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イズムレスの時代:資本主義・民主主義・保守主義・社会主義・自由主義(1-1)【実業之日本フォーラム】
配信日時:2021/10/05 17:16
配信元:FISCO
ゲスト
船橋洋一(実業之日本フォーラム編集顧問、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆)
聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)
■コロナがあぶり出した「政府の役割」
白井:新型コロナウイルスの感染拡大に対し、日本でも、遅ればせながらワクチンの接種が進みつつあります。今回の未曾有とでもいうべきパンデミックは、それぞれの国の社会制度や政治システムに大きな影響を与えていると思います。本来平等でなければならない医療に関しても、国家間における格差、同じ国であっても富める者と貧しいものでは、健康状態や受けることのできる治療にも格差が出ています。アメリカは、これに加え大統領選挙において、二極分化がさらに進んでいます。今年1月に成立したバイデン政権の最も大きな課題は、この分断をいかに修復するかだと言われていますが、難しい問題だと思います。今回の新型コロナウイルスの感染拡大の終息はまだまだ見通せませんが、今後の国際政治に与える影響についてどのように考えておられるでしょうか。
船橋:「エコノミスト」誌の前編集長であるビル・エモット氏を中心として、世界で15人の人間が、ポストコロナの世界秩序懇談会という会を設置しています。日本からは、私が参加しています。先日、コロナの意味はどこに出てきているのかということについてプレゼンテーションを行いました。
そこでも議論がにぎわったところですが、私は今回、「政府の役割は何だ」、という点が問われたと思います。今回のようなパンデミックが起こると、国が総力戦で戦わなければなりません。その際に、政府が役割をきちんと果たしているかどうかという事は、決定的に重要だということを改めて認識しました。政府ってやはり大切だということとともに、政府っていざというとき弱いね、頼りないね、もっと強くしなければいけないんじゃないの、といったことも含めて政府の役割への関心が強まったと思うんです。
アメリカとイギリスは、今回初動において政府が全く機能しませんでした。人口比の犠牲者数も、他国に比較すると高い傾向にありました。これは、レーガン、サッチャー時代のネオリベラル、すなわち政府は小さければ小さい方がいいという考え方が両国で定着したことに原因があると考えています。アメリカではその後も、移民に対する福祉政策について、横からの“割り込み”に対する憤り(ルサンチマン)というポピュリズムを生みだしました。これが特に、リーマン・ショック後に吹き出てきました。ティーパーティ運動は、その最たるものだと思います。
イギリスも同じような形で、移民に対する警戒感の増大というポピュリズムからブレクジットに繋がりました。いずれも、政府に対する国民の強い不信感があります。このため、国民からのバッシングを恐れた政府は、強いリーダーシップをとれないという状況になります。アメリカもイギリスも政府がうまく機能せず、このことが新型コロナ対応に遅れをとった理由ではないかと思います。
白井:確かにアメリカやイギリスと比較すると、中国自身は否定していますが、発生源となった中国が、いち早くコロナ禍から抜け出し、更にはワクチンを武器として影響力拡大を図りつつあるという皮肉な状況となっています。これを、「健康シルクロード(Health Silk Road)」という人もいます。一帯一路の経済が、「新植民地主義」であるとか、「債務の罠」と疑いの目を向けられている現在、健康が今後のキーワードになるのかもしれません。更に検証が必要だと思いますが、現時点で、コロナ対策をうまく行った国は、何が良かったと思われますか。
船橋:アジアの中で、コロナ対策をうまくやった国について、体制を問わずに言うと、中国、韓国、香港、シンガポール、台湾といった国が挙げられます。日本も泥縄的でしたが、比較的うまく対応したのではないかと思います。これらの国に共通して言えるのは、日本を除いて、いずれも開発独裁国家であることです。少なくとも、かつて「4龍」と言われた韓国、台湾、香港、シンガポールは、非常に強い国家権力が財政出動を行い、産業政策を推進することによりインフラ整備を行い、経済開発、発展を行ってきました。更には、韓国及び台湾の様に、政府主導の産業政策により中産階級を生み、これが民主化の原動力となった国もあります。これらの国々では、政府の役割を認め、これに従うという政治文化があります。
一方で、政府は重要ですが、政府だけでは何もできないことも今回、よくわかった。関係者が力を併せ、国民と連帯していく枠組みが必要です。其れも含めて統治のあり方が問われたと言えます。今回のような国家的危機においては、統治の出来、不出来あるいは質というものが決定的に重要であることが明らかになったと言えるでしょう。民主主義、人権、司法の独立といったものが重要であることはそのとおりですが、危機においては、国民の健康と生命を守ること、最大多数の最大健康を守ることが優先されます。ここを問われた時には、政治体制を問わず、政府の役割と統治の質が決定的に重要です。結果が全てです。「完璧な憲法です、完全な司法の独立です、言論の自由が保障されています」、といっても、国民の命が守れなければレッドカードが出るということが今回明らかになったことだと思います。
(本文敬称略)
