アングル:新興国ソブリン債発行、1月は過去最高 資金フローなど懸念も
Karin Strohecker Jorgelina do Rosario
[ロンドン 5日 ロイター] - 1月の新興国によるソブリン債発行額は470億ドルとなり、同月として過去最高を記録した。リスクが相対的に低い主要新興国の起債が中心だったが、新興国ファンドは資金が流出しており、リスクの高い発行体は苦戦を強いられる可能性がある。
1月は例年、起債が活発になる。今年はサウジアラビア、メキシコ、ハンガリー、ルーマニアなどが大型起債に踏み切った。
一方、モルガン・スタンレーのデータによると、新興国ファンド(ハードカレンシー建て)の年初からの資金流出入は16億ドルの純流出。22年は約800億ドルの純流出、23年は約400億ドルの純流出だった。
フィデリティ・インターナショナルの新興国債券・為替ポートフォリオマネージャー、ポール・グリア氏は「通常なら今の段階で資金流入が始まっているはずだ。株式市場への配分が多少続いているのだろう。こうした資金はいずれ債券に戻り、新興市場が恩恵を受けるとみられる。ただ、私の想定以上に時間がかかっている」と述べた。
年初は相対的に高格付けの発行体による起債が多かったが、サブサハラ(サハラ砂漠以南)諸国としてコートジボワールが約2年ぶりに国際資本市場に復帰。ベナンも起債の手続きを進めている。だが、これは例外的な事例となる可能性がある。
ナインティ・ワンの新興国ハードカレンシー債券戦略ポートフォリオマネジャー、ティス・ルー氏は、起債額と新興国ファンドの資金流出入の乖離について、高利回り債の発行体は目先、起債が難しい可能性があると指摘。「一部の投資家が様子見に回っている。私は慎重姿勢を崩していない。(新興国ファンドへの)資金流入が確認できなければ、ケニアやナイジェリアの起債にゴーサインを出すことはできない」と述べた。
<資金の枯渇>
JPモルガンの試算によると、新興国ファンド(ハードカレンシー建て)には過去2年間で780億ドルの待機資金があったはずだが、資金流出により待機資金はわずか80億ドルに減少したとみられる。
同社によると、相対的に格付けが高いソブリン債など最近の起債には、クロスオーバー・ファンドからも資金が流入している。こうしたファンドは必ずしも新興国市場に投資する必要はなく、低格付け債への投資意欲は低いとみられる。
ノーザン・トラスト・アセット・マネジメントのインターナショナル・ショート・デュレーション部門を統括するダン・ファレル氏は「新興国市場を2つに分けると、質の高い新興国債券は欧州と非常によく似た形で取引されている。だが、新興国市場の下層部は財政状態が大きく異なっており、投資家にとって魅力的な選択肢とはいえない」と述べた。
モルガン・スタンレーは今年発行される新興国ソブリン債が1650億ドル近くに達し、昨年から約20%増加すると予想している。オマーン、セルビア、トルコ、バーレーン、ウズベキスタン、コロンビアといったハイイールド債の発行体が今年、起債する可能性があるという。
米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)などG10諸国の中銀が、いつどのようなペースで利下げを開始するかも市場を大きく左右する。
BNPパリバで中東欧・中東・アフリカ債券資本市場部門を統括するアレクシス・タファン・ド・ティルケス氏は「中銀の年内の利下げ時期を巡る不透明感が根強いため、金利とマクロ環境に安定が戻ったとはまだいえない。市場は高格付けの発行体に注目するだろう」と述べた。