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北京五輪後の中国の狙い、習近平主席の更なる長期政権化への布石(元統合幕僚長の岩崎氏)(2)【実業之日本フォーラム】

配信日時:2022/03/14 11:08 配信元:FISCO
「北京五輪後の中国の狙い、習近平主席の更なる長期政権化への布石(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)【実業之日本フォーラム】」の続きである。

2.中国の次なる一手は?
さて、それでは、「習近平主席の次なる一手」を考えてみよう。
彼のこれまでの功績は、いろいろ上げられるが、一番の功績は、オバマ大統領に「これからは米国と中国の二大国で世界をリードしたい」と言わせたことであろう。即ち、米国大統領から、中国が「世界の大国」として認められたのである。そしてこの他にも、「南シナ海の聖域化(埋め立て→軍事基地化→行政区設定)」、「香港をほぼ完全に北京支配下としたこと」等々であろう。そして、習近平主席は、香港のあと功を急ぎ、2019年1月、蔡英文総統に香港と同じように「一国二制度」を持ちかけた。蔡英文総統は、この直前の2018年11月の台湾統一選挙で惨敗し、蔡英文総統は民進党党首を自ら辞任し、失意のどん底であった。しかし、習近平のこの台湾への「お誘い」は完全な失敗であった。蔡英文総統は、習近平の「一国二制度」のお誘いをきっぱりと拒絶した。台湾には「今日の香港は、明日の台湾」なる言葉がある。台湾国民は、習近平の香港政策を静観していたのである。台湾の多くの人達は、習近平の次なる目標は、いよいよ「台湾」かと感じていたのである。蔡英文総統が即座に拒否したことで、一挙に形勢が逆転し、総統選挙で蔡英文氏が大勝することになった。習近平の一言がそうさせたのである。

習近平主席は、これまで何度も「台湾は中国の核心的利益」と公言している。彼は、決して諦めることはない。次なるターゲットは「台湾」であることは明白である。問題は、タイミングである。習近平としては、出来れば4期目に繋ぐためには、ここ数年で決着したと考えているだろうが、功を焦って失敗すれば、彼の政権は簡単に転覆する。

中国の2人の現役空軍大佐が「超限戦」なる著書を出している。「21世紀の新しい戦争」に関する大作である。21世紀の戦いは、国が保有する全てのアセットを駆使して戦う必要があるとの内容である。これまでの戦い方と全く異なる戦い方が必要と説いてる。ロシアはクリミア半島を手中にした際は、住民投票を使った。クリミア住民がロシアへの帰属を自ら決めたのである。弾は一発も打っていない。前述の三戦(心理戦・世論戦・法律戦)も必要であろう。出来れば「戦わずして勝つ」が理想である。台湾の国民党支持者は比較的大陸(中国)寄りである。利用可能かもしれない。また、台湾市民が住んでいない小さな島の確保であれば、米国は動かないかもしれない。

習近平主席は、2014年、南シナ海で埋め立てを始める前に、ヴェトナム沖に100隻を越える海峡局の船を派遣し、石油の試掘を行った。これは、試掘そのものに関心があったわけではないと考えている。私は、この様な行動をすれば、米国がどう出るかを、見極めたのではと考えている。案の定、米国はほぼ反応しなかった。米国が強い反応を示したのは、翌年2015年5月末のシャングリラ会議である。この時に、中国は「これ以上の埋め立てはやらない」と公言した。2020年10月、台湾が統治する馬祖列島の南竿島付近に約100隻の海警局公船と海砂採取船が出現し、付近の海底の海砂を根こそぎ採取した。南竿島のビーチが消滅するくらいであったとの事である。この際も米国は何も反応しなかった。大統領選で忙しかったからである。中国は、何か行動をする時に、米国大統領の顔色を窺っているのである。何故か。それは、米国が反応すれば、ことが思惑どおり進まないと考えているからである。我々は、習近平のこのサインを見落としてはいけない。米国や我々が機敏に対応すれば、習近平は行動を躊躇する。でも、我々の反応が鈍ければ前に出てくる。台湾が統治している南シナ海の「大平島」、中国厦門から2Km弱の「金門島」やその北に位置する「馬祖諸島」など、米国が真剣に反応しないかもしれない地域での中国の権限拡大には気を付けないといけない。また、台湾にだけ気を取られていると、「尖閣列島」事態が起こるかもしれないし、より懸念しているのは、中国とインド国境沿いの紛争である。この様な争いには米国や他の国が口を挟み難い。何らかの権益を拡大出来れば、習近平主席の功績になる。その結果、彼の4期目に繋がる。我々は、警戒監視を厳にし、何かあれば即座に反応することが大切である。少々不十分でも「兵は拙速を貴ぶ」である。(令和4.2.25)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:ロイター/アフロ

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