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焦点:商用EV本格普及へ、優位探る新興と量産急ぐ大手

配信日時:2022/02/20 08:04 配信元:REUTERS

[英ファーナム 15日 ロイター] - 既存自動車メーカーがバンやトラックといった商用タイプの電気自動車(EV)の量産体制を準備する中で、スタートアップ各社はこれまで以上に自社の競争優位や技術的な先進性を築くことに注力している。規模で優るライバルがギアを上げて加速しても市場で生き残るためだ。

中国と欧州でガソリンやディーゼル燃料を使う自動車が禁止される気配が出てきたことで、大手自動車メーカーは再びテスラのような企業に出し抜かれないよう、商用EVの市場投入を急いでいる。

ゼネラルモーターズ(GM)やフォード、ルノー、ステランティスなど年間数十万台ものバンを製造する能力がある企業が居並ぶ世界で新規参入組が生き残るためには、卓越したソフトウェアやテクノロジーを持つことが決定的な要素になるとみられている。

自動車部品メーカーTEコネクティビティで産業用・商用輸送部門担当シニアバイスプレジデントを務めるジャンミシェル・ルノーディ氏は、「スタートアップ企業はどこも何かしら得意分野を持っている」と語る。「問われるのは、他社にないセールスポイントは何かということだ」

英国の新興EVメーカーであるベデオの場合、昨年、予定外の展開で新たな答えをつかんだ。

中国の不動産デベロッパー恒大集団が債務危機に陥ったことを受けて、恒大系列のナショナル・エレクトリック・ビークル・スウェーデン(NEVS)が、インホイールモーターを製造するスタートアップ、プロティアン・エレクトリックの売却に踏み切った。名乗りをあげたのがベデオだった。

ベデオはそれまで、トルコ国内の工場で、プジョー「ボクサー」やオペル「モバノ」といったバンに電動モーターやバッテリー、オペレーティングシステムを搭載してEVに転換し、ステランティスに提供していた。また、米宅配大手フェデックス傘下のTNTやドイツポスト傘下のDHLといった顧客向けに、ベデオ独自のEVバンも販売していた。

ベデオのオスマン・ボイナー最高経営責任者(CEO)はロイターの取材に対し、ベデオとプロティアンは現在、商用車と乗用車向けにインホイールモーターを使った新たなEVプラットフォームの開発を計画していると語った。

インホイールモーターは、EVの車輪すべて、あるいはその一部に内蔵可能な独立した電動モーターで、車軸やパワートレイン(動力伝達部)を必要としないため、バンやトラックではより多くの車内スペースを確保できる。また、車両重量の軽減によってバッテリーによる走行可能距離(航続距離)も延びる。

ロンドン郊外、ファーナムにあるプロティアン本社では、アンドリュー・ホワイトヘッドCEOが、NEVSのもとで開発し、生産準備が整ったスポーツカーを紹介してくれた。インホイールモーターを採用し、航続距離は現在入手可能なEVを大幅に上回る1000キロだという。

「いずれ、あらゆる車両がインホイールモーターを搭載するようになる。非常に合理的だからだ」とボイナーCEOは言う。「私たちはすでにこの技術を実用化しており、あとは市場に投入すればいいだけになっている」

<「市場のゴリラ」>

得られる果実は大きい。毎年、世界中で販売されている配送用バンは約900万台。グローバルな流通・小売企業に対して環境負荷の軽減を求めるプレッシャーは強まっており、商用EVへの大量発注が見込める状況になっている。

ボイナーCEOによると、ベデオは大手自動車メーカーとのあいだで、下請企業として商用EVプラットフォームを製造する交渉を進めている。同時に、独力で商用EVの販売を進めるかどうか投資家とも相談しているという。その判断は6月末には下される見込みだ。

「5億ドルを投資して自動車メーカーと張り合っていくべきか、それともコンポーネントの提供に専念すべきか」とボイナーCEOは言う。「ああいった自動車メーカーは非常に巨大で、まるで国家のようだ」

GMやフォードといった大手自動車メーカーは、スタートアップから見れば巨大な「壁」である。大規模な工場に加え、グローバルな販売、サービス、流通網や長年にわたる顧客とのつながりを活かすことができるからだ。

「大規模なサプライチェーンの扱い方を知っているのは、きわめて大きなアドバンテージだ」と語るのは、GMの電動商用車部門・ブライトドロップのチーフエグゼクティブ、トラビス・カッツ氏。ブライトドロップでは、フェデックスと米小売り大手ウォルマートから商用バンの大量生産モデル「EV600」の大型受注を獲得したと発表している。

米国・欧州の商用バン市場で代表的なブランドといえばフォードだ。調査会社オートフォアキャスト・ソリューションズでグローバル・ビークル予測担当バイスプレジデントを務めるサム・フィオラニ氏は、フォードの商用バン「トランジット」を「市場におけるゴリラ」と表現する。

「(フォードは)商用バンの購入希望者にすぐに応じられる体制がある」とフィオラニ氏。「これに対抗するのは大変だ」

EVのピックアップやSUV、商用バンを生産する新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブは、第2のテスラともてはやされ、11月の株式上場の際には当日のうちに株式時価総額が53%上昇し、1000億ドル(11兆5500億円)を越えた。

