信用取引の現引き・現渡しとは?

投稿日:2021/02/02 最終更新日:2023/03/14
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多くの投資家は信用取引残高(建玉)の返済方法として、買い建玉では「売り決済(転売)」を実施し、売り建玉では「買い決済(買戻し)」を実施します。建玉の返済方法として、他には買い建玉の「現引き」と売り建玉の「現渡し」があります。この「現引き」「現渡し」について、詳しく説明していきます。
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この記事の監修者

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菅原良介

株式会社Finatext

証券アナリスト

Finatext サービスディレクター・アナリスト。日本テクニカル協会認定テクニカルアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業。Finatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当する傍ら、アナリストとしても活動。グループで展開するコミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターなども務め、国内メディアへの寄稿も行う。

現引きとは?

「現引き」とは、株の信用取引をする際に用いられる、証券会社から借りた株式を購入するための資金(買い建玉)を返済する手段の一つです。 買い建玉は、投資家が証券会社から資金を借り入れて、有価証券を買付けている(買付株式を証券会社に担保として差し入れている)状態となります。つまりは、投資家自身が証券会社から借り入れた資金同額を調達し、証券会社に引き渡せば、証券会社からの借入れはなくなり、買い建玉を現物株式として引き受けることが可能になります。このような形での買い建玉の返済方法を「現引き」と言います。「現引き」する場合、当初の約定値段を元に引き受けることとなります。また、現引きについての手数料を必要としない証券会社が多く、返済する際に投資コストがかかるという心配は必要ありません。

そもそも、信用買いによる買い建玉の解消は、反対売買か現引きのいずれかにより行うことになります。その際には、購入した株式の値上がり期待がどのくらいあるのか、利益確定・損切りを先送りにしたいのか、今手仕舞いしたいのか、現引きを行うための余力があるのか、現金の入る予定があるのかなど、それぞれの基準で検討していくことになります。

現引き(品受け)の仕組み

現引きのメリット

現引きのメリットとしては、買い建玉の銘柄を短期ではなく中長期に保有する場合などで、現物株式として保有することにより金利の支払いなど信用取引特有のコストがなくなることが挙げられます。信用取引の特性上、利息などがかかってしまうので短期売買を前提とした取引方法になります。しかし、株価が思い通りに上がらなかったが株式を引き続き保有したい場合や、中長期に更なる利益が見込めると判断した場合、「現引き」を利用することによって短期から中長期の投資に切り替えることができます。また、現物株式として保有することから、配当金や株主優待、議決権等のメリットも享受できることになります。

「現引き」をする場合、取引した当初に借り入れた金額を支払えば返済完了になりますので、余分のコストが心配はありません。

現引きのデメリット

現引きのデメリットとしては証券会社へ買付資金を返済することとなるため、投資家自身の手元資金が減少してしまうことが挙げられます。同資金を元とした信用取引の機会(レバレッジでの運用機会)を逸することにもなります。

なお、証券会社への「現引き」の申請時刻や申請の取消方法などは、証券会社ごとに異なりますので、注意が必要になります。

また受渡日の前営業日までは建玉を保有しているとみなされるため、受渡日までに株価の変動等が生じて評価損が拡大した場合、追証を求められる事態になることも考えられますので、この点にも留意しておきましょう。

現引きが有効なタイミング

資金調達の目途(給料など)がある中で、買い建玉を保有されている場合は、当該資金調達ができたタイミングで「現引き」をすると信用取引特有の金利負担はなくなります。短期ではなく、中長期で保有することを決定した場合も同様となります。

また買い建玉として保有している銘柄について、株主優待の権利が付されている場合は、決算基準日までに「現引き」することで当該権利を得ることが可能になります。加えて、制度信用取引で買い建玉を保有している場合、逆日歩が発生した際は建玉株数に応じて受領することができます。保有している銘柄における信用取引全体の買い建玉と売り建玉の状況を把握し、売り超過(買い建玉<売り建玉)ではないことも1つの判断基準になります。ただし、ともに制度信用銘柄の場合、制限措置(現引き停止)が適用されている場合があるので注意が必要になります。

現渡しとは?

