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ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/06/19 10:24
配信元:FISCO
*10:24JST ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している陳建甫博士の考察をお届けする。
2024年5月30日、第33回中国・ニュージーランド経済貿易合同委員会会合がオンライン上で開催された。会談の中で中国の商務部国際貿易談判副部長・王受文(おう・じゅぶん、Wang Shouwen)氏は、ニュージーランドが中国の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加盟申請を積極的に支援することへの期待を表明した。しかし、ニュージーランドの公共放送は6月6日、専門家の談話を引用し、中国のCPTPP加盟の可否はニュージーランドの裁量の範囲外だと伝えた。地政学的な緊張はあるものの、ニュージーランド政府は中国と台湾両方のCPTPP加盟を支持する姿勢だ。
CPTPPはアジア太平洋地域における加盟国間の自由貿易を促進し、経済関係を強化することを目的とした高水準な貿易協定である。2017年に米国が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した後にこの形となり、現在の加盟国はオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11か国だ。同協定は、関税削減、サービス貿易、投資、知的財産、電子商取引など幅広い分野をカバーしている。
高い基準を設定し、透明性と規制の一貫性を促進することで、CPTPPはより一体的な競争力のある地域経済の創造を目指している。CPTPPへの加盟は、市場アクセスの拡大、海外直接投資の強化、経済成長の強化など、加盟国に大きな経済的利益をもたらす。このため、この地域における経済的影響力と機会の拡大を熱望する中国や台湾などにとって非常に魅力的な存在となっている。
中国、台湾がCPTPP加入を望む理由
英国のCPTPP加盟手続き開始以降、中国や台湾などが加盟の意向を示している。CPTPPは一見盛り上がっているように見えるが、加盟国は今なお米国の再加盟を切望している。米国の加盟は同協定の経済的規模と影響力の大きな底上げにつながるからだ。英国国家統計局のデータによると、英国のCPTPP加盟は2024年までに同国のGDPに約0.8%の増加をもたらすと予想されている。
CPTPP加盟が経済的利益をもたらすことを示す成功例がいくつかある。例えばチリとペルーは、CPTPP加盟に先立ち包括的な経済改革を行い、規制の透明性を向上させ、外国企業による市場アクセスを強化した。世界銀行の報告書によると、CPTPP加盟後チリへの外国直接投資(FDI)は約15%増加し、CPTPPが経済成長の促進につながることを実証した。同様に、ペルーも貿易額と投資額が大幅に増加し、経済の安定と成長につながっている。
CPTPP創設メンバーであるシンガポールは、協定を通じて世界貿易ハブとしての地位をさらに強固なものにした。シンガポール通商産業省(MTI)のデータによると、CPTPP加盟国はシンガポールの貿易総額の23%を占めており、シンガポール経済における協定の重要性を裏付けている。アジア太平洋経済協力(APEC)の指摘によれば、CPTPP加盟国間の貿易額は協定発効後の2年間で約10%増加しており、ここでもCPTPPが地域経済の統合・成長の促進につながることが証明されている。
こうした成功事例は、協定が求める高い基準を満たすことができれば、CPTPP加盟が加盟国に大きな経済的利益をもたらしうることを示している。中国と台湾にとって、こうした潜在的利益は非常に魅力的だ。中国について言えば、国内の経済成長が鈍化するなか、経済的影響力を拡大し自国の商品やサービスを売り出すために新たな市場の確保を狙っている。世界銀行のデータによると、2023年の中国のGDP成長率はわずか2.3%で、過去10年間の平均成長率6%を大きく下回っている。中国はCPTPPへの加盟が、貿易と投資の拡大による経済の活性化につながるものと期待している。
一方台湾は、ITと半導体産業を中心に対外貿易能力の強化を目指している。台湾経済部のデータによれば、台湾の半導体輸出額は2022年に1,500億ドルに達し、世界市場の15%を占めている。CPTPPへの加盟は、台湾の経済的地位を強化するだけでなく、地域の半導体サプライチェーンの安定化、地政学的緊張の緩和にもつながるだろう。
こうしたデータや成功事例は中国と台湾にとって貴重な参考材料となっており、CPTPPへの加盟が首尾よく叶えば、世界経済においてより多くのチャンスと利益が得られることを示している。中国と台湾は、潜在的な経済的利益と、ハイレベルな貿易協定の一員であることの戦略的重要性を認識しており、双方ともCPTPP加盟を優先課題に掲げている。
CPTPP加盟が中国にもたらす課題とチャンス
ニュージーランドは経済的観点から中国と台湾のCPTPP加盟を支持しているが、CPTPP加盟における中国の優位性は徐々に失われつつある。世界銀行のデータによると、2023年の中国のGDP成長率はわずか2.3%で、過去10年間の平均成長率6%を大きく下回っている。さらに、中国の内需市場は依然として低迷を続けており、経済成長への足枷となっている。
