機関投資家とは?
機関投資家とは、大量の資金を使って株式、債券、その他様々な有価証券で運用を行う大口の投資家のことを指します。「機関投資家」という言葉からは株取引を連想しがちですが、先物や債券などの金融商品も機関投資家の取引対象になっています。古くは保険会社、信託銀行、銀行等、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関、証券会社などの比較的長期的な投資を行う投資家が代表的な機関投資家として知られてきましたが、昨今は短期的な投資をメインとするヘッジファンドなどもこれに含めることも多いようです。
またここ数年では、投資先の上場企業の経営に積極的に関与しようとする「アクティビスト(物言う株主)」といったタイプの機関投資家も増加傾向にあり、マーケットでの存在感を増しています。
機関投資家と個人投資家の違い
機関投資家は圧倒的な情報量を元に巨額な資金を持って取引を行うため、出来高のうちに占める取引比率も大きく、株式市場に大きな影響力を持っていると考えられてきました。しかし、近年の情報ツールの普及により、個人投資家でも膨大な情報を取得することが可能となったため、2022年現在は以前ほどの格差はなくなってきているとも言われています。
また個人投資家と異なり、機関投資家の多くはアルゴリズム取引(コンピューターシステムによる自動売買)を採用しており、より有利な価格で売買を成立させることができます。一方で個人投資家はチャートを通してのみ株価の下落や上昇を観察できるため、機関投資家のコンピューターシステムによるトレードが株価チャートの乱高下を誘発し、個人投資家の判断を鈍らせることで批判を受けてきた経緯もあります。
ちなみに、さまざまな場面で機関投資家の存在を確認することができます。例えば、5%ルールにより開示される「大量保有報告書」です。これは上場会社の株券や投資証券などを大量に持つ投資家が金商法に基づき提出を求められる書類で、発行済株式総数のうち保有比率が5%以上になると、5営業日以内に金融庁へ提出する義務があります。また、その比率が1%増減した場合には「変更報告書」の提出が義務付けられています。しばしば、これらの報告書類の提出などを原因に機関投資家や有名投資家が買い付けた銘柄の株価が変動することもあるため、相場に影響する重要な書類のひとつといえるでしょう。
機関投資家の空売り
証券会社などの従来からの機関投資家は長期的な投資が中心でしたが、ヘッジファンド等の短期的な投資を主とする機関投資家は、株取引を行う際に「買い」のポジションだけでなく空売りを使った「売り」のポジションを持つこともあります。また、近年ではビッグデータなどを用いた精緻な分析を元に大規模な空売りを行うファンドの存在も数多く知られています。
こうした機関投資家の空売りは、信用取引だけではなく、自ら株券調達を行い、当該調達株券を売るなど信用取引以外の方法によっても行われます。このようなところも、個人投資家の行う空売りと違う点の一つとも言えます。
またプロ投資家である機関投資家が大量の空売りを浴びせることでマーケットが大きく動き、それに追随する形で個人投資家の売りも呼び込み、大きな値下がり圧力となることもあります。大口ならではの存在感や影響直も特徴といえるでしょう。
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機関投資家の空売り情報
こうした機関投資家の空売りの動向を知る方法としては、取引所が公開する「空売り残高に関する情報」があります。この情報は、2008年の空売り規制の強化に伴う法令改正(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令)を受けて、取引所が投資家(取引参加者)から空売りの情報の提供を受けることとなり、このうち空売り残高の割合が0.5%以上となったものが取引所HPに公開されています。この情報には、空売りを行った投資家の商号・名称や空売り残高数量などが含まれており、機関投資家を含めた大口の空売りの動向を知る手段として利用している投資家もいるようです。
また、個別銘柄の情報ではありませんが、取引所HPには、投資部門別の売買状況も公表されています。どういった投資主体(海外投資家、証券会社など)が買い方向(売り方向)に動いているのかという相場全体の動向を把握することもできます。
機関の空売り残高情報の見方
日本取引所グループが公開している「空売り残高に関する情報」では、空売りをしている機関の名前、空売りされている銘柄名、空売り残高割合と数量などの情報が公開されています。「空売り残高に関する情報」は毎日更新されているため、新規に空売りされた銘柄を確認することもできます。また、空売りに関する情報をまとめている「空売りネット」というサイトでは、それぞれの機関がどの株をどれぐらい空売りしているのかを一遍にまとめているため、初心者にとっても大変見やすくなっています。
信用残高の見方
信用残高からも空売りの状況の一部を把握することができます。
信用残高は信用取引で新規の売り建てまたは買い建てを行い、まだ反対売買等により手仕舞いを行っていない状態の残高を指します。制度信用取引(※)については6か月の返済期限がありますので、信用買い残高は同期間以内に売り返済が、信用売り残高は同期間内に買い返済がなされます。つまり、それぞれ将来的な売り圧力、買い圧力になると考えられるわけです。
こうした考え方から、信用残高を利用して「買い残÷売り残」で計算される信用倍率が小さい銘柄ほど将来の買い圧力強い(売り圧力に比較して)銘柄として、銘柄選択の参考に利用する投資家もいるようです。
また、「空売り残高比率」にも注目すると良いでしょう。この空売り残高比率は「空売り残株数÷1日の出来高(×100)」で算出され、「この比率の高い銘柄(出来高の少ない銘柄 or 空売り残株数の多い銘柄)の方が、将来の空売りの買い戻しによって株価が受ける影響が大きくなる」といえます。
つまり、空売り残高比率の高い銘柄は出来高全体に対して空売りが占める割合が高く、買い戻しが多く行われるときは株価上昇の勢いも強くなると予想できます。逆に、空売り残高比率の低い銘柄は出来高全体に対して空売りが占める割合が低く、買い戻しに伴う強い上昇を期待できる可能性は低いと予想されます。
なお、空売り残高比率と信用残高は両方とも取引所HPに公表されていますので一度確認してみるとよいでしょう。
※制度信用取引:証券会社と証券金融会社の間で資金や株式を融通する「貸借取引」が介在する信用取引。貸借取引が存在しない信用取引は「一般信用取引」という。
まとめ
機関投資家による空売りの概要とその動向を把握する方法についていくつか紹介してきました。機関投資家による売買は取引量が多いため、時として株式市場に大きな影響を与えることもあります。必要に応じて確認するようにしましょう。
特に、信用残高が将来の売り・買いにつながると考えれば、今後の株価上昇・下落の見通しを立てることも可能ですので、投資判断の一つの基準として用いるのも良いでしょう。また、こうした空売りの情報を集計して提供しているWebサイトもあるようです。情報の確度には十分注意して参考にしてみるのもよいかもしれません。
監修:日本証券金融株式会社
編集者:K-ZONE money編集部
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