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シンバイオ製薬 Research Memo(6):「ブリンシドフォビル」はグローバル治験を開始、抗腫瘍効果の研究も進む
配信日時:2021/12/23 15:26
配信元:FISCO
■シンバイオ製薬<4582>の開発パイプラインの動向
3. 「ブリンシドフォビル」(注射剤/経口剤)
(1) 概要とライセンス契約
「ブリンシドフォビル(BCV)」は、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬等で知られているシドフォビル(CDV)に脂肪鎖を結合した構造となっており、CDVよりも高活性の抗ウイルス効果が得られるほか、幅広いウイルスに対して抗ウイルス活性を持つこと、優れた安全性を持つことなどが特徴となっている。また、CDVに脂肪鎖を結合した構造となっていることから、CDV単体よりも細胞内に侵入しやすく、侵入後は脂肪鎖が切り離され、二リン酸と結合することでDNAウイルスの複製を阻害する役割を果たす。こうした作用機序から、CDVや他の抗ウイルス薬と比較してウイルスの増殖抑制効果が格段に高くなるというデータがin vivo試験などで得られている。また、安全性という点においては、CDVが腎尿細管上皮細胞に蓄積することで、腎機能障害を発生するなど腎毒性が強いといった副作用リスクがあったが、「BCV」は脂肪鎖と結合することで逆に腎尿細管上皮細胞内に蓄積されず、腎毒性も回避できるといった優れた特徴を持つ。米国食品医薬品局(FDA)からは、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、天然痘を対象としたファストトラック(優先審査)指定を受けており、欧州EMA(欧州医薬品庁)からも同様のウイルスを対象にオーファンドラッグ指定を受けている。
キメリックスでは「BCV」の経口剤タイプの開発を進めていたが、第3相臨床試験で下痢等の副作用が発生したほか、統計的に有意な結果が得られず開発を中断していた。その後、抗がん剤分野に経営リソースを集中させるため「BCV」のライセンスアウト先を探していたところ、新規導入品を探索していた同社とタイミングが合致し、2019年9月にグローバルでの製造・販売・開発(天然痘を除く)に関するライセンス契約の締結に至った。同社が導入を決めたポイントは、「BCV」が優れた安全性と機能性(広域かつ高い抗ウイルス活性)を持ち、開発成功の可能性が高いと判断したこと、また対象疾患が「希少疾患」かつ「空白の治療領域」で同社の開発ターゲットと合致しているだけでなく、対象疾患が「トレアキシン(R)」と同じ血液疾患領域であり、営業面でのシナジー効果も大きいと判断したことにある。
キメリックスが経口剤の開発に失敗した原因について、同社は消化器官からの薬剤の吸収率が低いため、多量の薬剤を服用せざるを得なかったことにあると見ている。注射剤であれば経口剤の1割の投与量で同じ効果が期待できるため、副作用リスクも低く成功確率は高くなる。今回の契約では注射剤だけでなく経口剤についても契約内容に含まれているが、経口剤に関しても今後、製剤改良を行うことでこうした課題を解決できる可能性があると考えたためだ。なお、天然痘だけ契約の対象外となっているのは、バイオテロ対策として天然痘治療薬を米国政府が自国で製造、備蓄しておく必要があるためである。キメリックスは2021年6月にFDAから天然痘の治療薬として「BCV」経口剤の承認を取得したことを発表している。
今回のライセンス契約ではグローバルライセンスであること、また、製造権も含めた契約になっている点が注目される。対象疾患は造血幹細胞移植後または臓器移植後のウイルス感染症等だが、特に、臓器移植に関しては欧米だけでなくアジアでの症例数も多く、潜在的な市場規模は大きい。同社は従来も「トレアキシン(R)」を韓国、台湾、シンガポール向けにパートナーを通じて販売してきたが、規模は小さく業績に与える影響も軽微だった。「BCV」の海外での開発を積極的に進めていく予定で、海外市場での販売を拡大しグローバル・スペシャリティファーマとして成長していくことを目標としている。
また、製造権も含めたライセンス契約としたのは、2019年に発生した「トレアキシン(R)」での品質不良問題が影響している。製造も含めて自社でコントロールし、事業リスクを極力抑える体制を構築していくことが、患者も含めたすべてのステークホルダーのためとなり、かつ成長を目指していくためには重要であるとの認識だ。なお、「BCV」のライセンス契約では、開発元のキメリックスに対して契約一時金5百万米ドル(約540百万円)を2019年12月期に支払っており、将来的なマイルストーンとして最大180百万米ドル(約194億円)、製品売上高に応じて2ケタ台のロイヤリティを支払う契約となっている。
(2) 今後の開発計画
同社は「BCV」(注射剤)の開発戦略について、2020年2月に開催したグローバルアドバイザリーボードにおいて、「BCV」の強みとなるマルチウイルス活性を生かした開発を進めていくこと、治療薬が無く医療ニーズの高いアデノウイルス※を含むマルチ感染症をターゲットとすること、医療ニーズの高い小児の移植領域を最優先に開発することの3点を決定した。
※アデノウイルス:自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などに感染することによって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健康な人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ治療薬も無いことから、治療薬や予防薬の開発が強く望まれている。
