金融システム不安の後退に伴うバリュー買い戻しと表裏の関係にあるハイテク・グロース(成長)売りも緩やかながらまだ続いている。ただ、バリューの買い戻し&ハイテク・グロースの売りの動きは週明けに比べれば大分弱まってきた印象。明日の権利落ち日を境に再びハイテク・グロースに物色機運が戻ってくる可能性がありそうだ。 また、米株式市場の取引終了後に発表された半導体メモリ大手、マイクロン・テクノロジーの決算もこうした動きを後押ししそうだ。同社の3-5月売上高見通しは前年同期比60%減と大幅減収の予想ながらも、市場予想よりは良かった。最高経営責任者(CEO)は「顧客在庫は改善しつつあり、業界の需給バランスは徐々に好転していくと考えている」と指摘。また、今年の人員削減目標を従来の10%から15%に引き上げることも発表。厳しい市況環境が最悪期を脱しつつあるとの見方が強まると同時に、収益性の改善に対する期待も高まっているようだ。米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は先週末から3日続落となっているが、今晩以降、持ち直すことができれば、ハイテク株の物色機運が再燃しそうだ。 米民間調査機関のコンファレンスボードが発表した3月消費者信頼感指数は104.2と、前月の103.4から予想に反して改善。6カ月先の見通しを示す期待指数も上昇した。今回の調査の締め切り日は20日で、米シリコンバレー銀行(SVB)などの経営破綻から約10日後だったが、今回の調査を見る限り、金融システム不安の消費者への影響はさほど大きくない様子。しかし、今後、信用収縮の影響が及ぶ先として懸念されている不動産セクターなどについて、業績など実体に反映されてくるのにはタイムラグがあるため、単に影響が経済指標にはまだ顕在化していないだけとも考えられる。 一方、同調査における雇用情勢については、職が「十分」との回答割合が減少した反面、「あまり豊富でない」との割合が増加した。労働市場の逼迫緩和が示唆されたことは賃金インフレのピークアウト期待を高めるものとして歓迎される。足元のバリュー買い戻し&ハイテク・グロース売りの背景には単純なリターン・リバーサルに加えて、米長期金利が再上昇していたこともあるため、雇用データの軟化は金利上昇の一服を通してこれもハイテク・グロースの物色機運再燃に寄与する可能性があろう。今週末には米連邦準備制度理事会(FRB)が重要視する米2月個人消費支出(PCE)コアデフレーターが発表されるが、ハイテク物色機運を高める材料となるかに注目したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/29 12:17
後場の投資戦略
銀行経営不安は一時後退も懸念くすぶる
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27497.45;+20.58TOPIX;1967.76;+5.92[後場の投資戦略] 今週から物色動向に変化が見られる。先週までは金融システム不安と景気後退懸念を背景に銀行・保険や不動産のほか、エネルギーなどの資源関連株、いわゆるバリュー(割安)株に属する銘柄が軟調だった。一方、米長期金利の低下を背景に半導体をはじめとしたハイテクやグロース(成長)株に強い動きが見られていた。 しかし、今週からはこうした傾向にリバーサル(株価の反転)の動きが確認されている。米ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズが経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)の買収で合意したほか、米当局が緊急融資枠の拡張などさらなる銀行支援策を検討していると報じられたことで、金融システム不安が緩和していることが一つ要因として考えられる。また、米連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長が「あらゆる規模の金融機関に対して全ての手段を講じる用意がある」などと発言したことも、安心感を誘っているもよう。 加えて、明日29日の配当・優待権利付き最終売買日を前にした権利取り狙いの買いや、権利取りに併せてヘッジ対応としてショート(売り持ち)していたバリュー株を買い戻す動きなどがこうした動きを強めているようだ。株価指数連動型ファンドの配当再投資目的の先物買い需要が1兆円超発生する見込みであることも需給面での下支えとして意識されていそうだ。 一方、金融システム不安は完全に収束したとはいえない。昨日の米国市場でのセクター騰落率ランキングを見ると、銀行や保険、エネルギーなどが買い戻された一方、不動産は下落が続いている。リモートワークの普及でオフィス空室率がコロナ前に完全に戻り切らない中、今回の金融システム不安により、中小銀行が融資全体の6-7割をも占めるとされる商業用不動産向けの貸し出しは今後減退が想定され、不動産事業の行方が非常に気掛かりだ。今後も不動産向けエクスポージャーの大きい経済主体の動向を注視する必要があり、影響が実体化されるまでに時間がかかることを踏まえれば、不安定な相場が長引きそうだ。 27日に中国国家統計局が発表した中国1-2月工業利益は前年同期比22.9%減だった。統計局内の一部関係者は「工業生産が回復しても、市場の需要は完全には持ち直していない」とコメント。売上高の減少がコストの減少より大きく、企業の粗利益を圧迫していると指摘している。中国経済のリオープン効果についても、これまでの期待先行のフェーズから実態を見極めるフェーズへと移ってきたといえよう。 全体的に買い手掛かり材料に乏しい状況となっており、不安が一時的に緩和しても、株価指数が上値を追っていくイメージは持ちづらい。来期以降も明確な成長ストーリーがあり、株価チャートも冴えない指数対比でしっかりと上昇トレンドを描いているような個別株を選別し、長期目線で仕込むのが肝要な時期といえそうだ。 今晩の米国市場では、米3月コンファレンスボード消費者信頼感指数が発表されるほか、米上院で米銀破綻に関する公聴会が開催される予定。ほか、半導体メモリ大手のマイクロン・テクノロジーが決算を発表する予定だ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/28 12:12
後場の投資戦略
利上げの影響は今後不動産市場に影響与える?
