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アングル:急速にタカ派色強める主要中銀、引き締め過ぎリスクも

配信日時:2022/02/07 13:24 配信元:REUTERS

[フランクフルト/ロンドン 4日 ロイター] - 最近のほんの数種間で、主要中央銀行のパワーバランスは一気にタカ派方向へと傾き、過去数年で最も大きな金融引き締め局面が到来しようとしている。

しかし、物価高騰に直面したこのような姿勢変化は、金融政策の失敗をもたらすリスクを高めている。実体経済の基本的な環境は、政策担当者の心理ほど急には変わらないからだ。

問題は、中銀が物価高に対処するよう社会的・政治的圧力にさらされていることだ。インフレは家計の所得を目減りさせ、資産価値を損なって連日見出しをにぎわせている。

しかし金融政策に目先の物価圧力を抑える効果は乏しく、政策措置を今講じても、効果が出るのはインフレがいずれにせよ急減速しそうな段階になってからだ。

それでも欧州中央銀行(ECB)は3日の理事会で、年内の利上げを検討議題にする意向を打ち出した。イングランド銀行(BOE)は同じ日に政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げたばかりか、9人の政策委員のうち4人が50bp利上げを主張。その数日前には米連邦準備理事会(FRB)が年内の利上げについて、3月に利上げを開始した後に3回実施する経路が基本シナリオになるとの考えを示唆した。

ECBがタカ派陣営に加わったため、主要中銀では日銀だけが取り残された形。日本の物価上昇率はなお目標よりずっと低いため、日銀は金融引き締めの検討にさえ着手していない。

UBSグローバル・ウエルスのエコノミスト、ポール・ドノバン氏は「中銀は人々の大きな注目を集めている事象(インフレ)を無視できない。その結果として中銀はかなり難しい振る舞いを強いられ、インフレは関心に値するとの認識を強調しつつも、早急な政策対応を必要とする問題ではないとの見方を示唆しようとしている」と指摘。今のところどの中銀も、適切なかじ取りができていないようだとみている。

ECBのラガルド総裁は3日、社会に配慮することの重要性には同意。「われわれはこの負担が、物価高を耐えしのぐために毎日の苦労に直面しているような最も脆弱な人々のところに真っ先かつ重点的にのしかかると承知している。そうした懸念を理事会メンバーが等しく共有していると請け合える」と語った。

<政策的失敗>

もちろん、早期の金融政策が無駄だというわけではない。

将来の物価動向に影響を与える賃金を決定する企業が、中銀は決して物価を目標圏から逸脱させないと信じるなら、早期利上げはインフレが定着するのを防ぐことができるだろう。

インフレが痛みを伴うほどの高さになっているのは間違いない。ユーロ圏では、1月の物価上昇率が5.1%と過去最大の伸びを記録し、さらに上振れる可能性がある。英国でも年内に物価上昇率が7%を突破する恐れが出ている。

ところが金融政策は、足元のインフレの大きな要因である原油や天然ガス、穀物といった世界的な商品相場の高騰に対しては何の働き掛けもできない。またインフレはピークからの減速スピードも速くなる。ユーロ圏は年末か来年初めには物価上昇率が2%前後に再び収まってもおかしくない。英国の物価上昇率が2%に鈍化するのはもう1年先だろうが、今年後半は急速なペースで下振れしそうだ。

こうした限定的な政策効果を踏まえると、主要中銀のタカ派化は既に行き過ぎだと受け止める向きもある。バンク・オブ・アメリカは、2011年のユーロ圏債務危機前夜、当時のECBのトリシェ総裁がちょっとした物価高を抑えようと利上げをして、ECB史上最悪の政策的失敗と言われた事態が再現されるリスクはゼロではないと強調している。

実際、ECBのある政策担当者は、過去10年にわたって理事会メンバーの多数派だったハト派が勢力を減らしつつあると認め、「3月には(タカ派が)恐らく多数派になり、そこで1つの判断を迫られる。まずテーパリング(債券買い入れ縮小)の加速、次に利上げを検討することになるだろう」と述べた。

BOEも同じリスクを抱えるとの声が聞かれる。ウニクレディトのエコノミスト、ダニエル・ベルナッツァ氏は「政策的失敗が起きるリスクは高まりつつあるのではないか」と心配を口にした。

ベイリーBOE総裁は市場の期待が高まりすぎるのを抑えるため、複数回の追加利上げの可能性はあると認めつつも、投資家は「調子に乗るべきではない」とくぎを刺した。BOEは実に難しいさじ加減を求められているとも強調した。

このメッセージを聞いて、BOEはあたかも利害が異なる関係者を同時に満足させようとしているようだ、と受け止める向きもいる。

エバーコアのアナリストチームは「タカ派的であるのと同時にハト派的に振る舞おうとする不格好な試みという印象を受ける」と述べた。BOEは、かたや1970年代の高インフレが再来する恐れ、かたや実質可処分所得の記録的な縮小が景気減速に拍車を掛け、やがてリセッション(景気後退)に陥る恐れという、2つの恐怖の間で身動きが取れなくなっているようだと説明した。

(Balazs Koranyi記者、William Schomberg記者)

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