最初の開発ターゲットとして小児を対象とした造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症に対する国際共同第2相臨床試験を開始しており、2021年8月にFPI(第一例目の投与)を達成している。同試験では、安全性、忍容性及び有効性等を評価し、次試験のための推奨用量を決定する試験となる。予定症例数は24例で順調に進めば2022年後半に完了し、2023年にも第3相臨床試験に進む可能性がある。米国と英国の複数の医療施設で試験を実施しているが、コロナ禍の影響により登録ペースはやや遅れ気味となっているようだ。なお、同社では臨床試験を円滑に進めていくためのノウハウや経験を持つマネジメント人材を米国子会社の副社長として招聘し、2021年10月から本格稼働を開始している。パートナー交渉も並行して進めているが、臨床試験の結果を見てから具体的な協議が進むものと思われる。
さらに、2022年には臓器移植後のウイルス感染症を対象とした国際共同臨床試験も開始する意向となっている。世界における造血幹細胞移植(他家移植)の件数が年間3.5万件であるのに対して、臓器移植については11万件を超す市場となっており、ウイルス感染症治療薬または予防薬としての「BCV」の潜在的な成長ポテンシャルは大きく、今後の開発動向が注目される。一方、国内で予定していた造血幹細胞移植後のウイルス性出血性膀胱炎を対象とした開発については、海外での開発を優先するため、当面見送ることとした。
そのほか、海外で「BCV」(注射剤)の持つ抗腫瘍効果を探るための研究も始まっている。具体的には、2021年9月にシンガポール国立がんセンター(以下、NCCS)と、EBウイルス陽性リンパ腫に対する抗腫瘍効果とその機序の探索に関する共同研究契約を締結した。NCCSメディカルオンコロジー部門では、「BCVのEBウイルス陽性リンパ腫に対する作用機序を解明し、本研究から得られる知見を基にBCVの治療効果が期待できる悪性リンパ腫の患者を対象とする臨床試験に進みたい」とコメントしている。また、同年9月にカリフォルニア大学サンフランシスコ校脳神経外科脳腫瘍センターで、脳腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討する臨床前試験が開始されたことを発表している。同センターでは難治性の脳腫瘍に対する新たな治療法の研究を進めており、「BCV」の持つ抗腫瘍効果に着目している。これらの研究によりがん疾患領域においても開発の可能性が広がれば、「BCV」の市場価値もさらに高まることが予想される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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3. 「ブリンシドフォビル」(注射剤/経口剤)
(1) 概要とライセンス契約
「ブリンシドフォビル(BCV)」は、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬等で知られているシドフォビル(CDV)に脂肪鎖を結合した構造となっており、CDVよりも高活性の抗ウイルス効果が得られるほか、幅広いウイルスに対して抗ウイルス活性を持つこと、優れた安全性を持つことなどが特徴となっている。また、CDVに脂肪鎖を結合した構造となっていることから、CDV単体よりも細胞内に侵入しやすく、侵入後は脂肪鎖が切り離され、二リン酸と結合することでDNAウイルスの複製を阻害する役割を果たす。こうした作用機序から、CDVや他の抗ウイルス薬と比較してウイルスの増殖抑制効果が格段に高くなるというデータがin vivo試験などで得られている。また、安全性という点においては、CDVが腎尿細管上皮細胞に蓄積することで、腎機能障害を発生するなど腎毒性が強いといった副作用リスクがあったが、「BCV」は脂肪鎖と結合することで逆に腎尿細管上皮細胞内に蓄積されず、腎毒性も回避できるといった優れた特徴を持つ。米国食品医薬品局(FDA)からは、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、天然痘を対象としたファストトラック(優先審査)指定を受けており、欧州EMA(欧州医薬品庁)からも同様のウイルスを対象にオーファンドラッグ指定を受けている。
キメリックスでは「BCV」の経口剤タイプの開発を進めていたが、第3相臨床試験で下痢等の副作用が発生したほか、統計的に有意な結果が得られず開発を中断していた。その後、抗がん剤分野に経営リソースを集中させるため「BCV」のライセンスアウト先を探していたところ、新規導入品を探索していた同社とタイミングが合致し、2019年9月にグローバルでの製造・販売・開発(天然痘を除く)に関するライセンス契約の締結に至った。同社が導入を決めたポイントは、「BCV」が優れた安全性と機能性(広域かつ高い抗ウイルス活性)を持ち、開発成功の可能性が高いと判断したこと、また対象疾患が「希少疾患」かつ「空白の治療領域」で同社の開発ターゲットと合致しているだけでなく、対象疾患が「トレアキシン(R)」と同じ血液疾患領域であり、営業面でのシナジー効果も大きいと判断したことにある。
