株を保有していると定期的に受取れる配当金は、本来は企業利益を株主に還元する目的で配分されるものです。配当金が多いと潤沢な現金収入が定期的に得られ、株価下落による損失を配当収入で補える可能性が高くなります。配当金を重視して日本株に投資する方は、今回紹介する配当利回りの高い株に投資するのがおすすめです。
配当金とは?
配当金は、教科書的には企業が実現した利益を株主に配分する目的で支払うものです。ただし、配当水準は企業が素案を出して株主総会の承認を経て決まるため、業績に連動するとは限りません。配当金の水準を評価する指標としては、配当利回りと配当性向があります。配当金の水準を基準に銘柄を選ぶ場合は、この二つの指標を参考にしてください。
配当利回りとは
配当利回りとは、年間の配当額を1株あたりの購入価格で割ったもので、基本的にパーセントで表記されます。
配当利回り(%)=年間配当金額÷1株当たりの購入株価×100
1株あたりの購入価格とは実質的に株価のことです。たとえば、年間の配当金額が30円で株価が1,000円とすると、配当利回りは3%です。
株価、すなわち投資に必要な金額は銘柄によって異なるため、配当金の絶対額をみても高配当の企業を判断するのは難しいです。配当利回りを参照することで、株価の水準も加味したうえで配当金が潤沢な銘柄をみつけられます。なお、配当利回りは、増配や株価が下落した場合に上昇し、逆に減配や価格上昇した場合には低下する性質があります。
配当性向とは
配当性向は、下記の式の通り、配当金を当期純利益で割ったものです。
配当性向(%)=1株当たりの配当額÷1株当たりの当期純利益×100
配当性向は、企業がどの程度利益を積極的に株主に配分しているかを示す指標です。配当性向が高い企業は、配当を通じた株主還元を重視していることを意味しており、企業業績が安定してさえいれば、将来も潤沢な配当金を得られると期待できます。
なお、配当性向が低い企業は、実現した純利益を積極的に事業投資に回している場合もあります。投資先が健全であれば将来の企業成長につながるため、配当性向が低いことが一概に悪いとはいえません。
高配当のメリット
配当利回りが高い企業に投資をすると、投資額に対して潤沢な配当金を得られます。配当水準に変更がないと仮定すると、10万円を配当利回り3%の株式に投資すると年間配当額は3,000円となりますが、5%の株式に投資すれば5,000円得られる計算です。
さらなるメリットとして、高配当な株式は業績が安定していて潤沢な配当金を継続的に払える銘柄が多い傾向にあります。高配当な銘柄に着目すれば、自然と企業の財務が安定しており、損失リスクが相対的に小さい株式に投資できるのです。
配当利回りが高い日本株ランキングTOP10
2023年9月26日時点で配当利回りが高い銘柄の上位10社は以下の通りです。
(2023年9月26日時点)
順位 | 銘柄 | 配当利回り |
1位 | JT(2914) | 5.47 |
2位 | NEWART(7638) | 5.33 |
3位 | 宮地エンジ(3431) | 5.32 |
4位 | 浅沼組(1852) | 5.32 |
5位 | 世紀東急(1898) | 5.26 |
6位 | レーサム(8890) | 5.16 |
7位 | ナガセ(9733) | 5.15 |
8位 | タチエス(7239) | 5.14 |
9位 | 伯東(7433) | 5.12 |
10位 | タマホーム(1419) | 5.08 |
1位:JT(2914)
JTの主要な株主は財務大臣であり、実質的に国の資本が入っている企業といえます。主にたばこの製造や販売を行う企業で、日本国内ではたばこの専売権を持っているほか、グローバルにも130以上の国と地域で事業を手掛けています。
また、たばこは利用者が継続的に消費するため経済変動の影響を受けにくく、業績が安定しやすいのが特徴です。また、自己資本比率が2022年12月末時点で約58%に達するなど財務が健全であるため、今後も安定した配当金支給が期待できます。
2位:NEWART(7638)
NEWARTはブライダルジュエリーなど貴金属製品の販売をおこなう企業です。ROE(株主資本利益率)とROA(総資産利益率)がいずれも4年連続で10%以上を維持しているなど、安定的かつ効率的に利益を計上しているのが魅力的な企業といえます。
利益面ではコロナ禍により一時的に落ち込んだものの、売上は2019年度以降で着実に伸びているのが特徴です。配当水準も、好調な業績を背景に6期連続で増配しています。
配当だけでなく、内部留保による事業成長も加味しながら配当水準を決定する方針ではありますが、業績が安定しているため今後も安定した配当が期待できます。
3位:宮地エンジ(3431)
宮地エンジニアリンググループは、エンジニアリング企業で、プラントや大型のインフラ設計・開発や管理などを手がける企業のひとつです。特に同社の場合は大型の道路橋や鉄橋などの開発や整備・補修を得意としています。
政府系企業にあたる道路会社や自治体を主な顧客として道路整備を手がけていることから、顧客基盤や事業ニーズが安定しているのが特徴です。売上高は3年連続増収となっていて、2023年3月期は3年ぶりに売上600億円を回復しています。好調な業績を背景に、配当金も近年は増配傾向です。
