皆様は株式を売買されるときに、どのような情報を参考にしているでしょうか。発行会社等が公表している業績等の情報や最新ニュースを参考にされている方も多いと思います。今回は、株式投資初心者にとって少し耳慣れない概念、信用取引や貸借取引の残高から算出される「信用倍率」「貸借倍率」を紹介します。株式投資を行なっている多くの投資家が参考にしている情報ですので、現物商品しか取引していないという株式投資初心者の方もそれぞれの指標について学び、投資判断に利用してみましょう。
信用倍率とは
信用倍率とは、マーケットにおける「信用買い」と「信用売り」のどちらが多いのかを示す指標です。計算式は「信用買い残高÷信用売り残高」で計算され、信用買い残高と信用売り残高の割合を示した値となり、信用取引の取組状況を分かりやすくした情報になります。正しい投資判断をするために、取引する前に株価や手数料等の投資コストに関する情報以外にも、信用倍率からリスクや温度感などの情報を確認することをおすすめします。
信用倍率の見方
基本に戻り、「信用買い残高」「信用売り残高」を整理します。
「信用買い残高」は、手元に現金がないが証券会社から買付代金を借り入れて約定した分の残高で、「信用売り残高」は、手元に株式がないが証券会社から売却株式を借り入れて約定した分の残高となります。つまりは、投資家が証券会社から代金もしくは株式を借り入れている残高と言えます。
取引所に上場している銘柄は成長することや株主に利益を還元することを目標としていることから、株価の値上がりを期待し、多くの投資家は信用買いをすることとなります。このことから、多くの銘柄で信用買いが信用売りを上回り、「信用倍率」は「1倍」を超えます。なお、つみたてNISAや投資信託などの投資は信用取引を行うことができないため、基本的に信用倍率について心配する必要はありません。また、つみたてNISAの対象になる投資信託やETFなどに含まれる、投資対象としての株式についても基本的に信用倍率を気にする必要がありません。
信用倍率の目安
信用倍率は多くの場合で1倍を超えますが、この1倍がひとつの目安と考えられています。倍率が1倍を超えている状態を「信用倍率が高い」とし、強い株価上昇の勢いが現れる可能性が高まります。1倍以下の状態を「信用倍率が低い」とされ、強い株価下落の勢いが現れる可能性が高まります。とはいえ、「1倍を上回るから上昇」「下回るから下落」と単純に考えるのは禁物です。それぞれどのような状態なのかを見ていきましょう。
信用倍率が高い
信用倍率が1倍を超えている状態は、出来高における信用買い残高が信用売り残高を上回っている状態を意味します。買いが売りより強く、値上がり期待が大きいとも言えます。
信用倍率が高い状態は、1倍を超える状態なので、「2倍」「5倍」なども考えられます。倍率が大きくなればなるほど、値上がり期待値は大きいと言えます。しかし、倍率が大きい場合も注意が必要です。
信用取引は、投資家が証券会社から代金もしくは株式を借り入れている残高となります。借り入れは(反対売買によって)返済する必要があります。現在の信用買い残高は、将来的に「売り返済(転売)」される可能性があります。つまり、将来的に大きく売り注文が出され、価格が強い勢いで下落する可能性があるということになります。
このように信用取引には「将来どこかのタイミングで必ず反対の取引が生じる」という特徴があるので、信用倍率を見て投資判断をする際は、その性質まで考慮する必要があるというわけです。
信用倍率が低い
信用倍率が1倍以下の状態は、出来高における信用売り残高が信用買い残高と同じか、上回っている状態を意味します。値下がり期待が大きいとも言えます。
信用倍率が低い状態は、1倍以下の状態で、「0倍」にはなりません。数値が1〜0の間で、状態を判断することになります。信用倍率が低い状態は、信用売り残高が上回っている状態となり、これは「逆日歩」が発生する可能性があることを示しています。
「逆日歩」が発生すると、信用売り残高がある投資家にとっては、追加負担となることから「買い返済(買戻し)」される可能性が増加します。つまり、大きく買い注文が出される可能性があり、強い買い圧力が形成され、株価上昇の勢いが期待できるということになります。
実際に、「買い返済(買戻し)」が進み、連日値上がりが続く状態を「踏み上げ相場」と呼びます。
信用倍率の情報は何を見る?
