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筑波精工 Research Memo(4):「ステージ」など3製品を製造。根幹技術は静電チャック(2)
配信日時:2025/06/12 14:04
配信元:FISCO
*14:04JST 筑波精工 Research Memo(4):「ステージ」など3製品を製造。根幹技術は静電チャック(2)
■筑波精工<6596>の事業概要
3. 半導体業界の動向
(1) 半導体製造プロセス
一般的にメーカーが半導体(ICチップ)を製造するプロセスは、まずシリコンインゴットを薄く切りウエハを作成する。この時点でウエハの厚さは約700μあるが、この表面に真空蒸着、エッチング、アニーリング、スパッタリング、イオン注入などの方法で回路を形成する。パワー半導体に特徴的なプロセスとして、回路側の面に保護用のテープを貼付し、裏面を研磨して100~150μまで薄くした後に、さらに裏面へのイオン注入やアニールなどの工程が必要となる。これらの工程を何度も繰り返してようやく1枚のウエハの回路作成が完了するため、回路作成には通常は6~10日ほど、複雑な回路では1ヶ月近くかかる場合もある。
この間、ウエハは真空状態や高温のプロセスなどを何度も繰り返し移動するが、裏面研磨後のウエハは非常に薄く、回路形成によるストレス蓄積等のため反りや割れといった損壊が発生しやすい。そのため回路生成プロセスにおいては、ウエハの表面(表面の回路が形成された面)に保持材を貼り補強してから裏面の回路形成プロセス間を移動させて、回路裏面の回路形成が終了した後、最終的にこの保持材を分離する。従来は、この裏面保持の方法として保持材を接着剤で貼り付けて補強するのが一般的であったが、今後自動車分野でのパワー半導体(IGBT等)の需要が高まればウエハはさらなる薄型化と大口径化が進むと予想されている。接着剤方式では薄型化(100μ以下)と大口径化(12インチ)への対応が難しいと業界では見られている。
(2) 自動車向け半導体
近年自動車のEV化が急速に進んでいる。自動車のEV化にとって重要な要素の1つが半導体の供給である。特に動力(パワー)部分では、バッテリーから出た電気(DC=直流)をモーターで使用する交流(AC)に高速で変えるインバータが必須の部品となる。インバータ用の半導体(IGBT)では、径を大きくすることで1枚のウエハからより多くの半導体を作成できるため生産効率が上がり、1個当たりのコストを下げられる。しかし大容量(高アンペア)かつ高電圧(高ボルト)で表面と裏面の間でスイッチングを高速で繰り返すため、ウエハが厚い状態では発熱量※が増えることから、発熱の原因となるオン抵抗値をできる限り小さくするためウエハを薄型化する必要がある。半導体メーカーは、発熱量の点から半導体をできるだけ薄いウエハで生産し、かつ生産効率の点から大口径のウエハでの生産を目指している。
※ インバータに使われるIGBTやMOSFETが発熱すると、EVのエネルギー効率が低下する。
(3) 半導体の薄型化と静電チャック
IGBTの生産プロセスでは、ウエハの薄型化がさらに進むという見方もある。さらに、多くのメーカーが生産効率の点から12インチ(300mm)ウエハへ移行する可能性が高い。その結果、ウエハはより薄く大きくなるため、反りや割れといった損壊のリスクが一段と高まる。それを避けるために保持材の貼付が必須となるが、従来の接着剤方式ではプロセスのなかで溶剤がガス化して半導体を汚染するリスクがある。また、保持剤を取り外す際にウエハが破損するリスクが高まるなど難点が多いと言われている。
そこで注目されているのが、同社が提供する静電チャック(方式)である。前述のとおり、同社の製品は一度電界をかけると半永久的に吸着保持を維持し、真空・高温などの環境下でも保持力が落ちないため、薄型化・大口径化されたウエハに対して最適な製品と言える。
(4) 半導体の微細化と静電チャック
もう1つの半導体業界の動向としては「微細化」が挙げられる。特にAI半導体などで超微細化が進んでいるが、現状ではプロセス装置や検査装置内のウエハ吸着固定による極微細な接触傷が歩留まりを低下させている。このため、キャリア(Carrier)でウエハをソフト吸着固定し、キャリアを固定することで間接的にウエハを固定する方法が歩留まり向上のために有効である。例えば5nmパターン以下では、「Supporter」(Carrier)」を使えばウエハを全面でソフト吸着するため、ウエハ面積当たりに作用する吸着応力が大きく低下する。従来のメカクランプ等による集中応力によって起こされる局所的なウエハ接触傷を減らすことで、結果として歩留まりの向上につながる。その上、「Supporter」吸着面は半導体ウエハに比べて柔らかいPI樹脂で形成されているため、相対的に硬い半導体ウエハ面を傷付けにくい。
