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焦点:空飛ぶクルマ、「離陸」に立ちはだかる規制や社会の高い壁

配信日時:2022/02/19 08:01 配信元:REUTERS

[シンガポール 16日 ロイター] - 開催中の航空見本市「シンガポール・エアショー」で、英バーティカル・エアロスペースとブラジルのエンブラエルの子会社、イブが展示した「空飛ぶクルマ」は多数の顧客を獲得した。しかし、この夢の乗り物が実用化するには、規制や社会の受容といった高い壁が待ち構えている。

動力となるバッテリー技術の改善やパイロット不足など、ハードルは他にもある。単なる「超富裕層向けの静かなヘリコプター」に終わらないためには、コストを引き下げることも必要だ。

空飛ぶクルマ、つまり電動垂直離着陸機「eVTOL」(イーブイトール)には、米ボーイング、欧州エアバス、米ユナイテッド航空、トヨタ自動車、ステランティスなど、世界の名だたる企業が資金をつぎ込んでいる。

「懐疑派は数多くいる。だが20年前にわが社が航空機たった2機で航空会社を立ち上げた時にも、懐疑派はたくさんいた」と語るのは、マレーシアの大手格安航空(LCC)、エアアジアの親会社キャピタルAのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)だ。エアアジアは16日、航空機リース会社アボロンとの間で、バーティカル・エアロスペースのeVTOL「VX4」、100機以上のリースを受けることで合意した。

モルガン・スタンレーのアナリストチームは昨年、規制の問題が順調にクリアできればeVTOL市場は2040年までに1兆ドルに達するとの試算を示した。 

しかし、この業界に関して最も過小評価されているリスクの1つが規制だとも指摘。特に人口密度の高い都市環境で稼働する場合、厳格な安全基準が導入されそうなことに加え、騒音と公害の懸念もあるとしている。

<パイロットが課題>

開発中のeVTOLは、ほとんどがパイロットによる操縦を必要とするため、少なくとも無人操縦が普及するまではパイロット訓練の負担とコストも課題になる。

アルトン・エビエーション・コンサルタンシーの幹部、アラン・リム氏は「まず準備しなければならないのがパイロットだ。いずれパイロットが不要になるまでは、飛行訓練が必要になる」と語った。

ボーイングが出資する新興企業のウィスク・エアロのように、サービス参入の遅れを覚悟してでもパイロットなしの完全自動運転eVTOLを計画している企業もある。

コンサルタント会社・マッキンゼーは各社の導入計画を基に、2028年までにeVTOLのパイロットが6万人必要になると推計した。これは2018年の全商用機パイロットの17%に当たる人数とあって、壁は高い。

業界筋は、乗客を数人しか運ばないeVTOLは、パイロットにとって大型機に進む前の訓練の場になりそうだと言う。

アボロンのドムナル・スラッテリーCEOは「(エアアジアは)パイロットに対し、VX4から入って最終的に(エアバス)A320の機長になるキャリアを提示できるようになる。魅力的だと思わないか」と語った。

<ヘリコプターより静か>

イブはシンガポール・エアショーで、オーストラリアのヘリコプター運営会社から、eVTOL90機を非拘束ベースで受注した。これで2026年までに納入予定は1800機を超えた。

イブのアンドレ・ステイン共同CEOは、騒音の懸念が小さいことが同社の注目点だと語る。同社のeVTOLは離陸後、航空機に近い飛行の仕方をするため、ヘリコプターより最大90%静かだという。

「ヘリコプターはうるさい上に燃料を食い、コストが高い」が、同社のサービスは別種のものだとステイン氏は強調した。

開発・運営業者は、最初のeVTOLが認可されたとたんに数千機が世界中を飛び回るという壮大な夢を描いている。だが、アルトンのリム氏は、ゆっくりとした増加が2030年ごろまで続いた後に普及するというシナリオの方が現実的だと言う。

「一足飛びに(米配車サービス)ウーバーのような規模にはならない。まず人々に乗車してもらう必要がある」とリム氏は語った。

(Chen Lin記者、Gerry Doyle記者、Jamie Freed記者)

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