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アンジェス Research Memo(5):OMNIプラットフォームはゲノム編集技術のなかでも安全性の高さに強み
配信日時:2025/08/04 12:05
配信元:FISCO
*12:05JST アンジェス Research Memo(5):OMNIプラットフォームはゲノム編集技術のなかでも安全性の高さに強み
■アンジェス<4563>のEmendoBio Inc.の開発状況
1. ゲノム編集技術とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、狙った遺伝子を改変する技術を指す。2012年に従来より短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化した。米国Vertex Pharmaceuticals Inc.とスイスのCRISPR Therapeuticsが同技術を用いて共同開発した遺伝性血液疾患「鎌状赤血球貧血症※」を適応症とした治療法が、2023年11月に英国、同年12月に米国で初めて承認された。患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変し、それを注射投与で体内に戻すことで治療効果を得る治療法である。
※ 鎌状赤血球貧血症とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素の運搬に使われるタンパク質)が遺伝子異常によって変形することで赤血球が鎌状となって壊れやすくなり貧血の症状を起こす疾患。症状が悪化すると壊れた鎌状赤血球によって毛細血管が遮断され激痛が生じるほか、長期にわたる場合、腎不全や心不全を惹き起こすケースもある。米国内の患者数は約10万人。従来は、白血球の型である「HLA型」が一致するドナーから造血幹細胞の提供を受ける以外に治療の選択肢がなかった。今回承認されたのは、血管閉塞性危機が定期的に起きる12歳以上の患者を対象としている。
CRISPR/Cas9は初承認を得たことで一定の安全性が確認されたが、依然としてオフターゲット効果の懸念は残っている。これに対して、Emendoが独自開発したOMNIプラットフォームは、より高精度かつ安全性の高いヌクレアーゼを探索・最適化することで、オフターゲット効果を回避する次世代のゲノム編集技術である。自社開発したヌクレアーゼのうち250超については特許を申請している。ゲノム編集技術による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームは強みになると弊社では評価する。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能な点が挙げられる。これは、対をなすアレル(対立遺伝子)のうち、異常のある片方のみをターゲットにして編集を行い、正常な遺伝子を傷つけずに治療する技術である。ヒトは父型と母型の2つのアレルを一対で持っており、片方のアレルに異常があることで発症する遺伝性疾患は「顕性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)」、両方のアレルに異常があることで発症する疾患は「潜性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)」、または「伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる疾患)」と呼ぶ。アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは、これらのうちの一部であり、遺伝性疾患の過半を占めるとされている。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療法の開発領域が非常に広いことを意味する。Emendoの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円、このうち約1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になり得ると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。ゲノム編集技術を用いた開発が活発化するなかで、OMNIプラットフォームへの注目も一段と高まることが期待される。
OMNI技術はライセンスビジネスに軸足
2. 事業戦略
Emendoはピーク時に100人超まで増員したイスラエルの研究所の人員を2024年にスリム化し、現在はゲノム編集技術に関する研究者とITエンジニアで20数名程度の体制となっている。事業戦略としては財務状況を踏まえ、これまで開発してきた250を超えるOMNIヌクレアーゼやOMNIプラットフォームのライセンス活動に集中している。
ライセンス契約に関しては、2024年3月にがん免疫療法の一種である遺伝子改変T細胞療法※1のなかでも固形がんに効果があるとされるTCR-T細胞療法の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca AB(以下、Anocca)※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて、難治性固形がんにおけるKRASタンパク質の変異を標的とした開発を進めている。2025年よりEUで変異KRAS陽性進行性すい臓がんを対象とした第1/2相臨床試験を複数の開発候補品を用いて実施する予定となっており、そのうちの1つにOMNI-A4ヌクレアーゼを用いた開発品が加わる可能性がある。Anoccaでは、ゲノム編集技術としてOMNIプラットフォームとCRISPR/Cas9の両方の技術を試した結果、OMNIプラットフォームによる安全性を高く評価しており契約に至っている。この契約締結によってEmendoは契約一時金(50万米ドル、2024年に受領済み)と開発マイルストーンを合わせて総額で最大約100百万米ドルを受領する可能性があり、製品が販売された場合にはロイヤリティも受領する。
※1 遺伝子改変T細胞療法とは、患者自身から取り出したT細胞内にがん抗原特異的T細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子改変操作によって発現させ、同細胞を増殖させて体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法。
※2 2014年に設立されたバイオベンチャーで、科学者、エンジニア、ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T細胞療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。
