産休や育休期間中には様々な手当てがもらえますが、実際にどの程度受給できるのか不安に思う人も多いと思います。産休・育休期間中にもらえる手当について自分が受給できる金額を確認してみましょう。
産休・育休中にもらえる手当
産休とは、出産や育児のために仕事を休める制度のことで、出産前の準備期間(6週間)に休む「産前休業」と産後(8週間)に休む「産後休業」を併せて「産休」と呼びます。育休は出産後8週経過したのち、子どもが1歳になるまで(条件によって延長可能)の期間を指します。
産休・育休を含む出産や育児にかかわる手当として、以下の給付金や助成金を受け取ることができます。
手当の種類 | 支給元 | 概要 |
妊婦検診費の助成金 | 各自治体 | 妊婦検診(14回程度)の補助券などが支給される。支給額は自治体により異なる。 |
出産手当金(産休手当) | 健康保険 | 出産前後の給与減に対する手当。休業前給与のおよそ2/3程度が給付される |
出産育児一時金 | 健康保険や国民保険 | 出産にかかわる費用を支援する一時金。こども1人に対して42万円(23年4月からは50万円)が支給される。 |
育児休業給付金(育休手当) | 雇用保険 | 育児休業期間中の給与減に対する手当。休業前給与のおよそ2/3程度が給付される。(育休期間中の給与や育休経過によって割合が変わる) |
児童手当(育児手当) | 各自治体 | 中学生までの子どもに対して、こども1人に対して10,000円~15,000円が給付される。(所得制限あり) |
1.妊婦健診費の助成金
妊娠中は普段よりも健康に気を付けなくてはなりません。妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を確認するために定期的に妊婦健康審査を受けることを厚生労働省も推奨しています。妊娠期間中にはおよそ14回程度の検診をうけることになります。
期間 | 妊娠初期~23週 | 妊娠24週~25週 | 妊娠36週~出産まで |
検診回数 | 1・2・3・4 | 5・6・7・8・9・10 | 11・12・13・14 |
受診間隔 | 4週間に1回 | 2週間に1回 | 1週間に1回 |
参考:厚生労働省「妊婦検診Q&A」
妊婦検診は病気やケガではないため、健康保険が使えません。そのため各自治体から妊婦検診の補助券などを交付することで実質的な負担を軽減できるようにしています。
ただし、各自治体によって給付額(公費負担額)や方式が異なります。詳細はお住いの市町村へご確認ください。
参考:厚生労働省「妊婦健康診査の公費負担の状況に係る調査結果について」
2.出産手当金(産休手当)
出産手当金は健康保険から支払われる手当です。労働基準法では女性労働者が出産予定日を基準にして産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)と産後8週間は休業できるとしており、請求があれば就業させてはならないと規定されています。(労働基準法第65条)
特に産後6週間については、仮に本人が希望したとしても業務につかせることは禁止されています。休業期間中に給与が発生するかについては会社の規定によって異なるため、産休中に給与が支払われない場合、すくなくとも産後6週間は収入が減ってしまいます。
出産手当金はこの期間の収入減に対しての補填をしてくれる手当です。そのため対象者は健康保険の被保険者のみとなっており、専業主婦(被保険者の扶養者)は出産手当の対象者にはなりません。
参考:労働基準法「第六章の二 妊産婦等 第六十五条 産前産後」
3.出産育児一時金
出産育児一時金は入院費や分娩費用、出産にかかわる検査等に利用できる一時金です。出産育児一時金は申請方法が複数ありますが、「直接支払制度」が利用できれば健康保険組合から医療機関へ直接手当が支払われるため、医療機関の窓口で支払う出費費用が少なくなります。
仮に実際の出産費用が出産育児一時金の額を下回った場合には、健康保険組合へ申請すれば差額を支給してもらうことができます。
出産育児一時金は、現在1児につき42万円が支給されていますが、23年4月から1児につき50万円に増額される予定です。
