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焦点:ロシア侵攻で視界不良の主要中銀、浮上するスタグフレーション

配信日時:2022/02/26 07:56 配信元:REUTERS

[24日 ロイター] - 世界の中央銀行はそろって引き締め方向にかじを切り、コロナ禍後の金融政策に移行するための筋書きを入念に用意していた。だが、ロシアのウクライナ侵攻によって、一気に視界が曇ってしまった。この混乱は世界の経済成長に共通のリスクを及ぼすものの、主要国によって影響の度合いには濃淡がありそうだ。

ロシアの侵攻後、原油先物価格が直ちに1バレル=100ドルを突破したことは、直接的なリスクだ。長期的に計測が難しいリスクとしては、欧州での地上戦の可能性という事態が人々の信頼感や投資、貿易、金融システムに及ぼす影響が挙げられる。

多くのアナリストは、各国中銀が足元でインフレと闘う準備を整えつつ、強い経済成長が続く可能性が高いと予想していた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻により物価は上昇を続ける一方で、経済成長は減速する可能性が高まったとみている。これは標準的な金融政策では容易に解決できない状況だ。

オックスフォード・エコノミクスのアナリストチームは「主要先進国の中銀の立場は、戦争の激化によって明確に悪化した」と指摘。「インフレ率の出発点が高いため、中銀は短期的な物価上昇圧力を無視しにくいだろう。だが、直近の展開によって成長見通しが弱まるため、2023年末か24年ごろにインフレ率が非常に低くなるリスクが増したことにも中銀は着目するだろう」と分析している。

同社は、ロシアを除いて最も大きな打撃を受けるのは欧州だと予想。ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)の前年比は2022年にプラス4.6%まで上がった後、23年には同1.3%に急低下するとの見通しを示した。世界のCPI上昇率については、今年の予想を5.4%から6.1%に上方修正した。

米国やその他の地域でインフレ率が高まっているため、一斉に金融引き締め方向に転じていた米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE、英中銀)が、その動きを完全に休止する公算は小さい。

FRB幹部らは、ロシアの侵攻から数時間後に同様の考えを口にした。コロナ禍に対応してゼロ%近辺に下げた政策金利を引き上げる可能性は「固い」と述べた幹部もいる。

リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は「基本的な需要は強い。労働市場は引き締まっている。インフレ率は高く、広がりを見せている」と説明。ロシア軍の侵攻で「根本的なロジックが大きく変わるとは思わない。もっともこれは未踏の領域であるため、今後の世界情勢を注視する必要がある」と述べた。

<インフレ見通しは悪化>

だが、アナリストの見方では、ロシアの侵攻によって不透明感がさらに高まったことで中銀は慎重姿勢を強める可能性があり、金融引き締めの度合いが強まるよりは、弱まる確率の方がわずかに高そうだ。

エバコアISIのアナリストチームは「不透明感と下振れリスクが急拡大したため、中銀は金融正常化のプロセスを維持しつつも慎重姿勢に傾くだろう」と明記している。

エバコアはFRBについて、3月は25ベーシスポイント(bp)の利上げにとどめる可能性が高くなったと予想。一部幹部が支持していた50bpの利上げは封印するとみる。

BOEも次回の利上げ幅を抑制する可能性があり、ECBは引き締め計画についての明確な約束を先送りするとエバスコアは予想した。

鍵を握るのは地域ごとの状況や、紛争継続期間の長さと深刻度合いかもしれない。

エバコアによると、天然ガス供給に支障が出ればイタリアは「極めて影響を被りやすい」とし、ECBが引き締めを遅らせる要因になる可能性があると指摘した。

ただ、先進国全体として見れば、侵攻前よりもインフレ圧力がさらに高まることはほぼ間違いない。

エバコアは「ごく短期を除くすべての見通し期間において、スタグフレーション的ショックの影響は不明瞭であり、総合すればタカ派的になるかもしれない」と指摘。「相対価格のショックは看過する、というのが教科書的な対応だが、現在の状況でそれは難しい。以前から相対価格ショックが相次いだことで、既にインフレ率が高まる局面に入っているからだ」と解説した。

(Howard Schneider記者、Mark John記者)

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