アングル:米株に再び割高感、債券利回り上昇と景気後退観測で
[ニューヨーク 30日 ロイター] - 米国株は一部の投資家にとって再び割高に映り始めている。米連邦準備理事会(FRB)のタカ派的なメッセージが債券利回りを押し上げ、市場参加者が株式のバリュエーションを見直しているからだ。
株価が6月半ばの安値から急反発するとともに、予想利益に基づくS&P総合500種の株価収益率(PER)は約17倍まで戻った。これは年初時点の22倍弱に比べればなおずっと低く、今月に入ってFRBが以前想定されていたより早めに利上げを打ち止めにするのではないかとの期待で株価が上昇していた局面では、確かに妥当な水準に見えたかもしれない。
ところがパウエルFRB議長が26日のジャクソンホール会議における講演で有無を言わせないほどのタカ派的な姿勢を表明し、市場にあった利上げの早期終結期待は見事に打ち砕かれた。そして投資家の間からは、株式のバリュエーションは債券利回り上昇と景気後退(リセッション)を反映する形でさらに低下する可能性があるとの見方が浮上している。
ジョン・ハンコック・インベストメント・マネジメントの共同チーフ投資ストラテジスト、マシュー・ミスキン氏は、株価が1年半ぶりの安値近辺で推移し、予想利益に基づくPERが15倍強だった6月末段階では、比較的穏当なバリュエーションは株式市場にとって最も明るい材料の1つだったと話す。
一方ミスキン氏は、株価が6月半ばの安値から10%上昇した後ではリスクが十分に織り込まれなくなったと指摘し、この点は下期を通じて市場が正面から向き合う必要がある要素になるとの見方を示した。
株価にとって危険な存在の1つは米国債利回りの上昇。FRBは市場がこれまで考えていたよりも利上げを進める決意だ、と投資家が思い至ったのに伴い、利回りの上昇ペースは加速している。
こうした利回り上昇が株価を圧迫するのは、米国債がリスクフリーの資産として株式に代わる存在となるからだ。特に将来の利益に対する期待が大きく、S&P総合500種におけるウエートが高いハイテク株などのバリュエーションは利回り上昇が悪影響を及ぼす。
S&P総合500種が6月半ばに直近の底を付けた際も、米10年国債利回りはおよそ3.5%に跳ね上がっていた。同利回りはその後いったん低下したが、足元でまた3.1%まで上昇してきている。
その結果、投資家がリスクフリーの国債ではなく株式を保有して得られるリターンの上乗せを意味する「リスクプレミアム」は最近、2009年以降の最低水準付近まで縮小した、というのがウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートの分析だ。同社のアナリストチームは投資家に、運用資産の比重を株式から債券とコモディティーに切り替えるよう推奨している。
同社シニア・グローバル市場ストラテジストのサミア・サマナ氏は米国株に関して「現在上振れしている10年国債利回りと比べれば信じられないほど割高だ」と述べた。
パウエル氏の講演後、S&P総合500種は5%下げている。トゥルーイスト・アドバイザリー・サービシズのキース・ラーナー共同最高投資責任者は「以前の株式市場はソフトランディングをあまりに急速に織り込み、間違いがほとんど許されない状況に置かれていた。だが(最近の)揺り戻しの後でも、リスク/リワードが説得力を持つと断じるのは尚早だ」とくぎを刺す。
ラーナー氏は29日付ノートで、企業業績の先行き不透明感や利上げが続くことを踏まえれば、現在のバリュエーションは依然として割高な水準にあると強調。現在の業績見通しに基づくと、S&P総合500種のPERが15倍に低下した場合、株価水準は6月の安値近辺である3600強と、29日終値から10%余りも下落するとみている。
もちろんここ数カ月は、株式を保有するのが妥当だという根拠が幾つかあったのは間違いない。例えば第2・四半期の米企業利益は予想より好調で、足元の株価反発をけん引した。
それでも何人かの投資家が見込んでいるように、FRBが大幅に利上げしてリセッションにつながるとすれば、業績見通しも悪化する。実際、モルガン・スタンレーのストラテジストチームによると、業績見通しを下方修正するアナリストの方が上方修正組より多いとデータが示しており、バリュエーションの新たな脅威となる恐れが出てきた。
FSインベストメンツのチーフ市場ストラテジスト、トロイ・ガイエスキ氏は、FRBが利上げする中でほとんどの株式を保有すべき理由は乏しいと言い切り、「われわれは非常に防衛的な姿勢を維持している。今は資金を守る環境にある」と説明した。
(Lewis Krauskopf記者)
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