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FRONTEO:特化型AIで創薬立国に貢献、急騰後の株価でも中計の織込みは途上

配信日時:2025/09/04 09:25 配信元:FISCO
*09:25JST FRONTEO:特化型AIで創薬立国に貢献、急騰後の株価でも中計の織込みは途上 FRONTEO<2158>が変革期を迎えている。経済安全保障、リーガルテックAIといった分野で専門家の判断を支援するAIソリューションを提供している業容イメージだが、AI創薬分野のAI創薬支援サービス “Drug Discovery AI Factory(DDAIF)を中心にライフサイエンスAI事業が大きな実績を上げつつある。その実績をもとに、製薬会社の創薬プロセスの一部を代替し、意欲的な中期経営計画を達成した場合、時価総額の桁も1つから2つ変わることになる。

ライフサイエンスAI事業で注目すべき発表は、7月23日に発表された「すい臓がん新規標的分子候補の細胞増殖抑制に対する効果を確認」になる。きわめて新規性の高い標的分子候補をわずか2日間で多数抽出することに成功したというものだ。DDAIFは、人間の全遺伝子約2万をわずか2日で解析し、17の有望な標的分子候補を抽出した。そのうち6遺伝子がすい臓がん細胞の増殖抑制に有効であることが確認され、さらにうち4つはすい臓がんとの関連が文献では未報告、残り2つも報告は1件のみという極めて新規性の高い標的分子となった。DDAIFの未知の標的分子を発見する能力が実証され、創薬プロセスにおける「標的探索」のスピードと精度が飛躍的に向上したことが示された。しかも、FRONTEOの技術が一般的な生成AIと決定的に異なるのは、非連続な発見はもちろん、発見に至った科学的根拠を研究者に提供することができることだ。また、実際に生物材料(細胞、組織、動物など)や試薬を用いて行うウェット実験はアウトソースされることから、パイプラインを大量に保持することも可能となる。

FRONTEOは、意欲的な中期経営計画を発表しており、2029年3月期に売上高300億円、営業利益60億円達成を目標としている。ライフサイエンスAI事業ではAI創薬分野で売上高100億円、AI医療機器分野で売上高30億円が内訳となる。一つの新薬が上市されるまでには、10年から15年を要するといわれている。そのうちの2年を極めて短期間で達成できるとしたら、工程の10%強を省略できるということになる。新薬開発トータルで数千億円の費用がかかるということであれば、その工程を省略できるということは、数百億の価値があるということになり、1つの案件でライフサイエンスAI事業の目標値である売上高130億円を超過する可能性もある。しかも、実験は大学を含めた外部と組むことで、同社のパイプライン創出には数の制限にさほど拘束されない点も覚えておくべきだろう。

そのような可能性も含めて、中期経営計画が達成された場合、AI関連の中でも圧倒的な利益成長率となり、売上高のCAGRは+48.9%、営業利益は同+83.7%に達する。日本の製薬大手3社の時価総額を20兆円超、世界のそれを1.4兆ドルとした場合、その1%を代替したとしたら2,000億円から2兆円程度という時価総額が試算されることになる。今回のすい臓がん新規標的分子候補の細胞増殖抑制効果からのポテンシャルをどのように評価するかで、その数値の置きは変わってくるだろうが、製薬会社の機能を一部代替する以上という見方もあるだろう。

また、FRONTEOは自社開発の特化型AI「KIBIT(キビット)」を核に、ライフサイエンスAI、ビジネスインテリジェンス(コンプライアンス支援)、経済安全保障、リーガルテックAIといった分野で専門家の判断を支援するリスクマネジメント関連のソリューションをを提供している。独自の自然言語処理技術とネットワーク解析に強みを持ち、少量の教師データでも高精度を発揮するアルゴリズムが特長で、医療・製薬・金融・製造業から官公庁まで幅広い顧客基盤を有する。

FRONTEOは中期計画「ステージ4」を掲げ、2029年3月期までの成長戦略として以下の3つの分野を主力事業として育てる方針である。
まず、ライフサイエンスAI事業では「Drug Discovery AI Factory」を通じてAI創薬分野の進化を図る。第一三共、丸石製薬、エーザイ、中外製薬など大手製薬会社との共創プロジェクトが進行しており、特化型AI「KIBIT」を活用した、仮説生成や新規標的分子の発見支援が高く評価されている。同社の技術は従来約10年かかっていた仮説生成プロセスを1か月程度に短縮するものであり、創薬プロセスの異次元の効率化が実現している。同社は「日本を再び創薬の地」に、そして医薬品産業を自動車、半導体に次ぐ基幹産業へと成長させることに貢献し、薬を必要としているすべての人に適切な薬が届けられるようなフェアな世界を目指したいという志を持ちながら取り組んでいる。また、AI医療機器分野では、塩野義製薬と開発中の会話型認知機能検査用AIプログラム医療機器(SDS-881)は、2026年度の承認を目指して治験届を提出した。この機器は、厚労省の優先審査対象品目に指定されたため、審査期間の大幅な短縮が期待されており、上市された場合、AI医療機器市場における先行優位性が期待される。このように、同社ではライフサイエンスAI事業を主力事業に育てる構えであり、2029年3月期には売上高130億円達成を目標としている。
次に、ビジネスインテリジェンス(コンプライアンス支援)分野に注力する。「KIBIT Eye」を中核とする不正検知・コンプライアンス監査ソリューションが金融・製造業を中心に浸透。リカーリング型ビジネスの比率も向上しており収益基盤のベースラインを底上げしている。メガバンクや大手証券会社など、各業界のトップクラスの企業が契約先でもあることから今後の契約先数拡大や、導入企業の複数部門での利用拡大といった深化が期待される。この分野においては2029年3月期には売上高100億円達成を目標としている。
第三の注力分野が経済安全保障分野である。地政学リスクやサプライチェーン規制の強化を背景に、官民双方からの需要が急増。「KIBIT Seizu Analysis」によるネットワーク解析技術を通じて、企業の調達リスクや制裁リスクへの対応を支援している。今後ニーズの高まりが期待出来る技術漏洩リスクや人権リスクへの対応拡大が期待される。2029年3月期には売上高50億円に成長させる構えである。
こうした取り組みにより2029年3月期には売上高300億円、営業利益60億円達成を目標としている。

数あるAIテック企業の中でも、同社はAIを単なる業務効率化の手段にとどめず、社会課題解決を通じて新たな市場を創出する戦略的資産として捉えている点が際立つ。今後の非連続的な成長に対する期待は大きい。日本の医薬品産業の国際競争力低下に歯止めがかからず、国も創薬立国を目指す方向性を示している状況下、真に国家安全保障に資する企業に生まれ変わる可能性がある。

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