ランチタイムコメント
日経平均は5日ぶり反落、インフレ巡る楽観論の危うさを今一度考えたい
配信日時:2022/08/09 12:07
配信元:FISCO
日経平均は5日ぶり反落。239.89円安の28009.35円(出来高概算5億8451万株)で前場の取引を終えている。
8日の米株式市場でダウ平均は29.07ドル高(+0.08%)と小幅続伸。強い7月雇用統計を受けた景気後退懸念の緩和に伴う買い戻しが続き、買い先行。ただ、今週半ばに発表が予定されている重要インフレ指標を警戒した売りから次第に失速した。上院がインフレ削減法案を可決し成立する見込みとなったことが一部プラス材料となり、ダウ平均はかろうじてプラス圏を維持したが、ナスダック総合指数は、半導体メーカーのエヌビディアの決算を受けた下落に押され、-0.1%と小幅続落。日経平均は12.4円安からスタートすると、低調な決算を発表した東エレク<8035>やソフトバンクG<9984>の急落が重石となる形で徐々に下げ幅を拡大。午前中ごろには28000円を割り込む場面もあったが、引けにかけては下げ渋った。
個別では、予想外に減益決算となった東エレクが8%を超える下落率で急落。4-6月期の最終赤字額としては日本企業で過去最大を記録したソフトバンクGは4%強の下落。流通取引総額の伸び悩みが嫌気されたメルカリ<4385>は9%超と大幅安。東エレクや米エヌビディアの株価急落が波及する形でアドバンテスト<6857>やスクリン<7735>
などの半導体関連が総じて軟調。業績予想を下方修正したダイフク<6383>と住友ゴム<
5110>は揃って急落。第1四半期が大幅減益となった日製鋼<5631>も大幅安となった。
一方、郵船<9101>、商船三井<9104>の海運、ファーストリテ<9983>、エムスリー<2413>、SHIFT<3697>などのグロース(成長)株の一角が堅調。業績上方修正や増配、高水準の自社株買いを発表したINPEX<1605>は大幅高。三井松島HD<1518>は商いを伴った連日の大幅高で、東証プライム市場売買代金上位に顔を出した。ラウンドワン<4680>
も連日で急伸。ほか、デサント<8114>、NISSHA<7915>、チャームケア<6062>、日産化学<4021>、ニチコン<6996>が好決算を手掛かりに大幅高。トレンド<4704>は、アクティビストとして有名な米バリューアクト・キャピタルが大株主に浮上したことで急伸した。
セクターではゴム製品、電気機器、輸送用機器が下落率上位になった一方、鉱業、海運、石油・石炭が上昇率上位になった。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体65%、対して値上がり銘柄は30%となっている。
日経平均は指数寄与度の高い主力株の下落に押され、値幅を伴った下げとなっている。ただ、心理的な節目である28000円割れの水準では買い戻しが入って下げ渋っている。前日のナスダックの下落率も0.1%と、エヌビディアの急落があった割には底堅い印象。
10日の米7月消費者物価指数(CPI)と11日の米7月生産者物価指数(PPI)を前に様子見ムードが広がっており、持ち高を大きく動かしたくない向きが多いというのが指数の底堅さの背景だろう。ただ、筆者としては、足元の株式市場は楽観の修正が足りないと考えている。
7月半ばからの株式市場のリバウンドは、米連邦公開市場委員会(FOMC)や主要企業の4-6月期決算を前にした買い戻しから始まった。その後、FOMC後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見を受けて高まった利下げ転換期待や、資源価格の下落を背景にしたインフレピークアウト期待、主要企業の決算が想定程には悪くなかったことなどから買い戻しに拍車がかかった。
しかし、先週末に発表された米7月雇用統計では非農業部門雇用者数の伸びが予想を2倍以上回ったほか、平均賃金の伸びは前年比と前月比のどちらでみても、減速の予想とは対照的に加速した。この強すぎる雇用統計は上述した7月半ばからのリバウンドの根拠とされてきた「インフレピークアウト→FRB利下げ転換」の期待を打ち消すものだ。市場でも、雇用統計を受け、0.5ptの利上げが有力視されていた9月会合での利上げ幅としては急速に0.75ptの確率が高まってきた。
それにも関わらず、週明けの株式市場は日米ともに底堅い。CPIは総合で前年比+8.8%と、6月の+9.1%から減速する見込みで、投資家はインフレピークアウト→利下げ転換への期待をまだ持っているのかもしれない。また、前日に発表されたニューヨーク連銀の調査で、3年先の期待インフレ率が3.2%と、6月の3.6%から大きく低下したことも、こうした期待を支えているのかもしれない。