キメリックスが経口剤の開発に失敗した原因について、同社は消化器官からの薬剤の吸収率が低いため、多量の薬剤を服用せざるを得なかったことにあると見ている。注射剤であれば経口剤の1割の投与量で同じ効果が期待できるため、副作用リスクも低く成功確率は高くなる。今回の契約では注射剤だけでなく経口剤についても契約内容に含まれているが、経口剤に関しても今後、製剤改良を行うことでこうした課題を解決できる可能性があると考えたためだ。なお、天然痘だけ契約の対象外となっているのは、バイオテロ対策として天然痘治療薬を米国政府が自国で製造、備蓄しておく必要があるためである。キメリックスは2021年6月にFDAから天然痘の治療薬として「BCV」経口剤の承認を取得したことを発表している。
今回のライセンス契約ではグローバルライセンスであること、また、製造権も含めた契約になっている点が注目される。対象疾患は造血幹細胞移植後または臓器移植後のウイルス感染症等だが、特に、臓器移植に関しては欧米だけでなくアジアでの症例数も多く、潜在的な市場規模は大きい。同社は従来も「トレアキシン(R)」を韓国、台湾、シンガポール向けにパートナーを通じて販売してきたが、規模は小さく業績に与える影響も軽微だった。「BCV」の海外での開発を積極的に進めていく予定で、海外市場での販売を拡大しグローバル・スペシャリティファーマとして成長していくことを目標としている。
また、製造権も含めたライセンス契約としたのは、2019年に発生した「トレアキシン(R)」での品質不良問題が影響している。製造も含めて自社でコントロールし、事業リスクを極力抑える体制を構築していくことが、患者も含めたすべてのステークホルダーのためとなり、かつ成長を目指していくためには重要であるとの認識だ。なお、「BCV」のライセンス契約では、開発元のキメリックスに対して契約一時金5百万米ドル(約540百万円)を2019年12月期に支払っており、将来的なマイルストーンとして最大180百万米ドル(約194億円)、製品売上高に応じて2ケタ台のロイヤリティを支払う契約となっている。
(2) 今後の開発計画
同社は「BCV」(注射剤)の開発戦略について、2020年2月に開催したグローバルアドバイザリーボードにおいて、「BCV」の強みとなるマルチウイルス活性を生かした開発を進めていくこと、治療薬が無く医療ニーズの高いアデノウイルス※を含むマルチ感染症をターゲットとすること、医療ニーズの高い小児の移植領域を最優先に開発することの3点を決定した。
※アデノウイルス:自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などに感染することによって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健康な人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ治療薬も無いことから、治療薬や予防薬の開発が強く望まれている。
最初の開発ターゲットとして小児を対象とした造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症に対する国際共同第2相臨床試験を開始しており、2021年8月にFPI(第一例目の投与)を達成している。同試験では、安全性、忍容性及び有効性等を評価し、次試験のための推奨用量を決定する試験となる。予定症例数は24例で順調に進めば2022年後半に完了し、2023年にも第3相臨床試験に進む可能性がある。米国と英国の複数の医療施設で試験を実施しているが、コロナ禍の影響により登録ペースはやや遅れ気味となっているようだ。なお、同社では臨床試験を円滑に進めていくためのノウハウや経験を持つマネジメント人材を米国子会社の副社長として招聘し、2021年10月から本格稼働を開始している。パートナー交渉も並行して進めているが、臨床試験の結果を見てから具体的な協議が進むものと思われる。
さらに、2022年には臓器移植後のウイルス感染症を対象とした国際共同臨床試験も開始する意向となっている。世界における造血幹細胞移植(他家移植)の件数が年間3.5万件であるのに対して、臓器移植については11万件を超す市場となっており、ウイルス感染症治療薬または予防薬としての「BCV」の潜在的な成長ポテンシャルは大きく、今後の開発動向が注目される。一方、国内で予定していた造血幹細胞移植後のウイルス性出血性膀胱炎を対象とした開発については、海外での開発を優先するため、当面見送ることとした。
そのほか、海外で「BCV」(注射剤)の持つ抗腫瘍効果を探るための研究も始まっている。具体的には、2021年9月にシンガポール国立がんセンター(以下、NCCS)と、EBウイルス陽性リンパ腫に対する抗腫瘍効果とその機序の探索に関する共同研究契約を締結した。NCCSメディカルオンコロジー部門では、「BCVのEBウイルス陽性リンパ腫に対する作用機序を解明し、本研究から得られる知見を基にBCVの治療効果が期待できる悪性リンパ腫の患者を対象とする臨床試験に進みたい」とコメントしている。また、同年9月にカリフォルニア大学サンフランシスコ校脳神経外科脳腫瘍センターで、脳腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討する臨床前試験が開始されたことを発表している。同センターでは難治性の脳腫瘍に対する新たな治療法の研究を進めており、「BCV」の持つ抗腫瘍効果に着目している。これらの研究によりがん疾患領域においても開発の可能性が広がれば、「BCV」の市場価値もさらに高まることが予想される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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