売り建玉の返済方法の「現渡し」について、説明します。

売り建玉は、株の信用取引をする際に用いられる、投資家が証券会社から株式を借り入れている(売却代金を証券会社に担保として差し入れている)状態となります。つまりは、投資家自身が証券会社から借り入れている株式を調達し、証券会社に引き渡せば、証券会社から株式を借り入れている状態を解消することができます。このような形での建玉の返済方法を「現渡し」と言います。「現渡し」する場合、証券会社へ引き渡す株式を調達することとなります。

現渡し(品渡し)の仕組み

現渡しのメリット

現渡しのメリットとしては、売り建玉を返済することで、貸株料など信用取引特有のコストが発生しなくなります。特に、制度信用取引で売り建玉を保有している場合、売り超過(買い建玉<売り建玉)の場合に逆日歩が発生する可能性がありましたが、「現渡し」することで当該コストを負うことはなくなります。

売り建玉の保有時(信用取引として新規に約定した時)から株価が値上がりしている場合、そのまま「買い返済(買戻し)」をすると損失が出ます。しかし、証券会社への引き渡し株式を現在の株価以下で調達できれば、損失を抑えることができます。

現渡しのデメリット

「現渡し」そのもののデメリットではありませんが、証券会社への引き渡し株式を投資家自身が調達することは大変困難です。売り建玉を保有後に、「現渡し」を検討するのでは手遅れとなる場合があるので注意が必要になります。

なお、証券会社への「現渡し」の申請時刻や申請の取消方法などは、証券会社ごとに異なりますので、注意が必要になります。

現渡しの有効なタイミング

売り建玉の保有時(信用取引として新規に約定した時)から株価が値上がりしている場合、そのまま「買い返済(買戻し)」をすると損失が出ることとなりますが、証券会社への引き渡し株式を現在の株価以下で調達できれば、新規約定時の評価額と株式調達の価格の差が損益となるため、買い返済(買戻し)よりも損失を抑えることができます。

また投資家が元々株式を保有しており、同株式の株価の値下がり不安から、売り建玉を建てた場合(「ヘッジ取引」と言います)、投資家の予想通りに株価が値下がりした際は、売り建玉の返済として「買い返済(買戻し)」を実施することで株式は保有したままで信用取引の差額を収益として得ることができますが、投資家の予想に反し株価が値上がりした際は、「買い返済(買戻し)」では損失がでるので「現渡し」をして当該株式の購入時の評価額と信用売りの新規約定時の評価額の差での収益を確定させることができます。なお、ヘッジ取引をした場合、保有している株式の単純な株価値上がり分の収益獲得機会は逸することとなりますので注意が必要となります。

ヘッジ取引とは、株式など投資商品の価格変動リスクを回避するために行う取引で、先物やオプションを用いて現物と反対のポジションをとるような取引を指します。上で述べたような、現物のダウンサイドリスクを信用売りを建てることで回避する取引を「売りヘッジ」、手元資金は不足しているが近い将来資金を得られることがわかっている場合などに、信用買いを建てて取得価格を固定する取引を「買いヘッジ」と呼びます。「現引き」「現渡し」は、このようなヘッジ取引の利用手段にもなります。

まとめ

信用取引の「現引き」「現渡し」について、詳しく説明しました。簡単にまとめると、「現引き」とは、反対売買による決済ではなく、手元資金によって買い建玉を現物株として引き取ることで解消する取引のことで、「現渡し」とは、元から持っていた、あるいは他の方法で調達した同銘柄の株式を引き渡すことで、売り建玉を解消する取引のことでした。
「現渡し」については、信用売り建玉を建てる前に現物株式を保有しているかどうかがポイントになることを挙げました。ヘッジ取引については、信用売りの手法として基本となる考え方になりますので、ぜひ覚えておいてください。

監修:日本証券金融株式会社
編集者:K-ZONE money編集部

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