賃金・物価の好循環、十分達成と言える段階にない=安達日銀委員
Takahiko Wada
[松山市 29日 ロイター] - 日銀の安達誠司審議委員は29日、愛媛県金融経済懇談会であいさつし、賃金と物価の好循環の「芽」が出始めているかもしれないが「十分に達成したと言える段階にはまだない」と述べ、現時点では粘り強く金融緩和を継続していくことが適当だとの見解を示した。
10月までの一連のイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の運用柔軟化については、市場機能の改善や緩和の持続性を高めるメリットがあり、「出口政策への地ならしを行っているのではない」と強調、まだ出口政策の議論を行う段階にはないと語った。
<賃上げの持続性、「見通し立たない」>
安達委員は、足元までの物価の実勢を見る限り、物価は「上振れリスクが高い」と述べた。財を中心に価格改定が多い「伸縮的な消費者物価」は、輸入物価が低下する中でも「伸びの縮小幅が予想以上に鈍い」と指摘。その背景には、需要段階の川上から川下まで価格転嫁が進んでいることがあると説明した。価格転嫁の予想以上の広がりは「価格競争が優位だったデフレ環境が大きく変わりつつあることを示唆しているように感じる」とも述べた。
サービス価格が多く含まれ、改定頻度が少ない「粘着的な消費者物価」についても、今春の春闘結果を受けて上昇していくと予想した。
もっとも、物価の先行きを見る上で重要となる来年度の賃上げについては「現時点では見通しが立たない」と述べた。
<長期金利、非常に高い「情報的価値」>
安達委員は長期金利について「市場参加者が将来の金融政策の予想だけでなく、内外経済や金融市場の動向・先行き見通しなどを総合的に判断した結果が反映される指標」と位置づけ、金融政策運営に当たって「非常に高い情報的価値を有する」と述べた。
YCCの運用柔軟化には、金利形成をある程度市場に委ねることで、長期金利の情報的価値を利用する観点から「非常に意味があったのではないか」と話した。
安達委員は、現在の海外情勢や地政学リスクを踏まえると「今後は以前にも増して内外経済や物価の不確実性が大きくなることが想定される」とし、金融政策運営におけるリスクマネジメントの観点が重要になってくると述べた。
コロナ禍では物価の下振れリスクへの対応に重きが置かれてきたが、足元では上振れリスクへの配慮も必要になっているとし、YCCの運用柔軟化には市場機能の改善や金融緩和の持続性を高める点でメリットがあったと総括した。
*安達委員の発言を追加しました。
(和田崇彦)