個別株の取引をするときには、大きく分けてこれから成長する銘柄「グロース株」を狙う場合と、株価が割安な銘柄「バリュー株」を狙う場合があります。
バリュー株は株価の上昇(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)の両方を期待できます。この記事ではバリュー株の見分け方や日米のおすすめ銘柄を紹介します。
バリュー株の特徴や見分け方は?
バリュー株は、企業の業績や財務状況からみて、株価が割安な水準になっている銘柄のことです。個別株でリターンを狙う場合、株価の上昇「キャピタルゲイン」を狙う場合と、配当金などの「インカムゲイン」を狙う場合があります。
バリュー株は「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」のどちらも狙える銘柄です。個別株に投資するときには何を目的に投資するのか決めておくと、売却の戦略も立てやすくなります。また、グロース株について詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。
ここでは、いくつかの指標からバリュー株を見分ける方法を簡単に説明します。
PER・PBRを確認する
PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)はバリュー株を見つける基準として最も利用される指標です。
指標 | 内容 | 計算式 |
PER(株価収益率) | 企業の時価総額が当期純利益の何倍かを示す指標。業種によってPERの平均は異なる。全業種の平均は15倍程度。 | 時価総額÷当期純利益 または 株価÷1株当たりの当期純利益(EPS) |
PBR(株価純資産倍 率) | 企業の時価総額が純資産の何倍かを示す指標。一般的にPBRが1倍を切ると割安だと言われる。 | 時価総額÷純資産 または 株価÷1株当たりの純資産額(BPS) |
一般的にはPERは15倍、PBRは1倍以下になると割安だと言われています。ただし、この数字は絶対的なものではなく、業種によっても平均がかなり異なるので、同業種で比較するようにしましょう。
基本的にPERの平均が高い業種はPBRの平均も高い傾向にあります。指標が高い業種の例としては、
- 情報・通信業(PER:58.7倍、PBR:4.02倍)
- 医薬品(PER:31.5倍、PBR:4.09倍)
などがあります。一方、指標が低い代表的な業種には
- 銀行(PER:7.8倍、PBR0.31倍)
- 鉱業(PER:6.4倍、PBR0.71倍)
などがあります。(※1)
※1:会社四季報 2022年秋号「業種別 業績展望」
PBRは1倍を切ると解散価値を下回るため割安だと言われますが、実際にはPBRが1倍を下回っている企業は2022年12月7日現在1900社を超えています。
解散価値とは、仮に会社が倒産等により解散して資産を分けた場合に株主に分配される資産(金額)のことを言います。ただし、負債や資産などのバランスシートの項目は簿価ベースであるため、PBRが1倍を切ることが実際に(時価で)解散価値を下回っているのかはわかりません。
PBRは式を変換すると
「ROE÷(1/PER)」
となります。PERの逆数は「株式益回り」と呼ばれており、年間のEPS(一株当たり利益)が、株価の何%を生み出しているかを表しているかの割安性を表す指標です。
PBRが1倍を切るのは、
ROE<(1/PER)
になる(分母のほうが大きい)ということですので、実際の利益率が株主の期待する利益率に達していないという考え方もできます。つまり、PBRは小さいほうが割安だといえますが、1倍を基準に考えるのはそれほど合理的ではないかもしれません。そのため、PBR1倍を基準として判断する時には注意が必要です。
ROEを見る
ROE(自己資本利益率)は、自社のお金(自己資本)でどれだけ効率的に利益を出しているかを測る指標です。以下の計算式で表します。
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本
ROEは数値が高いほうが収益性が高いといえますが、ROEが高すぎる場合は安全性の確認をしたほうが良いかもしれません。その理由はROEを分解するとわかります。
ROEは分解すると以下のようになります。
ROE = (当期純利益/売上高) × (売上高/総資産) × (総資産/自己資本)
①当期純利益/売上高:売上高利益率
②売上高/総資産:総資産回転率
③総資産/自己資本:財務レバレッジ
この中で注目するのは③の財務レバレッジです。ROEを高めるには③の値を大きくすればよいことになります。つまり、総資産に対する自己資本の比率を下げる(例えば借入金などの比率を増やす)ことでも実現できます。ただし、この方法は健全な経営とは言えないので、ROEが高ければいいというわけでもありません。
ROEの基準の1つとして「8%」という数字があります。これは2014年に発表された伊藤レポート(※2)の中で述べられています。
実際にROEが8%以下の場合はPBRは1前後の水準で推移し、ROEが8%を超える場合、PBRが右肩上がりに上昇しているというROEとPBRの関係が過去の日経新聞の記事でも紹介されました。
※2:経済産業省「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト の最終報告書」の通称。ROEの目標を8%とし、実業界から大きな反響があった。
配当利回りの高さに注目する
バリュー株は「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」のどちらも狙えると説明しましたが、インカムゲインを狙う場合、配当利回りを確認しましょう。配当利回りは以下の計算式で確認します。
