焦点:中国投資にくすぶる「制裁リスク」、ロシアの前例で警戒感
[ロンドン 6日 ロイター] - 中国は主要国・地域の中で唯一、今年の経済成長持ち直しが期待できるという点で、外国人投資家を引きつけている。だが、同時に彼らの投資意欲を抑える要因もある。それは、中国がいつかロシアのように世界の金融市場から排除されるのではないかとの懸念だ。
<作動始めた新しいパラダイム>
ウクライナに侵攻したロシアに対する西側の経済制裁の規模や協調ぶりは市場を仰天させ、何人もの運用担当者に数十億ドルの資産が一夜にして突然、無価値になる事態をもたらした。
中国の場合、経済規模と外国人の投資額がロシアとは桁違いである以上、ロシアに対するのと同様の制裁が発動される現実味は薄いものの、多くの投資家にとってこれは無視できないリスクの1つと言える。
1220億ドルの資産を動かすダブルライン・キャピタルのポートフォリオマネジャー、ビル・キャンベル氏は「国際投資家の世界では、新たな地政学イベントが発生すれば、前例に則った非常に厳しい制裁が発動される態勢が既に整っているということが周知された」と指摘した。
ダブルラインのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)は中国について、何の予告もない規制強化や、上場廃止の強要、さらに2020年終盤にアリババの金融子会社であるアント・グループの上場が土壇場で延期されたことを理由に挙げて、投資は不可能だとのらく印を押している。
キャンベル氏は、台湾や南シナ海を巡る緊張が中国と西側の本格的な対立の火種になりかねないとしつつ、地政学イベントが投資や指数にすぐさま影響を及ぼす恐れがあるという「新しいパラダイム」が作動しているとの見方を示した。
中国は主要株式・債券指数に占めるウエートが非常に大きいので、投資家はポートフォリオ運用の面で、ある程度の資金を振り向けざるを得ない。ダブルラインは中国への直接投資が過大になるのを避けるため、近隣諸国の資産や地域開発銀行の債券などを購入する工夫をしている。
<影落とす台湾問題>
米中関係はもう何年も前から、国際貿易や知的財産権などさまざまな分野で緊張が続いてきた。ただ、米政府は最近、中国がロシアのウクライナ侵攻を手助けするなら、重大な結果を招くと強い調子で警告。先週には米政府が、ロシアの軍事産業を支援しているとの理由で、中国企業5社を制裁対象に加えた。米議会上院には、中国が台湾に侵攻した場合に制裁を科すことができるとする法案も提出された。
2兆6000億ドルの資産を運用しているキャピタル・グループの投資ディレクター、フラビオ・カルペンツァーノ氏は、ロシアのウクライナ侵攻後に中国国債の投資を圧縮。「われわれは中国に投資できない、あるいは台湾有事が明日にも起きると考えているわけではない。しかし、ボラティリティーは高止まりするだろう。中国国債の利回りがこの種のボラティリティーを織り込んでいるとは思われない」と話した。
世界最大の資産運用会社で長らく中国に対して強気姿勢を維持してきたブラックロックも5月に中国株の投資判断を引き下げ、今後、中国と台湾の軍事衝突リスクが増大していくと警鐘を鳴らした。
<乏しい有望な投資先>
国際金融協会(IIF)によると、外国人投資家は1─3月に中国から300億ドル強の資金を引き揚げた。新型コロナウイルス感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)や、米国債利回り上昇が背景だ。もっともIIFは「西側との関係が順調ではない国に投資するリスクを認知すること」も影響したと指摘する。
一方、西側諸国が景気後退(リセッション)におびえるのと対照的に、中国経済は回復しているという理由で、6月には中国上場株に差し引きで110億ドルが外国から流入したことが、リフィニティブ・アイコンのデータで分かる。
パインブリッジ・インベストメンツのマルチ資産責任者、マイク・ケリー氏は「値上がりが見込めて、今買うことができる投資先が不足している」と解説した。パインブリッジは中国不動産セクターのドル建て債を保有し、中国株も再び買いに動いている。
ケリー氏によると、中国資産を買おうとする投資家は、誰も絶対的な安心感など得られるはずはないが「中国が台湾に関して何か仕掛けるとしても、今後2年以内ではない」との確信は持っているという。
<大きなウエート>
専門家の間では、巨大な中国の経済と市場の規模自体が、制裁発動の確率を下げるとの声が多い。下手に制裁をすれば、西側が被る副作用はロシアの比ではなくなる。世界の金融市場に及ぼす悪影響もずっと大きくなるだろう。
JPモルガンの試算に基づくと、中国株における外国人の保有比率は5%。また、中国株は各種新興国株価指数におけるウエートが40%に達し、中国債券もJPモルガンのGBI新興国債券指数の10%を占めるだけに、指数連動商品への外国人の投資額も相当な規模で、制裁を行う際には厄介な問題となりかねない。
ロシア債は、ウクライナ侵攻前の時点でGBI新興国債券指数のウエートは6.1%だった。
それでもある大手銀行の新興国市場戦略責任者はロイターに対し、ロシアとウクライナの戦争をきっかけに顧客から中国投資をどうすべきかという質問が相次いだと明かした。この責任者の話では、顧客はすぐに撤退できないかもしれない市場に、いったいどれほどの資金を配分したらよいのか悩んでいるという。
パインブリッジのケリー氏は、中国に関与する投資家は最終的に、突然の情勢変化に備える必要があると提言。ロシアに投資して心ならずもプーチン大統領の意向に振り回される立場になり、ある日急に身動きができなくなるというリスクが、中国にも存在すると説明した。
(Sujata Rao記者、Tommy Wilkes記者)