しかし、CPIは減速したところで依然8%強と歴史的な高水準。また、資源価格の下落傾向には一服感が出てきており、今後の減速ペースはかなり緩やかになるとも考えられる。さらに、FRBが重要視する食品・燃料を除いたコアCPIは前年比+6.1%と6月の+5.9%から拡大する見込み。全体の3分の1を占めるCPIの最大構成項目である住居費は住宅価格から1年程遅れて動く傾向がある。このため、米国で住宅価格は今年4月に伸びとしてはピークを打っているが、CPIの伸びは対照的に今後も加速する公算となる。
コアCPIはFRBの目標値である2%を3倍以上上回る状態が今後も続く可能性が高いといえる。
加えて、上述したように労働市場では平均賃金の伸びが加速している。賃金はインフレ項目の中でも下方硬直性があり、FRBのインフレ退治にあたっては特にやっかいな分野。サプライチェーン(供給網)制約の解消などが進んでいるのは確かだが、いま言えることは、それでも、なお需要が供給を上回っているということだ。需要が供給を上回っている限り、価格上昇圧力は消えず、FRBは金融引き締めを止めることはできない。
FRBも市場よりは慎重ながら、今後のデータ次第では0.5ptへと利上げ幅の減速も可能という見方が出ているのは心配だ。昨年8月のジャクソンホール会合で、パウエル議長は、インフレは一過性という主張を繰り返していた。しかし、その僅か3カ月後に同氏は「一過性」という表現を使うべきでないと姿勢を急転換。その後、FRBは自らの過ちを認める形で、急速な金融引き締めへと舵を切った。
僅か1年前に過度な楽観論から大きな過ちを犯したにもかかわらず、ここにきて再び利上げペースの減速もあり得ると市場に期待を抱かせるような楽観的な見方を一部持ち始めているのは非常に危うい。そもそも、これだけインフレが高いにもかかわらず、政策金利が未だに2.25-2.50%という物価指標の伸びを大きく下回る水準にあることに疑問府がつく。個人的には1ptの利上げを連続実施するくらいのショック療法が必要と考える。
いま市場が抱いている楽観論が正しいかどうかの答え合わせは近く行われる。早ければ、今週の米物価指標の発表、そこで行われなければ、来週17日のFOMC議事録公表か、今月25~27日開催予定のジャクソンホール会合までに修正される可能性があるだろう。
(仲村幸浩)
<AK>
8日の米株式市場でダウ平均は29.07ドル高(+0.08%)と小幅続伸。強い7月雇用統計を受けた景気後退懸念の緩和に伴う買い戻しが続き、買い先行。ただ、今週半ばに発表が予定されている重要インフレ指標を警戒した売りから次第に失速した。上院がインフレ削減法案を可決し成立する見込みとなったことが一部プラス材料となり、ダウ平均はかろうじてプラス圏を維持したが、ナスダック総合指数は、半導体メーカーのエヌビディアの決算を受けた下落に押され、-0.1%と小幅続落。日経平均は12.4円安からスタートすると、低調な決算を発表した東エレク<8035>やソフトバンクG<9984>の急落が重石となる形で徐々に下げ幅を拡大。午前中ごろには28000円を割り込む場面もあったが、引けにかけては下げ渋った。
個別では、予想外に減益決算となった東エレクが8%を超える下落率で急落。4-6月期の最終赤字額としては日本企業で過去最大を記録したソフトバンクGは4%強の下落。流通取引総額の伸び悩みが嫌気されたメルカリ<4385>は9%超と大幅安。東エレクや米エヌビディアの株価急落が波及する形でアドバンテスト<6857>やスクリン<7735>
などの半導体関連が総じて軟調。業績予想を下方修正したダイフク<6383>と住友ゴム<
5110>は揃って急落。第1四半期が大幅減益となった日製鋼<5631>も大幅安となった。
一方、郵船<9101>、商船三井<9104>の海運、ファーストリテ<9983>、エムスリー<2413>、SHIFT<3697>などのグロース(成長)株の一角が堅調。業績上方修正や増配、高水準の自社株買いを発表したINPEX<1605>は大幅高。三井松島HD<1518>は商いを伴った連日の大幅高で、東証プライム市場売買代金上位に顔を出した。ラウンドワン<4680>
も連日で急伸。ほか、デサント<8114>、NISSHA<7915>、チャームケア<6062>、日産化学<4021>、ニチコン<6996>が好決算を手掛かりに大幅高。トレンド<4704>は、アクティビストとして有名な米バリューアクト・キャピタルが大株主に浮上したことで急伸した。
