生命保険や医療保険に加入するとき、自身の健康状態や病歴などを保険会社に伝える「告知義務」があります。今回は、告知義務に違反するとどうなるのか、また、なぜ告知義務違反がバレるのかについて過去の事例の概要を含めて説明します。
これから保険の加入を検討している方は、告知義務違反について理解を深めておきましょう。少しでも告知義務で不安がある方は、保険会社に直接相談するのがおすすめです。
告知義務とは?
告知義務とは、譲渡や医療保険に加入したり、失効した保険を復活させたりする際、自己の健康状態や病歴などについて、保険会社に確かなありのままの情報を告知する義務のことです。保険を加入する際に告知義務を怠ると、告知義務違反と判断されます。
それで何を告知するの?
保険に加入する際に必要になる告知内容には、以下が挙げられます。
保険に加入する際に必要になる告知内容
- 過去の病歴
- 現在の健康状態
- 服用している薬
- 持病
- 障がいの有無と種類
- 妊娠しているか
- 職業、勤務先や仕事内容
告知する情報の内容は、保険会社や保険の種類などによって異なります。このように告知義務では、被保険者の情報を指定の告知書に書いて保険会社に伝えるのが主流です。では、なぜ保険の加入に告知義務が設けられているのでしょうか。
生命保険や医療保険などの保険商品は、保険会社が加入者全員から掛け金を集めて、ケガや病気で費用が必要となった方に、集めたお金の一部を保障(保険金・給付金)として渡す仕組み(※1)となっています。
生命保険・医療保険などの保険商品も金融商品の一つですので、集める掛け金と支払う保険金のバランスを保つ必要があります。しかし、保険加入時に告知義務がなければ、加入者それぞれの病気やケガのリスクを把握できなくなり、運用に支障をきたす可能性があるのです。
例えば、何らかの傷病を持っている人は、繰り返し入院や手術を繰り返す必要があり何度も保障を受ける可能性があります。対して、何の傷病も患っておらず健康な人は保障を受ける可能性が低いです。これを考慮すると、保険加入前から傷病を持っている人と健康な人とが、同じ保険料で保障を受けることは不公平と言えます。
このように、傷病の告知なしに保険加入する人がいると保険会社が公平性を持った運用をできなくなってしまいます。そういった事柄を事前に防止し、公平性を保ち、保険商品を正しく運用するために告知義務が設けられています。
告知内容は保険料の公平を保つために必要であるため、事実をありのままに申請しましょう。
告知内容は過去に患った病気、あるいは治療中・経過観察中の傷病・障害や、治療を行った病院名、現在の健康状態等、個人情報に関する項目が多いため、人に言いたくない情報を伝えなければならない場合もあります。
とはいえ、いかなる理由があろうと真実を告知しない、または嘘の内容を告知するなどの行為は行ってはいけません。たとえ故意でなくとも、告知漏れや虚偽の申請が明らかになるとさまざまなリスクが発生し、保険契約が解除されて給付金を受け取れなくなります。
ちなみに、生命保険・医療保険だけでなく、火災保険などの損保にも告知義務があります。例えば、他の火災保険の加入有無についての告知です。火災保険は2つの保険に重複契約をしていても、生命保険と違って補償は実際の損害額までで、2倍受けられる訳ではありません。複数契約による二重の保険金請求を防ぐためにも、このような告知義務があるのです。
※1 参考:一般社団法人生命保険協会「STEP. 3 生命保険の仕組み」
告知義務違反を犯してしまうと何が起きる?
ここでは、義務違反を犯したとき、何が起きるか説明します。
保険契約が解除される?
保険契約が開始される責任開始日から2年以内に告知義務違反が発覚した場合、契約解除となる可能性があります(※2)。
責任開始日とは、生命保険会社が保険金や給付金を支払う責任が発生する時期のことです。加入者の告知義務違反があった場合、保険会社は責任開始日から2年以上が経過する前であれば、契約や特約を解除することができます。そうなると、加入者に保険金を受け取る事由ができたとしても保険金を受け取ることができなくなります。
また、責任開始日から2年以内に告知義務違反による保険金の受取事由が発生していた場合は、保険契約の取り消しに期限はなく、2年以上が経過しても行われる場合があります。
例えば、うつ病を隠して保険の加入を申し込むと、告知義務違反と見なされ、契約解除などのペナルティが課せられます。
故意でない場合でも、虚偽の申告と見なされ告知義務違反と判断されるため注意が必要です。加えて、契約解除をされた場合は支払った掛け金は返金されません。
場合によっては、告知義務違反が発覚して保険金の払い戻しや解約返戻金が受けられるケースもあります。
※2 参考:公益財団法人生命保険文化センター「病歴があったのに告知するのを忘れていたら?」
保険契約が取り消される?