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
<RS>
船橋洋一(実業之日本フォーラム編集顧問、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆)
聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)
■コロナがあぶり出した「政府の役割」
白井:新型コロナウイルスの感染拡大に対し、日本でも、遅ればせながらワクチンの接種が進みつつあります。今回の未曾有とでもいうべきパンデミックは、それぞれの国の社会制度や政治システムに大きな影響を与えていると思います。本来平等でなければならない医療に関しても、国家間における格差、同じ国であっても富める者と貧しいものでは、健康状態や受けることのできる治療にも格差が出ています。アメリカは、これに加え大統領選挙において、二極分化がさらに進んでいます。今年1月に成立したバイデン政権の最も大きな課題は、この分断をいかに修復するかだと言われていますが、難しい問題だと思います。今回の新型コロナウイルスの感染拡大の終息はまだまだ見通せませんが、今後の国際政治に与える影響についてどのように考えておられるでしょうか。
船橋:「エコノミスト」誌の前編集長であるビル・エモット氏を中心として、世界で15人の人間が、ポストコロナの世界秩序懇談会という会を設置しています。日本からは、私が参加しています。先日、コロナの意味はどこに出てきているのかということについてプレゼンテーションを行いました。
そこでも議論がにぎわったところですが、私は今回、「政府の役割は何だ」、という点が問われたと思います。今回のようなパンデミックが起こると、国が総力戦で戦わなければなりません。その際に、政府が役割をきちんと果たしているかどうかという事は、決定的に重要だということを改めて認識しました。政府ってやはり大切だということとともに、政府っていざというとき弱いね、頼りないね、もっと強くしなければいけないんじゃないの、といったことも含めて政府の役割への関心が強まったと思うんです。
アメリカとイギリスは、今回初動において政府が全く機能しませんでした。人口比の犠牲者数も、他国に比較すると高い傾向にありました。これは、レーガン、サッチャー時代のネオリベラル、すなわち政府は小さければ小さい方がいいという考え方が両国で定着したことに原因があると考えています。アメリカではその後も、移民に対する福祉政策について、横からの“割り込み”に対する憤り(ルサンチマン)というポピュリズムを生みだしました。これが特に、リーマン・ショック後に吹き出てきました。ティーパーティ運動は、その最たるものだと思います。
イギリスも同じような形で、移民に対する警戒感の増大というポピュリズムからブレクジットに繋がりました。いずれも、政府に対する国民の強い不信感があります。このため、国民からのバッシングを恐れた政府は、強いリーダーシップをとれないという状況になります。アメリカもイギリスも政府がうまく機能せず、このことが新型コロナ対応に遅れをとった理由ではないかと思います。
白井:確かにアメリカやイギリスと比較すると、中国自身は否定していますが、発生源となった中国が、いち早くコロナ禍から抜け出し、更にはワクチンを武器として影響力拡大を図りつつあるという皮肉な状況となっています。これを、「健康シルクロード(Health Silk Road)」という人もいます。一帯一路の経済が、「新植民地主義」であるとか、「債務の罠」と疑いの目を向けられている現在、健康が今後のキーワードになるのかもしれません。更に検証が必要だと思いますが、現時点で、コロナ対策をうまく行った国は、何が良かったと思われますか。
船橋:アジアの中で、コロナ対策をうまくやった国について、体制を問わずに言うと、中国、韓国、香港、シンガポール、台湾といった国が挙げられます。日本も泥縄的でしたが、比較的うまく対応したのではないかと思います。これらの国に共通して言えるのは、日本を除いて、いずれも開発独裁国家であることです。少なくとも、かつて「4龍」と言われた韓国、台湾、香港、シンガポールは、非常に強い国家権力が財政出動を行い、産業政策を推進することによりインフラ整備を行い、経済開発、発展を行ってきました。更には、韓国及び台湾の様に、政府主導の産業政策により中産階級を生み、これが民主化の原動力となった国もあります。これらの国々では、政府の役割を認め、これに従うという政治文化があります。
一方で、政府は重要ですが、政府だけでは何もできないことも今回、よくわかった。関係者が力を併せ、国民と連帯していく枠組みが必要です。其れも含めて統治のあり方が問われたと言えます。今回のような国家的危機においては、統治の出来、不出来あるいは質というものが決定的に重要であることが明らかになったと言えるでしょう。民主主義、人権、司法の独立といったものが重要であることはそのとおりですが、危機においては、国民の健康と生命を守ること、最大多数の最大健康を守ることが優先されます。ここを問われた時には、政治体制を問わず、政府の役割と統治の質が決定的に重要です。結果が全てです。「完璧な憲法です、完全な司法の独立です、言論の自由が保障されています」、といっても、国民の命が守れなければレッドカードが出るということが今回明らかになったことだと思います。
(本文敬称略)
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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