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投信フォーカス
国内REITファンドと海外REITファンドの差異
——REITファンドの運用資産残高は海外が国内を圧倒し、国内REITの影は薄いが、長期での平均的運用成績には大差ない。分配金の元本払戻金度の高さも同程度。今年に入り減配が目立ち、分配金水準の正常化への動きも
海外REITファンドの運用資産残高は5兆円強。これに対して国内REITファンドは7千億円弱。海外REITファンドには2004年以降に計7兆5千億を超す資金が流入したが、国内REITファンドは1兆円強止まり
投信市場における海外REITファンドのプレゼンスが高まっている(REIT=不動産投資信託)。主にREITで運用する国内追加型株式投信の運用資産残高を集計すると、海外REITファンドは5兆円強に達し、国内REITファンドは7千億円弱(2012年7月末時点)。海外REITファンドの運用資産規模は金融危機後の2009年初には1兆円を割り込んだが、その後急激な回復基調に乗り、ETFを除く追加型株式投信全体の残高の約12%を占めるまでに成長した。これに対し、国内REIT(J−REIT)で運用する国内REITファンドの資産残高は、おおむね緩やかな増大傾向をたどってきたものの、現在7千億円弱。国内REITの運用資産残高については、東証REIT市場の時価総額、約3.6兆円(7月末時点)が天井となる制約もある。
海外REITファンドと国内REITファンドの運用資産残高の差は資金流入額の圧倒的な違いに起因している。海外REITファンドは特に2009年以降、月千億円を超す資金流入超過が常態化。2007年から翌2008年にかけて一時的に資金流出超過となる局面はあったが、2004年以降2012年7月末までの8年半あまりで約7.6兆円の資金が流入した。
このように、運用資産残高では大差がついた国内REITファンドと海外REITファンドだが、果たして運用成績でも圧倒的な差がついたのだろうか。
どちらかが優勢・劣勢となる年もあったが、長期での平均的値動きには大差なし
国内REITファンドと海外REITファンドが登場したのは2003年。この年にREITを組み入れる投信運用が可能となる制度が整った。そこで、両タイプのファンドについて、2003年末を基準にして分配金を考慮した基準価額の平均的値動きを比較すると、2012年7月末時点の平均騰落率はどちらもプラス20%程度でほぼ一致。
ただし、この8年半の途中、値動きが対照的だった時期もある。国内REITファンドは、東日本大震災が起こった2011年には平均で約22%下落したのに対し、海外REITファンドの平均下落率は4%弱にとどまった。その前年の2010年に国内REITファンドは平均で32.5%上昇したのに対し、海外REITファンドは平均9%程度の上昇。反対に2009年には、国内REITファンドは平均4.5%の上昇にとどまったが、海外REITファンドは平均で40%強上昇した。
もっとも、あくまで両タイプのファンドの平均比較であって、各タイプでも個々のファンドで運用成績に優劣がついている。特に、海外REITファンドでは米国、豪州、欧州など投資国やその配分比率が左右し、円ヘッジしていない限り、運用通貨による差がつきやすい。
残高上位ファンドを比べると、元本を取り崩して分配してきた傾向は同じ
国内REITファンドと海外REITファンドの各純資産残高上位10本について、設定以降の分配金込み基準価額の騰落率、分配金利回り、分配金の元本払戻金度(分配金に占める元本払戻金の割合)を年間で計測し、表にした。残高上位10本は国内REITファンド残高10位の「DIAM J-REITオープン(2カ月決算コース)<愛称:オーナーズ・インカム2M>」(DIAMアセットマネジメント)を除き、すべて毎月分配型である。高配当利回りのREITと毎月分配型ファンドは親和性が高いことを示している。
リーマン・ショックが起こった2008年に注目してみると、国内REITファンドの残高1位「J−REIT・リサーチ・オープン(毎月決算型) 」(三井住友トラスト・アセットマネジメント)の騰落率はマイナス43.8%。元本払戻金度は100%で2007年末に購入した場合、その後1年間の分配金はすべて元本払戻金(特別分配金)だったことになる。分配金利回りは3.9%と低めだが、基準価額が大幅に下落している中で分配すると、投資元本を取り崩して分配する度合いが高まることを意味する。2008年の元本払戻金度は国内REITファンド残高上位10本(計測可能な9本)すべてが100%だった。下落率が平均で20%以上となった2011年の元本払戻金度も、残高上位10本すべてが90%超となった。
元本を取り崩して分配してきた傾向は海外REITファンドでもさほど変わらない。海外REITファンド残高首位の「新光US−REITオープン<愛称:ゼウス>」(新光投信)の基準価額(分配金込み)は2008年に50.6%下落し、その年の元本払戻金度は91.7%。2008年は海外REITファンドの残高上位でも元本払戻金度100%が目に付く。