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27471.17;+85.92TOPIX;1963.26;+7.94[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米株高の流れを受けてやや買いが先行。ただ、過度な金融システム不安が和らいだとはいえ、引き続き市場の様子見ムードは根強いことから、積極的な動きは限定的となっている。 一方、新興市場は軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、マイナス圏での軟調な展開が続いている。欧米で銀行の経営不安がくすぶっており外部環境の不透明感が強い点は引き続き個人投資家心理の重しとなった。また、新興市場では新規株式公開(IPO)ラッシュが始まっており、既存の新興銘柄には換金売り圧力としてマイナスに作用している可能性がある。前引け時点での東証マザーズ指数は0.34%安、東証グロース市場Core指数は0.59%安となった。 さて、直近の株式市場はやや堅調に推移している。まず、米連邦準備制度理事会(FRB)が米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受けて新設した緊急融資枠の利用が、前週比4.5倍の536億ドル(約7兆円)に増加したと発表。緊急融資は、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を担保に最長1年の資金を提供するため、借り入れする金融機関にとっては経営の安定化につながる。これが金融不安を和らげる効果となった。 また、「銀行への一時的な融資によるもの」という理由でFRBのバランスシートは直近で上昇している。さらに、日米欧の6中央銀行は前週に中銀が協調して市場へのドル供給を強化すると発表、ドルを1週間の期間で市場に供給する公開市場操作(オペ)の回数を週次から日次に増やすことで合意した。少なくとも4月末まで継続する予定で、市場にドルが供給されることになった。そのほか、パウエル議長が利上げサイクルの終了に近づいたことを示唆したことも個人投資家心理を改善させる要因となった。 一方、銅価格が再度上昇しており、今後の物価高には注意する声もある。パウエル議長も年内の利下げを見込んでいないとも発言しており、積極的に買い進む動きにはなっていない。ただ、現状は株価を押し上げる要因の方が強く、やや右肩上がりの上昇につながっている可能性がある。 そのほか、米銀行破綻に続いて不動産市場への警戒も強まっており、金利引き上げによる最も深刻な影響が出るのは不動産市場という声も聞かれている。住宅ローン金利の高騰により不動産需要が激減、中でも欧州の不動産市場が心配されているようだ。金利上昇で不動産市場が不調となり、不動産が元になっている取引が多いクレジット市場が混乱し、負の連鎖が世界の金融市場全体に波及する想定である。欧州市場の金利は14年ぶりの高水準となっているなか、欧州中央銀行(ECB)はさらに0.5%の利上げを決定していた。これらが不動産市場にさらなるストレスがかかるのは確実とみられており、今後上述の負の連鎖が欧州市場から始まる可能性があるという。 さて、今後も先行き不透明感はくすぶるだろうが、金融システム不安についてのピークは過ぎたとみられている。株式市場は、4月末まではやや底堅い動きとなる可能性があるが、5月以降は想定外の動きが出てくる可能性があろう。筆者は、目先は底堅い動きを想定し、長期的には欧州不動産市場の動向や金融不安などの再燃、更なるネガティブ材料の浮上によって株価が下落するシナリオを想定して相場を見守っている。前週月曜日の当欄で紹介したが、既存金融システムを警戒する投資家は暗号資産ビットコインをポートフォリオに組み込むか一考する必要があるだろう。後場の日経平均は、プラス圏での推移が続くか。個別材料株への物色が継続するか注目しておきたい。(山本泰三)
<AK>
2023/03/27 12:22
後場の投資戦略
外部環境の不透明感と需給悪要因がつづく
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27348.72;-70.89TOPIX;1953.81;-3.51[後場の投資戦略] 前日の米株式市場では主要株価指数が揃って反発したが、昨日の東京時間における時間外取引の米株価指数先物の上昇を通して既に織り込み済みだったため、本日の東京市場は騰勢一服となっている。 前日の米国市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止が近づいているとの期待感から米10年債利回りが一段と低下し、ハイテク株を中心に上昇した。また、イエレン米財務長官は23日、正当化される場合、当局には預金保護で追加措置を講じる用意があると発言。22日には「全面的な預金保険を提供することを当局が検討していることはない」と発言し、金融システム不安を再燃させていたため、前日の修正発言はポジティブに捉えられる。ただ、前日も米国市場では不動産や銀行、保険がセクター別下落率ランキングで上位に入っており、懸念は完全には払拭されていないもよう。 UBSによるクレディ・スイスの買収救済劇の際に無価値となって波紋を呼んだAT1債については、利回りが急上昇しており、償還ハードルが高まっているとの指摘もある。欧州市場では6月、9月にまとまった償還が予定されており、今後も折に触れて金融不安が再燃する可能性はありそうだ。 東京市場は、前日は米国市場との対比で底堅さを見せたものの、今日の動きを見る限り、日経平均で27500円水準を超えてくるのは容易ではないことが窺える。祝日明け22日に日経平均が520円高と大幅反発した日も、ネット証券の売買代金ランキングでは日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信<1570>が売り越しとなっており、27500円水準では戻り待ちの売り圧力が強いことが示唆されている。 10日時点での裁定取引に係る現物ポジションの買い残は1兆4587億円と昨年8月半ば以来の水準で、直近3年の中では最も高い水準にまで及んでいた。昨日発表された17日時点の状況をみても、裁定買い残は1兆2286億円と引き続き高水準にある。積み上がった裁定買い残の解消圧力も引き続き上値抑制要因として働きそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/24 12:21