そのほかの企業との契約交渉についても現在、複数の企業でOMNIプラットフォームの評価を行っている状況にある。欧州の大手製薬企業では2025年内にも技術評価を終える見通しで、ライセンス契約に発展する可能性があり、今後の動向が注目される。また、2025年1月には米国スタンフォード大学と、ゲノム編集技術を用いた新規がん治療法の開発に関する共同研究契約を締結した。遺伝性の難治性乳がん治療についてOMNIヌクレアーゼを用いた遺伝子治療の研究開発を進める(研究期間約2年、研究費約130万米ドルを予定)。スタンフォード大学が持つ細胞への薬剤送達技術とEmendoのゲノム編集技術を組み合わせることで、がん放射線療法やがん免疫療法の効率を大幅に高める治療法の開発が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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1. ゲノム編集技術とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、狙った遺伝子を改変する技術を指す。2012年に従来より短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化した。米国Vertex Pharmaceuticals Inc.とスイスのCRISPR Therapeuticsが同技術を用いて共同開発した遺伝性血液疾患「鎌状赤血球貧血症※」を適応症とした治療法が、2023年11月に英国、同年12月に米国で初めて承認された。患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変し、それを注射投与で体内に戻すことで治療効果を得る治療法である。
※ 鎌状赤血球貧血症とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素の運搬に使われるタンパク質)が遺伝子異常によって変形することで赤血球が鎌状となって壊れやすくなり貧血の症状を起こす疾患。症状が悪化すると壊れた鎌状赤血球によって毛細血管が遮断され激痛が生じるほか、長期にわたる場合、腎不全や心不全を惹き起こすケースもある。米国内の患者数は約10万人。従来は、白血球の型である「HLA型」が一致するドナーから造血幹細胞の提供を受ける以外に治療の選択肢がなかった。今回承認されたのは、血管閉塞性危機が定期的に起きる12歳以上の患者を対象としている。
CRISPR/Cas9は初承認を得たことで一定の安全性が確認されたが、依然としてオフターゲット効果の懸念は残っている。これに対して、Emendoが独自開発したOMNIプラットフォームは、より高精度かつ安全性の高いヌクレアーゼを探索・最適化することで、オフターゲット効果を回避する次世代のゲノム編集技術である。自社開発したヌクレアーゼのうち250超については特許を申請している。ゲノム編集技術による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームは強みになると弊社では評価する。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能な点が挙げられる。これは、対をなすアレル(対立遺伝子)のうち、異常のある片方のみをターゲットにして編集を行い、正常な遺伝子を傷つけずに治療する技術である。ヒトは父型と母型の2つのアレルを一対で持っており、片方のアレルに異常があることで発症する遺伝性疾患は「顕性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)」、両方のアレルに異常があることで発症する疾患は「潜性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)」、または「伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる疾患)」と呼ぶ。アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは、これらのうちの一部であり、遺伝性疾患の過半を占めるとされている。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療法の開発領域が非常に広いことを意味する。Emendoの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円、このうち約1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になり得ると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。ゲノム編集技術を用いた開発が活発化するなかで、OMNIプラットフォームへの注目も一段と高まることが期待される。
OMNI技術はライセンスビジネスに軸足
2. 事業戦略
Emendoはピーク時に100人超まで増員したイスラエルの研究所の人員を2024年にスリム化し、現在はゲノム編集技術に関する研究者とITエンジニアで20数名程度の体制となっている。事業戦略としては財務状況を踏まえ、これまで開発してきた250を超えるOMNIヌクレアーゼやOMNIプラットフォームのライセンス活動に集中している。
ライセンス契約に関しては、2024年3月にがん免疫療法の一種である遺伝子改変T細胞療法※1のなかでも固形がんに効果があるとされるTCR-T細胞療法の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca AB(以下、Anocca)※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて、難治性固形がんにおけるKRASタンパク質の変異を標的とした開発を進めている。2025年よりEUで変異KRAS陽性進行性すい臓がんを対象とした第1/2相臨床試験を複数の開発候補品を用いて実施する予定となっており、そのうちの1つにOMNI-A4ヌクレアーゼを用いた開発品が加わる可能性がある。Anoccaでは、ゲノム編集技術としてOMNIプラットフォームとCRISPR/Cas9の両方の技術を試した結果、OMNIプラットフォームによる安全性を高く評価しており契約に至っている。この契約締結によってEmendoは契約一時金(50万米ドル、2024年に受領済み)と開発マイルストーンを合わせて総額で最大約100百万米ドルを受領する可能性があり、製品が販売された場合にはロイヤリティも受領する。
※1 遺伝子改変T細胞療法とは、患者自身から取り出したT細胞内にがん抗原特異的T細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子改変操作によって発現させ、同細胞を増殖させて体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法。
※2 2014年に設立されたバイオベンチャーで、科学者、エンジニア、ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T細胞療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。
そのほかの企業との契約交渉についても現在、複数の企業でOMNIプラットフォームの評価を行っている状況にある。欧州の大手製薬企業では2025年内にも技術評価を終える見通しで、ライセンス契約に発展する可能性があり、今後の動向が注目される。また、2025年1月には米国スタンフォード大学と、ゲノム編集技術を用いた新規がん治療法の開発に関する共同研究契約を締結した。遺伝性の難治性乳がん治療についてOMNIヌクレアーゼを用いた遺伝子治療の研究開発を進める(研究期間約2年、研究費約130万米ドルを予定)。スタンフォード大学が持つ細胞への薬剤送達技術とEmendoのゲノム編集技術を組み合わせることで、がん放射線療法やがん免疫療法の効率を大幅に高める治療法の開発が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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