NISAと通常の株式投資との違い
そもそもNISAとはNippon Individual Savings Accountの略称で、少額投資非課税制度のことを指します。簡単に言えば、NISA口座を開設すると、5年の間に限り年間120万円を上限に購入した株式や投資信託等の金融商品から得た利益が非課税になるという制度です。本来、株式や投資信託を行う際、発生した利益に20.315%の税金がかかります。しかし、国が投資をより身近なものにし国民の資産形成を促すため、イギリスのISA(個人貯蓄口座)を日本版に改良したものがこの非課税枠のあるNISA制度です。
また、NISAの口座は多くの金融機関が手数料を無料にし、投資信託にかかる信託報酬の費用も低くなっています。株式投資を行う場合、証券口座利用のために証券会社に手数料を払い、投資信託の場合、管理や運用の経費として信託報酬を払う必要があります。しかし、つみたてNISAを使えばこれらの費用を低く見積もることができます。これは、つみたてNISAが販売手数料が無料の「ノーロード」と呼ばれる商品を対象にしているためです。このようにNISAには投資の際に発生する税金や費用を低く抑えられるというメリットがあります。
NISAという単語からは積立投資で耳に馴染むつみたてNISAのことを連想しがちですが、制度として一般NISAとつみたてNISAは異なります。具体的には、年間の非課税投資枠と非課税期間に違いがあります。
つみたてNISAとの違いを説明します。つみたてNISAは積立投資専用で非課税期間20年・非課税枠年間40万円に対し、上述のように一般NISAは非課税期間5年・非課税枠年間120万円になります。一般NISAはつみたてNISAと比べて積立投資専門ではなく、非課税期間が短くなりますが、年間の買付可能金額が高くなる制度です。他には未成年向けのジュニアNISA(年80万円、5年まで非課税)もあります。この記事ではつみたてNISAとジュニアNISA(2023年で終了)には触れず、主に「一般NISA(年最大120万円、5年まで)」について解説していきます。
NISAと通常の証券口座による取引とで異なる点は決して多くありません。具体的な違いとして「非課税枠の存在」と「税制優遇に関する注意点」の2点について説明していきます。
NISAで損益通算・繰越控除はできない
NISAでは、通常なら受けられる「損益通算」「繰越控除」といった税制優遇を活用することができません。
まず、損益通算について解説しましょう。損益通算とは「同じ年に投資で得た利益と損失を相殺すること」を指します。
もちろん、課税されるのは投資によって得られた「利益」のみです。例えば、A口座で50万円の利益、B口座で30万円の利益が出ていれば、合計で80万円の利益に対して課税されます。 ここで、B口座では20万円の損失が発生していたとしましょう。その場合、課税対象になるのはA口座の50万円全体ではなく、A口座とB口座の損益を合計した30万円(=50-20)になるのです。このように、別々の口座であっても損益を合計し、最終的な儲けに対してのみ課税されるようにする仕組みを「損益通算」というのです。
さらに、同年度の損益を通算してもマイナスとなる(損失が発生する)場合、その損失を翌年へ繰り越すことができます。例えば、B口座で70万円の損失が発生していた場合、A口座と通算すると20万円の損失となります。このとき、当年度では課税されず、来年度にも20万円の損失を繰り越すことができます。この「繰越控除」では、控除しきれなかった損失を最長3年間まで繰り越すことが可能です(ただし確定申告が必要)。
しかし、NISAではこれらの制度を活用できません。課税口座であるA口座とNISA口座であるN口座を例に考えましょう。
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上記の場合、A口座では損失、N口座では利益が出ており、総じて30万円の利益をあげられました。ただしN口座は120万円まで非課税ですから、合計したところで税金はゼロです。
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このとき、通常なら両口座の損益を通算し課税範囲を30万円としたいところですが、NISAの場合はこれができません。NISA口座にも資産価値下落のリスクはありますが、NISA口座では売買損失はゼロと考えるため、損益通算はできずA口座の50万円の利益がそのまま課税対象となります。そのため、NISA口座で損失が出ているうえに、A口座の利益には税金がかかるということです。
それと同時に、繰越控除も使えないということになります。「NISA口座での取引は独立している」ために、他の口座との取引と損益を合算することはできないと考えるとわかりやすいでしょう。
まず、これがNISA口座ならではの1つ目の「違い」といえるでしょう。
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NISA非課税枠の扱い方
注意点として、一般NISA口座の非課税枠の扱い方についても確認しておきましょう。基本情報は以下の通りです。
一般NISA口座の非課税枠
- 非課税枠:120万円/年
