クロス取引とは?
クロス取引とは「同一銘柄・同一数量の買いと売りの注文を同時に行い、同価格で約定する取引」になります。1人の投資家だけ、投資家同士、投資家と証券会社など様々な形でクロス取引は実施されます。クロス取引は様々な理由で実施されますが、一番有名なクロス取引が「優待クロス取引」になると思います。それ以外にも、クロス取引はリスクヘッジとして用いられることが多いです。しかし、クロス取引を過度に行うと相場操縦などの不公正取引に見做され、調査対象にされる危険性がありますので注意が必要です。なお、FXにおけるクロス取引と株におけるクロス取引は全く異なる意味を持ってます。FXにおけるクロス取引はドルを介さない取引を指し、ポンド円などのクロス円や、ユーロポンドなどの通貨ペアが挙げられます。
一般信用取引との違いは?
クロス取引と一般信用取引の主な違いについて、一般信用取引は「信用買い」と「信用売り」のどちらかを行うに対し、クロス取引は「現物買い」と「信用売り」を同時に行うことです。優待クロス取引とは?
投資家(特に個人投資家)で実際に利用するクロス取引として、最も有名な取引が「優待クロス取引」となります。個人投資家による「優待取り」の手法として、特集が組まれることもあります。
優待クロス取引は、「1人の投資家だけ」が、「現物買いと信用売りでクロス取引」を実施する取引になります。買い注文と売り注文を同時に行うことで、株主優待に伴う価格変動のリスクを回避することができるなど、様々なメリットがあります。
なお、クロス取引は現物買いと信用売りを同時に行うため、信用取引口座を申し込む必要があります。
優待クロス取引のポイント
信用取引口座を保有している場合、優待クロス取引のやり方は簡単です。実施するには、3つのポイントを覚えましょう。
1つ目は、株主確定日となる基準日に株主優待の権利が付されている銘柄を選択すること。株主優待銘柄について、権利付き売買最終日までに「現物買いと信用売りのクロス取引」を約定することで優待クロス取引を実施したことになります。
また、現物株と信用売り建玉とは「同じ株数」「同じ値段」で発注しないと意味がないため、指値注文で発注するように注意してください。
2つ目は、優待クロス取引で買い付けた株式(現物)を基準日まで保有すること。基準日に株式(現物)を保有していることで、株主となり、株主優待の権利を得ることができます。
3つ目は、基準日を越えたら、信用売りの返済として、「現渡し(買い付けた株式(現物)による返済)」を実施すること。現渡しをすることで優待クロス取引を終了したことになります。基準日を越えるのは決済日ベースとなる点に注意が必要となります。
この3つのポイントを覚えていれば、「優待クロス取引」は実施できます。
※図は権利付き最終日が29日の場合の例
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優待クロス取引のメリット
優待クロス取引が個人投資家の間で活発に利用されるには理由があります。それぞれ見ていきましょう。
中長期間で株式(現物)を保有せずに、短期間の保有で株主優待の権利を得られること。
中長期間で株式(現物)を保有する場合は、様々な要因のリスク(価格変動リスクを含む)を同期間で負うこととなります。しかし、権利付き売買最終日までに優待クロス取引を実施し、権利落ち日以降に「現渡し」を実施することで、短期間(最短1営業日)で、かつ、価格変動リスクを抑えて株主優待の権利を得ることができます。
※「優待クロス取引」では、価格変動リスクを抑えることができることは次に説明します。
株価変動リスクを抑えて、株主優待の権利を得られること。
現物の買いと信用の売りを同時に実施し同額で約定していることから、株価上昇時には買いの含み益と売りの含み損が同額発生し、株価下落時には買いの含み損と売りの含み益が同額発生することとなり、株価の変動リスクを抑えること(ヘッジすること)ができます。すなわち損益が相殺され「0円(※金利等、その他コスト除く)」で、価格変動リスクを避けつつ株主優待の権利を得られるというわけです。
※価格変動のみに着目し、その他のコスト(金利等)は含んでおりません。
※今回はクロス取引としてご紹介していますが、リスクヘッジの取引手法としても同様になります。
優待クロス取引のデメリット
優待クロス取引には様々なメリットがある同時にデメリットもあり、クロス取引を行う前に知る必要があります。現物取引よりコストがかかる
優待クロス取引の1つ目のデメリットは通常の現物取引よりコストがかかることです。クロス取引は信用売り(つなぎ売り)を行うため、信用取引の売買手数料や貸株料などのコストがかかり、クロス取引を行う場合は手数料などの信用取引コストが低い証券会社を利用することをおすすめします。銘柄管理が大変になる