後場の投資戦略
先行き不透明感強まる中での個別銘柄戦略
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27400.37;-66.24TOPIX;1954.33;-8.60[後場の投資戦略] FOMCでは予想通り0.25ポイントの利上げが決定された。一方、足元の金融システム不安を踏まえ、FRBはFOMC声明文でこれまで採用してきた「継続的な利上げが適切」との文言における「継続的な」の部分を削除。代わりに「幾分の追加的な利上げが適切」との文言を採用した。これを受けて、残り1回の利上げでその後は利上げが停止されるとの期待が高まり、前日の米株式市場は一時上昇した。また、2023年末の政策金利中央値は5.1%と昨年12月会合から据え置かれた。金融システム不安が台頭する前にはターミナルレート(政策金利の最終到達点)が大幅に引き上げられることが予想されていたことを振り返ると、これらの点はややハト派的だった印象を受ける。 しかし、中長期的な観点からは、インフレ抑制に失敗することの方がより大きなダメージを経済にもたらすとの考えから、FRBは今後の経済データ次第では追加の利上げが適切との考えを維持した。また、金融システム不安がもたらす信用収縮の影響を見極める必要性に触れながらも、2023年内の利下げは検討していないとの従来の見解も維持。ほか、金融システム安定化の手段としては金融政策を切り離しているようなイメージを受け、全体的にはタカ派的な印象が勝ったと考える。 加えて、イエレン米財務長官の発言が梯子を外すようなものとなり、この点は素直にネガティブなものだったと評価している。イエレン氏は21日には、金融不安が中小銀行に広がった場合には預金の全額保護などの臨時措置を拡大する可能性を示唆していた。しかし、22日は一転して「(金融システムを安定化させるために)全面的な預金保険を提供することを規制当局が検討していることはない」と言及。預金流出懸念は銀行の貸し出し意欲の低下やリスク資産の圧縮につながり得るため、一昨日の発言はこうした懸念を抑える点から安心感を誘っていたが、前日の発言でこうした期待が一蹴された。銀行経営におけるモラルハザードを防ぐためには同氏の発言は決して間違っていないが、発言内容が二転三転するような印象を与えたのは相場に無用なボラティリティーをもたらしている点で評価できない。 結局、先行き不透明感はくすぶったままで、FOMC通過後もあく抜け感は全く強まっていない。むしろ、前日の米株式市場で不動産、金融、銀行セクターの下落率がとりわけ大きかったことは金融システムに対する不安が再燃していることの証左であり、先行きに関する議論は振り出しに戻ったような印象だ。 こうした中、個別銘柄戦略としては、内需系のセクターを中心にした投資が有効といえそうだ。医薬品や食料品といったディフェンシブ性の高いセクターはもちろんだが、食料品は特に昨年からの値上げ路線継続とコスト高の一服による採算改善が期待される。また、情報・通信やサービスといった内需系のグロース株も相対的な妙味が高いと考える。米国では今後、銀行の貸し出し意欲の低下などを通じて信用収縮の影響が徐々に実体経済を蝕むことが想定され、このシナリオに基づくならば米長期金利は上昇しにくい。こうした金利先高観の後退がグロース株のサポート要因となりそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/23 12:18
後場の投資戦略
迅速対応で金融不安後退、FOMCは無難消化に期待
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27459.77;+514.10TOPIX;1964.37;+35.07[後場の投資戦略] 国内が祝日の間の欧米市場が続伸したことで目先の安心感が台頭、祝日明けの東京市場でも買い戻しが優勢となっている。経営難に陥っている米地銀ファースト・リパブリック・バンクについて、JPモルガン・チェースなどの大手銀行は同地銀支援策の300億ドルの預金の一部または全部を資本注入に切り替える新たな案で協議しているという。これが好感され、同地銀の株価は急反発した。 また、イエレン米財務長官は21日、金融不安が中小銀行などの間で広がった場合には預金の全額保護などの臨時措置を拡大する可能性を示唆。米シリコンバレー銀行(SVB)などへの預金全額保護の対応は特殊ケースとしてきたが、この方針を変更したもよう。金融システム不安の波及防止に注力する姿勢を強調したことが安心感を誘った。 預金の取り付け騒ぎが広がることなどにより、経営難に直面する米地銀が拡大することが警戒されていたため、米政府がさらなる支援策の用意を示唆したことは投資家心理の不安を大きく改善させる。これまでのところ、各国当局は迅速に柔軟な対応を見せており、パニックを不必要に拡大させない点でよく対応していると評価できる。金融機関については利ザヤ縮小や資本コストの上昇が業績の圧迫要因として想定され、今後は銀行の貸し渋りなどを通じた実体経済への影響が懸念されるが、一先ず金融システム不安のピークは過ぎたと考えられる。 一方、日本時間で明日の23日午前3時頃には米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が判明する。