配当利回り(%)= 一株当たりの配当金 ÷ 株価(円)
例)株価1000円で購入 1年間の配当:50円
50 ÷ 1,000 = 0.05 = 5%
日本の個別株の場合、3~4%の配当利回りであれば高配当の銘柄といえます。配当利回りは分母が株価なので、株価が低いタイミングで購入できれば配当利回りが高くなります。つまり同じ銘柄を保有していても実際の配当利回りは投資家によって違います。
ただし、配当には注意が必要で、業績が悪くなれば減配(配当金額が下がる)する可能性もあります。配当を狙う場合は、減配しにくそうな銘柄を選ぶことも重要です。
バリュー株の日本銘柄
実際におすすめのバリュー株銘柄を紹介します。
※以下の銘柄紹介は2022年12月6日時点の情報です。
商船三井【9104】
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
3270円 | 1.6倍 | 0.6倍 | 38.1% | 16.8% |
商船三井は国内2位の大手海運会社です。商船三井を含め海運銘柄はコロナ後に急速に業績が伸びてきました。PER、PBRともに低いですが、業種全体的に低いので同業種で相対的に確認しましょう。
現在は配当利回りが高いことでも人気のある銘柄です。ただし、もともとの配当利回りはここまで高いわけではないので、業績が落ち着いてくるタイミングでは減配する可能性が高いです。配当狙いでの投資の場合は、減配するタイミングに注意しましょう。
ENEOSホールディングス【5020】
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
455円 | 5.0倍 | 0.5倍 | 17.5% | 4.8% |
国内シェア5割の石油元売り首位の企業です。石油関連銘柄はかなり業績の上下が激しい銘柄です。ENEOSホールディングスも同様ですが、株価はこの10年間ほぼ350円〜550円のボックス圏内に収まっています(2018年だけは株価が急騰していました)。
配当利回りが4%を超えており、業績にかかわらず配当金が安定しているので、配当狙いで長期保有を考えても良い銘柄といえます。ボックス圏内の下限付近で購入できれば配当利回りが高くなります。
東京海上ホールディングス【8766】
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
2777円 | 14.7倍 | 1.5倍 | 11.4% | 3.6% |
東京海上日動火災保険を中核とするグローバル損保グループで業界最大手の1社です。国内だけでなく海外の海外保険事業も行っています。
配当利回りは4%弱ですが、配当額はこの10年増配が続いているので、配当狙いの長期保有を検討してよい銘柄です。
この数年業績は好調で、株価がコロナショック後から約2倍上昇(※)しています。そのため、株価の割安感はなくなってきました。
※ただし、2022年9月30日を基準日として株式分割1:3をしています
オリックス【8591】
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
2172円 | 9.4倍 | 0.77倍 | 9.92% | 3.9% |
国内最大手の総合リース会社です。リースだけでなく保険や不動産など多角化経営をしています。
業績は横ばいから微増といったところですが、中期経営計画では25.3期で4400億円の当期純利益を目指しています。仮にこれが実現できた場合、株価の上昇も期待できます。実際の株価はコロナ後から上昇しましたが、2022年は上げ下げを繰り返しながらも全体としては下落基調です。
配当利回りは4%弱ですが、オリックスの配当方針は配当性向33%、または前期配当金額の高いほうを選択するとなっているので、減配の心配がほとんどないところは魅力的です。
塩野義製薬【4507】
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
6845円 | 13.4倍 | 2.0倍 | 11.3% | 1.8% |
大手製薬会社の1社です。「感染症」「代謝性疾患」「精神・神経疾患」をコア領域にしています。
2022年11月22日に塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の軽症患者向け飲み薬「ゾコーバ」が緊急承認されました。これを受けて11月24日の株価が急騰しています。
このような株価が動くようなニュースがあれば、大きく株価が上昇することも期待できます。医薬品関連の銘柄としてはPERが低めなのでキャピタルゲインを狙いたい銘柄です。
配当利回りは2%を下回っているので、配当を目的とした投資をする銘柄ではありません。
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バリュー株の米国銘柄
次に米国株のおすすめ銘柄を紹介します。
P&G(PG)
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
148.860 | 25.8倍 | 8.2倍 | 32.3% | 2.4% |
P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は、日用消費財の製造で世界最大手のひとつで、日本でもなじみのある企業です。
P&Gは米国のセクター(業種のようなもの)では、生活必需品セクターに属しており、不況に強い銘柄です。米国株式市場でリセッション(景気後退)が起こるかもしれないと言われている状況でも比較的安心して投資できる銘柄といえます。
配当利回りは2%台ですが、長期で連続増配している企業なので減配の心配はほとんどありません。
コカ・コーラ(KO)