信用倍率は、株価チャートからでは読み取れない信用取引におけるリスクや温度感などの情報を読み取ることができ、相場の動きを予測する一つの水準として利用できます。
信用倍率を計算するための国内銘柄の信用残高情報は、各取引所(PTS市場を含む)が発表しています。中でも最も銘柄数量も銘柄残高も多い東京証券取引所を参考に説明します。
銘柄別信用取引週末残高
東証で取り扱っている全制度信用銘柄の週末時点の信用残高が公表されています。制度信用と一般信用の区別、買い残高と売り残高の区別、前週比を知ることができます。
当該情報は、毎週第2営業日の16:30を目安に発表されています。
個別銘柄信用取引残高表
東証で取り扱っている制度信用銘柄のうち、信用取引の規制措置銘柄や日々公表銘柄などの一定の条件が付いている銘柄について、日々の信用残高が公表されています。制度信用と一般信用の区別、買い残高と売り残高の区別、前週比を知ることができます。
当該情報は、日々翌営業日の16:00を目安に発表されています。
貸借倍率とは
信用倍率とは別に「貸借倍率」という情報があります。証券会社が日証金に「融資申込した残高」と「貸株申込した残高」の比率となり、「融資残高÷貸株残高」で計算されます。
これは、制度信用取引の中で、証券会社が日証金に貸借申込した割合となり、投資における大切な情報の1つになります。
貸借倍率の目安
貸借倍率の見方は、信用倍率と同様です。
貸借倍率が、高い場合は値上がり期待値が大きく、低い場合は値下がり期待値が大きくなります。
貸借倍率を参考にする際の注意点
1つ目に、貸借倍率が「1倍」の銘柄については、要確認です。 証券会社から日証金への融資申込は、「証券会社が投資家に貸し付ける代金を日証金から借り入れる申込み」になります。このため、証券会社自身が同代金を調達できれば、日証金から借り入れる必要はありません。よって、日証金において集計結果が貸株超過(融資申込<貸株申込)とならないよう融資残高と貸株残高が同株数となる状態が起きます。この場合、貸借倍率は「1倍」となりますが、必ずしも、制度信用取引の買い残高と売り残高が逼迫していると限りません。
2つ目に、貸借倍率が「1倍以下」の銘柄については、要注意です。 日証金への貸借申込結果として、貸株超過(融資申込<貸株申込)となっている状態です。日証金は機関投資家等から株式を調達する必要があるので、「逆日歩」が発生する可能性があります。
貸借倍率は確報を確認できる
貸借倍率を計算するための貸借残高情報は、様々な情報ベンダーから発表されています。東証およびPTS市場分の確定情報(確報)のみであれば、日証金ホームページ内の日証金貸借取引残高で発表しています。
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信用倍率と貸借倍率の違い
信用倍率と貸借倍率の違いを再度確認しましょう。 信用倍率は、信用取引全体の株数(一般信用取引と制度信用取引)で計算されます。 貸借倍率は、制度信用取引のうち、日証金に貸借申込された株数で計算されます。
信用倍率の使い方
発行会社等が公表している業績等の情報や最新ニュースとは異なった情報となる「信用倍率」を活用した相場の見方をご説明します。
信用倍率の推移で需給がわかる
これから値上がりが期待できる銘柄について、信用取引の買い申込は多く注文されて約定する傾向にあります。逆に言うと、信用倍率が高い銘柄は、多くの投資家が今後の値上がりを期待していると言えます。
そこで注意する点が2つあります。
1つ目は、制度信用取引の場合、建玉を維持できるのが最長で6ヵ月と決まっています。このため、買い建玉の返済として、「売り返済(転売)」による売り圧力が発生する(株価を押し下げる)可能性があります。これは、6ヵ月間の信用取引期日に限らず、株価の値上がり後の利益確定に伴う「売り返済(転売)」が増えることにより起こる場合もあります。
2つ目は、株価の値上がりに伴う信用売りの台頭です。該当銘柄の株価が実態より高騰していると判断される場合、信用取引の売り申込が多く注文されて約定することがあります。結果、株価の上昇が鈍化することとなり、信用買い残高の利益確定に伴う「売り返済(転売)」が起こる場合があります。
投資家の想い(仮需給)を信用取引は反映しているので、情報を適切に把握し、判断する必要があります。
信用倍率をランキングで見てみる
公表されているデータから、「信用倍率」「貸借倍率」を計算して、ランキングを作成してみてください。発行会社等が公表している業績等の情報や最新ニュースを加味した信用残高の増減とは、また異なった各銘柄の状況が見えてくると思います。他の投資家の想い(仮需給)を情報として見ることができますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
発行会社等が公表している業績等の情報や最新ニュースとは異なり、投資家の想い(仮需給)を把握する情報として、「信用倍率」「貸借倍率」を説明してきました。信用取引は将来どのような相場が形成されるかを予測できる指標なので、正しい投資判断をするために、株価や手数料等の投資コスト以外にも信用倍率と貸借倍率を確認して上手く利用しましょう。
興味のある銘柄について複数日を比較する、「信用倍率」と「貸借倍率」を比較するや大きなニュースがあった銘柄について前日と比較するなど、公開情報から計算できる倍率となるので、取引の参考にしてみていはいかがでしょうか。
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