出産育児一時金の直接支払制度などについて詳しく知りたい方はこちらの記事で解説しています。
4.育児休業給付金(育休手当)
育児休業給付金は産後8週間経過後から子どもが1歳になるまでの期間(条件により延長可能)支給される手当です。男性の場合、育児休業給付金とは別に出産予定日(出産予定日より前に子が出生した場合は出生日)から8週間の間で最大28日間「出生時育児休業給付金」の給付も可能です。
参考:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」
育児休業給付金は原則としてお勤めの会社から申請してもらえます。初回受給は育休開始となる産後8週間(約2か月)経過後から2か月たった後に申請されるため、産後5か月程度かかると認識しておきましょう。
育児休業給付金の支給の流れについて知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
5.児童手当(育児手当)
児童手当は中学卒業までの子ども1人に対して10,000円~15,000円が支払われます。
児童の年齢 | 児童手当の額 |
3歳未満 | 15,000円 |
3歳以上~小学校修了前 | 10,000円(第3子以降は15,000円) |
中学生 | 10,000円 |
参考:内閣府「児童手当制度のご案内」
児童手当は所得制限があり、一定の所得を超えると子ども1人につき月額一律5,000円の支給(特例給付)となります。また、所得上限を超えた場合は児童手当は支給されません。
判断の対象になる基準所得は世帯年収ではなく、所得の高いほうを基準とします。世帯年収ではさらに所得が多い世帯が所得制限の対象にならない場合があるなど不公平感があることも事実で、児童手当は所得制限撤廃についても議論されています。
産休・育休手当の計算方法
出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金がいくら支給されるのか、具体的な計算方法は以下の通りです。
1.出産手当金(産休手当)
出産手当金は、休業前給与の約2/3が支給されます。具体的には以下のように計算します。
1日あたりの支給金額 = 支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × (2/3)
支給開始日の以前の期間が12ヶ月に満たない場合、支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額か、30万円の低いほうを採用します。
標準報酬月額は都道府県によって異なりますのでこちらを参照してください。
参考:全国健康保険協会「都道府県毎の保険料額表」
2.出産育児一時金
出生育児一時金は子ども1人につき42万円が支給されます。産科医療補償制度に加入していない病院等で出産された場合は1人につき40.8万円です。(1.2万円は産科医療補償制度の掛金分のため)
23年4月からは支給金額が42万円から50万円に増額される予定です。
3.育児休業給付金(育休手当)
育児休業給付金は育児期間中に支払われた賃金によって給付割合が変わります。仮に給与が支払われていない場合、育児休業開始から180日目までは休業前の賃金の2/3、181日目以降は1/2が支給されます。
育児期間中に支払われた賃金 | 支給額 |
休業開始時賃金月額」の13%以下 ※育児休業開始から181日目以降の場合は30% |
休業開始時賃金日額 × 休業日数 × 67% ※育児休業開始から181日目以降の場合は50% |
「休業開始時賃金月額」の13%(30%)超~80%未満 | 休業開始時賃金日額 × 休業日数 × 80% ー 賃金額 |
「休業開始時賃金月額」の80%以上 | 支給されない |
育児休業給付金も育休に伴う給与減に対する補填であるため、支払われた賃金が多くなるほど支給される手当は小さくなります。賃金が休業前の80%以上支払われている場合、手当は支払われなくなるので注意してください。
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産休・育休手当の支給条件
