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焦点:ハンガリーが目指すEVセンター、独・中・韓を積極誘致

配信日時:2022/12/16 11:20 配信元:REUTERS

[ベルリン/ブダペスト 13日 ロイター] - ドイツの自動車メーカーとアジアのバッテリーメーカーが、電気自動車(EV)を製造するため、ハンガリーで数十億ドル規模の「政略結婚」を進めている。

西側諸国が中国を警戒しているのをよそに、ハンガリーのオルバン政権は中国メーカーなどを誘致するために気前よく補助金を提供し、世界的なEVセンターとしての地位を打ち立てる姿勢だ。

ハンガリーの自動車産業に投資しているのは、世界に冠たる自動車王国ドイツと、EVバッテリーで欧州勢に差を付ける中国と韓国の合わせて3カ国が中心。

ロイターが政府データを分析したところ、過去10年間にハンガリーが自動車およびバッテリー業界の大型投資に提供した現金補助31件のうち、29件をこの3カ国が占めていた。

大型投資は一般に、500万─1000万ユーロ相当の投資を指す。

ドイツ・ハンガリー商工会議所(ブダペスト)のディルク・ウォールファー氏は「カソード(陰極)からアノード(陽極)、セパレーター、組み立てラインまで、ここにはバッテリーのサプライチェーン(供給網)が全て整っている」と話す。外国メーカーにとって「欧州への玄関口」──だ。

ドイツのBMWやメルセデスベンツ、中国のEV大手・比亜迪(BYD)、韓国の同業・サムスンSDIなどが、ハンガリーから補助金を受け取っている。補助金比率の中央値は投資額の15%。

政府データによると、ハンガリーは過去6年間でバッテリーセクターに外国から140億ユーロ(150億ドル)を超える直接投資を受けた。

ドイツ、ハンガリー、中国、韓国の業界関係者やコンサルタントに取材したところ、国の補助金に加え、自動車メーカーとバッテリーメーカーが隣り合って仕事ができることが、ハンガリーへの強い誘因となっている。

世界最大のEVバッテリーメーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)と韓国の同業大手・SKイノベーション、サムスンSDIの3社はいずれも、計画段階でドイツ自動車メーカー工場と立地が近かったことや、部品を国内で調達できる点が、ハンガリー投資の決め手になったと答えた。

CATLは76億ドルを投じてハンガリーに欧州最大のバッテリー工場を建設する計画。この工場とBMWの工場はともに、幅広いサプライヤーが集まるデブレツェン市に建設される予定だ。

メルセデスベンツはケチュケメート市の工場をEV工場に転換中で、フォルクスワーゲン傘下のアウディは、ジェール市で従来型の自動車とEVを製造している。

ハンガリーはインフレ率が20%を超え、景気は減速し、欧州連合(EU)からの資金提供を凍結されるなど過去10年余りで最も厳しい経済環境に見舞われている。それだけに、こうした大型投資はオルバン政権の追い風となる可能性がある。

ただ、ハンガリーのEV計画には、厳しい障害も指摘されている。

一番の懸念は、巨大バッテリー工場が多くの電力を必要とすることだ。自動車産業の大部分が掲げる温室効果ガス排出実質ゼロの目標を達成するためには、ハンガリーの電力網は化石燃料から再生可能エネルギーへと移行する必要がある。

BPの調査を元にしたロイターの計算では、ハンガリーの2021年の電源構成は80%が化石燃料、14.5%が原子力、3.6%が太陽光だった。

また、ハンガリー国内にバッテリーセル製造業界で働く専門人材が不足していることも、生産能力の拡大を阻む要因だという。

<中国依存の懸念>

欧州連合(EU)とドイツは、欧州が中国などの外国勢力に依存し過ぎることを危険視しており、特にグリーン産業移行の要となる技術分野に関してそうした懸念が強い。中韓のバッテリーメーカーを誘致するハンガリーの姿勢は、そうした懸念と衝突しかねない。

とはいえ、EV生産を強化する必要性を考えれば、欧州の自動車産業はアジア勢から供給を受ける以外の選択肢がほとんど無いと、ハンガリー自動車協会のCsaba Kilian氏は話す。

ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(BMI)の推計によると、現在の各社の計画が全て実現するなら、欧州は2031年までにEVバッテリー生産能力を1200ギガワット時(GWh)まで引き上げることになる。

しかし、そのうち44%は欧州にあるアジア企業の工場が占め、欧州企業の43%、米テスラの13%を上回る見通しだ。

ドイツでバッテリー産業を育成する構想は、ロシア産天然ガスの供給が失われるという逆風に直面したと、自動車コンサルタントらは言う。

ハンガリーは原子力発電に支えられてエネルギー供給が比較的安定しているのに加え、補助金は多く、法人税率は9%と欧州最低だ。

欧州バッテリー連合の政策マネジャー、Ilka von Dalwigk氏は、ハンガリーにはEVバッテリーのサプライチェーンが全てあると指摘。「2025─30年には、欧州最大級の生産能力を備えている見通しだ」と述べた。「ハンガリーは欧州における次の大規模バッテリー生産拠点になる可能性が非常に高い」という。

アジアに技術を依存することへの懸念について、あるEU幹部は、EUには安全保障に影響しそうな域外からの投資について協力し、情報を交換する体制があると述べた。

(Victoria Waldersee記者、 Gergely Szakacs記者)

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