- 非課税期間:5年
- ロールオーバーあり
前提として、もちろんですが120万円を超えて投資した分は課税口座での取扱となります。ただし、120万円の非課税枠は「投資額」で評価され、その枠を使い切っていない場合でも繰り越されることはありません。以下のように、投資額が120万円を超えていれば課税されますし、投資額が非課税枠の範囲内なら課税はされません。
<非課税の場合>
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<課税される場合>
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2つ目に、売却分の再利用はできません。例えば、20万円分の株式を購入し年内に売却すると、残りの非課税枠は100万円へ減ります。20万円で買った株を売却しても、年間の非課税の金額は120万円には戻りません。つまり、120万円分の非課税枠は投資総額で評価され、年内に売却してもしなくても減ることはないというわけです。ただし、まとめて売却する必要などはなく、期間内なら売却・投資はいつでも可能です。運用益や配当金の有無等を調べて、自分に合った投資スタイルで売買を判断しましょう。
最後に、5年間の非課税期間が終わるときについて考えましょう。選択肢としては、以下の3つがあります。
非課税期間が終わるときの選択肢
- 翌年の非課税枠へ「ロールオーバー」する
- 課税口座へ移管
- 売却する
まず、翌年の非課税枠を使って、保有している株式などを新たな投資枠へ移すロールオーバー制度についてです。
例えば、1年目にNISA枠内で10万円を投資し、5年目終了時に20万円へ値上がりしてそれをロールオーバーすると、6年目のNISA枠を20万円分使い切り、その年度で使える非課税枠は100万円となります。
ここで注意したいのは、1年目から保有している株式などの「投資額」は、6年目以降では「非課税期間終了時の時価」で評価されるということです。上の例でいうと、ロールオーバーによって使い切る金額は、1年目に投資した10万円分ではなく5年目終了時の20万円分になるわけです。
また、ロールオーバーする際に時価が120万円を超えている場合であっても、全額が非課税となります。ただし6年目に非課税枠で新たに投資をすることはできません。
1年目にA社株式へ60万円を投資
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次に、課税口座へ移管する場合にも注意すべきことがあります。以下の場合を考えてみましょう。
1年目に100万円投資
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このとき、総じて見ると30万円の損失を出していることがわかります。しかし、非課税期間終了時の時価で取得価格が評価されますから、売却時には20万円(=70-50)の値上がり分に税金がかかります。つまり、損失を出しているのに課税されるということになり、負担は増えてしまうわけです。
このように、NISAで投資する際に注意すべき点はたくさんあります。次の項で、NISAならではの投資のポイントや工夫の方法について解説していきます。
NISAにおける取引での注意点・工夫できるポイント
まず、NISAで投資できる金額は1年間に120万円までと決して多くはありません。年度内に一度売った証券を買い戻すと、そのような少ない非課税投資枠を余計に消費してしまうことになります。もちろん、損切りや買い戻しによるリセットは株取引をする上で避けて通れませんし、NISAだからといって損切りせず塩漬けにして損失を拡大してしまえば元も子もありません。株価が上がる見込みがない場合、無理に長期で保有しているよりも、素早く損切りして、他の銘柄に資金を回した方が効率よく運用できます。
ただしNISAで投資する以上、投資枠の無駄遣いには注意する必要がありますから、投資前の銘柄の選別や売買タイミングには通常の投資以上に気を遣わなければなりません。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析を駆使し、銘柄選定をきちんと行いましょう。
また、非課税期間終了時に考えるべきことについても確認しておきましょう。前項のおさらいですが、選択肢は3つあります。
非課税期間終了時に考えるべきこと
- 翌年の非課税枠へ「ロールオーバー」する
- 課税口座へ移管
- 売却する
まず前述したように、期間終了時に保有している株式の価値が下がっている場合、課税口座へ移管するのは避けた方が良いかもしれません。NISA口座で損失が発生している場合は、損切りやロールオーバーといった選択肢があります。その時点で売却して損失を確定させるか、様子見をするなら翌年の非課税枠へのロールオーバーさせましょう。ただし、翌年の非課税枠を使いたくないなどの思惑があれば、税負担も覚悟の上で課税口座への移管も選択肢に入れるべきです。
株価が上がっている場合、どれも有効な選択肢になるでしょう。利益を確定するために売却するもよし、さらなる株価上昇と税制面でのメリットを考えてロールオーバーするもよし、株価上昇を狙いつつ翌年の非課税枠を別の資産へ使うために課税口座へ移管するもよし、などと運用の目的・目標によってどれを選択するかは変わっていきます。ちなみに、積立NISAではロールオーバーはできません。
