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アングル:円安でインバウンド期待、中途半端な水際対策に不満の声

配信日時:2022/09/07 19:35 配信元:REUTERS

白木真紀 Rocky Swift

[東京 7日 ロイター] - 急速な円安進行に新型コロナウイルスの水際対策の緩和が重なり、運輸・観光業界ではインバウンド(訪日観光客)需要への期待が高まっている。しかし、入国者にはビザ(査証)取得が義務づけられたままで、個人旅行もいまだ解禁されず、せっかくの円安が生かしきれないと不満の声が聞かれる。

日本政府は7日、1日当たりの入国者数の上限をこれまでの2万人から5万人に引き上げた。日本入国時に求めていた、渡航先出国前72時間以内のPCR検査の陰性証明も不要とし、ワクチンの3回目接種証明で代替できるようにした。訪日観光客は添乗員なしのパッケージツアーも可能になる。

7日に東京・羽田空港で記者団の取材に応じた日本航空旅客営業本部レベニューマネジメント推進部の増村浩二氏部長よると、水際対策緩和の発表以降、海外からの予約は増えているという。

同社の海外発・日本行き(通過を除く)の予約数は、政府による緩和策の正式発表があった8月25日前後の1週間を比べると、9月は1.4倍、10月は1.5倍に増加。日本発・海外行きは、9月が1.8倍、10月は6.6倍に膨らんだ。

さらに、ここに来て円の下落ペースが速まり、運輸・観光業界関係者の間ではコロナ禍でほぼ蒸発した外国人の客足が戻ってくるとの期待が広がっている。「訪日には絶好のチャンス」。ANAホールディングスの芝田浩二社長は急激な円安進行を受けてコメントし、訪日客数が押し上げられる可能性に期待を示した。

年間の訪日外国人数が過去最多の3188万人に達した2019年、円相場は1ドル=110円前後だった。7日につけた144円台よりも30円以上高く、他の条件が同じなら相当の需要を見込める可能性がある。松野博一官房長官は7日午前の会見で、急速な円の下落をけん制しつつも「円安のメリットを生かせると想定している」と語った。

その一方、業界からは今の緩和策では中途半端との声も出ている。上限を5万人に引き上げたところで、訪日希望者すべてにビザ取得を義務づけるのはハードルが高い。

ある国の旅行業界関係者によると、訪日観光客は日本大使館や領事館でビザを申請する前に認可された代理店で旅行日程を登録しなければならず、予約を取るのに数カ月かかることもあるという。また、外国人にはパッケージツアーよりも個人旅行のほうが需要が大きい。

1日当たりの入国者数は現在、引き上げ前の上限2万人にすら達していない。JALの増村氏はロイターに対し、「実態として1万3000人─1万4000人程度」と語り、「インバウンドの個人旅行者が動いてもらわないとなかなか5万人には達成しないのではないか」と述べた。ビザ免除とともに個人旅行が認められるまではこのままの状態が続くとの見方を示した。

政府が6月に1日当たり入国者数の上限を2万人にし、観光目的の入国も添乗員付きパッケージツアーのみを認めた際には、訪日外国人数に大きな変化はみられなかった。日本政府観光局(JNTO)の集計によると、7月の訪日外国人数(推計値)は約14万4500人、6月は約12万人、5月は約14万7000人だった。

出入国在留管理庁が6月から公表し始めた観光目的の入国者数は、6月が252人、7月が7903人と少ない。入国者の9割が観光客で、このうち8割が個人旅行者だったコロナ前とは対照的だ。

日本旅行業協会の高橋広行会長(JTB会長)は7日、ビザの免除と入国者数制限の撤廃は「海外旅行、訪日旅行をともに促進する」とコメント。ANAHDの芝田社長も「引き続きビザの免除や個人旅行の解禁などG7並みの水際対策緩和を切望する」と話している。

7日午前の会見でさらなる緩和の可能性について問われた松野官房長官は「今後も内外の感染状況などを見極めていく」とした。

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