リビアンはアマゾンからバン10万台の発注を受けていたが、アマゾンが先月、ソフトウェアからクラウドコンピューティング、そしてEVバンに至る広い分野でステランティスと提携することを発表したため、リビアンの株価は急落した。

アマゾンでグローバル配送車両・製品担当ディレクターを務めるロス・レイチー氏は、「これ1つで完璧、というアプローチはない。複数のプレイヤーにチャンスがある」と、ステランティスなどの大手と同時にリビアンのような新興企業とも協力を進めている理由を説明した。

<ノウハウとネットワーク>

投資家の間には、スタートアップには倒産の可能性がつきまとい、リスクの高い賭けになるという見方もある。

「5年後に、これらのスタートアップ企業があっさり消滅していたら、どうなってしまうのか」と語るのは、マリナー・ウェルス・アドバイザーズのマネージングディレクター、スコット・シャーマーホーン氏。マリナー・ウェルスではGMの株式に投資している。

痛い目にあったのがフェデックスだ。EVスタートアップのChanjeから配送バン1000台の供給を受ける契約だったのに、その後同社が事業から撤退してしまったからである。

貨物配送企業であるフェデックスは、GM傘下のブライトドロップに数千台のEVバンを発注した。フェデックスで米州地域エクスプレス事業部を率いるリチャード・スミス氏は、大規模なフリート(車両群)を支える「ノウハウと規模、迅速な資本調達力」とネットワークを持っているからだと説明する。

とはいえスミス氏は、フェデックスとしては「イノベーションと新たな技術を持った」スタートアップに今後も門戸を開いておく、と語る。

サンフランシスコの投資会社エンジンNo.1でマネージングディレクター兼ポートフォリオ・マネジャーを務めるエド・サン氏は、新興勢は規模の点で見劣りがするものの、ソフトウェアや航続距離、車両技術、ニッチへの特化といった点で優れていることも多く、生き残りは可能だ、と話す。

サン氏は「新興勢もシェアを築くことは確実だ」と語る。エンジンNo.1ではGMとフォードの株式を保有している。

英国の新興EVバンメーカーのアライバルにとっては、コストをあまりかけないイノベーションが未来への道だ。

アライバルではごく小規模な工場を持ち、バンの車体に低コストで軽量なプラスチック複合材を利用する計画だ。独自のフリート管理ソフトウェアを使うことにより、同じ価格帯のディーゼルエンジン駆動のバンよりも優れた製品になるという。

スウェーデンのスタートアップ、ボルタ・トラックスは既存メーカーよりも先行しており、16トンEVトラックの生産を今年開始する。運転席は中央の低い位置に設けられ、ぐるりとウィンドウに囲まれているため、ドライバーは歩行者と同じ目の高さとなり、混雑した市内での安全性が向上している。

<「未来を保障」>

一方、英国のEVトラックメーカーのテッバはニッチ分野を追求する。

テッバは、同社が「グライダー」と呼ぶ部分、つまりトラックのフレームと運転台を既存の自動車メーカーから購入する。既存メーカーのネットワークを活かす狙いだ。その上で、自社開発の電動モーターとバッテリーパック、ソフトウェアを搭載する。場合によっては水素燃料電池を追加し、より長い航続距離を実現するクリーン燃料併用車を効率的に実現している。

テッバのアッシャー・ベネットCEOはロイターに対し、「他社がすでに成功している部分に何億ドルも投資する必要はない」と語った。

貨物輸送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と提携してトラックのテストを進めているテッバは、英ティルベリーの工場で7.5トン級のトラック2種類の生産を今年開始する予定だ。

一方は航続距離約257キロの電動モデル、他方は水素燃料電池を追加搭載し、航続距離を約500キロに延ばしている。テッバでは、水素燃料電池で航続距離を延ばす12トントラック、19トントラックも展開する計画だ。

テッバでは米国内及び欧州本土での工場建設候補地を絞り込んでおり、いずれも年間約3000台のトラックを生産可能とする予定だ。

トラック業界には、水しか排出せずバッテリーよりも軽量な水素燃料電池が今後の動力源になると考える人が多い。ただし、水素供給インフラの整備はまだ端緒についたにすぎない。

ベネットCEOは、水素技術の併用と低コストの製造、そしてクラウドベースのソフトウェアによる航続距離の最適化が「我が社の未来を保障する」と述べている。

一方UPSは、アライバルなどのスタートアップとの提携が、全世界で13万台に及ぶ同社のフリートに加わるEVのタイプの具体化につながっている、としている。

UPSでは、シャシーやパワートレイン、バンの車体の設計に関してアライバルと提携しており、すでに最大1万台を発注している。

UPSでメンテナンス及びエンジニアリング担当のバイスプレジデントを務めるルーク・ウェイク氏は、「我が社のグローバル事業を支えるようスケールアップが可能なソリューションだと考えている」と話す。

(Nick Carey記者、Ben Klayman記者、翻訳:エァクレーレン)

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