元本払戻金度が高くなるのは、分配金利回りの方が騰落率を上回った時に生じやすいことも分かる。分配金を出すとその分だけ基準価額が下がるので、基準価額の下落時や上昇率が小幅な時に分配するには、投資元本を取り崩す必要性が生じるためだ。
減配が相次ぎ、分配金水準の正常化の動きも
こうした運用成績に見合っていない分配金の「払い過ぎ」状態を是正し、分配金水準の適正化を模索する動きも出始めた。今年に入り、国内REITファンド、海外REITファンドともに減配が目立ってきた。
国内REITファンドの大型ファンドでは、「DIAM J−REITオープン(毎月決算コース)<愛称:オーナーズ・インカム>」(DIAMアセットマネジメント)が5月に、分配金(1万口あたり、税引前)をそれまでの80円から50円に減額。「野村日本不動産投信」(野村アセットマネジメント)も5月に40円から30円に減配。「みずほJ−REITファンド」(みずほ投信投資顧問)は3月に50円から40円に引き下げた。
海外REITファンドでは、「ダイワ米国リート・ファンド(毎月分配型) 」(大和投資信託)が分配金を7月に130円から100円に減配。「ダイワ・US−REIT・オープン(毎月決算型)Bコース(為替ヘッジなし) 」(大和投資信託)は110円から80円に引き下げた。
8月に入っても減配の動きが続き、「新光US−REITオープン<愛称:ゼウス>」は90円から75円に減額。「ワールド・リート・オープン(毎月決算型) 」(国際投信投資顧問)は65円から55円に引き下げた。「ワールド・リート・オープン(毎月決算型) 」は2月の75円から65円への減額に続く、今年2回目の減配となる。
国内REITと海外REITでは配当利回りは国内優位に
長期での平均的運用成績や、分配金利回りの高さが元本の払い戻しに依存してきた傾向については、国内REITと海外REITファンドに大きな差異は無いものの、国内REITファンドが海外REITファンドに対し優位に立っている面はある。
組み入れREITの予想平均配当利回りを比較すると、国内REITファンドの方が高めになってきた点だ。例えば、「J−REIT・リサーチ・オープン(毎月決算型) 」の6月末の予想平均配当利回りは5.5%。これに対し「新光US−REITオープン<愛称:ゼウス>」は4%弱(7月5日時点)。
さらに米国REIT(など海外REIT)の配当金に対しては投資国で源泉課税徴収され(米国での源泉課税率は現在10%)、配当金課税額を国内株式投信が取り戻すことはできない。このため、ファンドでの実質的な配当利回りは米国で計測した表面的な値の10%減(0.9掛け)の数値になる。なお、米国REITに投資しながら運用通貨を米ドルからブラジルレアルや豪ドルに切り替える通貨選択型ファンドはケイマン籍などの外国籍投信を介して運用しているが、この場合、源泉課税率は30%程度に跳ね上がるのも注意点。
こうした取り戻せないREIT配当金に対する海外源泉徴収税も考慮すると、国内REITファンドでの実質的なREIT配当金利回りは、多くの海外REITファンドに対し優位になっている。
この点は「分配金の健全性」と呼ばれる、分配金に占める運用費用(経費)控除後のREIT配当等収益の割合とも符合する。分配金の健全性は運用報告書記載の数値から計算することが可能(外国籍投信を介在して運用している場合、健全性の実態を示す数値は運用報告書記載値からは測れない)。
「J−REIT・リサーチ・オープン(毎月決算型) 」の場合、6月18日までの半年間で分配金の健全性は約38%。「新光US−REITオープン<愛称:ゼウス>」は3月5日までの半年間で約12%だった。比較時期は異なるが、この間、「新光US−REITオープン<愛称:ゼウス>」の方が、分配金に占める組み入れREITからの配当金収益の割合は低かったことになる。
ただし分配金には、インカムゲインのREIT配当金のみではなく、本来的にはREITの値上がり益や為替差益などのキャピタルゲインも還元されうるので、分配金の健全性のみでファンドの優劣比較判断はできない。あくまで分配金を含めた運用成績の比較を行ううえでの補足的な評価項目の一つという位置づけになる。
さらに、価格変動リスク(ボラティリティ)の観点からリスク階級指標の「QUICKファンド・リスク」(7月末時点、注1)をみると、国内REITファンドの残高上位10本のリスク階級はすべてTOPIXと同水準の「3」。これに対し、海外REITファンドの残高上位10本は円相場の変動も加わり、一段高い「4」もしくは「5」。国内REIT指数のリスク階級は2007年後半や2009年初には「5」まで増大し、ハイ・リスク商品に変質したが、現在の価格変動リスクはTOPIX並みの水準まで下がっている。
(注1)QUICKファンド・リスク
TOPIXの「3」と相対比較して、価格変動リスクの水準を最小の「1」から最大「5*」の6段階に区分したリスク階級指標(リスク度)。価格変動リスク(標準偏差)を3ヵ月・6ヵ月・1年・2年・3年・4年・5年の7期間で計測し、TOPIXの価格変動リスクに対する倍率について、価格変動リスクが計測可能な期間の平均値に基づきリスク階級として段階区分。運用期間が最短で4ヵ月以上のファンドを対象に毎月更新。
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