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香港がふたたび世界とつながる(1)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2022/11/11 10:39 配信元:FISCO
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。

激動の3年間
香港行政長官としての治世を「酷吏治港」と評された林鄭月娥(りんてい・げつが、キャリー・ラム)が自ら選んだ後継者、李家超(り・かちょう、ジョン・リー)は先頃、香港入国者を対象とするホテル検疫を終了する旨を発表した。新型コロナウイルス感染症の大流行に対して、香港を除くアジアの多くの地域ではいずれも厳格なロックダウン、検疫制限、国境封鎖という対応を取った。しかし、かつてアジア最高レベルの発着便数を誇った空港を擁し、ビジネスパーソンや旅行客の往来によって栄えていた香港においては、こうした対策によって街の様相が一夜にしてガラリと変わった。

多種多様な措置が講じられた結果、香港に入国しようとする者は政府指定の検疫施設に最長3週間の滞在を余儀なくされたほか、感染者を香港に入国させた航空会社は運行禁止の罰を課されたり、座席の需要がないため運休に追い込まれたりしており、航空券を入手するにも法外な金額を支払わねばならない状況となった。

香港の労働者は香港を離れることができず、学生たちも何年も家族と離れて海外に滞在させられ、よほど強い意志とコネクションを持つビジネスパーソンでもない限り、香港は出張先リストから消えることとなった。

こうした衝撃的な状況からの再起というのは、いずこであれ困難を伴うだろう。数か月前に苦境を耐え抜いて「ウィズコロナ」アプローチの必要性を思い知らされたシンガポールは、全人口に占めるmRNAワクチン高接種率達成の後、かなりの成果を収めている。対応件数の突発的増加はなおも発生しているが、病院施設に対する需要はさほど大きくない。ビジネス分野限定で再び開放された香港だったが、3年前とはまるで様子が変わってしまった。

2019年6月、林鄭月娥が逃亡犯条例改正案(非公式名称では引渡条例、逃犯条例など)の強行採決を試みたことを機に、これに反対する抗議デモ行進、ストライキ、暴動、騒乱がその後7か月にわたって続くこととなった。2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の発生によって、抗議活動はようやく終息をみた。

以降、政府は感染症のおかげで出来上がった安全圏の中で、現実であるか想像であるかの別を問わず反対意見を組織的に排除し、政治的枠組みにあえて疑問を呈した何百人もの香港市民を投獄してきたのである。これは主として、反体制的な言動を行った者は誰であれ拘留することを香港政府に認めた、香港国家安全法(NSL)の傘の下で行われてきた。

国家安全法によって報道の自由は大きく閉ざされ、反体制的と見なされることを恐れて多くの団体・組織が廃止に追い込まれた。香港で最も注目を集めるメディア「蘋果日報」(ひんか・にっぽう、アップルデイリー)も、警察の家宅捜索を受けてファイルや資産が押収され、歯に衣着せぬ発言で知られる創業者の黎智英(れい・ちえい、ジミー・ライ)は逮捕収監された。かなりの数の労働組合が廃止され、中国国内で人権擁護のため活動していた市民団体も多くが廃止された。学校の教科書は一掃され、中国共産党と習近平の功績を称える愛国教育が主流になりつつある。国家安全保障という名の下に行われた市民社会への締め付けによって、何十万人もの人々が香港を去ったのは驚くにはあたらない。

もちろん新型コロナウイルス感染症も理由の1つではあるが、国家安全法による制限と不必要に過剰なコロナ対策とが相まって、街はもぬけの殻になってしまった。世界に向けて開かれていた香港は、2019年当時とはまるで別の場所となったのである。


世界もまた変化している
李家超は3時間に及ぶ施政方針演説において、人材確保に向けた数々の施策を発表した。ビジネスクラスの航空券を無料で提供するなどの案はどう見ても荒唐無稽であるし、また、高給取りの外国人を対象とした高度人材ビザなどの措置も、シンガポールによる施策の後追いにしか見えない。珠江デルタ地帯の各都市が互いに補完し協力し合って世界をリードするメガエリアを建設するという、粤港澳大湾区(えつこうおう・だいわんく、GBA)構想において、香港が果たしうる重要な役割についても、李家超はひたすら中国政府お墨付きの台詞を読み上げるばかりである。

どう見ても希望的観測の域を出ない提案であるが、承認済みの見解を提示するとはすなわち、香港が本土に統合されているのと同義である。つまりは「一国二制度」の「二制度」よりも、「一国」の方がはるかに重要であるということだ。

だがその提案は、国家安全法がもたらした局所的な変化のみならず、コロナ後の世界における変化をも意図的に無視したものだ。世界で生じた変化を3つ、取り上げてみよう。第一に、中国は依然として世界に対して門戸を閉ざしている。パンデミックの発生当初、林鄭月娥は香港をまず中国に開放したいと述べ、世界に向けて開放するのはその後になるだろうとしていた。コロナ対応の失敗により市内の感染数が大々的に増加したことで、中国に向けた開放の望みは絶たれた。では、中国が極めて厳格なゼロコロナ政策を維持している状況で、ウィズコロナ路線へと舵を切り始めた香港は、いかに中国への門戸として機能し得るというのだろう。国境が閉鎖されている以上、香港の大湾区統合は土台無理な話であるし、ゼロコロナ主義を貫く中国国内においても、コロナ以前の生活を取り戻すことは到底不可能だろう。

すべての国民は、健康コードアプリの色によって行動を制限されている。自由に活動するためには数日おきの検査と緑色の健康コード(健康碼)が必要となり、中国経済は深刻なダメージを受けた。つまり、中国はビジネスに開かれてはおらず、わずか数年前と同じレベルの成長を遂げてもいない。香港は世界で最も成長著しい経済圏に開かれた門戸である、という基本命題は、もはや過去のものとなったのである。

第二に、極めて厳格な取り締まりがビジネス界全体に衝撃を与えていることに疑問の余地はない。台北、シンガポール、ソウル、あるいはドバイのような中東の中心地は、程度の差こそあれ、香港脱出から確実に恩恵を受けている。香港はまずもって、中国に焦点を当てたビジネス中心地としての役割を担い続けてきた。中国が経済大国であるということは、すなわち香港が国際的な地位を得ることでもあったのだが、香港は他のアジア諸国との関係構築に失敗した。現状の香港を東南アジアのビジネス拠点、ましてやインド、南アジア亜大陸における活動の拠点にしようとする企業はないだろう。

香港は以前に増して中国の物語ばかりを語るようになり、その物語もここ数年間で劇的に損なわれている。バイデン政権が最近、最先端のマイクロチップ設計における米国の技術や技術者の使用に適用した規制は、対中措置としてはトランプ政権時代よりもはるかに厳しいものとなっている。超大国間の競争と呼ぶにせよ、中国封じ込めと呼ぶにせよ、世界最大の2つの経済圏の分断・分岐がすぐにでも終わりそうな気配はなく、それは香港にとっても決して良い状況とは言えないだろう。

最後に、第20回党大会において明確になったように、習近平はひたすらに己の支配力を強めており、ワンマン独裁体制こそが中国の現実の姿である。改革開放の時代は幕を閉じた。習近平は己のやり方によって改革開放に伴う欠点に対処できると信じているかもしれないが、そのやり方は統制と不透明性の時代をもたらすものであった。香港はトウ小平の改革開放時代がもたらした多大な恩恵を享受してきたが、習近平の世界はこれとは全く異なり、開放や市場へのアクセス拡大に期待できるような方向性は、もはや潰えてしまった。


「香港がふたたび世界とつながる(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/



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