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核の小型化・弾頭化を実現した北朝鮮が恐ろしい!「ぬるま湯に浸かる日本」が招く「最悪の事態」【実業之日本フォーラム】
配信日時:2022/02/04 10:42
配信元:FISCO
1月に7回ものミサイル発射
2022年1月、北朝鮮は7回にも上るミサイル発射を実施した。その種類は、開発中と見られる「極超音速ミサイル」と称するミサイル、列車発射型短距離ミサイル、巡航ミサイル、米陸軍のATACMS(Army Tactical Missile System)に類似したミサイルと多岐にわたる。
そして1月30日に発射したミサイルは、防衛省が公表したところによると、高度約2,000km、約800km飛翔したとされている。北朝鮮労働新聞も、「火星12号」の発射を行ったことを写真付きで報道している。労働新聞は「周辺国の安全を考慮し、高角発射を行った」としており、高度2,000kmとした防衛省の発表と一致している。
「火星12号」の発射は、2017年5月14日、8月29日及び9月15日に続く4回目である。2、3回目は日本上空を超え、それぞれ約2,700kmと約3,700km飛翔し、太平洋上に落下している。防衛省は、今回発射されたミサイルを、射程約5,000kmの「中距離弾道ミサイル(IRBM)」だとして、北朝鮮は「核兵器の小型化・弾頭化をすでに実現しているとみられる」と評価している。
日本では、「火星12号」の射程と、1月19日に行われた北朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議での「米国の敵対的行為に対抗するため、主動的に講じた信頼構築措置を暫定的に中止し、再稼働させる」との発表から、対米メッセージとする報道が多い。2017年に「火星12号」が日本上空を飛行したことを受けて、J-Alertを始めとした訓練が行われたことと比較すると、日本の危機意識は低い。高軌道(ロフテッド軌道)は、高角を調整すれば日本全土が射程内に入り、弾頭落下時の速度が通常軌道よりも高速なため迎撃が困難となる。他人事のような日本での報道に不安を持つ。
「火星12号」が核弾頭を搭載可能であることから、北朝鮮がどのように核兵器を使おうとしているかを考える必要がある。核兵器を抑止手段の一つとすることは核兵器保有国共通であるが、どのような場合に使用するかについては差異がある。
米中ロはいつ核を使う?
中国は、核兵器の先制使用(first use)を明確に否定している。2019年7月に公表された国防白書「China’s National Defense in the New Era」では、「いかなる時、いかなる環境でも核兵器の先制使用は行わず、核兵器非保有国又は非核化地域において核による恫喝は行わない」、としている。この考え方の背景には、米ロとの核兵器数の圧倒的な差がある。弾道ミサイル等の近代化を進める一方、弾頭数を米ロ並に拡大しようとしないのは、自衛のために最小限の核戦力を保有するという考え方と推定できる。
バイデン政権は、「核態勢見直し(Nuclear Posture Review : NPR)」を行っていると伝えられている。トランプ政権が2018年2月に公表した現在のNPRでは、核兵器の使用は「アメリカ及び同盟国の国益に対する、最も深刻な環境下」においてのみ考慮されるとしている。一方で、核兵器の近代化、低威力核兵器の開発という、核兵器使用のハードルを下げる施策を進めることも示されている。核兵器による攻撃への対応以外にも、核兵器を使用することを想定していると言える。アメリカが核の傘を提供している国々からは、アメリカが中国同様に「NO-First-Use:NFU(核の先制不使用)」を宣言した場合、核による先制攻撃を受ける可能性が有り、核の傘の実効性が失われるとアメリカがNFUを導入することに批判的である。
2020年6月に公表されたロシアの戦略文書は、ロシア及び同盟国への軍事行動のエスカレーションを防ぐために核を使用するとしている。2015年3月にロシアのテレビ番組のインタビューにおいて、2013年のウクライナ紛争から2014年のクリミア併合に至るまでの間、核兵器使用の準備をしていたかとの問いに、プーチン大統領は「準備はできていた」と回答している。通常戦力の劣勢を補うため、核兵器に依存しており、核兵器使用のハードルは、アメリカに比べ低いことを示している。
「戦略核」と「戦術核」
北朝鮮は、米中ロのような核戦力に関する文書は公表していない。このため、労働新聞等で伝えられる内容から推測せざるを得ない。2021年1月の労働党大会では、「強力で信頼できる核抑止力」が構築されたとし、「敵対的な核兵器国家からの侵略攻撃を撃退し、報復攻撃を行うために、朝鮮人民軍最高司令官(金正恩)の命令によってのみ使用する」、としている。
核兵器国家からの侵略攻撃は、核攻撃に限定されていない。また、倉田秀也日本国際問題研究所客員研究員は、2013年5月21日労働新聞の論評から、北朝鮮が「戦略核」と「戦術核」の効用を区分しており、「戦略核」は「対価値攻撃」を、「戦術核」は「対兵力攻撃」を目的とすると分析している。北朝鮮が短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルに関し、命中率の高さを喧伝するのは、ピンポイントで攻撃する必要がある「対兵力攻撃」を意図しているためと考えられる。