EV向け半導体では、「ウエハの薄型化」が命題であったが、AI半導体向けでは「接触傷の減少による歩留まり向上」として、大手ファウンドリから注目され始めている。
4. 主な顧客と需要
同社の主力製品である「Supporter」の主要顧客は半導体のデバイスメーカーである。需要は、生産される半導体の数(ウエハの枚数)に比例する。「Supporter」は1枚のウエハが一通りのプロセスを終了した後、ウエハから外し洗浄してから繰り返し利用できる。したがって、仮に一通りのプロセスを終了するのに6日かかるとすると、1枚の「Supporter」は月に5回利用できるため、ウエハの生産能力の5分の1の枚数が必要になる(例:ウエハ生産能力が5万枚/月であれば、1万枚の「Supporter」が必要)。なお、「Supporter」の絶対寿命は約2年間である。
同社の主要顧客については開示されていないが、同社によるとIGBTの表面パターン(回路生成)に関連した特許は米国と日本に多く、この分野では中国が遅れている。そのため中国は表面プロセスではなく、薄型化の分野(裏面プロセス)へ積極的に投資を行っており、同社の主要顧客も中国や台湾メーカーが多いようだ。参考として、同社公開資料「中間発行者情報」に記載された2025年3月期第2四半期の販売先別実績の上位は、Suzhou Dongwu Precision Technology Co., Ltd.(中国)、売上高25百万円(売上高比率21.8%)となっている。
5. 同社の生産能力と特許政策及び競合
同社製品の生産については、一部を内製し、その他の部分を数ヶ所に分けて外注する「ファブライト」方式を採用している。このため外注先は最終的にどのような製品になるかはわからない。また需要が急増した場合でも、大型の生産設備を必要とする製品ではないため、同社は「生産が間に合わない事態にはならない」と説明している。
特許についても、外注の分散と同様に秘匿性を高める策を講じている。同社は数多くの特許を保有しているが、すべての技術・ノウハウを特許申請しているわけではない。申請をしていない技術の詳細は不明であり、競合会社が同社の技術を盗用して類似製品を製造することは難しい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
<HN>
3. 半導体業界の動向
(1) 半導体製造プロセス
一般的にメーカーが半導体(ICチップ)を製造するプロセスは、まずシリコンインゴットを薄く切りウエハを作成する。この時点でウエハの厚さは約700μあるが、この表面に真空蒸着、エッチング、アニーリング、スパッタリング、イオン注入などの方法で回路を形成する。パワー半導体に特徴的なプロセスとして、回路側の面に保護用のテープを貼付し、裏面を研磨して100~150μまで薄くした後に、さらに裏面へのイオン注入やアニールなどの工程が必要となる。これらの工程を何度も繰り返してようやく1枚のウエハの回路作成が完了するため、回路作成には通常は6~10日ほど、複雑な回路では1ヶ月近くかかる場合もある。
この間、ウエハは真空状態や高温のプロセスなどを何度も繰り返し移動するが、裏面研磨後のウエハは非常に薄く、回路形成によるストレス蓄積等のため反りや割れといった損壊が発生しやすい。そのため回路生成プロセスにおいては、ウエハの表面(表面の回路が形成された面)に保持材を貼り補強してから裏面の回路形成プロセス間を移動させて、回路裏面の回路形成が終了した後、最終的にこの保持材を分離する。従来は、この裏面保持の方法として保持材を接着剤で貼り付けて補強するのが一般的であったが、今後自動車分野でのパワー半導体(IGBT等)の需要が高まればウエハはさらなる薄型化と大口径化が進むと予想されている。接着剤方式では薄型化(100μ以下)と大口径化(12インチ)への対応が難しいと業界では見られている。
(2) 自動車向け半導体
近年自動車のEV化が急速に進んでいる。自動車のEV化にとって重要な要素の1つが半導体の供給である。特に動力(パワー)部分では、バッテリーから出た電気(DC=直流)をモーターで使用する交流(AC)に高速で変えるインバータが必須の部品となる。インバータ用の半導体(IGBT)では、径を大きくすることで1枚のウエハからより多くの半導体を作成できるため生産効率が上がり、1個当たりのコストを下げられる。しかし大容量(高アンペア)かつ高電圧(高ボルト)で表面と裏面の間でスイッチングを高速で繰り返すため、ウエハが厚い状態では発熱量※が増えることから、発熱の原因となるオン抵抗値をできる限り小さくするためウエハを薄型化する必要がある。半導体メーカーは、発熱量の点から半導体をできるだけ薄いウエハで生産し、かつ生産効率の点から大口径のウエハでの生産を目指している。