4位:浅沼組(1852)
淺沼組は、関西を拠点とする中堅ゼネコンの一角です。建物建築や土木工事など、多様な建設プロジェクトを手がけていますが、特に病院・学校・官公庁などの施工を得意としています。近年はコロナ禍を含めて業績が比較的安定していて、1,300億円~1,400億円の売上を維持している企業です。
最新の中期経営計画では、配当性向を70%以上の高水準に維持する方針を示しています。現状のように利益が安定していれば、今後も潤沢な配当が期待できます。また、近年は株価が長期で上昇傾向で、配当収入だけでなく値上がり益も期待できる企業です。
5位:世紀東急(1898)
世紀東急は世紀建設と東急道路が統合してできた企業です。東急道路が東急グループに所属していたため関係性から、現在は世紀東急が東急グループの一部となっていて、間接的ながら東急の資本が入る企業となっています。財務基盤や業績が安定した大手私鉄傘下であることは、同社へ投資するうえでは安心材料といえるでしょう。
また、同社自身は道路舗装を中心に手掛ける企業で、自治体からの受注事業が中心です。需要が安定していることから長期で保有するうえで適した銘柄といえます。直近の中期経営計画では、配当性向を100%近くまで引き上げる方針を示し、配当水準も前年の3倍増となる90円に増える見通しです。中期経営計画をふまえると、今後も潤沢な配当が期待できる銘柄です。
6位:レーサム(8890)
レーサムは、不動産開発や販売を手がける企業です。2022年度の業績では売上が微減ながら利益率を高めて減収増益を達成しました。2023年度に向けては質の高い在庫を用意しているため、史上最高益達成が期待できる事業環境となっています。ROEが2022年度で15.8%に達するなど、資本効率の良い経営状況も魅力です。
利益が拡大したうえ、2023年度は配当性向を前年の20%から40%へ倍増させ、予想配当も前年55円から175円へ3倍以上の増加となる見通しです。来期も配当性向を高水準に維持する方針であることから、当面は高水準な配当が期待できます。
7位:ナガセ(9733)
ナガセは東進ハイスクールや四谷大塚などの学習塾や予備校を展開する企業です。生徒数34万人、拠点数3,000を有する未完企業としては最大の教育機関であるなど、安定した事業基盤を構築しています。2023年3月期には過去最高益を達成するなど、堅調な業績を示しています。
足元は年々配当性向を拡大させており、2020年が39%だったのに対して、2023年3月期は66%です。そのなかで配当水準も130円から300円へ増加しています。1株から3株への株式分割を考慮すると、来期は配当性向を高めつつも配当水準を維持する見通しを示すなど、株主還元に積極的なスタンスです。
8位:タチエス(7239)
タチエスは、もともと日産系の自動車シートメーカーでしたが、現在は独立系として日野自動車などさまざまな事業会社へ製品を卸しています。独立系の強みとして、特定の自動車メーカーの方針や業績に大きく依存せず、安定した業績を維持しやすいのが特徴です。
2022年度は中国経済の減速が逆風要因となりながらも、コロナ禍の影響緩和や円安の恩恵を受けて増収増益を達成しています。同社は配当水準を管理するうえでDOE(Dividend on Equity Ratio:連結自己資本配当率)という指標を重視していますが、2022年度はDOEが3.5%だったところ、2023年度以降は4%以上を目指す方針です。配当水準も2022年度の年間73.6円から、2023年度は92.8円に増配となる見通しを示しています。
9位:伯東(7433)
伯東は、テレビやスマートフォンといった製品に組み込まれる半導体をはじめとした電子部品の製造業です。中堅企業ではありますが、アジア圏を中心に日本を含む9カ国で事業展開しています。
コロナ禍の影響で半導体の需給がひっ迫したタイミングをとらえて、コロナ禍以降順調に業績を伸ばしてきました。以前は割安に放置された銘柄だったこともあり、2020年末以降2023年にかけて株価は5倍近く上昇しました。
自社株買いと配当金を合計した「総還元性向」を100%以上に維持する方針で、株主還元に積極的な姿勢を示しています。潤沢な配当に加えて、業績が安定していれば自社株買いによる株価上昇も期待できます。
10位:タマホーム(1419)
タマホームは、住宅販売や不動産事業を主軸とする企業です。ROE(自己資本利益率)が2023年5月期で26.5%と非常に高水準なのが特徴です。コロナ禍の逆風環境にも関わらず、安定した業績を継続していて、少なくとも2019年以降5期連続で増収、営業利益ベースでの増益を達成しています。
株価が過去5年で大きく上昇しているにもかかわらず、1株あたり純利益でも増加傾向であるため、無理なく株主還元ができていると推測されます。配当は2023年度で1株あたり180円まで増加(前年度は125円)し、8年連続の増配を達成する見通しです。
配当利回りだけで銘柄を選ぶのは危険!?
