ストップ高・ストップ安とは、株価の上昇または下落が値幅制限を超えた場合に、それ以上に上昇または下落しないように制限する制度です。株価は常に変動するものですが、株式を発行する企業が新たな大型プロジェクトを発表したり、決算発表時に高い業績を記録した場合は、株式を買う人が増えて株価が急上昇することがあります。
また、決算発表時に業績が悪化していたり、不祥事や何かしらの問題が発覚した場合は株式を手放す人が増えて株価が急落することがあります。このような上昇、下落の幅が大きくなりすぎないためにストップ高またはストップ安が適用されます。今回は、ストップ高・ストップ安とは何かについて、ストップ高・ストップ安の制度が受けられた理由や適用された後の動きの特徴などについて解説します。
ストップ高・ストップ安とは?
ストップ高及びストップ安は、1日あたりの株価の上昇または下落の幅を一定の範囲内に制限するために設けられた制度です。ストップ高は株価が一定の価格を上回ると適用され、ストップ安は株価が一定の価格を下回ると適用されます。
ストップ高またはストップ安が適用されると、その日に限り株価が上昇または下落することはありません。例えば、10,000円が終値だった翌日に3,000円の値幅が設定されると、その日のうちに株価が13,000円になったらストップ高が、7,000円になったらストップ安が適用されます。
その際、異常な変動幅で価格が不安定になり、市場が混乱することを防ぐため、一度に大量の「買い注文」か「売り注文」が入った場合は、売買を成立させず、一時的に取引が停止され特別に呼値を伝えるように気配値段(約定していない値段)が表示されます。これを、特別気配といいます。特別気配を更新して注文を呼び込み、売買を均衡させることで、市場の混乱を防ぎます。
ストップ高・ストップ安は世界で定められた制度ではなく、米国株式市場やシンガポール証券取引所などにはありません。しかし、ストップ高・ストップ安に似た制度として「サーキットブレーカー制度」が設けられています。
サーキットブレーカー制度とは、相場が通常とは異なる動きを示した際に取引を一度中断する制度のことです。サーキットブレーカー制度を適用することで相場の過熱を抑えることができ、投資家が冷静な判断ができるように促します。ニューヨーク証券取引所では最大3段階のサーキットブレーカーがありコロナウイルス流行による懸念から2020年にサーキットブレーカーが初めて発動されました。
株式市場では株価が極端に上昇または下落した際に一定の範囲内に制限する制度が設けられています。株式投資を始める際には、ストップ高やストップ安による株価の影響を把握し、適切な対応をして個人の損失を防がなければなりません。
なぜストップ高・ストップ安があるの?
ストップ高及びストップ安が設けられた理由は、異常な株価変動から投資家を守るためです。例えば、株価の上昇または下落の幅が極端に大きくなると市場は乱高下を繰り返すようになります。その株式を保有している投資家は、この乱高下の繰り返しによって1日で利益または損失が極端に増えます。
そこで、ストップ高またはストップ安を適用することで投資家が被る損失を小さくしたり、投資家がパニックになって売り出す(パニック売り)などの精神的負担による取引を予防することが可能です。
このように、ストップ高・ストップ安の導入は、市場が正常に戻るようはたらきかけるだけでなく、投資家の心理的不安を取り除くための役割もあります。
値幅制限の仕組み
値幅制限は、基準値幅を基準として決まります。基準値幅とは、前日の終値または最終気配値段などを基準として以下の表の通りに定められています。
基準値段 | 制限値幅 |
100円未満 | 上下 30円 |
200円未満 | 50円 |
500円未満 | 80円 |
700円未満 | 100円 |
1,000円未満 | 150円 |
1,500円未満 | 300円 |
2,000円未満 | 400円 |
3,000円未満 | 500円 |
5,000円未満 | 700円 |
7,000円未満 | 1,000円 |
・ ・ ・ |
・ ・ ・ |
ただし、値幅制限は常に一定というわけではなく以下のいずれかの条件に当てはまった場合は臨時的に値幅制限が変更されることがあります。
- 内国株が2営業日続けてストップ高またはストップ安となり、かつストップ配分も行われていない状況で、売買高が0株だった場合
- 内国株が2営業日連続で売買高0株のまま午後立会を終了して午後立会終了時限定でストップ高またはストップ安で売買が成立し、かつストップ高またはストップ安に買(売)呼値の残数がある場合
上記のいずれかに該当した場合は、翌営業日から値幅制限が拡大されます。現在では、2営業日連続ストップ高、ストップ安となると翌営業日から通常の値幅制限が4倍になります。 なお、日本取引所グループの値幅制限の規定は2020年に改定されています。最新の情報を確認して常に把握しておくと良いでしょう。
値幅制限とは?