北朝鮮が、労働新聞で明らかにした核戦略に基づいて行動しているとすれば、頻繁に発射されている短距離弾道ミサイルは、射距離が最大でも700km以下であることから、主として韓国の米軍基地を対象とする「戦術核」であろう。多様な軌道の選択や軌道変更能力は、米韓の弾道ミサイル対処能力を考慮したものと考えられる。
一方、今年1月5日及び7日に実施された「極超音速ミサイル」の実験及び1月30日に実施した「火星12号」の発射は、その射距離から、日本又はグアムを目標とする「戦略核」と推定できる。「対価値攻撃」を企図する可能性がある。「核兵器国家からの侵略攻撃を撃退する」という労働新聞の主張に沿えば、その目標は横須賀、佐世保といった米軍基地がある都市となるものと考えられる。
遅すぎる日本の対応
軍事的観点から見た場合、弾道ミサイルのような精密兵器は、常にメンテナスしておくとともに、システムの作動状況を確認するための定期的な発射が必須である。米中ロも弾道ミサイルの発射試験を継続している。今回の「火星12号」の発射は、中距離弾道ミサイルとして安定した性能を発揮できることを示すものである。
北朝鮮の核使用条件に従えば、核保有国であるアメリカの軍事行動で、自らに脅威が及ぶと金正恩が判断した場合、米軍基地が所在する日本の都市が攻撃目標となる。日本として、日本の都市が北朝鮮核攻撃の対象であるとの危機意識を国民全体で共有しなければならない。北朝鮮の弾道ミサイル試験が継続して行われているのに対し、日本の対応は遅い。
弾道ミサイル対応として整備が進められていたイージスアショアは、ミサイルブースターを敷地内に落下させるための改修に時間がかかるという、軍事的不可解さを感じる理由で2020年に撤回された。代替装備として検討されている「イージスシステム搭載艦」の建造についても、ゴールが見えない。更には、憲法上は容認されている「敵基地攻撃能力」についても、議論が深まらず、能力に無関係な「名前の変更」で無駄な時間が費やされている。加えて、政府が「火星12号」の発射に対し「烈度が高い」と表現したことに対し、自民党の外交部会・外交調査合同会議で、出席議員から「烈度」を説明する言葉を入れて用いるべきという発言があったとされている。議論するべきは言葉の使い方ではない。
日本周辺に寒風が吹きすさぶ中、その厳しい環境に気が付かず、のんびりとぬるま湯につかっているような時間はない。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:AP/アフロ
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1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
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・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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2022年1月、北朝鮮は7回にも上るミサイル発射を実施した。その種類は、開発中と見られる「極超音速ミサイル」と称するミサイル、列車発射型短距離ミサイル、巡航ミサイル、米陸軍のATACMS(Army Tactical Missile System)に類似したミサイルと多岐にわたる。
そして1月30日に発射したミサイルは、防衛省が公表したところによると、高度約2,000km、約800km飛翔したとされている。北朝鮮労働新聞も、「火星12号」の発射を行ったことを写真付きで報道している。労働新聞は「周辺国の安全を考慮し、高角発射を行った」としており、高度2,000kmとした防衛省の発表と一致している。
「火星12号」の発射は、2017年5月14日、8月29日及び9月15日に続く4回目である。2、3回目は日本上空を超え、それぞれ約2,700kmと約3,700km飛翔し、太平洋上に落下している。防衛省は、今回発射されたミサイルを、射程約5,000kmの「中距離弾道ミサイル(IRBM)」だとして、北朝鮮は「核兵器の小型化・弾頭化をすでに実現しているとみられる」と評価している。
日本では、「火星12号」の射程と、1月19日に行われた北朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議での「米国の敵対的行為に対抗するため、主動的に講じた信頼構築措置を暫定的に中止し、再稼働させる」との発表から、対米メッセージとする報道が多い。2017年に「火星12号」が日本上空を飛行したことを受けて、J-Alertを始めとした訓練が行われたことと比較すると、日本の危機意識は低い。高軌道(ロフテッド軌道)は、高角を調整すれば日本全土が射程内に入り、弾頭落下時の速度が通常軌道よりも高速なため迎撃が困難となる。他人事のような日本での報道に不安を持つ。
「火星12号」が核弾頭を搭載可能であることから、北朝鮮がどのように核兵器を使おうとしているかを考える必要がある。核兵器を抑止手段の一つとすることは核兵器保有国共通であるが、どのような場合に使用するかについては差異がある。
米中ロはいつ核を使う?
