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焦点:円安基調に変化、日銀緩和維持でも売り強まらず

配信日時:2022/07/21 14:36 配信元:REUTERS

基太村真司

[東京 21日 ロイター] - 海外主要国との金利差拡大見通しを手掛かりとする円相場の全面的な下落基調に変化が生じている。各国で市場予想を上回るペースの金融引き締めが相次ぐ中、世界景気の減速懸念が現実味を帯びるとともに、金利差拡大期待より株価の下落などリスク要因の顕在化を警戒する声が増えてきたためだ。

<全面売りではなくなった円>

日銀はきょうの金融政策決定会合でも、現行の大規模金融緩和政策の維持を決定。インフレ退治に利上げを急ぐ米国など、主要各国との金利格差が拡大する方向性に大きな変化はない。

しかし、市場の想定通りの結果とはいえ円売りは強まらず、ドル/円は日銀会合の結果発表後、一時上下に振れたが、すぐ発表前の138円前半に値を戻した。

対ドルだけでなく、幅広い通貨対比でみると、円相場にはすでに変化が生じている。6月半ば以降、円が直近安値を更新したのは対米ドルのみで、ユーロや英ポンド、スイスフラン、豪ドルなどに対しては6月に付けた数年ぶり安値を上回って推移している。

年初来では、対米ドルで円は最弱で下落率も2割近くに達するが、この1カ月間に限れば、エネルギー供給や景気減速の不安を抱えるユーロに、円は最弱の座を譲り渡している。

<海外中銀が想定外の引き締め、成長鈍化容認が続々>

円相場の情勢変化には、いくつかの予兆があった。

約1カ月前、ノルウェー中央銀行は20年ぶりの大幅利上げに踏み切り、追加利上げに前向きな声明まで公表したものの、対円のクローネは13円半ばから後半へ急伸した直後、すぐ売り戻されて発表前の水準を下回った。それまで目立っていた金利差拡大をはやした円売りが、まったく進まなかったのだ。

今月14日のカナダ中銀の場合も、1998年以来初となる1.0%の大幅利上げを実施したがカナダドルは105円台を上下した程度で、円が大きく売られることはなかった。

両中銀の共通点は、市場予想を超える大幅利上げと成長見通しの下方修正。ともにインフレ見通しは上方修正しており、物価高と急速な金融引き締めによる景気減速はやむなし、との姿勢を明確に示したのだ。

今月以降だけでも、市場参加者にとって想定外となる引き締めを実施したのは、ハンガリー、ルーマニア、チリ、フィリピン、シンガポールなど。予定にはない緊急会合を開いて引き締めを決めるケースまで出てきた。

市場では「世界的に金融引き締めが予想以上のペースで加速する中、利上げを好感するより、急速過ぎる引き締めによる景気減速を警戒すべきとの見方が強まってきた」(外銀幹部)との声が上がっている。

「最近の円安の大部分は世界的な金利上昇による日本との金利差拡大に起因しているが、世界的な景気後退懸念の高まりは、この構図を急速に変化させている」──。国際金融協会(IIF)は14日にまとめたリポートで、円相場の情勢変化をこう分析した。投機筋の持ち高が依然円売りに傾いていることなどから「景気後退懸念がさらに強まれば、無秩序な円高が進行するリスクがある」と警鐘を鳴らす。

あおぞら銀行のチーフマーケットストラテジスト、諸我晃氏は米国について「足元で金融引き締めを積極化したとしても、最終的には利下げとの見方も出てきている。インフレが高まれば景気悪化懸念も強まるので、ドル/円は上がりづらい」とみる。

<個人も円急騰に備え>

普段は円売り/外貨買いで値動きと金利差収入を同時に狙うことが多い個人投資家だが、今回はすでに円売りポジションを順次縮小。来るべき円の反騰に、着々と備える動きが目立っているという。

金融先物取引業協会によると、店頭FX(外国為替証拠金取引)49社を経由した6月のドル買い/円売りポジションは、差し引きで8488億円の買い持ち。これまで円安局面では買いが1兆円を超えることも珍しくなかっただけに、24年ぶり円安水準を更新中の値動きに対して、比較的小規模にとどまっている。

一方、店頭FXを通じた個人の取引額は6月月間で1229兆円と、新型コロナウイルスの感染が急拡大した20年3月を上回り、08年の統計開始以降最大を記録した。しかも4月は過去3番目の1002兆円、5月は4番目の977兆円、3月は5番目の893兆円と大活況が続いている。

その理由は、久々となる円相場の大きな値動きにある。ドル/円の月間値幅は3月が10.45円、4月が9.59円、5月が4.98円、6月が8.35円。19年は年間の値幅が過去最少の8.30円であり、足元は大きな収益機会が続いている。

トレイダーズ証券取締役の井口喜雄氏は、金利差収入狙いの買いは増えているものの、活発に短期売買を行う多くの参加者は「急速な円安進行に違和感を持つ向きが少なくないようだ。短期勝負の参加者だけをみれば、すでに持ち高は円買いに傾いている」と指摘している。

(基太村真司 取材協力:坂口茉莉子 編集:伊賀大記)

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