告知義務違反の内容が悪質または重大であった場合、保険契約を取り消されることがあります。保険契約取り消しは、解除される場合と異なり、解約払戻金を受け取ることができず、過去に支払った保険料全てが無駄になってしまいます。
保険契約の取り消しに期限はなく、責任開始日から2年以上が経過しても行われます。虚偽の告知が悪質な場合は、詐欺と判断され法的措置を講じられる可能性もあるため注意が必要です。
また、契約解除と同じく契約取り消しも、支払った掛け金は返金されません。たとえ保険金の支払い事由に該当する病気にかかったとしても、保障を受けることができなくなります。
このように保険契約の取り消しは、より悪質な告知義務違反の場合に適用され、保険金が支払われなかったり、保険料が戻ってこなかったりと重いペナルティが課されます。
告知義務違反の時効は?
病気についての告知は何年前まで報告する必要があるのでしょうか?告知義務違反には時効が存在します。契約が開始される責任開始日から2年以内が告知義務違反の時効となることが一般的です。ただし、法律によって時効を「2年」「5年」「10年」とする考え方もあります。そのため、必ずしも2年経てば時効になるとは限りません。
保険法では、「5年」以内に告知義務違反が発生した場合に、契約を解除できると定められています。よって、約款に「2年」と記載されていない場合は、5年が時効として適用されることになります。
また、民法では債務不履行の消滅時効を10年と規定しています。時効の優先順位は保険約款、保険法そして民法となるため、時効期間は基本的に2年または5年が適用されることが一般的です。とはいえ、2年が経過しても悪質または重大な告知義務違反については、契約取り消しとなるため注意しましょう。
たまたま告知を忘れていた・間違えていた場合
注意して告知しても、誰でもミスをしてしまう可能性はあります。契約後に記入ミスや記入漏れに気がつくこともあるかもしれません。
このような、うっかり起きてしまったミスでも告知義務違反として扱われてしまいます。告知義務違反と認定されてしまうと後から保険の再加入は難しくなるため、間違いに気付いたときはすぐ保険会社へ連絡しましょう。また、保険に関して少しでも分からない点や疑問点があれば、直接保険会社へ相談しましょう。
告知内容を訂正するときは、以下の三つの手順で追加告知をします。
追加告知の手順
- 保険会社へ連絡
- 追加告知の書類を受け取り
- 書類を送付
以下でそれぞれについて詳しく見ていきましょう。
1、保険会社へ連絡
まずは保険会社に連絡し、告知義務違反となりうる事項についての相談、確認を行いましょう。この際、告知義務違反の過失があったと認められる場合は、契約解除にはなりません。前提として、この際の「過失」とは保険会社側のミスを指します。契約者側のうっかり告知漏れのことではありません。契約者側の「うっかり」については後述を参考にしてください。
具体的に、保険会社の過失とは、契約締結の時点で保険会社が契約解除の原因となる事柄を知っていた場合や、契約者側が「何が告知義務違反になるか」を保険会社から知らされなかった場合を指します。これらの場合には、保険会社のミスが原因となりますので契約解除にはなりません。
2、追加告知の書類を受け取り記入
保険会社に連絡したあとは、追加告知の書類が届きます。ミスをしないよう丁寧に記入しましょう。
3、資料を送付
追加告知の書類に記入し、保険会社へ送付します。送付後は内容の審査が行われるため、審査結果を待ちましょう。追加告知の内容次第では、保険契約を継続できない、あるいは条件付きの加入になってしまう場合もあります。
保険契約を継続ができなくなることを恐れて、審査を避けるために追加告知をせずそのままにしてしまうとおくと、悪質な行為と見なされることがあります。告知義務違反として契約が取り消される可能性もあるため、ミスに気づいたら必ず追加告知しましょう。
告知義務違反に問われた事例に関しては後ほど説明します。
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告知義務違反はなぜバレるのか?
