焦点:米インフレさらに鈍化、期待高まる「適温経済」シナリオ
[ニューヨーク 12日 ロイター] - 12日発表の12月米消費者物価指数(CPI)で一段のインフレ鈍化が確認されたことを受け、一部投資家の間で「ゴルディロックス」への期待が高まっている。米連邦準備理事会(FRB)が経済成長にひどいダメージを与えずに物価を落ち着かせることができるという「適温経済」のシナリオだ。
12月CPIの前月比上昇率は予想外の低さで、過去2年半余りで初めてマイナスに転じた。これは雇用など他の経済指標がなお比較的堅調な伸びを見せているにもかかわらず、物価が持続的な下振れの流れに入ったことを示唆する。
理論的には、ゴルディロックス経済の下ではFRBが想定より早めに利上げペースを緩める妥当性が高まり、広く予想されている景気後退(リセッション)を避けられる。多くの市場関係者は、リセッションが到来すれば昨年大きく下げた株価がさらに下押しされると懸念していた。
スイスクオート・バンクのシニアアナリスト、イペク・オズカルデスカヤ氏は「インフレの鈍化と強い雇用市場がゴルディロックス経済シナリオをしっかりと裏付け、連邦公開市場委員会(FOMC)において利上げ(ペース)を巡る議論が白熱化するのは間違いない」と述べた
FRBは今のところ、昨年示した政策金利の軌道を修正する意向をほとんど示していない。想定では、現在4.25─4.50%の政策金利は年内に5.00─5.25%まで上昇することになる
これに対して市場は依然としてよりハト派的な経路を予想。政策金利は6月半ばごろに5%弱でピークアウトし、年後半には利下げがあるとみている。
<大幅利上げ局面は終了か>
目先の話で言えば、12月CPIによってFRBが1月31─2月1日に開く次回FOMCで利上げ幅を縮小するとの観測が強固になった。
CMEグループの「FEDウオッチ」によると、現在投資家は、FRBが次回FOMCで政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げて4.50─4.75%にする確率は約90%と見込んでいる。この確率は11日時点の約75%を上回り、1カ月前の35%から大きく切り上がった。FRBは昨年、4会合連続で75bpの利上げを実施した後、12月に利上げ幅を50bpに変更した。
ブラックロックのグローバル債券最高投資責任者リック・リーダー氏は「1回の会合で(75bpや50bpといった)思い切った利上げをする時期が過ぎ去ったのは明らかだと思う」と述べ、FRBはこの先2回のFOMCで政策金利をそれぞれ25bp引き上げた上で、データ次第でさらに25bpの利上げに動くとみている。
米株式市場に目を向けると、12月CPIに対する反応は過去数カ月のCPI発表後の値動きに比べると小さく、S&P総合500種は約0.3%の上昇にとどまった。
マーケットメーカーのオプティバーのデータに基づくと、12月CPI発表に先立って短期物オプションの投資家はS&P総合500種がおよそ2%は振れる展開を織り込んでいた。実際、過去7回のCPI発表日の平均的な変動率は2.7%で、同じ期間の1日当たり平均のおよそ1.2%よりずっと高い。
オプティバーのシニア・クロスアセット・トレーダー、ヒューゴ・ベルナルド氏は、今回は過去半年で初めて、オプションでボラティリティーのロングポジションを構築しても利益を得られなかったと説明し、これで市場が今後の見通しを考え直すかもしれないと付け加えた。
ノムラの株式デリバティブ・ストラテジスト、チャーリー・マクエリゴット氏は、株価が今月に入って3%も上がっていたことが12日の低調な反応をもたらしたのではないかと指摘。「強気の材料だが、事前にそれを見越して取引をしてしまった結果、イベント後の取引が抑制された」と語り、「ディスクレショナリー」や「マクロ」といった戦略を採用する一部ファンドは今年初め時点でディスインフレとゴルディロックスに絡むリスクオンの取引を仕掛けていたと明かした。
パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)の北米エコノミスト、ティファニー・ワイルディング氏は、FRBが年内にあと2回利上げした後は様子見に移ると考えている。「(FRBは)引き続き引き締め的な領域に金融政策を維持しなければならない。しかし現行水準から大幅に金利を引き上げる必要が生じる蓋然性が、1日ごとに低下しているのは確かだと思う。物価データの面ではより多くの朗報が届きつつあるのだから」という。
(David Randall記者、Saqib Iqbal Ahmed記者)