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インタビュー:日本も高インフレ継続、来年はYCC修正も=山口・元日銀副総裁

配信日時:2022/12/19 09:01 配信元:REUTERS

[東京 19日 ロイター] - 山口広秀・元日銀副総裁(日興リサーチセンター理事長)は、ロイターのインタビューに応じ、来年は賃上げも進み、日本でも高インフレが継続する可能性があると指摘した。インフレ予想の過度の高まりを未然に防ぐため、日銀が10年金利目標の引き上げなどイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正を検討する可能性があると述べた。

一方、来年は大幅利上げの影響で米国が「かなりの不況」に陥るリスクがあり、国内経済や金融システムが動揺する可能性も示した。日銀は情勢に応じた柔軟で機動的な対応が必要になるとの見通しを示した。

一部で改定方針が報じられた政府・日銀の共同声明については、2%物価目標を「現時点では、変えなければならない必然性はないと思う」と述べ、修正に否定的な見解を示した。市場では、山口氏が次期日銀総裁の有力候補の1人とみられている。

<物価上昇、ホームメイド・インフレに>

山口氏は、国内物価は「今の消費者物価の上昇率からすると、4%程度には到達するだろう。年明け後もそうした状態が続く可能性がある」とし、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の上昇率が来年も2%を超える「可能性は小さくない」と語った。

日銀は現在の物価上昇は輸入インフレが主因であり、来年入り後はこの要因がはく落して物価上昇率は伸びを縮小すると予想している。これに対して山口氏は、国内の堅調な需要を背景にした価格転嫁の広がりや賃金上昇を反映した「ホームメイド・インフレーション」が生じつつあり、これが「人々のインフレ予想を引き上げる方向に作用している」と指摘。インフレ予想の上昇はいったん定着すると抑え込むのが難しく「高インフレが続いてしまう可能性は十分ある」と述べた。

半面、海外経済の先行きに強い警戒感を示した。「米景気はかなりの不況を経験しないと、FRB(米連邦準備理事会)が目標としている2%程度までインフレ率を落としていくことは難しいだろう」と発言。米国の高金利が続くと、株価や不動産価格が下落して「バブル崩壊の可能性も高まってくる」とし、米国で資産価格が大幅に下落すれば「日本の金融機関・ノンバンクのバランスシートはかなり傷むだろう」と話した。

<第2次オイルショック時の政策対応がヒントに>

山口氏は、海外景気の下振れに伴い、日本では景気後退色が強まる一方、物価上昇が続くとして「日銀はかなり厳しい政策選択となる」と話す。

物価上昇と景気後退が同時進行するスタグフレーションの下では、第2次オイルショックの際の政策対応を踏まえ「基本的には金融は引き締め的、財政は刺激的、という組み合わせの政策が望ましいだろう」と指摘する。

しかし、米資産価格の大幅な下落が波及して日本の金融システムが動揺する事態になれば「金利は上げづらい」と述べた。来年、非常に危機的な状況になるかもしれないことを考えると「あまり予断を持って政策の方向性を決めていくのは良くない」とし「むしろ状況を的確に見極めながら柔軟かつ機動的に対応していくことが重要だ」と語った。

<政策修正なら10年金利の扱いから>

山口氏は、日銀が現行のYCCを修正するかどうかは、経済・物価・海外の金融経済情勢を総合的に判断した上で、日銀が目指す物価と賃金の好循環のもとで2%の物価目標達成が見えてくるかによるとみている。

賃金については「企業の中には賃上げの必要性を認識しているところもある。こうした動きが広がっていけば期待できる」とし、物価上昇を上回る賃上げが実現する可能性があり、来年は物価目標の達成が「実現するのではないか」と語った。しかし、海外情勢は厳しく「日本の物価の上昇がどこまで続くのか、改めてその時点で考えないといけない」とした。

金融政策の修正に臨む場合には、まずはYCCを維持したまま10年金利の扱いを調整することから始まり、その上でなお経済環境が許せば金融緩和から引き締めに転換し、マイナス金利、YCCの順に撤廃するという道筋をたどる可能性があると話した。

    山口氏は、10年金利のコントロール手法の変更について「許容変動幅の拡大か、誘導目標自体をゼロ%程度ではなく例えば0.5%に引き上げ、その水準からの許容範囲を設ける。明示するかどうかはわからないが、やりようはある」と述べた。

コアCPIの上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するとしてきた「オーバーシュート型コミットメント」については「日銀が自縄自縛に陥るようなコミットメントはやめ、必要なときに必要な対応ができるように柔軟性・機動性を確保できる仕掛けにしておけばいい」とした。

<共同声明の見直しには否定的>

政府・日銀が2013年1月に策定した共同声明では、2%物価目標を「できるだけ早期に実現することを目指す」とした。山口氏は「当面、金融政策の方向としては共同声明に書かれているようなことを念頭に置いて政策をやっていくということではないか。必要なことは政策の機動性と柔軟性だ」と述べた。共同声明の策定当時、山口氏は日銀副総裁を務めていた。

共同声明を巡っては、共同通信が17日、岸田文雄政権が改定する方針を固めたと報じた。2%物価目標の柔軟化を検討し、岸田首相が来年4月9日に就任する次期日銀総裁と協議して内容を決めるという。

識者の間では、物価目標の柔軟化で金融政策の選択肢を確保すべきだとの声が出ている。一方、岸田首相、黒田総裁はともに11月末の国会答弁で共同声明の見直しは必要ないとの見解を示している。

*インタビューは16日に実施しました。

(和田崇彦、木原麗花)

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