中国は輸出企業向けの補助金政策によって中国製品が低価格で国際市場に参入することを可能にしているが、これはCPTPP加盟国にとって受け入れがたいことだ。OECDの報告書によれば、中国による輸出企業への補助金総額は2022年には約1,500億ドルに達している。これらの補助金によって中国製品は国際市場で価格優位性を得ているが、このような競争は公正ではないとみなされ、他国から不満の声が上がっている。
さらに、中国の政策は国内の消費者市場を保護し、中国市場への外国企業の参入を妨げている。例えば、欧州商工会議所の報告書は、中国市場に参入する際、外国企業の多くが複雑な承認手続きや高いコストというハードルに阻まれ、中国での競争が困難になっていると指摘している。
CPTPP加盟国は中国と国交があり、関税協定にも署名してはいるものの、二国間の経済関係は必ずしも互恵的なものではない。加盟国のほとんどが、中国との関税協定締結を機に低価格の中国製品が国内市場に流入し、地元産業に打撃を与えていると不満を漏らしている。オーストラリア・ビジネス評議会(BCA)のデータによると、中国との関税協定締結後、オーストラリアの対中輸出増加率はわずか5%であったのに対し、中国の対豪輸出は25%も増加しており、貿易関係が不均衡であることを示している。
こうした課題がある一方で、CPTPPへの加盟は中国にとって大きなチャンスとなる。CPTPPは中国に新たな市場へのアクセスを提供し、貿易パートナーシップの多様化に役立つだろう。中国が米国など主要経済国との貿易摩擦の激化に直面するなかで、この点は特に重要である。CPTPPの高度な基準を順守することで、中国は世界貿易における評判を高め、長期的な経済成長を維持する上で不可欠となる、より多くの外国投資を誘致できるだろう。
さらに、中国がCPTPPに加盟することで地域の経済統合が促進され、他のアジア太平洋諸国との経済的結びつきが強化される可能性がある。こうした形での統合が、地域経済の課題に取り組み、持続可能な開発の促進を目指した、より協力的な取り組みにつながるかもしれない。また、中国はCPTPP加盟により多国間貿易枠組みの順守を示すことになり、地政学的緊張を緩和し、より安定した地域経済環境の醸成につながる可能性がある。
要約すると、中国はCPTPPが求める高い基準を順守し互恵的な貿易への期待に応えるという大きな課題に直面してはいるが、経済の多様化、外国投資の増加、地域統合の強化につながる潜在的なチャンスは、中国が加盟の道を模索する十分な理由と言える。これらの課題をうまく乗り切るには、大規模な経済改革と公正な貿易慣行への真摯な取り組みが不可欠となるが、これらは中国の長期的な経済戦略に大きな見返りとなって返ってくるだろう。
「ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: The logo of Trans-Pacific Partnership (TPP) trade deal
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
2024年5月30日、第33回中国・ニュージーランド経済貿易合同委員会会合がオンライン上で開催された。会談の中で中国の商務部国際貿易談判副部長・王受文(おう・じゅぶん、Wang Shouwen)氏は、ニュージーランドが中国の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加盟申請を積極的に支援することへの期待を表明した。しかし、ニュージーランドの公共放送は6月6日、専門家の談話を引用し、中国のCPTPP加盟の可否はニュージーランドの裁量の範囲外だと伝えた。地政学的な緊張はあるものの、ニュージーランド政府は中国と台湾両方のCPTPP加盟を支持する姿勢だ。
CPTPPはアジア太平洋地域における加盟国間の自由貿易を促進し、経済関係を強化することを目的とした高水準な貿易協定である。2017年に米国が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した後にこの形となり、現在の加盟国はオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11か国だ。同協定は、関税削減、サービス貿易、投資、知的財産、電子商取引など幅広い分野をカバーしている。
高い基準を設定し、透明性と規制の一貫性を促進することで、CPTPPはより一体的な競争力のある地域経済の創造を目指している。CPTPPへの加盟は、市場アクセスの拡大、海外直接投資の強化、経済成長の強化など、加盟国に大きな経済的利益をもたらす。このため、この地域における経済的影響力と機会の拡大を熱望する中国や台湾などにとって非常に魅力的な存在となっている。
中国、台湾がCPTPP加入を望む理由
英国のCPTPP加盟手続き開始以降、中国や台湾などが加盟の意向を示している。CPTPPは一見盛り上がっているように見えるが、加盟国は今なお米国の再加盟を切望している。米国の加盟は同協定の経済的規模と影響力の大きな底上げにつながるからだ。英国国家統計局のデータによると、英国のCPTPP加盟は2024年までに同国のGDPに約0.8%の増加をもたらすと予想されている。
CPTPP加盟が経済的利益をもたらすことを示す成功例がいくつかある。例えばチリとペルーは、CPTPP加盟に先立ち包括的な経済改革を行い、規制の透明性を向上させ、外国企業による市場アクセスを強化した。世界銀行の報告書によると、CPTPP加盟後チリへの外国直接投資(FDI)は約15%増加し、CPTPPが経済成長の促進につながることを実証した。同様に、ペルーも貿易額と投資額が大幅に増加し、経済の安定と成長につながっている。