産休・育休期間中に支給される手当には受給や受給期間延長に条件があります。手当が支給されない、想定していた額よりも小さかったといった時に焦らないように受け取る手当の条件について認識しておきましょう。
1.出産手当金(産休手当)
出産手当金の支給条件は主に以下の3点です。
条件 | 対象外となる例など |
健康保険の被保険者であること | 専業主婦など被保険者の扶養者は対象となりません。 |
給与を受け取っていないこと | 公務員等で産休中に給与が支給される場合は対象となりません。 ※ただし、給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は差額が受給できます。 |
妊娠4か月(85日)以降の出産であること | 85日未満での早産や死産の場合は対象となりません。 ※ただし、85日を経過した場合、死産、流産、人工妊娠中絶等も支給対象に含まれます。 |
2.出産育児一時金
出産育児一時金の支給条件は主に以下の2点です。ポイントは健康保険や国民健康保険の被保険者もしくはその扶養者である点で、出産育児一時金は専業主婦でも支給されます。(給与減に対する補填ではなく出産費用の支援を目的としているため)
条件 | 対象外となる例など |
健康保険や国民健康保険の被保険者もしくはその扶養者であること | 専業主婦や自営業者も原則対象となります。直接支払制度を利用しない(できない)場合は健康保険組合への申請が必要です。 |
妊娠4か月(85日)以降の出産であること | 85日未満での早産や死産の場合は対象となりません。 ※ただし、85日を経過した場合、死産、流産、人工妊娠中絶等も支給対象に含まれます。 |
3.育児休業給付金(育休手当)
育児休業給付金を受給するには以下の条件を満たす必要があります。
条件 | 対象外となる例など |
育児休業を取得した雇用保険の被保険者であること | 育児休業給付金の支給元は雇用保険であるため、雇用保険の被保険者である必要があります。そのため専業主婦や個人事業主などは対象外です。 |
休業開始前2年間に、賃金支払い基礎日数が11日もしくは就業した時間数が80時間以上の月が12カ月以上あること | 育休の休業開始前に働いている期間が左記に満たない場合は対象外となります。 |
育休期間中の就業日数が10日以下または就業した時間が80時間以下であること | 育休期間中に一定時間以上働いた場合は対象外となります。 |
また、育児休業給付金は原則として子どもが1歳になるまでが支給期間ですが、条件(保育所等の利用の申し込みをしているにもかかわらず保育が実施されない等)に該当した場合、育児休業給付金の支給期間を延長できます。
育児休業給付金についての詳細はこちらの記事をご確認ください。
4.児童手当(育児手当)
児童手当は中学生卒業までの子どもに対して支給されます。児童手当には所得制限があり、一定以上の所得になると特例給付(子ども1人につき一律5,000円)になり、所得上限を超えると支給されません。
特例給付となる所得制限および支給停止になる所得上限は以下の通りです。扶養親族の数により所得制限の金額が多くなっていきます。扶養親族の数は子供だけでなく所得が一定以下の配偶者なども含まれます
扶養親族等の数 | 所得制限限度額 | 所得上限限度額 | ||
所得制限限度額 (万円) |
収入の目安 (万円) |
所得制限限度額 (万円) |
収入の目安 (万円) |
|
0人 | 622 | 833.3 | 858 | 1071 |
1人 | 660 | 875.6 | 896 | 1124 |
2人 | 698 | 917.8 | 934 | 1162 |
3人 | 736 | 960 | 972 | 1200 |
4人 | 774 | 1002 | 1010 | 1238 |
5人 | 812 | 1040 | 1048 | 1276 |
児童手当の所得制限についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
産休・育休手当はいつから申請できる?
