ランチタイムコメント

日経平均は5日ぶり小反発、今晩からの米株市場が本番、懸念要素は多い

配信日時:2022/09/06 12:14 配信元:FISCO
 日経平均は5日ぶり小反発。5.35円高の27624.96円(出来高概算4億2499万株)で前場の取引を終えている。

 5日の米株式市場はレイバーデーで休場。欧州株式市場ではロシアの天然ガスパイプライン、ノルドストリームを巡るエネルギー危機への懸念から独DAXが-2.21%、仏CAC40が-1.20%と大幅安。一方、英FTSE100は+0.08%と横ばい。与党・保守党の党首選挙ではトラス外相が選出された。概ね予想通りの結果ではあったが、不透明感の後退や政策期待から引けにかけて下げ幅を縮小した。時間外取引の米株価指数先物が上昇するなか、日経平均は30.54円高からスタート。特にナスダック100先物が上げ幅を広げていたことで、祝日明けの今晩の米株市場での上昇を期待した買いが入ったもよう。
前場中ごろには一時27813.78円(194.17円高)まで上昇した。しかし、その後は一転して失速する流れが続き、前引け直前には前日比マイナス圏まで落ち込む場面があった。

 個別では、レーザーテック<6920>、ディスコ<6146>、SUMCO<3436>など半導体関連株が上昇。任天堂<7974>、ファナック<6954>、キーエンス<6861>などの値がさ株も堅調。石油輸出国機構(OPEC)プラスでの減産合意を受けて石油資源開発<1662>が買われ、三井物産<8031>、日本製鉄<5401>、DOWA<5714>など資源関連株がしっかり。マネーフォワード<3994>、ラクス<3923>のグロース株の一角が堅調。日経平均への採用が決まったHOYA<7741>は大幅高。業績・配当予想を上方修正したトーホー<8142>、好決算が評価された日本ハウスHD<1873>はそれぞれ急伸。

 一方、郵船<9101>、商船三井<9104>の海運が下落。グロース株ではメルカリ<4385>、ギフティ<4449>が大幅安。原油価格の高騰を嫌気して東京電力HD<9501>も大きく下落。ダイキン<6367>、ニトリHD<9843>、楽天グループ<4755>、クボタ<6326>の下落も目立つ。ほか、日経平均への採用期待が剥落したOLC<4661>、公募増資を発表したJMDC
<4483>が大幅に下落している。

 セクターでは精密機器、鉄鋼、非鉄金属が上昇率上位となった一方、海運、サービス、空運が下落率上位となった。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体48%、対して値下がり銘柄は46%となっている。

 前場の日経平均は中盤までは時間外取引のナスダック100先物の動きに連動する形で上げ幅を広げていたが、後半は連動が崩れ、日経平均だけが失速する形となった。引き続き心理的な節目の27500円や200日移動平均線を下値支持として意識した動きは続いているが、機関投資家の多くが夏休みから戻ってくるレイバーデー明け、今晩以降の米株式市場の動向次第では、あっさりと下抜けする可能性もあるだろう。

 前日、OPECプラスは10月の生産量を日量10万バレル削減することで合意。バイデン米大統領の中東訪問による要請を受けて9月分は10万バレル増産していたが、その臨時措置はわずか1カ月で解消した格好。OPECプラスは2021年初から段階的な増産を続けてきたが、今回は初の減産となる意味で象徴的な会合となった。

 原油市場については、都市封鎖(ロックダウン)の長期化で中国経済の回復が想定以上に遅れているなか、欧州や米国の景気後退入りも近づいており、需要の減速が警戒されている。一方、供給面では、イランの核合意を巡る米国との協議はまだ続いており、先行きは不透明だが、イラン産原油が市場に復帰するとなると、供給へのインパクトは大きいため、一段と需給が緩む可能性がある。今回の減産の動きはこうした需給の緩みに対して原油価格を注視していくとの牽制だろう。日量10万バレルは、世界需要の0.1%にすぎないが、投機筋による取引量が大きい先物市場でのショート(空売り)の動きを封じるという点では、価格の下支え効果は大きいだろう。

 他方、欧州での天然ガス価格高騰の長期化も深刻だ。先週末、ロシアの天然ガスパイプライン、ノルドストリームからの供給停止が無期限で延長されると伝わった。そして昨日は、ロシア政府が、西側諸国による経済制裁が解除されるまで供給停止を継続する可能性を示唆。一時低下に転じていた欧州の天然ガス先物価格は再び急騰した。

 世界のインフレを巡っては、モノ・財のインフレは既にほとんど沈静化しており、今後の焦点は粘着性のあるサービス分野を中心としたインフレ動向に移っている。しかし、これまでCPIの減速に寄与してきたエネルギー価格について改めて先行き不透明感が増していることは、インフレを更に長期化させる可能性を有する点から軽視できないだろう。

 13日は米8月消費者物価指数(CPI)が発表予定だが、ここで仮にエネルギー価格を含めた総合の伸びが市場予想を下回ったとしても、その後のエネルギー価格の下げ止まり・反発を踏まえれば、バックミラーとして捉えられる可能性が高い。一方で、焦点となる粘着性分野では恐らく8月分ではまだほとんど減速の兆しは見られないはず。
米月雇用統計で前年比+5%を上回る平均賃金の伸びが続いていること等も踏まえると、今後の米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め路線の軟化は当面見込めないだろう。

 金融引き締め強化と実体経済の悪化傾向から、世界の企業業績は7-9月期決算から下振れが警戒されている。日本企業については円安進行を背景に対照的に上振れ、業績予想の上方修正ラッシュが期待されている。これが日本株の相対的な好パフォーマンスに繋がるとの指摘が聞かれるが、個人的にはこの見方にやや懐疑的だ。

 まず、世界の景気敏感株とも称される日本株が、米・中・欧の3大経済圏の停滞・悪化が続くなか、一強状態を続けるとは考えにくい。そして、もう一つ思い出して欲しいのは、4-6月期決算時の日本企業の株価反応だ。円安要因で多くの企業が上振れ着地、第1四半期段階からの業績上方修正を果たしたが、それらの多くの株価がその後伸び悩んだ。当時の市況解説では筆者も含め、「円安要因だけの上方修正だけでは好感されず、本業による実質的な上振れがないと持続的な株価上昇は見込めない」と書いていた。そうであれば、ドル円が1ドル=140円を突破して更なる為替要因での上振れが見込めたところで、日本株だけが上値追いになるということは考え難い。せいぜい、下げ幅が相対的に小さいくらいだろう。

 詰まる所、何が言いたいかと問われれば、レイバーデー明け、今晩の米株式市場からがようやく本番であること。そして、残る年末までの株式市場の動向としては、基調は下方向なのではないかということだ。むろん、9月分以降の米CPIで、連続で大幅な減速が確認されて、FRBの政策スタンスに変化の余地が生まれる期待が高まるなど劇的な変化があれば、年末株高というシナリオもあり得るだろうが、現状はそうした見込みは薄いと考えている。

 前引けにかけておおきく失速した流れから、後場は日経平均の27500円割れへの動きも念のため視野に入れておきたい。先行き不透明感が強まるなか相対的に選好されるのは、医薬・食料品などの内需系ディフェンシブのほか、リオープン関連などに絞られるだろう。
(仲村幸浩)
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