優待クロス取引の2つ目のデメリットは、複数の銘柄にクロス取引を行い、多くの企業から株主優待を獲得したい方は銘柄管理が大変になることです。クロス取引は一つの銘柄につき2つの取引を管理する必要があり、5個の銘柄を同時に取引をすると管理する注文が10になります。株価の下落に気づかず損切りを忘れてしまう可能性や買い戻しを忘れる可能性は十分にありますので注意する必要があります。管理が大変だと感じた場合は銘柄数を減らすことや、指値注文であらかじめ損切り金額を設定するなどの方法を試してください。\ 楽天証券の口座開設はこちら /
優待クロス取引で気をつけるべきポイント
優待クロス取引は大変魅力的な取引ですが、気をつけるべきポイントがたくさんあります。取引タイミングを間違えると、取得できる株主優待の権利以上のコストが掛かるケースもありますので、注意が必要になります。
信用売りができる銘柄であること
クロス取引の大前提でもありますが、信用売りができる銘柄を選択する必要があります。信用売りは一般信用でも制度信用でも問題ありません。一般信用と制度信用の違いについては、取り扱い銘柄範囲、コスト(金利および逆日歩など)や制限措置等の有無などがありますので、情報を適切に把握する必要があります。
他にも信用取引口座の開設が必要となったり、NISA口座が利用できない場合もあるので、これらの点にも注意してください。
制度信用取引の場合は、貸借銘柄に選定されている銘柄が、制度信用売りが可能です。しかし、日本証券金融株式会社(以降、「日証金」とします)より申込停止措置等が発表されていると新規売りが不可能となります。日証金のWebサイト等で確認する必要があります。また、一般信用取引は各証券会社が取り扱い銘柄を日々公表しておりますので、実際に取引を行う証券会社のWebサイト等で確認する必要があります。
不正取引になる可能性がある
クロス取引を過度に実施することは、「相場操縦」に見做される危険性があります。相場操縦は、金融商品取引法で禁止されている行為(不公正取引)となりますので、最大限の注意が必要です。
相場操縦は、自身で多くの売買を成立させ、出来高を多く見せて投資家を誘い込む(他の投資家に”自然形成された相場”と思わせて市場に参加させる)など、意図的に相場を作り上げようとする行為のことを指します。
クロス取引も自身で「買い」と「売り」を同時に行なっているため、その回数や金額が多いなど、市場価格へ影響を及ぼす可能性があるものについては、規制がかかるのです。
なお、ザラ場(寄付と引けとの間の取引時間)でのクロス取引は法令で禁止されている「仮装売買」と見做される可能性があるため、「寄付き」および「成行」で注文をすることが望ましいとされています。クロス取引の注文については、証券会社ごとに制約を設けている場合があります。取引所や各証券会社のwebページなどで、取引条件等の事前の確認をお勧めいたします。
逆日歩
制度信用取引の場合、信用売りを約定し、日を跨いで売り残高を保有すると、逆日歩と呼ばれる株券調達に伴うコストを負う可能性があります。信用売りは、株式を借り入れて売却する取引ですので、貸借残高が貸株超過(貸株残高>融資残高)となった場合に、日証金が翌営業日に入札方式で株式を調達し、これにより決定した株式の借入料である逆日歩を制度信用取引の売り残高保有者がコストとして約定してから返済するまでの間、日々負担することとなります。逆日歩は信用売りを行った後、事後的に決まりますので、結果として優待クロス取引をして得る株主優待の価値より高いコスト(逆日歩)となる場合もあるので注意が必要です。
配当金はもらえない
優待クロス取引を実施することで、基準日時点で株式(現物)を保有することから、株主優待と合わせて配当金が発行会社から支払われます。しかし、基準日時点で信用売り残高も保有しているため、信用取引の配当金処理として、売り残高保有者は残高に応じて配当金相当額を証券会社に徴収されます。このため優待クロス取引で配当金を丸々取得することはできません。
株主優待の条件に注意
株主優待には、保有期間に関わらず基準日時点の株主に一律付与されるものの他に、中長期間継続保有していることを条件に付与されるものもあります。後者の株主優待銘柄を選択して、誤って短期間の優待クロス取引を実施しても、株主優待は付与されませんので、確認が必要です。
近年は株主優待の条件を変更する発行会社も増えてきておりますので、最新の情報を取得するようにしましょう。
まとめ
クロス取引の中でも個人投資家に人気の「優待クロス取引」について、説明しました。大変魅力的でメリットもある取引手法ですが、気をつけるポイントも多くあります。特に、金額や株数など発注の方法によっては「不公正取引」とみなされてしまう可能性や、証券会社によっては指値注文・成行注文がルールで指定されていたり、立会外取引に規制があることで、最終的に取引が成立できなくなってしまう可能性もあります。このように取引条件などに注意事項の多い取引でもあるので、しっかりと適切な情報を把握して、正しい知識でリスクを最小限にして臨みましょう。過去の情報(逆日歩の発生状況など)を参考にしてみてもいいかもしれません。
監修:日本証券金融株式会社
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