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IGS Research Memo(5):2025年3月期は修正計画を上回って着地も、利益面は損失幅拡大

配信日時:2025/06/17 13:05 配信元:FISCO
*13:05JST IGS Research Memo(5):2025年3月期は修正計画を上回って着地も、利益面は損失幅拡大 ■Institution for a Global Society<4265>の業績動向

1. 2025年3月期の業績概要
2025年3月期の業績は、売上高が前期比34.2%減の602百万円、営業損失が303百万円(前期は21百万円の損失)、経常損失が295百万円(同21百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失が336百万円(同21百万円の損失)と、減収減益での着地となった。

売上高の主な減少要因は、HR事業及びプラットフォーム/Web3事業である。主力のHR事業では、プロダクト新機能リリースの遅延が影響したことに加え、人的資本経営の推進を掲げるなかで同社が主導する人的資本研究会への参画企業数が減少したことも、収益機会の縮小につながった。プラットフォーム/Web3事業では、転職支援サービスにおいて競争環境が一層厳しさを増したことにより、大幅減収となった。損益面は、売上高の減少により固定費や先行投資のコスト吸収が困難となり、損失幅が拡大した。

なお、同社は2025年2月13日に通期業績計画の減額修正を発表しており、売上高は1,050百万円から600百万円、営業損益は37百万円の利益から318百万円の損失、経常損益は37百万円の利益から304百万円の損失、親会社株主に帰属する当期純損益は35百万円の利益から345百万円の損失に修正した。この修正計画に対しては、いずれの項目も上回って着地した。


新機能の開発遅延や転職支援の競争激化などの影響が響いた

2. 事業セグメント別動向
(1) HR事業
HR事業の売上高は前期比30.4%減の238百万円、セグメント損失は21百万円(前期は130百万円の利益)となった。主力プロダクト「GROW360」の新機能開発において、インドのITベンダーに外注したプロジェクトで品質及び納期のトラブルが発生した。内部リソースの不足などにより、開発プロセスを自社内で十分にコントロールできず、同機能のリリースが遅延してしまい、売上げ機会の逸失につながった。また、人的資本研究会においては参画企業数が減少したことに加え、前述のプロダクトのトラブルにより、アップセルを予定していたサービスの提案及び提供を行うことができず、既存顧客へ追加提案ができなかった。また、人材育成面でも課題が顕在化した。新規採用や研修施策を拡大したものの、育成成果や定着率が同社の期待値に届かず、プロジェクト管理やスキルマッチングの不十分さが露呈した。社内リソースの不足が継続した結果、コンサルティングサービスや開発業務において全体的に事業推進力の低下を招いた。

なお、HR事業における顧客のサービス継続率は前期比5ポイント増の66%と改善した。減収の要因は顧客がサービスから離脱したことではなく、同社が既存顧客に対して当初想定していたとおりにアップセルを通じた高付加価値サービスの提供を十分にできなかったことにある。したがって、表面的には売上げが下がっているように見えるものの、実際には顧客基盤は安定しており、継続率の改善についてはポジティブに評価したい。また、現在はプロダクトの内製化を着実に進めており、開発スピード及び品質の向上、市場ニーズへの柔軟な対応など、事業成長に向けた基盤が整いつつある。今後は既存顧客に対して積極的にアップセルを展開して顧客単価を伸ばすための戦略を進め、顧客価値と事業収益性の向上を図っていくと見込まれる。

(2) 教育事業
教育事業の売上高は前期比4.8%増の308百万円、セグメント利益は同2.5%減の97百万円となった。「Ai GROW」の着実な成長に加え、JTBと共同開発した「J’s GROW」の導入が進み、導入校数が大きく拡大した。顧客校数は前期比93校増となる463校に達し、全国47都道府県すべてでの導入が実現した。地域を問わず学校現場における探究学習の重要性が高まり、個別最適化された学習支援ツールへの需要が拡大していることに加え、経済産業省による「働き方改革支援補助金2024」の交付が決定されたことも導入拡大の後押しとなった。同補助金は、学校現場における教育DXを支援する制度であり、同社のソリューションはその対象として高い評価を受けている。

他方で、政府補助金の一部が減額され、教育機関が初年度導入時に享受することができるコストメリットが限定的となった。特に経済産業省による補助金がハードウェア中心に配分されたため、ソフトウェアである「Ai GROW」などの導入には十分活用されなかったという課題も見られた。それでも、補助金などの外的要因を除けば、事業自体は堅調に推移しており、プロダクトの認知度や有用性に対する評価も着実に高まっている。今後は、補助金に依存しない導入モデルの構築、導入後の効果検証に基づく継続的なサービス改善により、さらに多くの教育現場への展開が期待される。

(3) プラットフォーム/Web3事業
プラットフォーム/Web3事業の売上高は前期比80.0%減の55百万円、セグメント損失は146百万円(前期は38百万円の損失)となり、外部環境の変化に大きく影響を受けた1年となった。同社は受講者が無償で学び、その後のキャリア支援を通じて転職を実現する成功報酬型のビジネスモデルを展開してきたが、政府によるリスキリング補助金制度の拡充により、他社からも無料または低価格の講座が多数提供されるようになり、同社の無料学習モデルにおける競争優位性が相対的に低下した。市場構造の変化により、企業からの採用ニーズの獲得が当初計画よりも遅れ、収益面で大きな影響を受けた。また、未経験人材を対象としたポジションにおいては年収が現職より下がるケースが多かったため、内定承諾率が伸び悩んだ。さらに、確度が高いと見られた国の入札案件にも応募していたが、最終的に落選したことが更なる減収要因となった。

他方で、Web3技術を活用した学習履歴の証明やスキル可視化など基盤技術の開発は着実に進んでおり、今後の展開に向けた技術的な土台は整いつつある。今後は、市場ニーズの変化に柔軟に対応しつつ、より確度の高いマッチングや収益モデルの再構築が求められる。

3. 財務状況と経営指標
2025年3月期末の財務状況を見ると、総資産は前期末比323百万円減少の768百万円となった。主な減少要因は現金及び預金が310百万円減少したことである。負債合計は同13百万円減少の64百万円となった。主な減少要因は未払金が4百万円、未払費用が3百万円、預り金が4百万円、それぞれ減少したことなどである。純資産合計は同309百万円減少の704百万円となった。主な減少要因は利益剰余金が親会社株主に帰属する当期純損失の計上により207百万円減少したことである。なお、減資及び欠損填補により、資本金が47百万円、資本準備金が81百万円減少し、利益剰余金が128百万円増加している。

主に本業の損失計上により現金及び預金が大きく減少したことを背景に、総資産及び純資産がともに縮小した。自己資本比率は88.2%と引き続き高水準を維持しているものの、前期末比で4.7ポイント低下しており、今後の動向を注視していく必要がある。現金及び預金から有利子負債を差し引いて求められるネットキャッシュの減少は、本業によるキャッシュフローの悪化が影響しており、事業面での収益回復が引き続き重要な課題となる。他方で、減資及び欠損填補を通じて資本金と資本準備金を見直し、利益剰余金を増加させるなど、財務基盤の再整備に向けた取り組みも進められている。今後は、市場環境や政策動向の変化に柔軟に対応しながら収益性の改善に向けた取り組みを着実に進めるとともに、コスト構造の最適化や資金の活用方針などを慎重に見極め、より強固な経営基盤の構築を図ることが求められよう。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 吉林拓馬)

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