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【書評】『米中新産業WAR』(遠藤誉、ビジネス社)
配信日時:2025/03/25 13:05
配信元:FISCO
*13:05JST 【書評】『米中新産業WAR』(遠藤誉、ビジネス社)
中国は「新産業」で世界を制すのか――現代の産業地政学を描き切る重厚な一冊
本書は、習近平政権が掲げる国家戦略「中国製造2025」の本質と、その実行過程で中国がどのように“新産業”の覇者へと成長してきたかを、極めて具体的な事例と鋭い視座から描き出した、まさに現代産業地政学の論考である。
序章で語られるのは、「新産業」とは何かという定義と、それを生んだ背景だ。著者は、新エネルギー、AI、宇宙、EV、ドローン…といった“西側と同じスタートラインに立てる”ことにこだわる中国の戦略性を指摘する。その中で、米中対立によって結果的に中国の産業基盤が強靭化されている皮肉を、冷徹に分析してみせる。
特に読者の目を引くのは、「アメリカが中国を制裁すればするほど中国は強くなる」という逆説的な構図だ。著者は、米国がもはや製造拠点を持たず、金融覇権に依存した国家構造に陥っていると断じる一方、中国は制裁を原動力にして独自の供給網を築き、非米陣営を取り込みながら「サプライチェーンの再国際化」を進めていると語る。さらに習近平は建国80周年である2029年までにサプライチェーンを中国国内で完結させるという国家目標を立てている。その骨太な視点は、単なる評論を超えたリアリズムに満ちている。
宇宙開発の章では、中国の宇宙ステーション「天宮」や月裏側の探査成功など、アメリカを抜いた事実をもとに、中国が“地球外”でも主導権を握りつつあることを強調する。エネルギーやEVでは、イーロン・マスクの存在をも含めつつ、補助金政策の設計思想の違いを通して、中国の成長が決して“政府主導一辺倒”ではない点にも言及。ドローンや造船、半導体など、それぞれの章が一国の政策・産業動向という枠を超えて、グローバルな経済戦争の構図として浮かび上がる構成力は見事である。
たしかに太陽光などの新エネルギーやドローンにおいて中国は世界シェアの90%を占めており、また新エネルギー船を含めた造船業において中国はアメリカの500倍の生産力を持つなど、新産業の全ての分野において中国は世界のトップを走っている。事実上、「2025年目標」を中国は前倒しでほぼ達成してしまっていると言っていいだろう。著者はこの現実に目を向けなければ日本はますます取り残されていくことを危惧し、警鐘を鳴らしている。起業家精神や規制回避的な創意、リスクテイク文化が失われた日本の“静的産業構造”への示唆は、耳が痛い読者も多いだろう。
終章では、習近平とトランプとイーロン・マスクの関係が興味深く描かれ、第二次トランプ政権が始まった現在を、的確に予測している。トランプはダボス会議で「習近平が大好きだ」と公言しており、習近平もトランプが台湾独立を唆さなければ関税などは問題ではない。
本書は、イデオロギーに偏らず、事実とデータに基づいた構造的分析を展開しつつ、それを貫くのは「未来を誰が設計するのか」という鋭い問いである。地政学×産業論を理解する上での必読書として、読者に中国の“したたかさ”と“現実”を容赦なく突きつけてくる。経済・技術の未来を考えるうえで一石を投じる、必読の一冊だ。
■著者
遠藤誉(えんどう・ほまれ) 中国問題グローバル研究所所長
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著))、『「中国製造2025」の衝撃』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
<HM>
本書は、習近平政権が掲げる国家戦略「中国製造2025」の本質と、その実行過程で中国がどのように“新産業”の覇者へと成長してきたかを、極めて具体的な事例と鋭い視座から描き出した、まさに現代産業地政学の論考である。
序章で語られるのは、「新産業」とは何かという定義と、それを生んだ背景だ。著者は、新エネルギー、AI、宇宙、EV、ドローン…といった“西側と同じスタートラインに立てる”ことにこだわる中国の戦略性を指摘する。その中で、米中対立によって結果的に中国の産業基盤が強靭化されている皮肉を、冷徹に分析してみせる。
特に読者の目を引くのは、「アメリカが中国を制裁すればするほど中国は強くなる」という逆説的な構図だ。著者は、米国がもはや製造拠点を持たず、金融覇権に依存した国家構造に陥っていると断じる一方、中国は制裁を原動力にして独自の供給網を築き、非米陣営を取り込みながら「サプライチェーンの再国際化」を進めていると語る。さらに習近平は建国80周年である2029年までにサプライチェーンを中国国内で完結させるという国家目標を立てている。その骨太な視点は、単なる評論を超えたリアリズムに満ちている。
宇宙開発の章では、中国の宇宙ステーション「天宮」や月裏側の探査成功など、アメリカを抜いた事実をもとに、中国が“地球外”でも主導権を握りつつあることを強調する。エネルギーやEVでは、イーロン・マスクの存在をも含めつつ、補助金政策の設計思想の違いを通して、中国の成長が決して“政府主導一辺倒”ではない点にも言及。ドローンや造船、半導体など、それぞれの章が一国の政策・産業動向という枠を超えて、グローバルな経済戦争の構図として浮かび上がる構成力は見事である。
たしかに太陽光などの新エネルギーやドローンにおいて中国は世界シェアの90%を占めており、また新エネルギー船を含めた造船業において中国はアメリカの500倍の生産力を持つなど、新産業の全ての分野において中国は世界のトップを走っている。事実上、「2025年目標」を中国は前倒しでほぼ達成してしまっていると言っていいだろう。著者はこの現実に目を向けなければ日本はますます取り残されていくことを危惧し、警鐘を鳴らしている。起業家精神や規制回避的な創意、リスクテイク文化が失われた日本の“静的産業構造”への示唆は、耳が痛い読者も多いだろう。
終章では、習近平とトランプとイーロン・マスクの関係が興味深く描かれ、第二次トランプ政権が始まった現在を、的確に予測している。トランプはダボス会議で「習近平が大好きだ」と公言しており、習近平もトランプが台湾独立を唆さなければ関税などは問題ではない。
本書は、イデオロギーに偏らず、事実とデータに基づいた構造的分析を展開しつつ、それを貫くのは「未来を誰が設計するのか」という鋭い問いである。地政学×産業論を理解する上での必読書として、読者に中国の“したたかさ”と“現実”を容赦なく突きつけてくる。経済・技術の未来を考えるうえで一石を投じる、必読の一冊だ。
■著者
遠藤誉(えんどう・ほまれ) 中国問題グローバル研究所所長
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著))、『「中国製造2025」の衝撃』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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