金融庁・日銀、気候変動リスクのシナリオ分析を試行的に実施
[東京 26日 ロイター] - 金融庁と日銀は26日、気候変動リスクのシナリオ分析について報告書を公表した。3メガバンクと大手3損保グループと連携して、初めて試行的に取り組んだ。金融庁と日銀がシナリオを設定して金融機関が自身のモデルで分析した結果、金融機関によってモデルや前提とする情報が異なり、財務への影響度合いにばらつきが生じたという。金融庁・日銀は分析手法の向上に取り組むとともに、国際的な議論に今回の結果を活用していく方針。
シナリオ分析は、金融庁と日銀が加盟するNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が公表したシナリオのうち、「各国の着実な取り組みで2050年にカーボンニュートラルを達成する」、「2020年代には取り組みが行われず、30年に政策転換を行って50年ごろカーボンニュートラルを達成する」、「このまま追加的な対策が何も実施されない」といった3つのシナリオをベースとした。
銀行については、21年3月末時点の全与信を対象に、カーボンニュートラルへの移行に伴う規制や技術の変化といった「移行リスク」と自然災害の激甚化がもたらす「物理的リスク」が財務に与える影響を分析した。ただ、将来見通しに関する情報の不足で各社の想定にばらつきが出て、推計結果にも影響が出た。
今回は定量的な影響度の評価を主眼としなかったため、移行リスクおよび物理的リスクによる年平均の信用コストの増加額は「各行の平均的な年間の純利益と比べて相応に低い水準となった」との記述にとどめた。各行がすでに公表している分析結果とも「大きな差はみられなかった」という。
損保に対するシナリオ分析では、1959年の伊勢湾台風を前提に中心気圧を下げてより激甚化するケースを想定した。中心気圧が下がるほど保険金支払額は増加したが、中心気圧を下げた場合の台風の半径の設定が各社で異なるなどしたため、保険金支払い額にばらつきが出た。
荒川の氾濫をモデルに水災リスクの分析も実施したが、同じ降水量・流量であっても、どこでどの程度の雨がどれだけ継続して降ったかによって損害額が大きく異なるなど、やはり各社の保険金支払い額にはばらつきが生じた。
今回のシナリオ分析は、各金融機関が昨年夏から冬にかけて実施したため、今年2月以降のウクライナ危機に伴う原油価格をはじめとする資源価格の急騰は考慮されていない。
(和田崇彦)