CPTPP創設メンバーであるシンガポールは、協定を通じて世界貿易ハブとしての地位をさらに強固なものにした。シンガポール通商産業省(MTI)のデータによると、CPTPP加盟国はシンガポールの貿易総額の23%を占めており、シンガポール経済における協定の重要性を裏付けている。アジア太平洋経済協力(APEC)の指摘によれば、CPTPP加盟国間の貿易額は協定発効後の2年間で約10%増加しており、ここでもCPTPPが地域経済の統合・成長の促進につながることが証明されている。
こうした成功事例は、協定が求める高い基準を満たすことができれば、CPTPP加盟が加盟国に大きな経済的利益をもたらしうることを示している。中国と台湾にとって、こうした潜在的利益は非常に魅力的だ。中国について言えば、国内の経済成長が鈍化するなか、経済的影響力を拡大し自国の商品やサービスを売り出すために新たな市場の確保を狙っている。世界銀行のデータによると、2023年の中国のGDP成長率はわずか2.3%で、過去10年間の平均成長率6%を大きく下回っている。中国はCPTPPへの加盟が、貿易と投資の拡大による経済の活性化につながるものと期待している。
一方台湾は、ITと半導体産業を中心に対外貿易能力の強化を目指している。台湾経済部のデータによれば、台湾の半導体輸出額は2022年に1,500億ドルに達し、世界市場の15%を占めている。CPTPPへの加盟は、台湾の経済的地位を強化するだけでなく、地域の半導体サプライチェーンの安定化、地政学的緊張の緩和にもつながるだろう。
こうしたデータや成功事例は中国と台湾にとって貴重な参考材料となっており、CPTPPへの加盟が首尾よく叶えば、世界経済においてより多くのチャンスと利益が得られることを示している。中国と台湾は、潜在的な経済的利益と、ハイレベルな貿易協定の一員であることの戦略的重要性を認識しており、双方ともCPTPP加盟を優先課題に掲げている。
CPTPP加盟が中国にもたらす課題とチャンス
ニュージーランドは経済的観点から中国と台湾のCPTPP加盟を支持しているが、CPTPP加盟における中国の優位性は徐々に失われつつある。世界銀行のデータによると、2023年の中国のGDP成長率はわずか2.3%で、過去10年間の平均成長率6%を大きく下回っている。さらに、中国の内需市場は依然として低迷を続けており、経済成長への足枷となっている。
中国は輸出企業向けの補助金政策によって中国製品が低価格で国際市場に参入することを可能にしているが、これはCPTPP加盟国にとって受け入れがたいことだ。OECDの報告書によれば、中国による輸出企業への補助金総額は2022年には約1,500億ドルに達している。これらの補助金によって中国製品は国際市場で価格優位性を得ているが、このような競争は公正ではないとみなされ、他国から不満の声が上がっている。
さらに、中国の政策は国内の消費者市場を保護し、中国市場への外国企業の参入を妨げている。例えば、欧州商工会議所の報告書は、中国市場に参入する際、外国企業の多くが複雑な承認手続きや高いコストというハードルに阻まれ、中国での競争が困難になっていると指摘している。
CPTPP加盟国は中国と国交があり、関税協定にも署名してはいるものの、二国間の経済関係は必ずしも互恵的なものではない。加盟国のほとんどが、中国との関税協定締結を機に低価格の中国製品が国内市場に流入し、地元産業に打撃を与えていると不満を漏らしている。オーストラリア・ビジネス評議会(BCA)のデータによると、中国との関税協定締結後、オーストラリアの対中輸出増加率はわずか5%であったのに対し、中国の対豪輸出は25%も増加しており、貿易関係が不均衡であることを示している。
こうした課題がある一方で、CPTPPへの加盟は中国にとって大きなチャンスとなる。CPTPPは中国に新たな市場へのアクセスを提供し、貿易パートナーシップの多様化に役立つだろう。中国が米国など主要経済国との貿易摩擦の激化に直面するなかで、この点は特に重要である。CPTPPの高度な基準を順守することで、中国は世界貿易における評判を高め、長期的な経済成長を維持する上で不可欠となる、より多くの外国投資を誘致できるだろう。
さらに、中国がCPTPPに加盟することで地域の経済統合が促進され、他のアジア太平洋諸国との経済的結びつきが強化される可能性がある。こうした形での統合が、地域経済の課題に取り組み、持続可能な開発の促進を目指した、より協力的な取り組みにつながるかもしれない。また、中国はCPTPP加盟により多国間貿易枠組みの順守を示すことになり、地政学的緊張を緩和し、より安定した地域経済環境の醸成につながる可能性がある。
要約すると、中国はCPTPPが求める高い基準を順守し互恵的な貿易への期待に応えるという大きな課題に直面してはいるが、経済の多様化、外国投資の増加、地域統合の強化につながる潜在的なチャンスは、中国が加盟の道を模索する十分な理由と言える。これらの課題をうまく乗り切るには、大規模な経済改革と公正な貿易慣行への真摯な取り組みが不可欠となるが、これらは中国の長期的な経済戦略に大きな見返りとなって返ってくるだろう。
「ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: The logo of Trans-Pacific Partnership (TPP) trade deal
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