このようにNISAは非常に有用な制度ですが、様々な注意点があります。特に、投資初心者の方は少額取引や分散投資といった資産運用の基本を遵守しながら上手く制度を活用するようにしましょう。
下記の記事では株式や投資信託などの資産運用の種類と少額取引や分散投資といった投資の基礎知識について網羅的にまとめています。是非、参考にしてください。
【関連記事】初心者向け!資産運用を始める時のポイントについて解説 |
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NISAとつみたてNISAの比較
NISA口座は制度上1つしか開設できないので一般NISAとつみたてNISAのどちらか一方を選ぶ必要があります。NISAとつみたてNISAの比較をして開設する口座を決めましょう。しかし、もし切り替えたい場合は年に1回だけ両方の間で切り替えることは可能となっています。
つみたてNISAとは
つみたてNISAとは、少額からの長期・積立・分散投資を支援するための税制優遇制度です。つみたてNISAの非課税投資枠は年間40万円までで、非課税投資期間は20年なので、2最大800万円まで非課税で運用することが可能となっています。コツコツと長期的な資産形成を目的としているため、投資対象は金融庁が定めた基準を満たす比較的リスクが低い投資信託等の金融商品に限定されており、積立投資なのでNISAと異なり買い付けタイミングを設定する必要があります。
各年に購入した投資信託を保有している間に得た分配金と、値上がりした後に売却して得た利益(運用益)が購入した年から数えて20年間、非課税となります。投資可能期間は2018年〜2042年となっています。また、一般NISAと異なりロールオーバーができない点に注意が必要です。
NISAに適している人
一般NISAに適している人は、今後投資を本格的に始めてみたい人、個別銘柄に投資してみたい人が挙げられます。それは、自分の好きなタイミングである程度まとまったお金を、株式以外のETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)など様々な金融商品に投資できるからです。また投資可能期間が5年間とつみたてNISAに比べて短いため、つみたてNISA以上に金額を運用したいと考えている方におすすめです。
つみたてNISAに適している人
つみたてNISAに適している人は投資にためらいがあり、長期的に資産形成を考えようとしている方、年間の投資金額が少ない方に向いています。投資信託の運用は全て販売元である運用会社が行っているので株価を日々確認して取引を行う必要はありません。投資・資産運用初心者は、まずはつみたてNISAから始める事をおすすめします。
まとめ
この記事では、NISAの基礎知識から普通の投資との違いや注意点、利用するのに適している人についてまとめました。初心者が投資・資産運用を始める上でNISAの非課税枠は大きなメリットがある制度と言えます。NISAでは、ある範囲内で株取引による利益が非課税になる反面、税制面で通常の投資との違いがいくつかあります。具体的には、損益通算・繰越控除ができない点や、非課税枠の扱い、非課税期間の終了後の扱いに注意が必要な点です。そのため、ときにはNISA口座ならではの工夫が求められます。この記事で紹介したような工夫で、NISAのメリットを最大限活かし、投資をスタートさせて、楽しみましょう。
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よくある質問
Q | 一般NISAとつみたてNISAはどっちがいい? |
A | 一概にはどちらが良いとは言えませんが、「一般NISAは短期投資向け」「つみたてNISAは長期投資向け」と考えておくとよいでしょう。これは一般NISAの非課税期間が5年、つみたてNISAが20年だからです。大きな金額をアクティブに運用したい人は一般NISAを、毎月コツコツ積み立てて長期で運用したい人はつみたてNISAを利用すると良いかもしれません。 なお2023年現在、一般NISAとつみたてNISAの併用は不可能ですが、2024年の新NISAからは「成長投資枠」「つみたて投資枠」として両者の併用が可能となり、さらに保有期間も無期限になります。 詳しくは「NISAとつみたてNISAの比較」を参照 |
Q | NISAにデメリットはある? |
A | NISA(一般NISA)で特に気をつけたいのは、損益通算・繰越控除ができない点です。NISA口座での利益・損失は税務上独立しているとみなされるために、NISA口座と課税口座を併用している場合、NISA口座で損失が出たとしてもそれを課税口座と通算すること(損益通算)はできません。また、損失を繰り越して翌年以降の利益から控除すること(繰越控除)もできません。 詳しくは「NISAで損益通算・繰越控除はできない」を参照 |
Q | NISAで利益確定するタイミングは?注意点はある? |
A | 基本的には、利益確定に関する考え方は通常の株式投資と同様です。 |