信用取引における空売り価格規制とは
信用取引における空売り価格規制は、投資家の空売り注文を制限し、当場操縦など意図的に株価の下落を誘発する行為を防ぐためのルールです。空売り価格規制は、2つの用語「空売り」「価格規制」から成り立っていますので、簡単に説明します。
売買の売り注文は、「実売り」と「空売り」にまずは区分されます。「実売り」は、自身が所有している株式等の売りが該当します。一方で、「空売り」は、自身が株主等から株式等を借りて行う売り(信用取引以外の売り)と自身が証券会社から株式等を借りて行う売り(信用取引の売り)が該当します。空売りは「株価の下落局面でも収益を上げたい」という状況で利用できる取引である一方、実際に自分で保有していない証券を使って大量の売り注文が可能となるため、空売りには実売りにはない規制が適用されます。以下で規制の内容や注文時の制限について解説します。
「価格規制」は、注文時の価格が制限されることを指します。株価が下落時、もしくは、上昇時で条件が異なりますので、注意が必要です。
今回は、個人投資家に関する「信用取引における空売り価格規制」を確認していきましょう。
空売り価格規制とは?
相場操縦といった不公正取引は禁止されており、空売りは意図的に株価を下落させる、いわゆる売り崩しに利用されるおそれがあるため、金融商品取引法施行令によって、一定の条件に抵触した際に注文時に制約を設けることとなっています。空売り価格規制は、市場の混乱を防ぐために新規の信用売り価格を規制する制度として理解しましょう。
「信用取引における」空売り価格規制の注意点
空売り価格規制の適用除外となる取引があり、このうちのひとつが「機関投資家以外(個人等)の信用売り(50単位(※)以内に限る)」です。つまりは、個人投資家は50単位以内の空売り注文であれば適用除外(この場合も注意点がありますので後程説明いたします。)となりますが、逆に言うと51単位以上の信用取引の空売り注文は、「空売り価格規制」の対象となりますので、注意しましょう。
※1単元:基本的には100株
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空売り価格規制の発動と解除
空売り価格規制は、常に発動しているわけではなく、当日基準値段から10%以上の下落した場合のみに発動される「トリガー方式」で発動されます。空売り価格規制について、トリガー方式での発動とその解除について、確認しましょう。
トリガー方式による発動と対象銘柄について
取引所等が前営業日終値等から算出する当日基準値段から10%以上下落した銘柄が対象銘柄となり、10%以上下落した価格で売買が成立(トリガーに抵触)した時点から「空売り価格規制」が発動されます。なお、重複上場銘柄については、その銘柄の売買高の多い主市場でトリガーに抵触した場合には、他市場でも翌営業日に価格規制が発動されますので注意が必要です。
空売り価格規制が発動されている銘柄一覧などの情報は、日本取引所グループなど各取引所や証券会社が公表しているため、それぞれのWebページ等で確認することができます。
(日本取引所グループでは、「空売り規制に関する情報」として「トリガー抵触銘柄」及び「翌日適用銘柄」が公表されています。)
空売り価格規制はいつ解除される?適用期間は?
空売り価格規制の適用期間は、トリガー抵触が主市場か他市場かで扱いが異なります。1番多いケースとして、主市場でトリガーに抵触した際のその市場での適用期間としては、トリガー抵触時点から翌営業日の大引けまでとなります。つまりは、解除は発動日の2営業日後となります。
(一方で、主たる市場以外でトリガーに抵触した場合、規制はその市場の大引けまでとなり、他市場や翌日までの規制はありません。)
なお、「空売り価格規制」が発動した後に株価が上昇して当日基準値段の10%以内になったとしても、一度発動された価格規制が2営業日以内に解除されることはありませんので注意が必要です。
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空売り価格規制による実際の規制内容は?
トリガー方式により発動した空売り価格規制により、空売りの注文時において、どのような規制が入るのか確認していきましょう。
当日基準値段が1,000円の銘柄の株価が下落して、850円で売買が成立(約定)したとします。当日基準値段から10%以上の下落ですので、この銘柄は「空売り価格規制」の対象となります。なお、繰り返しになりますが、その後、この銘柄の株価が910円になったとしても「空売り価格規制」は解除されないことにご注意ください。
以下では、上記の事例を踏まえて、「空売り価格規制」の対象となった銘柄で株価が910円の状態から説明します。
株価が「下落」したときにおける空売り価格規制について
株価が910円の銘柄が905円となった時(直前の株価推移で910円から直近905円へと下落した時)、直近の株価(905円)より高い株価でしか、空売りの注文はできません。
株価が「上昇」したときにおける空売り価格規制について
株価が910円の銘柄が920円となった時(直前の株価推移で910円から920円へと上昇した時)、直近の株価(920円)と同値もしくは高い株価でしか、空売りの注文はできません。
制限措置との違い
制限措置では新規の売り注文が停止されます。投資家のみなさまが勘違いしてしまったり、混同してしまったりするのが、「空売り価格規制」と「制限措置(新規売り停止)」の違いです。「空売り価格規制」は、新規に空売りする際の価格に制約が発生します。一方で、「制限措置(新規売り停止)」は、新規売り(新規の信用取引の売り注文自体)が停止されています。2つを並べると混同することはありませんが、それぞれの単語だけを見ると、間違えることがあるので、注意しましょう。
分割注文は空売り規制違反の可能性も
信用取引における空売り価格規制の注意点として、発注単元数が51単位以上の信用取引の空売り注文は「空売り価格規制」の対象となると挙げました。発注単元数が50単位以内であれば、対象外となるようにも読めますが、注意が必要です。
投資家に悪意があるかどうかに関わらず、1度では51単位以上にならないものの、短時間に50単位以内の売買を繰り返したり、同日に時間を空けて注文したり、異なる証券会社の口座から必要以上注文した場合も、合計で51単位以上となれば「空売り価格規制」に違反したとして罰せられる可能性があります。
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空売り価格規制の株価への影響
空売り価格規制は、投資家の注文を制約するルールですので、株価にも影響を与える可能性がありますので、確認しましょう。
空売り価格規制の影響
「空売り価格規制」が発動したということは、当日基準値段から10%以上の株価下落があったということですので、大きく株価が変動する何らかの要因があったとも考えられますが、「空売り価格規制」の発動後は、これに加え、売り注文だけに一定の制限が入ることになります。過去には発動後、株価が急転した例もあります。つまりは、同一銘柄でも「空売り価格規制」の発動前後で、短期的な値動きに変化が出る可能性はありますので、注意が必要です。
まとめ
信用取引における空売り価格規制について、個人投資家の立場からポイントを確認しました。空売り価格規制が発動された銘柄については、信用取引の空売りに関して、注文する株数によっては注文できる価格に制約が加わることを理解していただき、また、「空売り価格規制」違反になってしまう状況もイメージできたと思います。短期的な売買をする場合は、大変重要な情報になりますので、どのような条件で適用されるかなどしっかりと理解しましょう。
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