米連邦準備制度理事会(FRB)は伝統的に金融システムの安定に対しては規制の強化と緩和を通じて、物価と雇用の安定に対しては金融政策を通じて対応することが慣例となっている。これまでの迅速な支援策の発表により金融システム不安に上手く対処している一方で、労働市場の逼迫を通じたインフレ高止まりの懸念はくすぶっていることから、今会合では0.25ポイントの利上げが実施される可能性が高い。 金融システム不安を通じた経済主体のセンチメントの悪化、金融機関の貸し出し意欲の低下などが実質的な金融引き締め効果を有することを考慮すれば、利上げ停止もあり得るだろうが、あまりそこに期待しすぎるのは危ないだろう。幸い、FEDウォッチによると、市場は今会合で0.25ポイントの利上げを8割以上の確率で織り込んでいる。このため、利上げ停止には至らずとも相場の急落は避けられるだろう。FOMC後のパウエルFRB議長の会見も、市場に混乱をもたらさないよう細心の注意を払った内容になると推察される。 3月はアノマリー(理論的な説明は困難だが、経験的に観測できるマーケットの規則性)的にも相場が不安定になりやすい。その3月に起こった金融システム不安という大きな悪材料のピークを徐々に過ぎつつあることや、3月最後のビッグイベントと言ってもいいFOMCを無難に消化する可能性が高いことから、FOMC後は短期的には相場のあく抜け感が出てくる可能性もありそうだ。一方、市場の目線がFRBの金融政策そのものよりも実体経済に移っていることを踏まえれば、今後、アナリストの企業業績予想の下方修正が進むことが想定される中、目線は切り上がりにくいだろう。相場があく抜けで上昇したとしても短命に終わる可能性が高いことには十分に留意しておきたい。 こうした中、外部環境の変化に左右されにくく、固有の要因で業績拡大を続けることのできる成長ストーリーが明確な銘柄への投資がより重要になってこよう。銘柄選別と資金管理がパフォーマンスを大きく左右する局面といえ、投資家にとっては腕の見せ所といえる。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/22 12:12
後場の投資戦略
軟調に推移する株式を横目にビットコインは好調
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27106.34;-227.45TOPIX;1941.87;-17.55[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米株安の流れを受けて売りが先行。スイスの金融大手クレディ・スイスについて、同じくスイスの金融大手であるUBSが買収することで合意したと発表したことなどが下支え要因として意識されている。ただ、21-22日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催予定で、明日春分の日は東京市場が休場となるなか、売り手優位の状況が続いている。 新興市場も軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、朝方に下げ幅を大きく広げた。その後も売り優勢の展開が続いてマイナス圏での軟調な展開が続いている。世界的な金融システム不安がくすぶっていることは国内の個人投資家心理を悪化させており、流動性リスクの大きい新興株も神経質な動きを強いられている。前引け時点での東証マザーズ指数は3.16%安、東証グロース市場Core指数は4.76%安で時価総額上位銘柄が下落をけん引している。 さて、本日20日、スイスの銀行大手UBSグループは同業クレディ・スイス・グループを買収することに同意した。買収は30億スイス・フラン(約4300億円)規模の株式交換になり、合意には広範囲な政府保証と流動性供給が含まれるという。ただ、クレディ・スイスの株式時価総額は17日終値時点で約74億フラン、買収額はこの半分未満となった。 UBSによる買収合意を受けてクレディ・スイス・グループが発行していた劣後債の一種である「AT1債」約160億スイス・フラン(約2兆2800億円)相当が無価値になったという。2750億ドル(約36兆円)規模の欧州AT1債市場にとって過去最大の損失となり、他社が発行したAT1債にも不安が広がるかに焦点があたっているようだ。ブルームバーグのデータによると、クレディ・スイスのAT1債を保有している数多くの資産運用会社には、パシフィック・インベストメント・マネジメント、インベスコ、ブルーベイ・ファンズ・マネジメントが含まれているもよう。これらの投資運用会社に影響が広がっているか注目が集まろう。 また、クレディ・スイスの破綻はなくなったが、世界的な金融システム不安の高まりは拭えていない。クレディ・スイスの混乱は「氷山の一角」にすぎないと、JPモルガンのボブ・ミシェル氏は語っていた。JPモルガン・アセット・マネジメントの最高投資責任者は、2008年以来最大のアメリカの銀行の破綻を受けてクレディ・スイスが混乱に陥り、「世界の銀行セクターを襲う伝染病が始まったばかりだ。」とも述べている。一度始まった大きな金融不安の影響は簡単には払しょくできそうにないだろう。 一方、安全資産として金価格は上昇している。さらに、ビットコインも前週から上げ幅を大きく広げている。13日に277万円台で始まった価格は現時点で370万円台まで急騰している。アメリカでFRBによる利上げシナリオが低下したことに加えて、世界的な金融不安が背景となっている。ビットコインは過去に、ナスダックと連動する動きを多々見せていたが、ここにきて全く異なる動きをみせている。ここにきて銀行システムに対するアンチテーゼとして生まれたビットコインに資金が流れていることは当たり前といっても過言ではない。月曜日の当欄を担当している筆者は株式に加えて暗号資産も調査しているが、引き続きビットコイン価格が株式よりも相対的に強く動くと想定している。 世界的な金融不安を早急に払しょくすることが難しいなか、投資家はポートフォリオを一旦見つめなおす必要がありそうだ。ビットコインを中心とする暗号資産は投資家から少し嫌われている側面もあったが、これを機にビットコイン中心に調査し、ポートフォリオに組み込むか一考する必要があるだろう。明日からは米国でFOMCが開催される。後場の日経平均は、外部環境の不透明感が続くなか明日は祝日で休場となるため、軟調な展開が続くか。(山本泰三)
