【第54回】日興アセットマネジメントETFセンター長の今井幸英氏に聞く。日本初のロングショート戦略ETFが上場。安定パフォーマンスで"投資の箸休め"として活用も
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日興アセットマネジメントは2017年3月、日本で初めてのロングショート戦略を採用したETFを上場させた。この「上場インデックスファンドMSCI日本株高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」【愛称:上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)=銘柄コード1490】は、いわば損失を極力出さないように、より安定的な運用をめざすという。同社ETFセンター長の今井幸英氏に、同ETFの仕組みと特徴などを聞いた。
- リーマンショック前から安定したパフォーマンス推移
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「ロングショート戦略」はマーケットニュートラル戦略とも呼ばれ、割安と思われる資産の買い(ロング)と、割高と思われる資産の売り(ショート)をおこなうことで、より安定的な収益をねらう投資戦略である。「上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」は、配当利回りが高くかつボラティリティ(価格変動性)を抑えた日本株式への投資と、日本株式市場全体の変動に対する価格感応度(β値)を低く抑えるために先物の空売りを合わせておこなう。いわゆる「βヘッジ」をおこなうことで、日本株式市場全体の価格変動の影響を低くしつつ、高い配当利回りなどを享受することをめざすETFである。
同ETFが連動対象とする指数は「MSCIジャパンIMIカスタムロングショート戦略85%+円キャッシュ15%指数」。この指数の過去のパフォーマンスを見ると、同ETFの特徴が理解しやすくなる。
【グラフ�@】
(2009年12月30日を1000として、公表値をもとに日興アセットマネジメントが指数化)
グラフ�@は、リーマンショック後の2009年末から2016年末までの連動対象指数のパフォーマンスだが、アベノミクス効果による大きな株価上昇メリットを享受しているとはいえないが、極めて安定的な値動きになっていることが見て取れる。
【グラフ�A】
(2007年5月31日を1000として、公表値をもとに日興アセットマネジメントが指数化)
一方のグラフ�Aは、リーマンショック前の2007年5月末から2016年末までのパフォーマンスである。TOPIXはリーマンショックの影響で大きく下落しているが、指数はここでも安定的に推移している。「MSCIジャパンIMIカスタムロングショート戦略85%+円キャッシュ15%指数」は、過去の相当大きな価格変動局面においても安定的な値動きをしてきたということがわかる。同指数に連動をめざす「上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」も同様の効果が期待できそうである。
- 金融機関の「もっとリスクを抑えたうえで安定的な収益」というニーズ
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本ETFの組成にあたっては、2015年12月に上場した「上場インデックスファンドMSCI日本株高配当低ボラティリティ」(1399)が契機になったという。(2本のETFは同じ高配当低ボラティリティというコンセプトで、同じ日本株ポートフォリオを使っている(「上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」では、その日本株ポートフォリオの市場価格変動性がゼロになるようにTOPIX先物を売り立てている)。
参考URL:
【第49回】日興アセットマネジメントETFセンター長の今井幸英氏に聞く "付加価値型ETF"の先駆けとして 高配当+低ボラティリティの指数を新開発
日興アセットマネジメント株式会社
ETFセンター長 今井幸英氏「上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」の元となった「『上場高配当低ボラティリティ』(1399)は上場来の1年で、TOPIXに対して約7%アウトパフォームしました。この期間のTOPIXの価格変動率は20%ほど。金融機関のお客さまからは『もっとリスク(価格変動性)を抑えたうえで安定的な収益がほしい』というニーズが生まれてきたのです。そこで配当プラスアルファをねらう仕組みを考えました」(日興アセットマネジメントETFセンター長の今井幸英氏)。
ETFには必ず連動対象になる指数が必要になるが、その組成がなかなか難しかったと今井氏は語る。「ある指数算出会社にはシステムとして先物の取り込み口がなく、構築には莫大なコストがかかるというし、別な新しい会社ではベンダーへの配信口がないと。TOPIXの反数を使う考え方もありましたが、これも難しかった。結果として『上場高配当低ボラティリティ』(1399)の連動対象の指数を応用することになり、通常は半年くらいの開発期間が約1年もかかってしまいました」。
- 市場価格変動性を差し引いて高配当銘柄の成長を抽出
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「上場高配当低ボラティリティ(βヘッジ)」の収益イメージを整理してみよう。日本株式に投資するリターン(市場の価格変動性+銘柄選択によるリターン)から、市場の価格変動性を引いたリターンをねらう。つまり高配当銘柄の選択によるリターンで、投資対象の市場全体に対する相対的な成長を抽出して享受しようというわけである(図参照)。株式(ロング)部分の組入業種としては、銀行や保険、その他金融などの金融業とREIT(不動産投資信託)は組み入れていない一方で、情報・通信や化学、電気・ガスなどが対TOPIXで多くなっている(グラフ�B参照)。
【図】
【グラフ�B】
(いずれも信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
配当プラスアルファで安定的な収益を——というニーズは、金融機関のみならず個人投資家にもあるだろう。しかしながら、ETF市場でいま個人投資家に人気なのはレバレッジ・インバース型と呼ばれる価格変動性の高いETFだ。今井氏は「それは個人投資家全体の中のある一定の層の話であり、それ以外の多くの個人投資家の皆さまは安定的に相応の収益が期待できるETFをお望みなのではないでしょうか」と分析する。「いずれにしろ、売買の"箸休め"になるようなETFは必要だと考えたわけです」(今井氏)。
- TOPIXとの相関性は低く分散効果も期待
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【表】
(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
表は2010年から2016年におけるリターンとリスクである。リスク(価格変動率)はTOPIX の4分の1程度になっている。また、日興アセットマネジメントによると、同期間における連動対象指数とTOPIXの相関係数は0.028だという。ほとんど無相関といっていいレベルだ。各種の日本株式に連動するETFと組み合わせて保有しても、分散効果が期待できるだろう。
さまざまな局面で安定的な収益が期待できるロングショート戦略。公募投信にはこの戦略を活用した商品があるが、リターンに対してコスト(販売手数料や信託報酬など)が相対的に高いことから、あまり多くの資金を集めることができないようだ。本ETFの信託報酬は年率0.486%。ETFとしては低いとはいえないが、ポートフォリオにおける"箸休め"として保有を検討してもいいだろう。
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監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部