※ インバータに使われるIGBTやMOSFETが発熱すると、EVのエネルギー効率が低下する。
(3) 半導体の薄型化と静電チャック
IGBTの生産プロセスでは、ウエハの薄型化がさらに進むという見方もある。さらに、多くのメーカーが生産効率の点から12インチ(300mm)ウエハへ移行する可能性が高い。その結果、ウエハはより薄く大きくなるため、反りや割れといった損壊のリスクが一段と高まる。それを避けるために保持材の貼付が必須となるが、従来の接着剤方式ではプロセスのなかで溶剤がガス化して半導体を汚染するリスクがある。また、保持剤を取り外す際にウエハが破損するリスクが高まるなど難点が多いと言われている。
そこで注目されているのが、同社が提供する静電チャック(方式)である。前述のとおり、同社の製品は一度電界をかけると半永久的に吸着保持を維持し、真空・高温などの環境下でも保持力が落ちないため、薄型化・大口径化されたウエハに対して最適な製品と言える。
(4) 半導体の微細化と静電チャック
もう1つの半導体業界の動向としては「微細化」が挙げられる。特にAI半導体などで超微細化が進んでいるが、現状ではプロセス装置や検査装置内のウエハ吸着固定による極微細な接触傷が歩留まりを低下させている。このため、キャリア(Carrier)でウエハをソフト吸着固定し、キャリアを固定することで間接的にウエハを固定する方法が歩留まり向上のために有効である。例えば5nmパターン以下では、「Supporter」(Carrier)」を使えばウエハを全面でソフト吸着するため、ウエハ面積当たりに作用する吸着応力が大きく低下する。従来のメカクランプ等による集中応力によって起こされる局所的なウエハ接触傷を減らすことで、結果として歩留まりの向上につながる。その上、「Supporter」吸着面は半導体ウエハに比べて柔らかいPI樹脂で形成されているため、相対的に硬い半導体ウエハ面を傷付けにくい。
EV向け半導体では、「ウエハの薄型化」が命題であったが、AI半導体向けでは「接触傷の減少による歩留まり向上」として、大手ファウンドリから注目され始めている。
4. 主な顧客と需要
同社の主力製品である「Supporter」の主要顧客は半導体のデバイスメーカーである。需要は、生産される半導体の数(ウエハの枚数)に比例する。「Supporter」は1枚のウエハが一通りのプロセスを終了した後、ウエハから外し洗浄してから繰り返し利用できる。したがって、仮に一通りのプロセスを終了するのに6日かかるとすると、1枚の「Supporter」は月に5回利用できるため、ウエハの生産能力の5分の1の枚数が必要になる(例:ウエハ生産能力が5万枚/月であれば、1万枚の「Supporter」が必要)。なお、「Supporter」の絶対寿命は約2年間である。
同社の主要顧客については開示されていないが、同社によるとIGBTの表面パターン(回路生成)に関連した特許は米国と日本に多く、この分野では中国が遅れている。そのため中国は表面プロセスではなく、薄型化の分野(裏面プロセス)へ積極的に投資を行っており、同社の主要顧客も中国や台湾メーカーが多いようだ。参考として、同社公開資料「中間発行者情報」に記載された2025年3月期第2四半期の販売先別実績の上位は、Suzhou Dongwu Precision Technology Co., Ltd.(中国)、売上高25百万円(売上高比率21.8%)となっている。
5. 同社の生産能力と特許政策及び競合
同社製品の生産については、一部を内製し、その他の部分を数ヶ所に分けて外注する「ファブライト」方式を採用している。このため外注先は最終的にどのような製品になるかはわからない。また需要が急増した場合でも、大型の生産設備を必要とする製品ではないため、同社は「生産が間に合わない事態にはならない」と説明している。
特許についても、外注の分散と同様に秘匿性を高める策を講じている。同社は数多くの特許を保有しているが、すべての技術・ノウハウを特許申請しているわけではない。申請をしていない技術の詳細は不明であり、競合会社が同社の技術を盗用して類似製品を製造することは難しい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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