<AK>
2023/03/20 12:33
後場の投資戦略
銀行株の弱さが先行き警戒感を映す
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27193.70;+183.09TOPIX;1951.39;+14.29[後場の投資戦略] 前日の米株式市場は大きく反発。欧州株式市場も主要株価指数が揃って反発した。スイス国立銀行(中央銀行)がクレディ・スイスに対する流動性支援の意向を示し、同行はスイス国立銀行から実際に500億スイス・フラン(約7兆1500億円)の与信枠を確保した。また、約30億フラン相当の外貨建て社債を買い戻す計画も明らかにしたことで、同行の株価は昨日、一時40%も急反発した。加えて、経営難に直面していた米地銀ファースト・リパブリックについて、複数の大手銀行が合計で約300億ドル(約4兆円)を同行に預け入れることで合意したことで、米国での金融システム不安も緩和された。 一方、前日開催された欧州中央銀行(ECB)定例理事会では従来の計画通り0.5ポイントの大幅利上げが決定された。ただ、銀行業界の混乱を背景に、今後の政策金利の軌道を示唆する文言は声明文から取り除かれたもよう。さらに、ラガルド総裁は記者会見で、将来の利上げについて「現時点で決定することは不可能」と発言した。利上げが停止されるまでには至らなかったものの、足元の一連の事態に配慮した言動が所々に見られ、この点は今後の動向次第では早期の利上げ停止もあり得ることを示唆し、投資家心理の安心感を誘った。 しかし、疑心暗鬼は止まっていないようだ。クレディ・スイスの株価は一時40%急騰したものの、最終的には大きく失速して19%高で終えている。また、同行の社債の1年間の保証コストを反映するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)はむしろ上昇している。さらに、通常取引で10%高となった米ファースト・リパブリック・バンクの株価もその後、時間外取引では一転して17%も下落した。本日の東京市場でも銀行株の買い戻しは非常に鈍く、メガバンクの一角はむしろ下落している。また、前引け時点での東証プライム市場の出来高は6億株台と今週に入ってからでは物足りない水準にとどまっている。一昨日の小反発のときも同じだったが、上昇する日の出来高は少なく、下落時の出来高は多い傾向が今週は一貫して見られている。 来週21-22日に米連邦公開市場委員会(FOMC)の開催を控えているとはいえ、それだけでは足元の株式市場の戻りの鈍さを説明することはできないだろう。単なるイベント前の様子見ムードというよりは、金融システム不安が完全には収まっていないことが大きいのだろう。今後も経営難に直面して市場に動揺をもたらすような新たな銀行が表れる可能性は十分にある上、今後はセンチメントの悪化を通じた銀行の貸し渋り、企業の設備投資意欲の後退、個人消費者の支出意欲減退といった様々な形で実体経済に悪影響がもたらされることが考えられる。 こうした展望を踏まえると、1-3月期をボトムに緩やかなに回復に向かっていくと考えられていた企業業績の底入れも遠のいたと言わざるを得ない。今後さらにアナリストの業績予想が下方修正されることで株価が下落していく展開が想定される。今週末は米国版の株価指数先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)であるため、今晩を境にいったん売りが止む可能性はある。しかし、期先物でプット(売る権利)が積み上がっていることもあり、投資家の警戒感は続いている様子。このため、来週のFOMCを通過しても、あく抜けで株価がすぐに上昇するとは期待しない方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/17 12:21
後場の投資戦略
市場混沌とするなか今晩のECB定例理事会に注目
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;26974.39;-255.09TOPIX;1934.79;-25.33[後場の投資戦略] 米国発の金融システム不安が波及するような形で、前日は欧州市場でも銀行株が軒並み急落。事の発端はスイスの銀行、クレディ・スイスを巡る混乱だ。同行は不祥事や経営破綻したアルケゴス・キャピタルとの取引で巨額損失を被った経緯があり、最近まで顧客の資金流出が続くなど問題を抱えていた。同行は14日、過去2年の財務報告と管理手順に「重大な弱点」があったことを発表し、市場への警戒感を高めていた中、昨日、クレディ・スイス・グループの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクが追加の資金注入に応じない意向を示したことが引き金となった。 ただ、混乱に対応して、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)とスイス国立銀行(中央銀行)が同グループに対して必要に応じた流動性支援を行うと発表。また、FINMAと中銀は共同声明で「クレディ・スイスはシステム上重要な銀行に課される資本・流動性の要件を満たしている」と表明。さらに、同行がスイス国立銀行から500億フランを借り入れるとの報道もあり、目先の安心感にはつながっているようだ。 しかし、大幅下落で始まった日経平均は寄り付き直後から下げ幅を縮め、一時27000円を回復するも、その後再び同水準を割り込むなど戻りの弱さも見られている。