焦点:PB黒字試算、税収増で近づく「25年度」 実現にはハードル
[東京 14日 ロイター] - 内閣府が近く発表する基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の試算で、黒字年度が前倒しとなる可能性が出てきた。2021年度税収が過去最高を更新したことで、計算上は25年度の黒字も視野に入ると複数の専門家は指摘する。もっとも政府は22年度2次補正予算の編成も含め、切れ目なく政策対応を行う構えで、実現にはなおハードルが高い。
<円安・資源高もプラス効果>
PBは、借金に頼らず、どれだけ税収で歳出を賄えているかの指標。内閣府は今年1月時点で、高成長を実現すれば国と地方のPB黒字化が26年度になると試算していた。実際に前倒しとなれば、政府が掲げる25年度目標の達成が視野に入る。
内閣府は昨年7月の試算で、黒字化時期を27年度と想定しており、前年との比較では2年の前倒しとなる。
背景にあるのが税収の伸びだ。財務省によると、21年度税収は67.0兆円と20年度に続いて過去最高となった。所得、法人、消費の主要税目が前年対比でそろって増収となり、専門家の間では、税収見積もりの「土台」がかさ上げされることで22年度以降も増収になると予想されている。
第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストは「22年度税収見込み(65.2兆円)に対して21年度時点でこの水準を上回り、22年度税収は数兆円程度の上振れとなる可能性が高い」と指摘する。
「ウクライナ危機の影響が本格化しているが、税収に対しては景気への下押し圧力によるマイナス効果よりも円安、資源高によるプラス効果の方が大きい」とSMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは話す。
税収の伸びを反映した新たな試算で「PB黒字化の達成時期を25年度に前倒しする可能性もある」と宮前氏は言う。
<シナリオ崩す歳出圧力>
もっとも試算通りにPBを黒字化できるかは、なお見通せない。
参院選での自民大勝を受け、政府は物価高対策に加え、看板政策である「新しい資本主義」実現のため、歳出を積み増す構えだ。
岸田文雄首相は10日の民放番組で、追加経済対策を念頭に「状況の変化に適切に対応していく」と述べた。22年度1次補正予算で追加した予備費活用を先行させるが、早ければ秋の臨時国会での2次補正編成を視野に入れる。
政府関係者によると、年末にかけては次年度予算で防衛費をどう増やすかや、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた予算協議も行う。「こども家庭庁」を来春発足するのに併せ、関連予算が大幅に拡充される可能性もある。
「今後確定するこれらの歳出は、少なくとも今夏の財政試算には織り込まれていないとみられる。試算の上では黒字化の見通しがたつ可能性もあるが、実際に黒字化するかどうかは別問題」と第一生命経済研究所の星野氏は言う。
<債務処理に課題も>
先行きの財政運営を巡っては、累次の新型コロナ対策で積み上がった債務をどう処理するかという課題も残る。
関連予算の明確な線引きはないが、コロナ感染が本格化した20年度だけでも70兆円を超す歳出を追加した。償還財源のあてのない赤字国債での調達に多くを頼り、20年4月の対策策定から2年が経過しても、債務が膨らみ続ける状況に変わりない。
2011年の東日本大震災時は法人、個人に広く税負担を求め、震災から4カ月で多年度税収中立の枠組みに道筋を付けた。昨年末にかけ、財務省を中心にコロナ予算を特別会計で管理する構想も浮上したが、実現していない。
法政大の小黒一正教授は「(コロナ予算の)特別会計化が難しければ、今ある復興特会に新たな勘定を設けて管理するやり方もある」と言う。
政府は、歳出改革を進める一方で「重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない」との考えを先の骨太方針(経済財政運営の指針)に盛り込み、参院選に先立つ6月に閣議決定した。
コロナ予算管理で日本は復興基金の創設や増税で先行した欧米に後れをとった。日本の財政運営に対する厳しい見方が広がれば、かえって政策手段を損なう懸念もある。
(山口貴也、金子かおり、杉山健太郎 編集:石田仁志)