セクターではゴム製品、電気機器、輸送用機器が下落率上位になった一方、鉱業、海運、石油・石炭が上昇率上位になった。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体65%、対して値上がり銘柄は30%となっている。
日経平均は指数寄与度の高い主力株の下落に押され、値幅を伴った下げとなっている。ただ、心理的な節目である28000円割れの水準では買い戻しが入って下げ渋っている。前日のナスダックの下落率も0.1%と、エヌビディアの急落があった割には底堅い印象。
10日の米7月消費者物価指数(CPI)と11日の米7月生産者物価指数(PPI)を前に様子見ムードが広がっており、持ち高を大きく動かしたくない向きが多いというのが指数の底堅さの背景だろう。ただ、筆者としては、足元の株式市場は楽観の修正が足りないと考えている。
7月半ばからの株式市場のリバウンドは、米連邦公開市場委員会(FOMC)や主要企業の4-6月期決算を前にした買い戻しから始まった。その後、FOMC後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見を受けて高まった利下げ転換期待や、資源価格の下落を背景にしたインフレピークアウト期待、主要企業の決算が想定程には悪くなかったことなどから買い戻しに拍車がかかった。
しかし、先週末に発表された米7月雇用統計では非農業部門雇用者数の伸びが予想を2倍以上回ったほか、平均賃金の伸びは前年比と前月比のどちらでみても、減速の予想とは対照的に加速した。この強すぎる雇用統計は上述した7月半ばからのリバウンドの根拠とされてきた「インフレピークアウト→FRB利下げ転換」の期待を打ち消すものだ。市場でも、雇用統計を受け、0.5ptの利上げが有力視されていた9月会合での利上げ幅としては急速に0.75ptの確率が高まってきた。
それにも関わらず、週明けの株式市場は日米ともに底堅い。CPIは総合で前年比+8.8%と、6月の+9.1%から減速する見込みで、投資家はインフレピークアウト→利下げ転換への期待をまだ持っているのかもしれない。また、前日に発表されたニューヨーク連銀の調査で、3年先の期待インフレ率が3.2%と、6月の3.6%から大きく低下したことも、こうした期待を支えているのかもしれない。
しかし、CPIは減速したところで依然8%強と歴史的な高水準。また、資源価格の下落傾向には一服感が出てきており、今後の減速ペースはかなり緩やかになるとも考えられる。さらに、FRBが重要視する食品・燃料を除いたコアCPIは前年比+6.1%と6月の+5.9%から拡大する見込み。全体の3分の1を占めるCPIの最大構成項目である住居費は住宅価格から1年程遅れて動く傾向がある。このため、米国で住宅価格は今年4月に伸びとしてはピークを打っているが、CPIの伸びは対照的に今後も加速する公算となる。
コアCPIはFRBの目標値である2%を3倍以上上回る状態が今後も続く可能性が高いといえる。
加えて、上述したように労働市場では平均賃金の伸びが加速している。賃金はインフレ項目の中でも下方硬直性があり、FRBのインフレ退治にあたっては特にやっかいな分野。サプライチェーン(供給網)制約の解消などが進んでいるのは確かだが、いま言えることは、それでも、なお需要が供給を上回っているということだ。需要が供給を上回っている限り、価格上昇圧力は消えず、FRBは金融引き締めを止めることはできない。
FRBも市場よりは慎重ながら、今後のデータ次第では0.5ptへと利上げ幅の減速も可能という見方が出ているのは心配だ。昨年8月のジャクソンホール会合で、パウエル議長は、インフレは一過性という主張を繰り返していた。しかし、その僅か3カ月後に同氏は「一過性」という表現を使うべきでないと姿勢を急転換。その後、FRBは自らの過ちを認める形で、急速な金融引き締めへと舵を切った。
僅か1年前に過度な楽観論から大きな過ちを犯したにもかかわらず、ここにきて再び利上げペースの減速もあり得ると市場に期待を抱かせるような楽観的な見方を一部持ち始めているのは非常に危うい。そもそも、これだけインフレが高いにもかかわらず、政策金利が未だに2.25-2.50%という物価指標の伸びを大きく下回る水準にあることに疑問府がつく。個人的には1ptの利上げを連続実施するくらいのショック療法が必要と考える。
いま市場が抱いている楽観論が正しいかどうかの答え合わせは近く行われる。早ければ、今週の米物価指標の発表、そこで行われなければ、来週17日のFOMC議事録公表か、今月25~27日開催予定のジャクソンホール会合までに修正される可能性があるだろう。
(仲村幸浩)
<AK>
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