先週末の米シリコンバレー銀行(SVB)の一件から連日で悪材料が相次いでいることもあり、市場の疑心暗鬼は簡単には止みそうにない。 米国で経営破綻したシリコンバレー銀行とシルバーゲート銀行については、顧客の性質や資金運用先に関して極端な偏りが見られ、リスク管理が甘かったという点でともに固有の問題が発端といえる。また、シグネチャー銀行も暗号資産(仮想通貨)関連の企業との取引が多く、業績の安定さに欠ける顧客先が多かったという特殊な事情がある。クレディ・スイスについても、金融システムの問題というよりは同行が以前から抱えていた経営に関する問題という様相が強い。また、米国では金融当局と政府が、債券などの担保を額面通りに評価して融資を行う、緊急対応策なども発表している。このため、システミックリスクにつながる可能性は低いと指摘されている。 しかし、依然として不安心理に駆られた預金者による取り付け騒ぎリスクがくすぶる。また、銀行間の取引システムにおいてドルの調達コストが上昇している兆候も見られており、影響の波及については慎重に見極める必要がありそうだ。さらに、仮に銀行の経営破綻などをこれ以上増やすことなく事態悪化に歯止めをかけることができても、市場関係者や企業経営者のセンチメントの悪化は大きい。今後は金融機関の貸し渋りや貸しはがしといった形で実体経済へ影響する可能性も想定しておく必要があろう。 金融政策を巡る市場の織り込みも急速に変化している。FF(フェデラルファンド)金利先物市場は、先週後半までは3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50ポイントへと利上げ幅が拡大されることを7割の確率で織り込んでいて、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)も5.65%にまで引き上げられると予想していた。しかし、現在は、0.50ポイントの利上げ確率はゼロ、一方で利上げを停止するとの確率が5割以上にまで上昇している。また、一度剥落した利下げ期待も再び高まっており、金利先物市場は今年の年末までに0.25ptの利下げが合計3~4回行われることまで織り込んでいる。 他方、世界的に不安心理が増幅され、これ自体がインフレ抑制効果を持つと考えられることに加え、昨日発表された米2月卸売物価指数(PPI)が前月比で予想外にマイナスとなり、食品・エネルギーを除いたコア指数でも前月比横ばいにとどまったことで、インフレ懸念が和らいでいる。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)がいったん利上げ停止を決める確率は高い。ただ、市場心理が落ち着けば、その後は再び経済データ次第で0.25ポイントの利上げを再開する可能性は十分にある。そのため、足元の利下げの織り込みはやや行き過ぎの印象が強い。来週のFOMCでは政策金利見通し(ドットチャート)も公表されるため、FRBのタカ派スタンスにどれだけ変化が見られるかを見極めたい。 その前に、今晩は欧州中央銀行(ECB)の定例理事会が開催される。これまでFRBと同じようにタカ派な姿勢を見せていたECBが、今回の一連の問題を受けて、どのように姿勢を変化させるかに注目したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/16 12:15
後場の投資戦略
戻りの弱さ目立つ、FRBの政策運営は困難極める
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27298.01;+75.97TOPIX;1965.60;+18.06[後場の投資戦略] 前日の米株式市場及び本日の東京市場はリスク回避の動きが一服し、買い戻しが優勢の展開。ただ、ともに先週からの下落率を踏まえれば自律反発の域を出ていないと言わざるを得ない。東京市場の上昇率は特に鈍く、日経平均にいたっては寄り付き直後から失速し、陰線を引いている。 前日に発表された米2月消費者物価指数(CPI)は概ね予想通りで無難に消化。一方、総合ベースでは前年比及び前月比ともに予想に一致したものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する食品・エネルギーを除いたコア指数は前年比で予想通りも、モメンタムを示す前月比では+0.5%と予想(+0.4%)を上回った。予想を大きく上回るような結果になってしまうと、足元の米国発の金融システム不安の最中でもFRBがタカ派姿勢を緩められない可能性があっただけに、今回の結果は一先ず市場の安心感につながったが、楽観になるには不十分な内容となった。 しかし、今回のCPIの結果を受けて大幅利上げはなくとも、FRBの利上げ路線が続く可能性が高いことを指摘する声は多い。確かに、米シリコンバレー銀行(SVB)などの経営破綻で雲行きは怪しくなっているが、米国での労働市場の需給逼迫は続いており、根強いインフレ圧力を考慮すると、ここで完全に利上げを止めてしまっては将来のインフレ再燃につながる恐れがある。また、前日のCPIの前月比でのプラスについても、民間データの家賃に対して1年以上の遅行性を伴う住居費の影響するところが大きいとはいえ、一方で、コア指数からさらに住居費を除いたベースでも前月比は+0.2%(1月:+0.2%)と加速が続いている。 今回のSVBの経営破綻も、顧客先や資金運用先が極端に偏っていたという、同社固有の背景が経営破綻の原因とされており、ミクロの問題をマクロの問題と捉えて利上げの完全停止にまで繋げてしまうのは政策運営として誤りになるとの考え方もある。 3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではいったん利上げ打ち止めの可能性もあるだろうが、その後は市場の落ち着きと追加の経済データを見極めたうえで、再度0.25ポイントの利上げが再開される可能性も考えられる。政策金利見通し(ドットチャート)が示される3月会合の結果を見極めるまでは神経質な地合いが続きそうだ。足元のリバウンドが一過性に終わる可能性は十分に考えられ、今は引き続き守りを固めた方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/15 12:12