産休・育休期間中に支給される各種手当は申請タイミングも当然異なります。申請が基本不要な手当てもありますので、各手当の申請について簡単に理解しておきましょう。
1.妊婦健診費の助成金
妊婦検診費の助成金(補助券など)や利用可能な医療機関は各自治体により異なりますので、お住いの市区町村の福祉保健センター等でご確認ください。
妊娠がわかったら、できるだけ早く届け出を出すようにしましょう。母子健康手帳とともに各種情報を提供してもらえます。妊婦検診費用の助成についても確認するのがよいでしょう。
一般的には妊婦検診費の申請には以下のような内容が必要になることが多いです。
- 受診表など
- 医療機関が発行した領収書など
- 母子健康手帳のコピー
- 振込先情報がわかるもの
※詳細はお住いの市区町村へご確認ください。
2.出産手当金(産休手当)
出産手当金の申請期限は産休開始から2年間となっています。出産手当金は産前産後をまとめて申請する方が多いです。分けて申請することも可能ですが、未来日の申請はできません。
基本的な申請の流れは以下の通りです。出産手当金については、まずお勤めの会社の担当(人事や総務部門等)へご確認ください。
期間 | 手続きの概要 |
産休前 | ・勤務先などから「健康保険出産手当金支給申請書」を入手する ・申請書に必要事項を記入 |
産休中・出産入院時 | ・担当医師などに申請書の「医師・助産師記入欄」を記入してもらう |
産休明け | ・勤務先の担当に提出(事業主の記入が必要な個所を対応してもらう) |
3.出産育児一時金
出産育児一時金は利用する制度によって申請方法が変わります。
直接支払制度を利用する場合、出産で利用する医療機関に保険証を提示して、直接支払制度に関する書類に申し込みをするだけで完了です。あとは医療機関と健康保険組合がやり取りをしてくれます。
出産後、医療機関の窓口では出産育児一時金の金額を差し引いた金額が請求されます。実際にかかった金額が出産育児一時金を下回る場合は、後日健康保険組合へ申請すれば差額を支給してもらえます。
受取代理制度や本人が受け取るなど、直接支払制度を利用しない場合はこちらをご確認ください。
4.育児休業給付金(育休手当)
育児休業給付金の初回申請は、育児休業開始(産後8週経過後)から2か月後となります。育児休業給付金は期間中に支払われた給与を加味して給付割合を決めるため、育休期間中に賃金が支払われたか確定するまで支給できません。(育児休業給付金は原則2か月ごとの申請となります)
申請者(あなた)が育休を取得する旨をお勤めの会社に連絡したら、育休手当は基本的に事業主(お勤めの会社)から、管轄のハローワークへ申請します。そのため、お勤め先からの申請次第で支給時期が変わる点に注意しましょう。申請者本人が記載する資料もあるので早めに対応して、お勤め先の担当者の方に申請時期等を確認するのがよいでしょう。
5.児童手当(育児手当)
児童手当はお子さんが生まれた時や引っ越しで転入した時にはお住いの市区町村の福祉保健センターや市民総合窓口などに認定請求書を提出します。(公務員の場合は勤務先へ提出します)
児童手当は原則として申請した翌月から支給されますが、出生や転入した日が月末に近い場合、15日以内であれば申請付きから支給されます。(15日特例といいます) また、所得が所得制限未満になった場合も15日以内に市区町村へ申請してください。
まとめ:産休・育休取得で不安があるなら保険の加入も検討してみよう!
産休・育休期間中の出産には複数の給付金や助成金などが準備されていますが、十分な補償というわけではありません。産休・育休期間中の金銭面で不安を感じるのであれば、民間の保険を検討してみましょう。
妊娠中は通常の生命保険などに加入が難しい場合もありますが、出産保険や妊娠保険など妊婦さん向けの医療保険もあります。このような保険を利用することで出産に関する金銭的な不安や万が一に備えることもできます。
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よくある質問
Q | 出産育児一時金が50万円に増額されるのはいつ頃? |
A | 2023年4月からです。 |
Q | 出産育児一時金は直接支払制度と受取代理制度のどちらで申請するのがよい? |
A | 受取代理制度は直接支払制度を導入していない小さな産院などで利用できます。基本的に直接支払制度を利用します。 |
Q | 出産予定日よりも遅く出産した場合、出産手当金の支給期間はどうなる? |
A | 出産予定日から出産日までの期間もプラスアルファの期間として支給されます。この場合の出産手当金は「出産予定日前42日間」+「出産予定日~出産日までの期間」+「産後56日間」となります。 |