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焦点:海外勢が日本でEV強化、国内勢の本格シフト前に「大衆化」

配信日時:2022/02/02 11:54 配信元:REUTERS

白木真紀

[東京 2日 ロイター] - 電気自動車(EV)にいち早く舵を切った独フォルクスワーゲン(VW)など欧米メーカーが、日本で攻勢を強めている。国内勢のEVシフトが本格化する前に先手を打って「大衆化」を進めたい考えで、従来よりも価格を下げたEVを相次いで投入、自前で充電網の整備を急ぎ、シェア拡大を狙う。

<「環境に配慮、会社を応援」>

東京で農産物の一次生産者の販売支援会社を経営する阿部成美さん(30)は昨年9月、初のマイカーとして仏プジョーのEV「e-208」を300万円台で購入した。最初からEV一択だった。「なるべく環境に配慮したものを」との思いからだ。

価格はもちろんだが、企業の理念も購入時の重要な要素で、パイオニア精神に共感できるホンダの小型車「Honda e」も検討したが、航続距離が条件に合わず候補から外した。経営に革新性を感じた「プジョーを応援したい」との思いが決め手となった。

年間500万台前後の日本の新車市場は国内勢がシェア9割以上を握るが、足元で輸入車の販売が急速に伸びている。新型コロナウイルスの感染拡大で旅行や外食を自粛した人たちが外国車を購入しているのが主な要因で、中でも輸入EVの伸びが目立つ。

昨年の国内新車販売(軽自動車を除く乗用車のみ)は前年比3.2%減だったが、外国車に限ると1.7%増、シェアは9.3%で過去最高だった。日本自動車輸入組合によると、輸入EVの新車も2.7倍の8610台と過去最多。独メルセデス・ベンツ・グループのEVは4.4倍の1100台超を売り上げた。

EV専業の米テスラは日本での販売台数を公表していないものの、同社が輸入EVの新車の6割ほどを占めるとみられる。昨年2月に大幅値下げした小型車「モデル3」が国などの補助金を使うと300万円台で買えるようになったことが追い風になった。

<国内最大級の充電網>

「日本でのEV(販売)に本気だ」。VWグループジャパンのマティアス・シェーパース社長は1月中旬、傘下の高級車ブランド「アウディ」の会見でこう表明した。

アウディはこの日、2024年までにEV15車種以上を日本に投入する計画を発表。すでに1000万円前後の2車種を販売しているが、普及には価格を下げる必要があるとして599万円から買える小型スポーツ多目的車(SUV)を今秋以降に追加する。25年にはEVの販売比率35%、1万台以上を目指す。世界で昨年、約11万台超売れたVWブランドの小型SUV「ID.4」も年内に投入する。

普及に不可欠な充電網も整備する計画。急速充電器のある販売店を現在の50店舗から、年内に倍以上増やす。VWの販売店も含めて今年中に国内最大級の計250店舗に拡大させる。ホテルやゴルフ場には普通充電器を設置し、VWグループ以外のEVも利用できるようにする。

国内でプジョーなど7ブランドを手がけるステランティスは、年内にEV2車種を日本で追加発売する。展開するEVはこれで計5車種となり、新車投入に合わせて販売店に充電器を設置する。3月に日本法人の社長に就くポンタス・ヘグストロノム氏は1月中旬の会見で「今年のEV販売は飛躍的に伸びる」と話した。

海外勢、とりわけ環境規制が厳しい欧州のメーカーはEVシフトを迫られている。内燃機関車の部品調達先も「どんどんなくなってきている」(シェーパース氏)。ガソリン車を発明した独ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツ・グループは29年末までにEV専業になる準備を整えると宣言している。

<日本勢も本腰>

日本勢もここに来て本腰を入れ始めた。「リーフ」で先鞭(せんべん)をつけた日産自動車は、SUV「アリア」の標準仕様車を今春投入する。トヨタ自動車とSUBARUは共同開発したEVを年央から日本など世界へ順次展開。トヨタはすでに約5000の国内販売店ほぼ全てに普通充電器があるが、25年までには急速充電器を全店に置く計画で、高級車ブランド「レクサス」も35年までにEV専用にする。

軽自動車のEVでは、日産と三菱自動車が今春、ホンダが24年までに発売するほか、ダイハツ工業とスズキは実質100万円台で25年までに導入する方針だ。

海外勢が日本でEV販売を強化していることについて、国内首位のトヨタは各社それぞれに戦略があるとした上で、「大事なことはカーボンニュートラル(脱炭素)に向けて真剣に取り組み、実現させること」(広報)としている。豊田章男社長はかねてから国ごとに電力構成など条件が異なるため、選択肢がEVだけでは世界的な解決策にならないとし、EVも燃料電池車もプラグインハイブリッド車も「全部本気だ」と繰り返してきた。

プジョーを購入した阿部さんも、火力発電の比率が高い日本の電力事情は認識しており、車両の生産から廃棄までライフサイクル全体でみると、日本では現状、EVが必ずしもエコではないことを理解している。ただ、「若者が率先して動くことで(電力含めて)環境に良いものへと世の中が変わるよう、火がついてくれれば」との思いが強い。

ブランドコンサルティング大手インターブランドジャパンによると、消費者が車を選ぶ理由のうち、42%をブランドイメージが占めるという。同社の並木将仁最高経営責任者は、EV時代はブランドを体現する重要な要素が燃費などの機能的価値から変化すると説明。社会にどんな価値を提供したいかという「パーパス(志)」、それを軸に事業を進めているかという精神的価値が重視され、特に移行期は消費者にとって判断しやすい「シグナルになりうる」とし、「会社の意志が分かりやすい欧州勢のほうが有利だろう」とみる。

並木氏は、EV専用ブランドに振り切ると決めたトヨタのレクサスなどは「十分な可能性がある」とも話している。

(白木真紀 グラフィックス:照井裕子 編集:久保信博)

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