後場の投資戦略
不安心理収まらず守りを固める局面か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27302.64;-530.32TOPIX;1954.10;-46.89[後場の投資戦略] 先週末の米SVBファイナンシャル・グループ株の急落を契機とした市場の混乱が未だに収まらない。その後、米シリコンバレー銀行(SVB)に続き、米シグネチャー銀行も経営破綻となった。こうした事態を受けて、米連邦準備制度と財務省、連邦預金保険公社(FDIC)は緊急融資プログラムを発表し、通常25万ドルまでの上限金額を超えた預金保護を実施するとしている。 こうした当局の迅速な対応もあり、システミックリスクといった連鎖的な金融システムの混乱に繋がる可能性は低いと思われるが、投資家の不安心理が収まっていない。また、イベントを契機に発生したボラティリティ(変動率)を利用してヘッジファンドなど短期筋が投機的な動きを強めていることが米地銀株の急落を招き、市場の不安心理を必要以上にかき立てているともいえそうだ。 米VIX指数は前日、危険水域とされる30を一時超え、日経平均VI(ボラティリティ・インデックス)も1月中旬以来となる20を超えてきた。日米ともに主要株価指数が次々と心理的な節目やサポートラインを割り込んできていることから、すでに商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロー型ファンドの売りが加速しているが、今後は、リスクパリティ戦略(ポートフォリオに占める各資産のリスク割合が均等になるように分散投資することで、リスクを低減させる運用手法)による売りなどもさらに膨らんでくる可能性がある。 一方、一連の事態を受けて、インフレ抑制のための各国中央銀行による金融引き締め懸念は急速に後退した。FEDウォッチによると、3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ停止を予想する確率は25%程度まで高まった。また、フェデラルファンド(FF)金利先物市場は再び利下げを織り込みはじめ、年末までに0.25ptの利下げが3回行われることを予想している。 こうした中、今晩は米国で米2月消費者物価指数(CPI)が発表される。米国発の信用不安により、もはや利上げペースの議論は時代遅れのような印象を持たれており、現在の焦点は3月会合で利上げを続けるのか停止するのかに移っている。一方、米SVBの一件の前とはいえ、先週の議会証言でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は利上げペース加速を示唆する発言までしていた。今の状況を踏まえれば、パウエル議長も姿勢を軟化させてくると思われるが、仮に今晩のCPIが強い結果となると、パウエル議長が本当に先週のタカ派な議会証言から態度を一変させてくれるかどうかという点にやや疑念が生じやすくなる。この場合は株式市場で売りがもう一段加速する可能性があり、注意したい。一方、米CPIが想定内のマイルドな結果となれば、市場は一旦落ち着きを取り戻す可能性があろう。 他方、東京市場では米地銀株の急落の影響を受けている銀行株だけでなく、鉄鋼や商社など、これまで強さを見せてきたバリュー(割安)株や高配当利回り株が一転して厳しいに売りに見舞われている。それだけ、これまでの急速な利上げを通じた今後の景気悪化に対する警戒感が高まっている証左だろう。こうした物色動向の変化から、投資家のセンチメントが急変していることが分かり、市場が落ち着くには時間がかかる可能性も高い。今は押し目買い余力を安易に使いきることなく、守りを固めた方がよさそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/14 12:18
後場の投資戦略
投資家心理悪化するなか14日の米CPIに注目
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27706.07;-437.90TOPIX;1990.60;-40.98[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、シリコンバレー銀行の破綻による金融システム不安や景気に対する先行き懸念等から売りが先行した。その後も、買い手が乏しいなか売り優勢の展開が続いている。心理的な節目である28000円も割り込んでおり、まずは落ち着きどころを探る展開になりそうだ。 新興市場も軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、朝方に下げ幅を縮小する動きを見せたが失速。再度売り優勢の展開となり下げ幅を広げる展開となった。米SVBが経営破綻したことは国内の投資家心理にもネガティブに働いている。また、米雇用統計の結果を受けて米長期金利が大幅に低下したものの、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利上げ幅の再拡大もあり得ることに言及しているなか、素直に新興株を買い進む動きにはなりにくい。前引け時点での東証マザーズ指数は1.71%安、東証グロース市場Core指数は0.43%安。 さて、10日に発表された2月米雇用統計の結果を振り返る。非農業部門雇用者数は31万1000人増加し、11カ月連続で市場予想を上回る伸びとなった。ただ、平均時給は前月比0.2%増、前年同月比では4.6%増で前月比ベースでは過去1年で最低の伸びにとどまった。