値幅制限とは、1日あたりの売買の幅を既定の価格水準に応じて一定に制限した値幅のことです。ストップ高またはストップ安は基準値段があらかじめ定められており、基準値段から上下約15〜30%の範囲で決められています。
前日の終値が1,000円だった場合を例に挙げて解説します。前日の終値が1,000円だった場合、先述の表から見ても分かる通り値幅制限が上下300円です。つまり、株価が1,300円になった場合はストップ高が、700円になった場合はストップ安が適用されます。
ストップ高やストップ安は株価の変動に大きく影響するため、ストップ高及びストップ安の意味や適用される条件を覚えておきましょう。値幅制限は実際に何度も適用されています。例えば、リーマンショックや新型コロナウイルスの感染拡大などの世界経済を揺るがす事態が起きた際にも値幅制限が行われました。
保有している企業の業績が悪化した場合や世界経済を揺るがす事態が起きると、株価の暴落で、投資家の不安が高まり精神的なストレスや不安から売りが売りを呼ぶことがあります。そのような事態に陥った際、値幅制限を適用して株の下落を制限すれば、投資家の不安感や過熱感を抑えることにつながり、冷静に売買の判断ができるように促すことができます。
値幅制限は株の極端な上昇または下落を防ぐだけではなく、投資家の精神的なストレスを和らげて冷静にする効果もあります。
ストップ配分とは?
ストップ配分とは、売買のバランスが極端にいずれかに偏ってストップ高またはストップ安の水準まで動ききった場合、その価格での売り数及び買い数の比例で配分して売買が成立する仕組みのことです。
ただし、ストップ配分が成立する条件に当てはまっていたとしても、上場廃止が決まっている銘柄については取引所の規定に基づいて値幅制限が適用されない、つまりストップ配分が適用されないこともあります。
値幅制限が廃止されている銘柄については、株価が上昇または下落を続けるため買い注文または売り注文がまとまって行われることも多いため、株価が一気に上昇したり下落しやすくなります。実際、過去には1日で約80%も下落した銘柄もあったことから、ストップ配分が適用されない銘柄については株価の動きにも注意が必要です。
\ 楽天証券の口座開設はこちら /
ストップ高・ストップ安の翌日はどうなる?
ストップ高が発生した翌日の値動きは銘柄によって異なる動きになります。明らかに割高な銘柄にストップ高が適用された翌日はストップ安になることがあり、まだ割安な銘柄は上昇を続けることがあります。割高株に対し、「値段が高いうちに売却しておこう」と考える投資家が増えるからです。その一方で、割安感が残っている銘柄はストップ高が適用された後も値上がりする可能性があります。
次に、ストップ安が適用された翌日も銘柄によって異なる動きになります。ストップ安になった翌日にストップ高になることがあれば、下落が続くこともあります。
元々企業価値が高い銘柄の株価が一時的なニュースによってストップ安が適用された場合、本来の企業価値と照らし合わせて株価が極端に安くなっていることから投資家は買いのタイミングだと思い、その株式を買う投資家が増えます。その一方、元々企業価値が低い銘柄がストップ安になった場合は投資家に見切られ、下落トレンドが続くこともあります。
繰り返しにはなりますが、ストップ高とストップ安が適用された翌日は銘柄によって値動きが異なります。もし保有している株がストップ高となった場合は、その時点の株価が割高(つまり一時的)か、まだ割安(長期的にはもっと上がる)か冷静に判断する必要があります。
明らかに割高である場合は、翌日も継続して株価が上がる可能性が低いため早めの売却を検討しましょう。反対に、割安である場合は、翌日も株価が上がる可能性が高いため、売らずに保持し続けることを検討しましょう。
なお、割安・割高は、PERやPBRなどの数値だけで判断せず、将来性や財務の健全性など企業の今後の価値について多面的に分析し判断する必要があります。ストップ安になった場合も同様に、目先の株価に目を向けずに長期的な株価の動きに目を向けて冷静に判断するようにしましょう。
ストップ高・ストップ安の連続記録
これまでの株価の動きから、ストップ高またはストップ安の連続記録が残っています。
まず、ストップ高の連続記録はフィスコ(3807)の18営業日連続ストップ高で、12,000円から82,000円程まで上昇し続けたことがありました。このストップ高の連続記録はヘラクレス*1(現グロース又はスタンダード市場)で、2009/2/2から同年2/26まで続きました。
*1 2010年10月まで大阪証券取引所が開設していた新興企業向けの市場。
次に、ストップ安の連続記録は光通信(9435)の20営業日連続ストップ安で、78,800円から13,800円程度まで下落しました。このストップ安の連続記録は東証1部で、2000/3/30から同年4/2まで続きました。