中国は、核兵器の先制使用(first use)を明確に否定している。2019年7月に公表された国防白書「China’s National Defense in the New Era」では、「いかなる時、いかなる環境でも核兵器の先制使用は行わず、核兵器非保有国又は非核化地域において核による恫喝は行わない」、としている。この考え方の背景には、米ロとの核兵器数の圧倒的な差がある。弾道ミサイル等の近代化を進める一方、弾頭数を米ロ並に拡大しようとしないのは、自衛のために最小限の核戦力を保有するという考え方と推定できる。
バイデン政権は、「核態勢見直し(Nuclear Posture Review : NPR)」を行っていると伝えられている。トランプ政権が2018年2月に公表した現在のNPRでは、核兵器の使用は「アメリカ及び同盟国の国益に対する、最も深刻な環境下」においてのみ考慮されるとしている。一方で、核兵器の近代化、低威力核兵器の開発という、核兵器使用のハードルを下げる施策を進めることも示されている。核兵器による攻撃への対応以外にも、核兵器を使用することを想定していると言える。アメリカが核の傘を提供している国々からは、アメリカが中国同様に「NO-First-Use:NFU(核の先制不使用)」を宣言した場合、核による先制攻撃を受ける可能性が有り、核の傘の実効性が失われるとアメリカがNFUを導入することに批判的である。
2020年6月に公表されたロシアの戦略文書は、ロシア及び同盟国への軍事行動のエスカレーションを防ぐために核を使用するとしている。2015年3月にロシアのテレビ番組のインタビューにおいて、2013年のウクライナ紛争から2014年のクリミア併合に至るまでの間、核兵器使用の準備をしていたかとの問いに、プーチン大統領は「準備はできていた」と回答している。通常戦力の劣勢を補うため、核兵器に依存しており、核兵器使用のハードルは、アメリカに比べ低いことを示している。
「戦略核」と「戦術核」
北朝鮮は、米中ロのような核戦力に関する文書は公表していない。このため、労働新聞等で伝えられる内容から推測せざるを得ない。2021年1月の労働党大会では、「強力で信頼できる核抑止力」が構築されたとし、「敵対的な核兵器国家からの侵略攻撃を撃退し、報復攻撃を行うために、朝鮮人民軍最高司令官(金正恩)の命令によってのみ使用する」、としている。
核兵器国家からの侵略攻撃は、核攻撃に限定されていない。また、倉田秀也日本国際問題研究所客員研究員は、2013年5月21日労働新聞の論評から、北朝鮮が「戦略核」と「戦術核」の効用を区分しており、「戦略核」は「対価値攻撃」を、「戦術核」は「対兵力攻撃」を目的とすると分析している。北朝鮮が短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルに関し、命中率の高さを喧伝するのは、ピンポイントで攻撃する必要がある「対兵力攻撃」を意図しているためと考えられる。
北朝鮮が、労働新聞で明らかにした核戦略に基づいて行動しているとすれば、頻繁に発射されている短距離弾道ミサイルは、射距離が最大でも700km以下であることから、主として韓国の米軍基地を対象とする「戦術核」であろう。多様な軌道の選択や軌道変更能力は、米韓の弾道ミサイル対処能力を考慮したものと考えられる。
一方、今年1月5日及び7日に実施された「極超音速ミサイル」の実験及び1月30日に実施した「火星12号」の発射は、その射距離から、日本又はグアムを目標とする「戦略核」と推定できる。「対価値攻撃」を企図する可能性がある。「核兵器国家からの侵略攻撃を撃退する」という労働新聞の主張に沿えば、その目標は横須賀、佐世保といった米軍基地がある都市となるものと考えられる。
遅すぎる日本の対応
軍事的観点から見た場合、弾道ミサイルのような精密兵器は、常にメンテナスしておくとともに、システムの作動状況を確認するための定期的な発射が必須である。米中ロも弾道ミサイルの発射試験を継続している。今回の「火星12号」の発射は、中距離弾道ミサイルとして安定した性能を発揮できることを示すものである。
北朝鮮の核使用条件に従えば、核保有国であるアメリカの軍事行動で、自らに脅威が及ぶと金正恩が判断した場合、米軍基地が所在する日本の都市が攻撃目標となる。日本として、日本の都市が北朝鮮核攻撃の対象であるとの危機意識を国民全体で共有しなければならない。北朝鮮の弾道ミサイル試験が継続して行われているのに対し、日本の対応は遅い。
弾道ミサイル対応として整備が進められていたイージスアショアは、ミサイルブースターを敷地内に落下させるための改修に時間がかかるという、軍事的不可解さを感じる理由で2020年に撤回された。代替装備として検討されている「イージスシステム搭載艦」の建造についても、ゴールが見えない。更には、憲法上は容認されている「敵基地攻撃能力」についても、議論が深まらず、能力に無関係な「名前の変更」で無駄な時間が費やされている。加えて、政府が「火星12号」の発射に対し「烈度が高い」と表現したことに対し、自民党の外交部会・外交調査合同会議で、出席議員から「烈度」を説明する言葉を入れて用いるべきという発言があったとされている。議論するべきは言葉の使い方ではない。
日本周辺に寒風が吹きすさぶ中、その厳しい環境に気が付かず、のんびりとぬるま湯につかっているような時間はない。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:AP/アフロ
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1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
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・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
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3)「ほめる」メディア
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