また、失業率は3.6%で前月の3.4%から上昇。失業率は上昇し、賃金の前月比伸び率が鈍化するなど、労働市場が軟化しつつある兆候も示唆した。FRBが利上げペースを加速させるかどうかを判断する上で強弱入り交じる内容となった。 前週半ばには、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派な議会証言を受けて、21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)における0.5ptへの利上げ幅拡大が7割超の確率で織り込まれていた。しかし、米金融不安の台頭と米2月雇用統計の結果を受けて、足元では再び0.25ptの利上げが8割の確率で織り込まれている。つれて、米長期金利も3.7%台まで低下している。ただ、雇用統計の結果は0.25ptの利上げを確実視するような内容ではなく、14日に発表される2月消費者物価指数(CPI)次第では利上げ加速を再度織り込む展開も想定される。同指標の結果発表には最大の注目が集まろう。 他方で、前週末に米国市場では米SVBが経営破綻し、銀行の信用不安という新たなリスクが台頭した。詳細は、週末の「国内株式市場見通し」や「新興市場見通し」で解説されているため、そちらをご覧いただきたいが、いずれにしろ投資家心理は確実に悪化させる要因となった。米財務省の高官は、シリコンバレー銀行(SVB)と同様の問題を抱えている金融機関が複数あると述べており、こうした金融機関の預金者を巡る懸念があるだろうと語っている。 一方、米投資銀行ジェフリーズのリッチ・ハンドラー最高経営責任者(CEO)は、「この1週間の出来事をきっかけに2008年の世界的な金融危機のような状況が再び起きるとは予想していない」と語ったという。ただ、暗号資産業界でFTXが破綻した際は同社の影響は数カ月かけて広がっており、現在も不透明感が漂っている。詳しい状況などは全く異なるものの、SVB破綻というネガティブサプライズが今後どう影響してくるかは注意深く見守る必要がありそうだ。 月曜日の当欄を担当している筆者は、常々急なネガティブサプライズが飛び込んでくる可能性を想定して相場を見守ることを推奨してきた。SVBのニュースによって米雇用統計の結果がやや素通りされているような印象を受けるなか、14日の米CPIの発表が終わるまではやや軟調な動きが続きそうだ。引き続き、米国の経済指標やFRBの動向に加えて、SVB関連の追加材料など、外部環境の変化にもアンテナを張っておきたい。さて、後場の日経平均は、軟調な展開が続くか。地合いが悪化する中でも個別材料株には物色が向かっており、引き続き同様の動きが継続するか注目したい。(山本泰三)
<AK>
2023/03/13 12:22
後場の投資戦略
需給転換意識のなか米信用不安も重なる
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28271.58;-351.57TOPIX;2043.57;-27.52[後場の投資戦略] 先週末の急伸から強さを見せてきた東京市場は久々に大幅下落となっている。本日は相場の転換点となるかもしれない。今日は3月限の株価指数先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)であった。一般的にメジャーSQを境に需給が転換することが多いが、今回もセオリー通りの展開になってきている。先週末から想定以上の強さを見せていた日経平均だが、本日は一転して寄り付き直後から下げ幅を広げる弱い動きとなっている。 奇しくも、この需給転換が意識されるメジャーSQ前日に、米国市場では銀行の信用不安という新たなリスクが台頭し、米国株式市場は大幅下落となった。米シリコンバレーの新興企業を中心に商業銀行サービスを展開する銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループの株価は9日、60.4%安と上場来最大の急落となった。証券ポートフォリオの損失とベンチャーキャピタル支援先企業の資金調達鈍化を受けて資本増強のための措置を講じたことが契機となった。 米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年から急速に金融引き締めを進める中、いずれは企業のデフォルト(債務不履行)などの事象が増加してくるだろうとは想定されていたが、今回それが表面化した。市場の一部では今回の一件がシステミックリスクに繋がり得る炭鉱のカナリアなのかとも警戒されており、今後、同様の動きがどれだけ増えてくるのか注目される。 米株式市場では9日、ダウ平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合指数の主要株価3指数が揃って200日移動平均線を終値で割り込んだ。今後は商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロー型ファンドの売りが加速する可能性もあり、米国株の動向には注意したい。 仮に当該案件が大きな問題に繋がらなかったとしても、メジャーSQの日にこうした投資家不安を煽るニュースが飛び込んできただけでも、相場の潮目の変化として意識されそうだ。また、こうした警戒感が高まる中でも、今後の経済データ次第ではFRBがまだ利上げを続けざるを得ない可能性も考えられ、ファンダメンタルズ(経済状況を示す基礎的な要因)の悪化が懸念される。 相場のセンチメントが悪化する中、経済活動の正常化など内需主導による恩恵が期待され、中国人観光客の回復という最大のカタリスト(株価変動を誘発する材料)もまだ温存されているリオープン・インバウンド関連などが相対的な安心感から買われやすい状況が予想される。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/10 12:20