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
63.270 | 27.8倍 | 12.0倍 | 44.1% | 2.8% |
コカ・コーラは、アトランタに本社を置く世界最大のノンアルコール飲料会社で、知らない人はいないのではないでしょうか。世界中で販売しており、総売上高の3分の2を海外が占めています。
コカ・コーラも生活必需品セクターに属しており、比較的不況にも強い銘柄と言われています。配当利回りは2%台ですが、コカ・コーラも連続増配が続いている企業です。
エクソン・モービル(XOM)
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
103.780 | 8.7倍 | 2.4倍 | 29.9% | 3.3% |
エクソン・モービルは大手総合石油・ガス会社で、日本でも聞いたことがある人も多いと思います。
エネルギーは2022年のロシア・ウクライナ問題などもあり高騰しました。2021年から株価は上昇していましたが、2022年にさらに株価が急騰しました。そのため現在は割安感はそれほどありません。
エネルギー価格の落ち着きと米国株式市場全体の不調で、株価の調整が入るかもしれません。その場合は配当利回りが上がります。もともと配当利回りが高い銘柄なので、株価が下がれば配当目的で投資を考えても良い銘柄です。
ベライゾン(VZ)
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
36.720 | 8.1倍 | 1.8倍 | 23.5% | 6.9% |
ベライゾン・コミュニケーションズは米国最大の無線通信会社です。日本ではそれほど馴染みがありませんが、NYダウ工業株30種にも採用されている米国を代表する会社です。
2021年から株価が4割近く下がっているため、配当利回りが上がってきています。今後株価が上がってくればキャピタルゲインとインカムゲインの両方が狙える銘柄です。
ジョンソンエンドジョンソン(JNJ)
株価 | PER | PBR | ROE | 配当利回り |
175.990 | 24.9倍 | 6.3倍 | 26.4% | 2.5% |
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、世界最大規模のヘルスケア企業です。日本でもバンドエイドなどジョンソン・エンド・ジョンソンの商品はたくさんあります。医薬品、医療機器・診断、消費者の3部門で構成されており、少し意外かもしれませんが消費者部門の売上は約20%で、医薬品、医療機器・診断部門の合計の売上高で80%近くを占めています。
この企業が属しているヘルスケアセクターもディフェンシブで不況に強いセクターと言われています。株価はこの10年近くほぼ右肩上がりです。配当は2%台ですが、こちらも連続増配企業なので長期で株価が上がるのをまちつつ、インカムゲインも狙える銘柄です。
バリュー株を狙う際の注意点
バリュー株を狙うときにはいくつか注意点があります。
バリュー株を狙う際の注意点
- 大きなリターンは狙えない
- 株価が上昇しない場合もある
- 損切りを考える必要もある
短期で大きなリターンが狙えない
バリュー株の多くは成熟した企業です。株価が割安になっている銘柄を狙いますが、売上や利益が2倍、3倍になる可能性は低いです。そのため、株価も大きく上昇することを狙うよりも適正株価に戻ることを狙うイメージです。
割安のまま上昇しない可能性がある
株価が低いといっても、必ず適正な株価に戻るわけではありません。株価が上昇するには株価の変動を誘発する材料・きっかけが必要です。このような材料は「カタリスト」と呼ばれています。
ボックス圏内を動いている銘柄が多いのも株価が反発するきっかけがないことが原因の1つといえます。
損切りを考えておくのも重要
株価が上がらないだけならよいですが、さらに株価が下がる場合は損切りを考える必要があります。バリュー株に限らず、個別株の取引をするときには事前に損切りのルールを決めておくことが重要です。損切りは逆指値などの注文を利用して自動で行うことをおすすめします。
キャピタルゲインではなく、配当などのインカムゲインを狙っている場合は損切りの基準を比較的広くとってもリスクは高くありません。
損切について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
まとめ
バリュー株を見つけることができれば、キャピタルゲインとインカムゲインの両方を狙うことができます。ただし、単純に株価が低い銘柄を選べばよいわけではないので、事前に分析を行い有望なバリュー株銘柄を探しましょう。バリュー株の特徴を正しく知ったうえで、投資にチャレンジしてください。
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よくある質問
Q | バリュー株投資は初心者でもできますか? |
A | バリュー株投資はグロース株よりもリスクが低いことが多く、インカムゲインも期待できるため、銘柄を見つけることが出来れば初心者向きの投資といえます。 |
Q | バリュー株を購入する際のおすすめの証券口座はありますか? |
A | バリュー株に限らず、最初に証券口座を開設するのであれば、「SBI証券」「楽天証券」「マネックス証券」といった大手ネット証券がおすすめです。大手ネット証券は取扱商品やサービスが豊富でコストも安くなることが多いです。 |
Q | バリュー株を購入するなら、日本株と米国株どちらの方がよいですか? |
A | 初心者の方は日本株のほうがおすすめです。米国株は情報を調べるのが日本株よりも難しくなります。また、米国株の配当は2重課税となるため、外国税額控除の確定申告をしないと損をします。確定申告の手間を考えても日本株のほうがおすすめです。 |