現時点までの配当水準や翌年の配当見通しの指標である配当利回りだけを過信して、投資先を決めるのはおすすめできません。高配当な株の中には業績によって配当を大きく上下させる銘柄もあり、今後の業績次第では急激な減配となるリスクもあります。また、配当がいくら潤沢でも投資を開始した後に株価が下落すれば損失が発生する可能性もあります。
思わぬ減配や株価下落による損失リスクを避けるためには、配当利回りに加えて企業の業績や財務状況、配当など株主還元方針もみたうえで、今後も潤沢な配当が期待できる銘柄を選んでください。また、株価純資産倍率を示すPBRや株価収益率を示すPERなどに着目して割高感のない銘柄を選ぶことで、株価の下落リスクを抑制できます。
1つの銘柄に投資するだけでは、想定外の業績や株価変動により期待通りの収益を得られない可能性があります。高配当な複数の銘柄に投資して、リスク分散を図るのも有効です。
おすすめの証券会社
高配当株に投資するときは、売買手数料が低い銘柄に投資してコストを抑えることも大切です。また、ポイント還元制度など魅力的なサービスがある証券会社であれば、さらにお得に資産運用ができます。
楽天証券
楽天証券は、2023年10月に日本株の売買手数料が無条件で完全無料になる料金システムを開始しています。この後紹介するSBI証券と並んで、日本株投資を税金以外のコストを支払わずに投資できます。同社は、クレカ投資など所定の取引によって楽天ポイントが貯められ、さらに投資信託や日本株、バイナリーオプションなどさまざまな資産へポイント投資が可能です。
スーパーポイントアッププログラムにより、所定の条件を達成すれば楽天市場利用時のポイント還元率もアップするなど、楽天ユーザーにはおすすめの証券会社です。2023年3月末時点でNISA口座数、過去5年の新規口座開設数がNo.1であるなど、多くの方の支持を受けています。
SBI証券
SBI証券は、日本株を1株から売買できるS株が魅力で、少額から高配当株投資を始めたい方にもおすすめです。また、SBI証券は「ゼロ革命」というサービス名で楽天証券と同じく株式の売買手数料が無料化しています。
さらに、SBI証券はVポイント、Tポイント、dポイント、Pontaポイント、JALマイルの5種類のポイントを貯められて、そのうちVポイント、Tポイント、Pontaポイントは国内株などへの投資にも利用可能です。また、クレカ積立では最大で月々の投資額の5%のポイント還元を受けられます。また、投資信託では取扱銘柄数が国内最大であるほか、海外株の取扱いも豊富です。
松井証券
松井証券は日本株や米国株など商品ごとに4つのアプリがあります。アプリを通じて豊富な投資情報の収集やチャート分析、取引が簡単に行えます。また、HDI-Japanの問い合わせ窓口格付け/Webサポート格付けで12年連続最高評価を取るなど、サポート品質の高さが特徴です。この点は、創業100年を超える証券会社としての顧客対応におけるノウハウが発揮されています。
また、同社は新NISA口座においては日本株・米国株・投資信託の売買手数料を無料化する方針です。新NISAで日本株に投資する分には楽天証券・SBI証券と同様にコストをかけずに投資できます。
まとめ:配当金以外の指標にも注意しよう
配当金が高い銘柄は、保有し続ける間において定期的に潤沢な現金収入が得られます。長期で保有を継続すれば配当が積みあがっていき、価格変動の影響を抑える効果もあります。ただし、配当金の絶対額だけでは判断できないので、配当利回りや配当性向を参照して高配当株を選んでください。
また、配当利回りや配当性向だけで投資先を決めるのはおすすめできません。財務状況や業績、配当方針に加えて、PERやPBRといった株価指標を参考にして、割高感がなく今後も安定的な配当が期待できる企業の株に投資しましょう。また、銘柄選びだけでなく証券会社の違いにも着目して、手数料などのコストを抑えて投資することも大切です。