告知義務違反はなぜバレてしまうのでしょうか。告知義務違反は告知書を出した時点で発覚することはありません。なぜならば、告知内容の真偽を調べるタイミングが契約時ではないためです。保険会社が契約時に告知内容を調べて、間違いを指摘することもありません。
そこで次に、告知内容の真偽を調べるタイミングについて説明していきます。
告知内容を調べるタイミング
保険会社が告知内容を調べるタイミングは、以下の二つが挙げられます。
告知内容を調べるタイミング
- 保険金・給付金を請求した時
- 同じ保険会社で他の保険商品を契約するとき
以下ではそれぞれについて詳しく説明していきます。
保険金・給付金を請求した時
すべての加入者について契約時に確認をすると、保険会社は多くの労力と時間を消費してしまいます。そのため、保険金や給付金の請求があったときに、告知内容が事実であるかどうかを確認します。とくに、保険に加入して2年以内は契約時に持病を隠していた可能性が高いため、より細かく調査されます。
同じ保険会社で他の保険に加入するとき
また、同じ保険会社で他の保険商品を契約するときにも、告知内容の真偽を調査されます。同じ時期・近い時期に契約する場合は、まとめて書類を書くため記入内容に差異は生じません。しかし、保険の加入時期が開いていると、記入内容に差異が生じることも想定できます。
たとえば、当初の告知では記入していなかった病歴が加わっている可能性です。もしこの告知内容に違う箇所が見つかった場合、告知内容のどちらかで告知義務違反の可能性が疑われます。どちらが正確なことを記載しているか確かめるために、さまざまな調査が行われます。
では、保険会社は実際にどのように告知内容を調査しているのでしょうか。
告知内容の調査方法
保険会社が告知内容を調査する方法には、以下の2つがあります。
告知内容の調査方法
- 医療機関
- 健康診断
以下では上記二つについて詳しく見ていきましょう。
医療機関
保険会社が最初に査定する場所は医療機関です。病院には5年分のカルテが保存されているため、契約者の過去に患った病気を査定することが可能です。通院履歴や手術内容、入院日数まで細かく調べることができます。
健康診断
健康診断の結果も調査の対象です。告知を行う際に、健康診断書の提出が必要な保険会社もありますが、提出が必要ない場合もあります。
告知の際に健康診断書を提出していなくても、保険会社は健康診断書を医療機関に請求することが可能です。告知内容が疑われる場合は、契約時の健康診断書を調査される可能性もあります。健康状態を適切に記載するために、健康診断書を参考に告知書を記入するようにしましょう。
このように、過去の治療歴や入院歴、今の健康状態といった情報を保険会社が精査して事実かどうか確かめるため、告知義務違反はバレてしまいます。
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告知義務告知書の判例・事例
具体的にどのようなケースで告知義務違反に問われるのでしょうか。ここからは、実際に告知義務違反と判断され、大事になってしまった判例・事例の概要を紹介します。
告知義務通知書で契約解除された例1
生命保険に加入時点で、医師から慢性肝炎と診断されていた被保険者の事例です。
被保険者は、慢性肝炎と診断されたあとに治療を受けていました。しかし、保険加入時の告知書に慢性肝炎の治療を受けていると記載しておらず、事実を告知しませんでした。
ところが保険に加入した2年後、被保険者は肝硬変で死亡しました。
遺族が保険金の請求を行いましたが、保険会社は保険金の給付を拒否しました。なぜならば、保険加入時に慢性肝炎の治療を受けていると告知していなかったとして、告知義務違反であると判断したためです。
しかし、遺族側は「医師から肝硬変であると診断されていなかった」として反論しました。両者の主張は対立し、4000万円の死亡保険金を求める裁判へ発展してしまいました。
そしてこの裁判は、遺族側の敗訴と判決が下りました。判決理由は「たとえ医師から肝硬変と診断されていなくとも、慢性肝炎の診断と治療の告知を行っていなかったため」です。
告知義務通知書で契約解除された例2
生命保険に加入した1年後、くも膜下出血によって死亡した被保険者の事例です。
被保険者は、保険加入前には高血圧と診断されており、薬を服用していました。保険加入後1年後に被保険者は死亡してしまいましたが、加入時の告知書に高血圧のことを記載していなかったため、保険会社は告知義務違反を理由に保険金を支払いませんでした。
この判断を受け遺族側は、生命保険に加入するとき、面接士と外務員に高血圧だと告知を行っていたと陳述しました。告知義務違反ではないと4100万円の死亡保険金を求める裁判に発展しましたが、最終的には遺族側の敗訴と判決が下りました。
判決理由は、被保険者の証言通り、面接士と外務員(保険募集人)に高血圧だと告知を行っていたことが事実でも、告知書に明記していなかったためです。面接士と外務員には告知を受領する権限はありません。そのため、告知義務を履行したとは言い切れません。保険加入の仲介手続きを依頼する際は、告知は口頭で行わず、きちんと告知書に漏れがないよう記載しましょう。
義務告知で契約解除されなかった例1
生命保険に加入した1年11か月後に、脳幹部出血によって死亡した被保険者の事例です。