ストップ高またはストップ安が適用されたからといって必ずしも株価が上昇または下落するとは限らず、上昇し続けるあるいは下落し続けることもあります。そのため、ストップ高またはストップ安が適用されたからとすぐに行動を起こさずに、客観的に株価の動きを見てその株式の売買を検討するように心がけましょう。
ストップ高・ストップ安の事例
そもそもストップ高やストップ安が適用されることは決して珍しいことではなく、比較的頻度が高い現象です。
例えば、最近のストップ高の事例としては2021年5月14日のアシックス(7936)のストップ高が挙げられます。アシックスの株価が急上昇してストップ高が適用されたのは、コロナ禍でのランニングシューズ需要を受けて好決算を記録したことや、東京五輪への期待の高まりが要因として考えられます。
決算発表が要因となってストップ高を記録した事例は他にも多数あります。
例えば、東証(現スタンダード市場)のGameWith(6552)が2018年1月10日決算発表した際は翌日の午前9時35分にストップ高が適用されました。決算発表翌日にストップ高が適用されるほど株価が急上昇した理由は、決算発表時の売上高が前年比の約2倍を記録し、営業利益が前年比の約2.8倍を記録するなど、大きく成長したからです。
他にも、東証プライムの市光工業(7244)が2018年2月14日に決算発表した際も翌日にストップ高を記録しました。前年度の決算予想を上振れするものであったことや、2018年12月期の業績予想が最高益になる見込みであったことが要因として考えられます。
また、ストップ安の事例を挙げると2016年12月28日の東芝(6502)のストップ安がありました。東芝でストップ安が適用された原因は2015年春に起きた不正会計処理の問題です。
東芝は2015年春に不正会計問題が発覚して財務状況が悪化し、家電産業や医療機器会社の売却などによって財務状況の回復を図りました。財務状況悪化後も主力分野であった半導体事業は好調をキープしていましたが、同じく主力分野であった原子力事業の再建が上手くいかず、約2,500億円ののれん減損を計上することもありました。
加えて、米国子会社での数千億円の減損も重なったことから財務状況は回復せず、結果的に株式を売却する投資家が増えてストップ安を適用しました。
決算発表直後にストップ安が適用されることもあります。
例えば、東証マザーズ(現グロース市場)に所属していたレントラックス(6045)が2018年2月9日に決算発表した際は翌営業日の13日にストップ安が適用されています。ストップ安が適用された要因としては、決算発表での営業利益が前年同期比20%減であったことや、通常利益予想が下方修正されていたことが考えられます。
また、東証JASDAQ(現在は未上場)のソルガム・ジャパン・ホールディングス(ソルガムHD)は、2018年2月9日に「平成30年3月期第3四半期報告書の提出遅延及び平成30年3月期第3四半期決算短信の公表見込みに関するお知らせ」を発表しました。この発表により、翌営業日である13日にストップ安を記録しています。
ストップ安を記録した要因としては、発表内容が「会計処理、債権回収の内容が監査役員と相違が生じたために決算の公表が遅れる」というものだったからです。決算発表の遅れが投資家の信用度を低くしたことで、株式を売る人が続出して株価が急速に下落しました。
決算の内容が芳しくなかったり、決算発表の遅れなど投資家の信頼を損ねることがあると株価が急落し、ストップ安が適用されやすくなります。このように、ストップ高やストップ安が発動された際には、慌てて約定せず、落ち着いて株価を見るのが肝心です。
まとめ
株価が1日で極端に上昇、または下落し過ぎたようたのような異常な株価変動から投資家を守るストップ高とストップ安。
決算報告などの発表によって株価が急変動し、中には極端に上昇または急落することもあります。これは、ストップ高が適用されると翌日にストップ安になったり、逆にストップ高が適用た翌日にストップ高が適用されるなど、株価が変動しやすいタイミングでもあります。
しかし、精神的な不安から取引すると大きな損失にもなりかねないため、ストップ高またはストップ安が適用された際も冷静に対応することが大切です。
\ 楽天証券の口座開設はこちら /
よくある質問
Q | ストップ高、ストップ安は何日連続になる? |
A | ストップ高またはストップが適用された日のみ有効です。2営業日続けてストップ高・ストップ安が適用された場合は、値幅制限が拡大されてストップ高・ストップ安が連続することを防ぎます。 |
Q | ストップ高はどうやって決まる? |
A | 予め1日あたりの売買の値動きの幅を価格水準に応じて一定の範囲内で制限する「値幅制限」が設けられており、前日の終値から該当する値幅制限によって決まります。 |
Q | ストップ高になると次の日はどうなる? |
A | ストップ高が適用されると利益が最大となるため売り注文が増えやすく、ストップ安になることが多いです。逆に、ストップ安になった翌日はストップ高になりやすい傾向にあります。 |
Q | ストップ高やストップ安で比例配分になった場合、結果はいつ分かる? |
A | その日の16時までに判明します。 |