アングル:近ごろ退屈ビットコイン、「乱高下の王」に見る影なし
[6日 ロイター] - 暗号資産(仮想通貨)ビットコインはさまざまな呼ばれ方をされてきた。バズる、魅惑的、不可解、挙げ句の果てにはインチキ──。しかし「つまらない」と言われたことだけはなかった。
それが最近は、不気味なほど静まりかえっている。「乱高下の王」どころか、価格は2万ドル前後に張り付く日々が続き、6月以降この水準を大きく超えたことはない。
ビットコインの急変動によって利益を得るトレーダーや取引所にとって、これは困った問題だ。一方、近く大規模なシステム更新を控える仇敵の仮想通貨、イーサにとっては好機到来となる。
「ビットコインは死んではいないが、このところ退屈だ。だからトレーダーは既に他を当たっている」と、マーケットベクターのデジタル資産商品ストラテジスト、マーティン・レインウェーバー氏は語った。
コイングラスのデータを見ると、ビットコインの過去30日間の平均ボラティリティー(変動率)は2.7%と、7月初めの4%強から低下した。
今年に入ってボラティリティーは5%を下回り続けており、相場が波乱して「仮想通貨の冬」と呼ばれた数カ月間でさえそうだった。過去5年間には、時としてボラティリティーが低下しても、その後には最高7%まで跳ね上がっていた。
ビットコイン先物を基に、相場が今後どの程度変動すると予想されているかを示すクリプトコンペアの指数も、年初の90超から現在は77強に下がっている。
ビットコインは過去にも、相場低落期を中心としてボラティリティーが下がる期間があったが、往々にして取引が持ち直すと変動も戻っていた。
しかし今回のスランプは、これまでと違うかもしれない。
仮想通貨デリバティブを提供するFRNTファイナンシャルのステファヌ・クレット最高経営責任者(CEO)は「今回はボラティリティーの低迷期間が比較的長い。2019年には3カ月間から4.5カ月間ほどこの水準が続いたが、当時に比べても長い」と述べた。
<話題集めるイーサ>
マーケットベクターのレインウェーバー氏は、ビットコインの動きが鎮まったことの副産物として、イーサとそのデリバティブの取引が増えていると指摘する。
時価総額でビットコインの3800億ドルに次ぎ1900億ドルと業界第2位のイーサは、価格が7月初めから50%上昇した。この間、ビットコインは横ばい圏で推移している。
イーサの価格変動が劇的だというわけではない。データ企業メッサーリによると、コロナ禍で最も相場が急変動した2020年3月でさえ、ボラティリティーはせいぜい2%強で、ビットコインよりずっと小さい。
しかし現在、イーサは仮想通貨界の話題を一身に集めている。「マージ」と呼ばれる画期的なアップグレードがいよいよ今月実施される見通しだからだ。これによってシステムはスリム化し、新しいイーサの創出に必要な電力量が大幅に減ることになる。
<火傷負った投資家>
株や株式などの伝統的資産を持つ長期投資家にとって、相場の変動が小さいことは良いことかもしれない。しかし仮想通貨の世界にそれは当てはまらない。
例えば交換所は取引手数料でもうけている。ボラティリティーが下がると出来高は急減する傾向がある。仮想通貨ヘッジファンドも、価格の急変動に乗じて取引する傾向があり、変動が落ち着いていると収益機会が減ることになる。
ではビットコインのボラティリティーはなぜ低下しているのだろうか。
仮想通貨の世界全体から投資家の足が遠ざかっていることが、理由の1つに挙げられる。
この1年はインフレ高騰を背景に投資家がリスク性資産全般を処分し、仮想通貨にとって厳しい環境となった。ビットコインは約60%、イーサは55%、それぞれ下落している。2種類の主要仮想通貨が崩壊し、仮想通貨関連の著名金融企業が破綻したことも、この業界の信頼を傷つけた。
ブロックチェーン・ドット・コムのデータによると、主要交換所におけるビットコインの過去7日間の取引高は1億2700万ないし1億4200万ドルと、2020年10月以来で最低だった。
ビットコイン先物の取引高も2020年11月以来の最低水準に落ち込んだことが、ブロックのデータで分かる。
FRNTファイナンシャルのクレットCEOは「ボラティリティーが最高水準に高まるのは通常、仮想通貨への関心が最高潮に達した時と一致する。投資家は火傷を負い、『今は仮想通貨に関心がない』と言っているわけだ」と話した。
(Lisa Pauline Mattackal記者)