被保険者は6000万円の生命保険を解約し、友人の外務員に紹介された別の生命保険に加入しました。そのとき被保険者は、健康診断で高血圧の要精密検査の診断が出ていました。しかし、被保険者は友人の外務員に高血圧が原因で要精密検査の診断が出ていることは伏せる様に強く指示され、告知書に記載しませんでした。
その後、被保険者が死亡して遺族が保険金を請求したときに、保険会社に高血圧の告知を行っていなかったことが原因で契約を解除されました。
これを受け遺族側は、解約した保険金の6000万円と契約した保険金の一部返還を求めて裁判を起こしました。結果は遺族側の勝訴でしたが、遺族側の要求が完全に通ったわけではありません。
保険会社は契約通りに、遺族へ対して保険金750万円と家族収入特約月20万円を支払いました。しかし、解約した保険金を受け取ることはできず、支払われたのは新たに契約した保険の保障のみでした。
このように、外務員が虚偽の告知内容を書かせる「不告知教唆」があったときは、保険金が支払われる場合もあります。ただし、すべての場合で保険金が支払われるわけではないため、自身でしっかり告知を行うことが重要です。
義務告知で契約解除されなかった例2
生命保険に加入した1年半後に、胸部大動脈瘤破裂によって死亡した被保険者の事例です。
被保険者は保険に加入する約2年前に人間ドックで検査を受け、大動脈弓部拡大と診断されており、精密検査が必要とされていました。保険に加入するときには、被保険者は「血圧異常」を告知して加入しました。
その後、被保険者が死亡し、遺族が保険会社に保険金を請求します。ところが、保険会社は「大動脈弓部拡大の診断」について告知しなかったことは告知義務違反であると判断し、契約を解除して保険金を支払いませんでした。
その結果を受け遺族側は、2800万円の保険金を求めて裁判を開きました。結果は遺族側の勝訴となりました。判決理由は、医師の下した大動脈弓部拡大という診断は告知事項とは言えず、告知しなかったことが重大な過失であったとは認められなかったためです。
被保険者は、大動脈弓部拡大に関する具体的な説明を受けていません。そのため、自身の健康状態を把握しておらず、故意に行った告知と断定することは不可能でした。よってこの件は、重大な過失でないと判断されることとなりました。
告知義務違反を犯さないために
告知義務違反を犯さないために、告知書に必ず真実のみをすべて記載しましょう。また、過去の病気や健康診断の結果などは詳細に記述し、健康状態を正しく申告することが重要です。もし告知を忘れている事項があった場合や、間違えていたことに気付いたときは、すぐに保険会社へ連絡・相談し、案内に従うようにしましょう。
まとめ
以上のことから、もし告知書に記載する内容に不備があると、加入した保険が無意味になってしまう可能性があります。 現在、保険への加入を検討している方は告知義務違反に問われないよう、告知書には事実のみを漏れなく記載するようにしましょう!
また、不安な場合は見直しの機会などに、保険会社へ相談してみるのも良いでしょう。
まだ保険に加入されてない方は以下からお申し込みくださいませ!
監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部
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よくある質問
Q | 告知義務では何年前までの病歴を記入する必要がありますか? |
A | 病歴については、告知書の質問に従って回答してください。例えば、「5年以内に、手術や入院をしたことがありますか?」と聞かれた場合、5年よりも前の手術や入院歴は記載しなくていよいです。 ポイントは、告知書の質問に従って詳しく回答することです。曖昧な回答ではなく、「何の薬を服用したか」や「何の検査を病院で受けたか」など、告知書の質問にしたがって詳細に記入してください。告知義務について詳しくは以下の関連記事をご確認ください。 |
Q | うつ病の既往歴があるのですが、告知書に記載したほうがよいでしょうか? |
A | 既往歴がある場合は、告知書の現在の状況という欄に記載してください。また、既に病気が完治している場合は、完治日も記入してください。治療中の場合は、通院の頻度や服用している薬の名前を記入しましょう。 既往歴があるにもかかわらず、記載していない場合、過去に受けた治療が続いていると保険会社に判断されて保険に入りにくくなってしまうので、注意しましょう。 |
Q | 健康状態に不安な人でも入れる保険はありますか? |
A | 引受基準緩和型保険と無選択型保険の2つがあります。前者は、告知項目が少ない分、保険料が割高で保障内容が制限されているデメリットがあります。一方、後者は告知が不要な分、前者よりもさらに保険料が高く、また無選択型保険を選べる会社が少ないのがデメリットです。 これらの生命保険を選択する場合は、本当に自分にとって必要な保険か判断した上で加入するようにしましょう。生命保険について詳しくは以下の関連記事をご確認ください。 |
Q | 心療内科や精神科への通院歴はバレますか? |
A | はい、バレます。保険会社は病院や健康組合に調査して、被保険者の受診歴を確認することができるからです。 詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。 |